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迷妄6

 そろそろ一般の入場者が減ってきていたけれど、非常ベルが鳴る騒ぎがあったせいか校内はまだ騒がしい。通りすがりに去年のクラスメイトが教えてくれた情報では、火事ではなく発煙筒のようなもので煙が出ていたらしい。その周辺の教室は誰も入らないように避難するよう言われているらしいけれど、うちの教室は少し離れていたせいか大丈夫のようだった。

 教室に戻ると、担任の先生がこちらに気付いて手を挙げる。すでになぜかすずめくんやめじろくん、白梅さんと紅梅さんが教室前の廊下にいて、色んな人々の視線を集めていた。


「あ、どうもこんにちは」

「そなたがルリの先生という者か。いつも世話になっておる」

「いえいえそんな……もうお聞きになりましたか? 少し悪質なイタズラがありまして」


 外ヅラの良くなった先生がミコト様と喋り始めたので、私はみかぽん達のところへ行った。いつのまにかゆいちもこっちへ戻ってきている。のんさんが気遣わしげに首を傾げた。


「ルリ、こっち来て大丈夫?」

「うん」

「イケメンお兄さんと一緒だったか、よかったー。写真マジできもいよ。ゆいちに渡したやつ、あれマイルドな方だから」


 他にも水泳のクラスで水着姿になっているものなどもあったらしく、みかぽん達が暗いお化け屋敷の中で頑張って全部回収してくれたらしい。そんなところまで撮られていたのだと思うと、流石に気持ち悪い。


「絶対学校関係者だわ。マジ無理。ルリ気を付けたほうが良いよ」

「ありがとう。これから早退しようと思ってる」

「そのほうがよさげ〜。あとはうちらが頑張っとくからねぇ」

「明日も文化祭だし、無理しなくて大丈夫だから」


 鞄を探してきてくれたので、重ね着していた衣装とヘッドドレスを外して代わりに預ける。血が流れているようなメイクも洗ってから教室の前へ戻ると、ミコト様達が話をつけておいてくれたのか先生も帰っていいと言ってくれた。


「さっき保護者の方にも相談しておいたけど、職員会議で色々話つけるから今回の件についてはもう少し待っててくれ。不安ならしばらく休んでもいいから。課題出すけど」

「課題いやです」

「じゃあ予習してノート提出でもいいぞ」


 断固拒否していると、百田くんが先生を呼んだ。ミコト様がすぐ近くにいるので、蝋人形のような顔色になっている。ちょっと離れていてあげてとジェスチャーすると、ミコト様は首を傾げて私と手を繋いだ。違う。


「せんせー、俺も帰る。具合悪い」

「おう、お前も真っ青だな。保健室寄るか?」

「いや、そのまま帰る。野球部はノビに伝言しておいたんで」


 どこからどう見ても立派な病人顔なので、先生もスンナリと頷いていた。クラスメイトに手を振りながらバッグを肩に掛けた百田くんが、ちらっと私の方を向いてくっと顎をしゃくった。頷くと、早足で先に行ってしまう。

 霊感がある百田くんには、何か勘付くことがあったのだろう。大沢くんのことについても何か教えてくれるつもりなのかもしれない。私も昇降口へと降りようとすると、ミコト様に繋がれていた手がギュッと力を込められていてつんのめりそうになった。


「先生よ、よもや神聖な学び舎において不埒な行為を見逃すまいな? このように男女で狭い場所に閉じ込めて、間違いがあっては……」

「何言ってるんですか? 帰りますよ」

「はいはーいいいから早く行きましょう! ねっ!」

「変なことを申しまして誠にすみませんでした」


 ミコト様が先生にイチャモンをつけそうになっていたので、私が引っ張り、すずめくんが背中を押し、めじろくんがお詫びをするという完璧なフォーメーションで教室を離れる。先生は美女梅コンビにぽわーっとなっていたので気にしていなさそうなのが幸いだった。


「あ、あのように、目と目で通じ合うなど……! 私は許さぬ! 許さぬぞ、ルリよ!」

「はいはい」


 散歩を嫌がる犬のように、背の高い成人男性であるミコト様がきゃんきゃん吠えながら抵抗するのを引っ張っていくのは大変だった。途中でめじろくんが溜息を吐いて、懐に手を入れてぴっと掲げる。その手には私の隠し撮り写真が扇のようにビラッと広げられていた。はゥッと思わず動きを止めたミコト様に、めじろくんが呟く。


「あまりゆっくりなさっておられますと、これをしてしまいますよ」


 さすが普段からミコト様のお世話をしているだけある。完璧な手綱さばきで、ミコト様はスタスタと廊下を進むようになった。

 でもその写真、私がどうこうする権利を持っているはずではないだろうか。なんでめじろくんが当然のように持っているんだろう。






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