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真夏の太陽くらいある6

「す、少し早く来てしまった」


 昇降口のところまで降りてくると、表情をますます明るくしたミコト様が恥ずかしそうに斜めがけにしたバッグのベルトをいじっている。まだ11時にもなっていないのでお昼過ぎにしては少しどころじゃない早さだけれど、多分そわそわしすぎてめじろくん辺りに追い出されたのだろう。

 宣伝しながらであれば一緒に校内を回れると言うと、それはそれは嬉しそうに頷いた。通りすがりの人が眩しそうにしている。


「お昼にゆいちの彼氏が来るらしくて、その頃になるとちょっと戻るかもしれないですけど」

「かまわぬ! 少しでもルリと共にあるのが嬉しいのだ」


 眩しい……。

 サングラスがほしいけれど、サングラスで防ぎきれなさそうな光である。


「ミコト様、めちゃくちゃ眩しいですよ。もっと暗くして」

「十分に暗くしておるのだが、これ以上どうすれば」

「なんかこう……一般人っぽいこと考えるとか?」

「人のようなこと……」


 私の無茶振りに困惑していたミコト様が、むむむと考え出し、それから手を顔の前に持ってきていた。今日は洋服なので真っ赤な顔が丸見えである。何も言っていないのに慌てて首を振っていた。


「何考えてんですか」

「い、いや!! べつに!! な、な、なにも!!」

「昼間から頭の中をいやらしいことで埋め尽くしている人を現代用語でムッツリスケベって呼ぶんですよ」

「むっ……ち、ちがう」


 ものすごいイケメンが顔を赤くして恥じらっている光景は人々の心に響くらしく、周囲の人が足を止めている。邪魔になりそうなので、ミコト様の手を引っ張って移動することにした。

 看板をミコト様に持ってもらって顔を隠すことによって皆の動きを止めるほどの注目度にはならなくなったけれど、それでも先を歩く人が振り向くほどの吸引力はあった。良い匂いもしているし、何か光的なものが発せられているからだろう。歩く度にシャンプーのCMを撮影しているかのようである。


「どこか見に行きたいところはありますか?」

「うむ……すずめらが、ぱんの冊子に煎餅を売っているところがあると言っていたが」

「パンフレットね。じゃあ先にお土産買っときましょうか」


 お煎餅屋さんは、職員会の有志で出している限定のお店である。美味しいけれど二日目である今日しか買えないし数量も限定されているので結構レアなのだ。既に列になっているところにミコト様と一緒に並ぶと、周囲のおばあさん達がミコト様を拝んでいた。


「あ、箕坂の。これは……どうも……?」


 丁度ウチのクラスの先生がレジ係をしていて、挨拶をしながらミコト様をマジマジと見ている。こんな人だったっけなと思っているようだ。


「なんか随分と……今日は調子が良さそうですね?」

「うむ。ルリのお陰でな」

「何かその言い方やです」

「なぜ?!」


 先生は私の注文した「愛のお煎餅全種セット」を包むと、隣りにいた音楽の先生に声を掛けて職員室の中に私達を案内する。パーテンションで仕切られた簡易応接室に案内したのは、昨日のストーカー騒ぎのことについて改めて話をしたかったからのようだった。


 まず学校でそういう騒ぎが起きたことを謝り、それから校内の警備の強化と犯人探しについて尽力するということをミコト様に説明した。心配ならばしばらく教室で見学をしたり、待機出来るように掛け合ったので希望に添えるようにすると頭を下げている。それから言いにくそうに、警察沙汰などにするのはまだ勘弁して頂きたいのですが、と付け足した。

 普段はぼさっとした格好で過剰な親しみを持たれているけれど、生徒の中では真面目に向き合ってくれると人気のある先生として定評がある。ターゲットになった私が安心できるように対応したいという気持ちはもちろんだけれど、学校として警察が絡むような事件にしたくないという上からの圧力もあるのだろう。先生も大変なんだろうなあと同情を抱いてしまう。


「ルリを付け狙っていた奴については、既に決着がついておる。そなたが気にすることもなかろう」

「えっ? でも、いや……犯人がわかったんでしょうか?」

「もう終わったことだ。それより、その、クラスに男女同席するというのはいかがなものか? その、年頃の女子によからぬ思いを抱くような……」

「いやそれ何時代ですか。そういうのモンペだから」

「しかしあんな狭い部屋、近い距離で共に作業するなどと……!」

「先生、気にしなくていいです」


 キリッとした顔で言い切ったミコト様がいきなり変なクレーム客に変わったので、先生が可哀想にぽかんとしてしまっていた。これ以上喋らせると男女別学にすべきとか言い出しそうなので、適当にお礼を言って席を立つことにする。ついでに空き部屋を貸してもらえるか訊くと、ぽかんとしたままの先生が前に一騒動あった準備室のカギを貸してくれた。


「よかったですね。休憩するにも人目があると落ち着かなさそうだし。これでお昼もゆっくり食べれますよ」

「うむ、そうだルリよ」


 ミコト様がいそいそとバッグを開けて、嬉しそうに中から取り出したものを見せる。

 可愛いミニ風呂敷が上に結び目を作って四角い箱を包んでいる。


「弁当を作ってきたのだが……私と食べてくれるか?」


 珍しくバッグとか持ってると思ったら。

 ミコト様は傷の完治と共に、女子力もカンストしていたらしい。

 食べます。






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