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シカシアヤカシ5

 かぐや姫が月に帰るときに残したといわれる不老不死の薬。とても強い力を持っている薬で、神様が使ってもすごい効き目があると言われている薬。ミコト様の傷を治すために探し求めていた薬。


「へーい手品しまーす。チャラララララ~」

「そういうのいいから」

「いだいいだいわかったごめんなさいミノさんそこやめて! 玉蹴りくらいのダメージあるから!」


 隙きあらばチャラくなろうとするノビくんこと悪魔がまどろっこしいので、ミコト様が悪魔の何かを握っている腕を掴んで揺さぶる。サッカーボールが当たったくらいのダメージがあるらしい。ノビくんは野球部だけど、デッドボールよりは痛くないということだろうか。


 若干の涙目になりながら、ノビくんが袖をまくって空中で腕を動かす。すると黒い煙みたいなのが立って、ノビくんの肘から下が消えた。何か探るように動かしていたノビくんが腕をひっぱると、黒い煙は消えて手に何か乗せているのがわかった。

 茶色い紙で包んだ丸っぽい物体である。お茶の壺のように、上部にも紙が被せてあって紫色の紐で括ってあった。

 すぐ隣を見上げると、同じようにノビくんの手の上を見ていたミコト様がこちらを向いて頷く。


「確かに月の妙薬だな」

「わかるんですか?」

「明らかにな。この地上のものではない力を発している。妖が呑み込んでおったのではわからぬはずだ」

「ちょーアヤカシじゃなくて悪魔ッスよーあくまで執事じゃなくて悪魔ッスからー」


 私はよくわからないけれどミコト様が断言しているし、百田くんにも何か感じるものがあるようでじっと見つめている。どうやら本当に探していた薬そのものらしい。


「なんか急展開過ぎてよくわからないけど……何でノビくんが持ってるの?」

「やー何か価値ありそうだからついついゲットしたっつーかね。昔まだ悪魔悪魔してた時代に合戦場でメシ食ってたらこれと引き換えに命救ってくれって言われてさー」


 メシというのは魂のことだろうか。合戦場というのも、戦国やそのあたりの時代で薬の行方がわからなくなっているという前に聞いた神様からの情報とも合っていた。


 人間に召喚されて魂を得るときに使えるかと思って手に入れたはいいものの、日本ではそうそう悪魔召喚が行われることもなく、暇すぎて人間生活をエンジョイしているうちに忘れていた存在なのだという。ミコト様でいうところのお屋敷のような亜空間に作った物置に入れていたので消息が掴めなかったようだ。


「ミノさんの話聞いて何かそんなんあったっぽいなーって思ってたらビンゴか〜。やー昔のオレナイスジョブ。ほらほら、オレのこと見逃してくれたらこれあげるから!」

「条件つけてきた。さすが悪魔」

「それほどでもー」


 薬を黒い煙の中にもう一度仕舞ったノビくんは、自分のことを殺さなければこれを渡すと提案しているようだった。確かに力任せに石にしてしまえば、薬がどこにあるのかわからなくて取り出せないのかもしれない。でもミコト様がノビくんを痛めつけられる何かを握っている以上、力任せに脅して薬を出させることも出来そうだし、薬を渡したところで小石に変えてしまうこともできる。逆に言えば、殺さないと誓わせたのにノビくんが薬を渡さないこともあるのではないかとも考えられる。

 疑い深い顔をしているのがバレたのか、ノビくんがヘラヘラと手を振ってくる。


「やーさすがのオレも神様相手にズルはナシだから。マジで怒らすと消されそうだし。何なら誓い立ててもいーっすから! どうすか神様!」

「ふむ。そなたがこの日の本で人の命を食らわぬと誓うのであれば乗ろう」

「げぇマジで?! 辛くね?!」

「辛くねじゃねーよ。人の魂取ろうと思うな馬鹿」


 うげーと顔を顰めたノビくんを百田くんがまた叩いている。

 ミコト様は、私が心配していたことを慮ってそう条件をつけてくれたらしい。


「ノビくん、悪魔って人間の魂だけしか食べられないんじゃないよね? 他の動物でもいいんでしょ?」

「まあ、人間の魂が一番濃くてウマいけどナシでもいけるっちゃいけるかなーっつーレベルでさー」

「じゃあもう今後一切人間の魂を食べないって誓えばいいじゃん。そうじゃないと死んじゃうんだよ? ね、ミコト様」

「うむ、そうだな、そうするか」

「え……マジかよ……ミノさん鬼じゃん……」

「ほら、魂食べたいなら養鶏場とかでバイトすればいいんじゃない?」

「スーパーにあるウズラの卵って結構有精卵混じってるらしいぞ」

「えぇー……なにこれ煉獄? オレ以外全員悪魔なの?」

「悪魔はお前だけだろ」


 しばらくあれこれ妥協策を探っていたノビくんも、最終的にはもう人の魂を食べないということで合意した。ミコト様が懐から人形の形に切った紙を取り出して、私にペンを借りる。サラサラと何か書き付けてからノビくんに近付いてそれを額に貼り付けるようにした。「ってぇ!!」と悶えたノビくんだけれど、少しずつ薄くなっていく紙を剥がそうとはせず痛みを逃すように拳を振っている。


「っべー完全に神じゃん……いってー」

「誓いを破ればその身が裂けるぞ」

「きっつ。こういう堅苦しい感じ嫌で日本に来たのにさー」

「故郷で何をしたのノビくん……」


 ノビくんはすっかり紙は消えて赤くなったオデコを自分でふーふーしている。それから、もう一度薬を取り出してミコト様へと手渡した。ゴワゴワした紙に包まれているけれど、近くにいると僅かにいい匂いが漂っている。ミコト様の不思議なお香の匂いとは違った、どこか花のような香りに感じた。


「これが、月の薬」


 これがあれば、ミコト様の傷が治るかもしれない。

 そう思うとぎゅっと胸が熱くなった。






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