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迷妄5

「さて、行くか」

「いや待ってミコト様、まだ学校終わってないし、っていうか何か文化祭どうなってるかわかんないし、そもそも何も解決してないそういえば」


 帰っておやつでも食べようと言わんばかりに気軽な感じで手を握ったミコト様にツッコミを入れる。今日は文化祭とはいえうちの学校は自由登校ではなかった。3時半には一般の人は帰ることになっているけれど、生徒は終了後に教室でホームルームがあるし、それに出ないと帰れない。早退するのであればせめて担任の先生に言わないと怒られてしまうだろう。

 ミコト様はとても残念そうな顔になったけれど、現代社会は色々と面倒な決まり事があるのだった。


「ていうか、大沢くんどうなったの? いるの? 会ったら気まずいし、変なことされないかな」

「この近くにはおらぬようだが、しばし待つがよい」


 高校は神社からそう離れていない場所にあるので、ミコト様の管轄の土地らしい。そういうところだと、ミコト様はご神力を使って千里眼のように街を眺めることが出来るのだ。


 近くに立ったままミコト様は少し顔を上げて、ぼうっと何かを考え込むような、遠くを眺めているような顔になる。

 集中するらしいので邪魔をしないように静かに待っていると、繋いでいた手をミコト様の手が手慰みのようにムニムニと揉んでいた。視線はぼんやりと宙に浮いたままなので、無意識でやっているのかもしれない。

 親指の付け根のところを触っていたかと思うと、手首の骨が出ているところを触っている。それからミコト様の手はムニムニと腕を登り、肩をよしよしと撫で、首を暖めるように手をあてて、それから頬に手をあて、親指で頬の柔らかいところをふにふにふにふにと押している。


 何かこう、ぬいぐるみ的なものを握らせたほうが良いのかとされるがままに考えていると、ミコト様がん? と首を傾げてこちらを見て、数泊置いてヒワァッと高い声を上げてびょんと飛び退いた。


「はんンッ!! そわっ、す、すまぬ!! つい!!」

「別にいいですけど」

「そんな、へ、は、不埒なことはするつもりは!! 決して!!」


 ミコト様は顔を真っ赤にさせながら外だというのに土下座するかのような勢いで謝っている。

 無意識に何か柔らかいなと思いながら触っていたらしい。恥ずかしそうに顔を隠しているけれど、今日はいつもの装束のように袖が長くないのでパパラッチを嫌がる俳優のようだった。


「若きをとめに対して、何という……ああっルリよすまぬ」

「もういいんで、それより大沢くんは見つかったんですか?」

「な? あ、ああ、ここから少し西に離れた広場で休んでおるようだったが、そんなことより……」

「西の広場……公園かな」


 一人騒がしいミコト様は放っておいて、これからどうすべきか考える。

 悪質な噂を流したこと、数学準備室で委員長達を術で操ろうとしたこと、窓ガラスを割って攻撃しようとしたこと、ストーカーして写真をバラ撒いたこと。それらが大沢くんの仕業であった以上、何もなかったということには出来ないし、したくないという気持ちも大きい。

 けれど、アヤカシが関係するようなことは因果関係を証明するのが難しそうだった。写真はともかく、噂も委員長が調べたのを聞いている限り、はっきりと証言できる人がいるのかも怪しい。ストーカーとしてだって、写真をバラ撒いたことくらいしか被害がないとなると、未成年ということもあって実質お咎めなしになるのではないだろうか。もちろん、公表すれば噂にはなるし、学校は停学か退学になるかもしれないけれど、それは彼に痛手を与えたり反省を促すようなものになるとはあまり考えられない。


 かといって、こちらも同じように法で裁けないような力で対抗するとなると、それはそれでやり過ぎになるのではないかと思う。神様であるミコト様と人間である大沢くんでは存在の規模が違いすぎる。ミコト様にやっつけてほしいと軽率にお願いしたりすると、本当にシャレにならない展開になりそうだ。それ以上に、ミコト様の傷が深くなるかもしれないのが嫌だった。せっかく本人が治すことに前向きになっているのだから、私がその足を引っ張ることはしたくない。


 何より、私が決着を着けたいと思っているのにミコト様に代行してもらうのは少し違うような気もする。もちろん何かあれば頼る気はありあまっているけれど、せめて私自身で大沢くんに何か一言言ってやりたい。人のことを勝手にクソビッチとか言うなとか、仲良くないのにルリち呼びやめろとか。

 何か思い返すと地味に腹立ってきた。


「ルリ、ルリよ」

「とにかく、先生に早退させて欲しいってお願いします。ミコト様は保護者だから、一緒に来てもらっていいですか? あとすずめくん達にも連絡入れなきゃ」


 見つけたら正拳突きくらいはかましてやりたいような気持ちを持て余しつつ、私はミコト様を連れて教室に戻ることにした。






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