表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/302

悪意の行方8

 数学準備室での一連の出来事は、私からするとスマホが行き過ぎた誤作動を起こし委員長達が変な感じになって狛ちゃんがどうにかしてくれたくらいにしか分からなかった。だけど、私の肩にいたすずめくんやミコト様からすると少し違った風景に見えたらしい。


「ルリさまがスマホを使い出す少し前くらいから、濃厚な妖の気配が漂い始めました。あの音声を流すに連れてそれは濃くなり、スマホとあの女子(おなご)らを侵したのです」


 妖の気配は術のような形を取り、スマホに向かったものは録音データを壊し、委員長達に向かったものは彼女らを操って私を襲おうとしたらしい。狛ちゃんがすぐにその術を破ったので私は指一本触れられなかったけれど、どっちみちミコト様のお守りや依代を持っていたのでもし触れられていたらその瞬間に術が破れていただろうという話だった。神様強い。


「主様は腐っても神格をお持ちのお方ですから。あんなチンケな術に負けるはずはありません」

「く、腐ってはおらぬだろう」


 ムンと胸を張ったすずめくんに文句を言いながらも、ミコト様はベイクドチーズケーキのおかわりをあげていた。一口サイズの小さなチーズケーキはチーズのしっとり濃厚な味と周囲のザクザクがマッチしていて非常に美味だった。ミコト様の進んでいる方向性が分からないけれど、お皿にシャレオツな感じで垂らされたベリーソースも美味しい。


「それにしても何でそのアヤカシは委員長達……ってか、噂関係にちょっかい出したんだろう? そういう力があるなら、私がミコト様に守られてるってわかるよね?」

「妖は我々と比べると善悪の概念が薄く、己の愉しみのために他者を弄ぶこともあります。が、神様の癇に障るようなことなら、分別のある者なら普通はやりませんね」


 不可思議な力を持っているのは神様もアヤカシも同じだけれど、二者の力の規模には大きな隔たりがあるらしい。大妖怪と呼ばれるような者や長年祀られてきた者であれば神様と渡り合うものも稀にいるらしいけれど、普通は月とアフリカゾウとネズミくらいの差がある。わざわざ怒りを買うようなことをするようなやつは、よっぽど酔狂か井の中の怖いもの知らずくらいだとか。


「馴染みのない気配だったのでどういう気質の妖なのかはわかりませんでしたが、それにしては術も回りくどいもののようにすずめは思いました。もしかしたら、いずれか人間に与する者の仕業かもしれません」


 すずめくんが窺うようにミコト様を見ると、ミコト様もティーカップを置いてうむと同意した。

 ミコト様のような人間を助けてくれる神様がいるのと同様に、アヤカシにも人間の言うことを聞くものもいるらしい。それはアヤカシの気まぐれであったり、力のある人間が命令するのであったり色々ではあるが、もしそうであればアヤカシに言うことを聞くだけのメリットがあるとのことだった。


「神様であれば信仰が力に繋がりますが、妖はそうはいかないのです」

「ああ、だから報酬が必要なんだ。でも、神様が怒るリスクもあったわけでしょ? 普通のお礼くらいじゃ引き受けないよね?」


 もし私がアヤカシだったとしたら、ちょっとしたお礼ぐらいじゃやりたいとは思わない。ミコト様でさえ普段とても優しくて温厚だけれど、怒るとめっちゃ怖いし。なんか雷とか刀とかやばそうだし。人間でも、命の危険がありそうなお願いなんて引き受ける人はほとんどいないだろう。

 アールグレイティーの香りを嗅ぎながら訊くと、ミコト様も頷いていた。


「然り。それこそ、自らの生気を明け渡すと誓ったりせぬと引き受けぬであろうな。しかし妖によっては力のある人間に負ける程の力しか持たぬ者もいる。せねば命はないぞと脅してけしかけることもある」

「へえ。ちょっと可哀想」


 確かに人間でも脅迫されて犯罪を実行すると言うこともある。どちらにしろアヤカシに対して命令するのであれば、エサとするのか支配するのかの違いがあれど力のある人間でないと出来ないそうだ。

 力のある人間といえば百田くんだけれど、同じようなタイプの人が結構いるのだろうか。ミコト様をあちこち連れ回すたびに具合を悪くしてたらちょっと申し訳ない。


 周囲に他にそんな人がいただろうかと記憶を探っているうちに、ミコト様達がベイクドチーズケーキにアイスを乗せるという罪深いことをしていた。カロリー的にやばいけれど、差し出されたら乗せるしかない。

 曲がりなりにも襲われたというのに随分呑気だなとミコト様を睨んで見ると、首を傾げながらもう1度アイスを乗せようとしてきた。流石にそれはアウト。


「案ずることはない。術を強引に破ったので今頃はあちらへ返っているだろう。人には少々苦しいものであろうから、しばらくは大人しゅうなる」


 術は見破られたり失敗に終わると、それが掛けた者に返るのだとか。丑の刻参りを思い出した。

 心配性なミコト様が泰然としているので、取り敢えず私に危険は迫っていないようだ。私は安心して、ソースの模様をスプーンで崩した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ