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悪意の行方7

 ベイクドチーズケーキの出来栄えなどについてミコト様の話を少し聞いていたけれど、よく考えたらそんなことをしてる場合じゃなかった。百田くんが行ってくれたとは言え数学準備室で倒れた委員長達は大丈夫なのか心配だし、よく考えたらスマホも置きっぱなしである。不気味な現象を起こしたスマホなので携帯するのがちょっとイヤだけど、色々データも入っているしとりあえず回収しなくてはいけない。


「ミコト様、とりあえず様子見てくるんで離してください」

「モモダがここにいろと言うたのだからよいではないか」

「ミコト様が目立つからそう言ったんですよ。ちょっとどうなってるか見てくるだけなんで」

「ぬうぅ……ルリの物怖じせぬのはよい所だが、そなた少しは我が身を心配したほうがよいぞ……!」

「ミコト様が心配してくれるんで大丈夫です」


 いくら文化祭の準備で騒がしい校内とはいえ、きらびやかな平安貴族っぽい人がいたら目立つ。なので私一人で上の階まで様子を見に行こうとしたら、ミコト様が引き止めてきた。最初は私の左腕を掴んで引っ張っていたけれど、片手で掴んでいるだけでは跡がつきそうだからかさらにぐいっと引っ張り、お腹あたりにしがみつくようにして引き止めている。


「すまほなど一日二日捨て置いて大事ない。このまま帰ってちいずけえきを食べようではないか」

「チーズケーキは食べますけどちょっとどうなってるか気になるじゃないですか!」


 ぐいぐいと引っ張り合いをしていると、LL教室のドアがドンドンドンドンと叩かれる。扉の向こうから「ミノさんいる感じー?」と脳天気な声が聞こえてきた。LL教室は防音設備があったと思うけれど、それでも聞こえてくるのは結構な声量だからだろう。あんまり騒ぐと人目を引きそうなので静かにして欲しい。

 ミコト様をくっつけたままドアを開けると、百田くんと同じように野球部のユニフォームを着たノビくんが立っていた。


「やべ、お取り込み中だった? 出直すべき?」

「別に何もしてないけど、ノビくんは百田くんのお遣いで来たの?」

「そーそー。初めてのお遣いだわ。ハイこれ渡しとけって」


 ノビくんが差し出したのは私のスマホである。触って大丈夫なのかミコト様を見上げて、何も言われなかったので受け取った。


「ミノさんの彼ピ的な人ッスよね? 流石に学校で逢引はヤバイっすよ〜」

「あ、あ、あ、逢引などっ!」


 ヒューヒューと古典的に冷やかすノビくんに、ミコト様は顔を赤くしてワタワタと否定をした。百田くんよりもとっつきやすいからか、ミコト様はノビくんに対してはそれほど態度は大きくないようだ。そしてこの平安貴族仕様のミコト様を見ても特に取り乱さないノビくんは順応性が高い。


「ミノさんもさー。あんまモモのことこき使わないでやって? アイツまたトイレとお友達になってたわ」

「そうなんだ、大丈夫かな。あの、委員長達のこと見た? どうなったか知ってる?」

「俺が呼ばれて行ってしばらくして起き上がってたわ。保健室ついてったけど熱中症っぽいらしくまた寝てたけど。モモが一応ついてるからスマホ渡しといてって言われて来たけどミノさんは平気?」

「私は大丈夫」


 委員長達が少しおかしな様子を見せて、それから狛ちゃんが襲いかかってしまったので心配だったけど、特に外傷もなくて受け答えもしっかりしていたようだ。悪口を言ってきた相手ではあるけれど、あんな状態になっていたのは心配だったので様子を聞けて少し安心する。


「モモの方が病人っぽい感じにヤバかったしな。部活も早退するっつってたし、今日は準備ナシでよくね? 何かオーサワも出掛ける用事あるっつってたし、進捗余裕っしょ?」

「そうだね。また来週からでいいと思う。みかぽん達には伝えとく」

「うぃ。俺はも一回保健室行ってみるわ。ミノさんも気を付けて帰れよ〜」

「ありがとう。百田くんにお大事にって伝えといて」


 ノビくんに手を振り返すと、ノビくんは大袈裟に表情を替えて「ミノさんやさすぃ〜ヤキモチ注意!」と言いながら戻って行った。何を意味不明なことを、と思いながら振り返ると、ミコト様が面白くなさそうな顔をしている。


「じゃあ帰りましょうかミコト様」

「……私だってっ! こ、高校生の姿になることくらい……! ルリの学友になることくらい……!!」

「いや、やらなくて大丈夫です。早く帰りますよ」


 ミコト様が実際に行動に移す前に、私は手を引っ張ってさっさと帰ることにした。

 何だか色々あって疲れたので、とりあえず甘いものが食べたい。ベイクドチーズケーキとか。






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