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迷妄4

「くそっ、くそが、くそっ……」


 悪態をつきながら、大沢くんが右手から光る攻撃をしてくる。けれども、何度やってもそれは私とミコト様には届かなかった。大沢くんの攻撃は黒い渦がつきまとい、光も青や赤に変化する強そうなものだったけれど、ミコト様は涼しい顔でゆったりと立っている。


「何でだよ! この世界は俺の思い通りになるんだろ! 死ねよ! ルリちから離れろよ」

「ルリち……」

「ルリちとな……」


 いつも箕坂さん呼びだった気がする大沢くんのいきなりのフレンドリーさに私とミコト様は思わず同時に呟いていた。ミコト様はルリちルリちと何度か口の中で言葉を転がしてから、私に向かって首を傾げる。


「……なぜちを付けるのだ?」

「いや、友達の間でこう、仲の良さというか、ちゃん付けの略というか?」

「つまり親しさの表れということか……そ、その、わた」

「呼び捨ても結構親しくないと出来ないと思いますよ」

「う、うむ、そうか」


 なんとなく予防線を張ってみると、確かにとミコト様が納得してくれた。

 みかぽん達に呼ばれるのは別に普通に受け答え出来るけれど、ミコト様にルリち呼びされるのはなんとなくイヤな感じがする。ルリちよ、って呼ばれると何か「ルリ千代」的な力士っぽい感じに聞こえそうだし。


「俺の世界だろうが! 勝手なことすんじゃねーよ!」


 見えないバリアの中でミコト様と会話していると、大沢くんが叫ぶ。攻撃をするのは疲れるのか、右手を押さえながら肩で息をしていた。顔色がさらに悪くなったように感じる。


「世界というにはいささか脆すぎるように思うが。これは夢と称した方が近かろう。ほれ」


 くるりとミコト様が回ると、ふわんといつもの平安貴族っぽい衣装に変わり、髪型はそのままだけれど顔の右半分を隠す包帯もない綺麗な状態になって、さらにフサフサのキツネ耳としっぽが生えていた。ミコト様がドヤ顔をしながら私の目の前で大きな尻尾をフサフサ揺らす。


「どうだルリよ、もふもふしてもよいぞ」

「も……モフモフ……」


 目の前でフサフサ揺れるものに我慢できず、私はフラフラとそれを追う。

 普段はミコト様がくしゃみをしたときにしか生えないので、モフモフチャンスはそうそうない。私はついつい抱きついてモフモフしまくった。触り心地のよい毛でふさふさの尻尾は抱きしめるとふかふか動いて気持ち良い。


「男に抱きついてんじゃねーよクソビッチが! 地獄に落ちろ!」

「ルリは地獄になぞ落ちぬぞ。ほれほれ、羨ましいであろう。ルリは私……の尻尾……が大好きだからな!」


 何か途中でゴニョゴニョ言いながらも、ミコト様はフハハハと楽しそうに胸を張った。私はモフモフを頬ずりしながらも疑問を口にする。


「何だかミコト様、大沢くんのことを煽ってませんか?」

「煽るというのは挑発するという意味か? まあ、そうだな。あの大沢とやらがルリに色々していたのかと思うと、ついつい大人げない心持ちになってしまうのやも知れぬ」


 山の神様に私が攫われた時のミコト様は、マジおこモードになって色々と大変なことになっていた。今回もそういう感じになるのではと思ってちょっと心配していたのだけれど、意外にもミコト様は冷静だ。というか、冷静に大沢くんをおちょくっているように見える。


「まあ、腹に据えかねることはある。色々と。だが、まともに怒れば傷が痛むし、ルリが心配するであろう」

「しますね」

「なれば怒らず、出来るだけ相手の自滅を誘えばよい」


 珍しくミコト様が賢いことを言っている……。モフモフの手も止めてミコト様の顔をまじまじ見ていると、照れたように頬を染めている。


「そ、それにまあ、仮にも私は神であるしな。灰になりかけているような炭火をわざわざ大騒ぎして踏み消す者もおるまい」

「……ちなみに、大沢くんが火の消えかけの炭なら山の神様はどれくらいですか?」

「がすこんろの強火ではないか?」

「強火……」

「まあ今はほれ、あれくらいだが。小さくてかちかちするやつ」

「ライター……」


 ライターと炭火はどっちのほうが強いのだろうか。最近のライターは固いので、点けにくい的な意味かもしれない。

 ミコト様の全然相手にしていないですよアピールに、大沢くんはとても怒っている。


「もういいわ。うぜえんだよお前ら! 全部消えろ! この世界ごと消えろっ!」


 大沢くんが右手をかざすと、教室が崩壊し始める。苦しんで恐怖の中で死ねと言い残した本人は、登場したときと同じように黒い影になって消えてしまった。


「ミコト様、何か壊れちゃいそうですけど」

「ではそろそろ帰るか」


 足元のヒビ割れから私を腕で引き寄せるようにしたミコト様が、再び離れないようにと私を促す。ここへ来たときと同じようにしがみついて顔をミコト様の胸元に埋めていると、足元がなくなるようなふらつきを感じた。


「ルリよ、戻ってきたぞ」


 ミコト様の声に顔を上げると、包帯をしてパーカーを着ているミコト様が立っている。周囲はざわついているけれど、非常ベルの音が止まっている他にはそれほど変わっているところは見られない。周囲には大沢くんも、攻撃の跡もモフモフの尻尾も何も見られなかった。


「……ほんとに、何だったんだろう今の」


 色々と。全体的に。






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