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ブンカサイ1

「ルリちゃん可愛いぃ〜!! 天使みたい!! 一緒に写真撮って、ねっ! ねっ!」

「おとっ……ちょっと、静かにしてよ」


 宣伝係として衣装を着て校内を歩いていると、天狗の仮面を被った男がくねくねしながら走ってきた。服装も作務衣なので、仮想している生徒の一人のようにも見えてある意味馴染んでいる。

 真っ赤な天狗顔と大声で注目を集めているので恥ずかしかった。天使とか意味不明だし。

 お父さんは天狗になるための修行中の身なので、本当はこうやって人々と関わるような場所にはあまり来てはいけないらしい。だけど「娘の晴れ姿を見たいと思う父親で何が悪い」と渾身の駄々こねをしたせいで、一時間だけ許されて来たのだそうだ。遠くの電信柱に、見守るようなカラスと大きな天狗の姿が見える。こんなどうでもいいワガママに付き合わされてかわいそう。


「……ルリよ、怪我はしておらぬのだな?」

「してませんよ。これは血糊とメイクです」

「ならば良いが、痛々しいように見える……いや、服は可愛らしいが」


 エプロンのように簡易に着脱可能なドレスっぽい衣装は、あちこちに血糊が飛び散っている。ヘッドドレスには小さい頭蓋骨が並んでいるし、口元には血が流れているようなメイクもしているのでミコト様はちょっと心配そうな顔をしていた。顔の半分だけでなく半袖で見えている手もツギハギしたようなメイクをしている私は「人肉が大好きなフランケン女子」というイメージらしい。コンセプトが短い割に喧嘩をしている気がする。


「ルリさま、かわいいです!」

「昨日相談していた髪型ですね。めじろも可愛いと思います」

「愛らしいお化けさんなのねえ」

「本当にいたら捕まえたいわねえ」


 ひしっと両腕に抱きついてきたすずめくんとめじろくんは学校についてきていたので、今日の衣装のことも知っていた。けれど当日の楽しみのために秘密にしようとお願いしたので、ミコト様やお父さん、白梅さん紅梅さんには驚いてもらえたようだ。私からすると長髪と帽子で顔を半分隠していても伝わるイケメンなミコト様や歩いている男子の視線を一身に浴びている梅コンビの方が驚きだけれど。美人は和服とか洋服とか関係ないのだ。


「ルリちの親戚やばくね? イケメンすぎて目が痛いんだけど」

「美女いい匂い〜肌の質感パない〜」

「ルリ、チケット足りた?」

「あ、大丈夫だったありがとう。ミコトさ……ん、こちら私の友達のみかぽんとゆいちとのんさん」

「う、うむ、この度は世話になった。つまらぬものではあるが……」

「あざーす! うわうまそ」


 誰もが文化祭に来ると譲らない大所帯を平和へと導いてくれたのはこの優しき友達がチケットを譲ってくれたからである。お菓子おごれと言われていたのでコンビニスイーツをあげようと思っていたけれど、話を聞いたミコト様がクッキーセットを作ってくれたのでそれをお礼にすることにしたのだ。

 可愛い袋に入れられてリボンで結ばれているクッキーは、小さめの一口サイズだけれど種類が色々だった。白黒になってるもの、何かくるっと丸くて真ん中にジャムみたいなのが乗ってるもの、ナッツでゴツゴツしたもの、薄くてくるんとなってるものもある。どれもお店において違和感のないクオリティだ。


「めっちゃ可愛いんだけど〜。えっ待って手作りっぽい包装なんだけど」

「ミコトさんが作ってくれたんだよ」

「マジで? パティシエとかですか?」

「ぱ、ぱりせ……?」

「いや、普通のお菓子作りが趣味の人」

「これは女子力高い。ご利益ありそうだわ」

「あ、うん……ご利益はあると思う……」


 何しろ神様の手作りクッキーである。主に開運厄除とかそういう効果があってもおかしくはない。

 女子高生にクッキーを褒められたからかミコト様は嬉しそうにニコニコしている。お父さんはそのまま紹介するわけにもいかないので近所の人と紹介するしかなかったけれど、みかぽん達は文化祭の雰囲気もあってあんまり突っ込まないでくれた。夏休みに一度アイスを奢ってもらっているというのも大きかっただろう。

 せっかくなので記念撮影を何枚か撮って、それから宣伝のために一旦別れることにする。休憩時間は教えているので、その頃に一緒に回ることにしたのだ。百田くんがまた調子悪くなると可哀想なので、野球部ブースのある体育館前とクラスのフロアには出来るだけ近寄らないようにお願いしておくことも忘れない。


「ルリよ、一緒にいなくて大丈夫か?」

「そうだよ。お父さんも回ろうか?」

「いや平気だから。今日はみかぽん達とずっと一緒だから大丈夫。何かあったら呼びますね」

「うむ、すぐに呼ぶのだぞ」

「安心してくださ〜い。うちらが守りますんで!」

「ルリの友よ、宜しく頼む」

「本当によろしくね! 時々覗くから!」

「いや覗かなくていいから」


 ミコト様とお父さんはは振り返り振り返り、心配そうに歩いて行く。すずめくんとめじろくんは手を繋いで目当てのクラスに走って行った。白梅さんと紅梅さんは男子の必死な勧誘をほほほとかわしている。


「やー、濃ゆい人達だわー」

「ルリち、あんな美人と暮らして羨ま〜」

「へへへいいでしょ」

「でも安心した。今の生活心配してたけど、ルリすごい嬉しそうな顔してたし。いい人達なんだ」


 みかぽん達とミコト様達は、ちゃんと顔を合わせるのがこれが初めてだった。のんさん達は色々あった中でも態度を変えずに接してくれていたけど、やっぱり心配もしていてくれたらしい。少し照れくさいような嬉しさに顔がにやけてしまう。


「てかあのイケメンはやばいよ〜ルリ彼氏出来なくなるよ〜?」

「えっ? なんで?」

「いや、普通にあの顔見慣れたらその辺の男子が完全にジャガイモにしか見えなくなるっしょ」

「ジャガイモ……」

「ジャガイモか……」


 ふと通りかかった坊主頭の男子をなんとなく見つめて、思わず女子全員でハモってしまう。相手はびっくりして挙動不審になっていた。申し訳ない。

 ミコト様の人間離れしたイケメン顔は比較対象にしてはいけないものだと実感した。






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