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ブンカサイ5

 本部テントにいる体育の先生は生活指導もしている先生で、体格が良い上に顔も指導も恐いことで有名な先生だった。非常ベルの音が聞こえてきて、校舎の方を険しい顔で見つめている。そんな先生の背負う阿修羅オーラも気にせずにゆいちが話しかける。


「何だろ〜、火事ですかね?」

「文化祭は浮かれるやつもいるから、イタズラかもな」


 そうだとしたら締め上げる、とでも言いたそうな顔で見ている先生は、ここ数日の準備で大忙しな校内をよく見回っている姿が目撃されていた。思いついて、私も話しかけてみる。


「先生、東側の窓割れたの知ってますか? 原因は何だったんですか?」

「ああ、あれな。誰かがふざけてやったらしいが、犯人はまだ見つかってない。ほぼ同時に割れたらしいが、一枚全面割るのは難しいからどうやったんだかな」

「え〜どういうことですかぁ?」


 割れたガラスの近くにいた人によると、いきなり音がして割れているのに気付いたらしい。不審な人影も目撃されていないし、すぐ近くに先生がいた階でもそれらしい人物を見つけることはできなかったそうだ。先生によると、普通ガラスを割るときはひび割れのようになって割れるので、窓枠の周囲のガラスは残りやすい。だけど今日の割れ方は窓枠にほとんどガラスが残っていなかった。それも不思議な点なのだそうだ。廊下側にガラスは落ちていなかったけれど、新聞紙で塞いで今はあまり通らないように通達済みらしかった。どこも生徒の荷物置き場にして一般は立入禁止にしているような場所だったので、それほど影響はないらしい。

 あまり口数が多くない先生なのにゆいちが上手いこと聞き出しているのを聞きながら、やはり普通の事故じゃなかったのだと思う。ここ数日は何もなかったのを挽回するかのように、窓ガラスを割り、写真をバラ撒いたのだとしたら他に何をするつもりなのだろうか。


「あれ」


 スマホを取り出してボタンを押すけれど、反応しない。今日は忙しかったせいでバッテリーはまだほとんど残っていたはずなのに、あちこち触ってみても反応しなかった。

 どういうことだろう、と思って見ていると、いきなりスマホが震えて着信画面に変わる。だけど番号が表示されるはずの場所には英数字がランダムに羅列されているだけで、名前のところは黒く塗りつぶされているようになっていた。


「あそこ、煙上がってるな」

「うわマジだ〜」

「ちょっと行ってくる。救急車が来るかもしれんから、障害物どけといてくれ」


 見上げると、校舎の上の方から煙が上がっているように見えた。基本的に飲食系のお店は家庭科室などのある3階までにしかないので、それより上で火事が起こるのは不自然な気がする。

 非常ベルがイタズラじゃないかと思っていたゆいちや同じ本部テントにいた実行委員も、揃ってそちらのほうを見上げていた。手の中では相変わらず着信を知らせてスマホが震えている。

 しばらく迷って、私は胸のあたりを手で掴みながら通話ボタンをスライドした。ら、その瞬間に大きくて綺麗な手が私の手に添えられる。ふわっと風が起きたような気がして、例の香りがした。


「……ミコト様」

「小賢しいな」


 顔を上げると、ミコト様は不快そうな顔でスマホを眺めていた。顔が整っているので、怖い顔をすると迫力がある。ジャージにパーカーでも迫力があるのは、やっぱり神様のオーラが出ているのかもしれない。


「ルリよ、そなたをこれで繋げて呼ぼうとしていたらしい。こちらから逆に出向いてやろうと思うが、ルリも行くか?」

「えっ」


 行けるのか。行っていいのか。行くと言っていいのか。

 一瞬いろいろ考えたけれど、私は頷いた。もし危ないのであれば多分ミコト様は行くかどうかも私に訊かないだろうし、ミコト様がいるのであれば滅多なことにはならないだろう。どちらかと言うと、ミコト様と離れていて私が何かあったときのほうが怖い気がする。ミコト様の正気度的に。


「こちらへ、手を離さぬよう」


 右手で私を懐に入れるように抱き寄せて、包帯の巻いてある左手で私のスマホを引き抜く。少しそれを離すように手を伸ばすと、通話中になっているスマホがミコト様の手ごと青い炎に包まれて燃えた。

 あっ、と思わず息を呑む。私のスマホ、ご臨終。


「目を瞑っているがよい」


 言葉に従って目を瞑り、ミコト様の体にしがみつく。すると足元が波打ち際の砂のように崩れているような気がして、めまいのように体がぐらついた。






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