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悪意の行方4

 文化祭の準備真っ只中の放課後、静かに話せるような場所は少ない。

 担任の先生にお願いすると、使われていない方の数学準備室を貸してくれた。ほぼ物置というか、使えるスペースが3畳くらいしかないらしい。埃っぽいのと教材の土砂崩れに気を付けろよ〜とのんびり言った先生は、私が課題をちゃんと仕上げてきたことに満足してくれているようだ。


 高く積まれた教材や本で薄暗い中、物に触らないように移動して奥へ進み固くなっている窓の鍵を開ける。埃っぽいからかプシッとくしゃみしたすずめくんが窓枠に乗ってチュンチュン鳴くと、すぐ下にあるフェンスを乗り越えて狛ちゃんがふわんとジャンプしてこっちまで飛んできた。ぬっと体を乗り出してきたので窓の前を開けると、そのまま部屋の中に入ってきて後ろ足で立ち上がる。


「狛ちゃん、見張っててくれるの?」


 角のあたりを撫でると尻尾を振って喜ぶ狛ちゃんは、端におすわりして待機して貰うことにした。姿が委員長達にどう見えるのかわからないので、なぜかあったピアノカバーらしき黒い布で覆っておいた。

 クラスのグループの中からダイレクトメッセージを送ってしばらくすると、委員長達3人組が恐る恐る入ってくる。顔色も悪くものすごく気まずそうに入ってくるので、まるでこちらが意地悪をしているみたいだった。ドアの近くに立ったまま誰も何も言わないので、私が切り出すことにする。


「委員長、あの頭悪そうな噂の犯人わかった?」

「……」


 こわばった顔で何も答えてくれない。せめて返事くらいはして欲しい。気まずいのはわかるけど自分達の行いのせいなわけだし。


「もしかして、クラスにあれ聞かせてほしいっていう無言のお願いだったりする?」

「違う!」

「じゃあ早く話して欲しいんだけど。みかぽん達も待ってるし」


 私の友達は優しくて頼りがいがあるので、委員長達と話をすると言うとついていこうかと心配してくれていた。内容が内容なだけに一応断ったけれど、委員長達と比較的喋っていてコミュニケーション能力も高いみかぽんやゆいちがいた方が話も進みやすかったかもしれない。


「もしかして調べてないの?」

「調べたけど、……わかんなかったから」

「委員長、やる気ある? 私はあるけど」


 ルリを苛めるものなど、どうなってもよいのではないか? というミコト様の洗脳のせいか、私の心の中に加虐性が芽生えてしまっているかもしれない。委員長の悪口が広まっても自業自得なくらいの気持ちでいるので、もし反省の色が見られないんだったら私は躊躇なく教室であれを再生するつもりでいるのだ。


「ちゃんと説明してよ。じゃないと委員長の好きな人にも聞いてもらうから」

「は……?! やめてよ!! 何でそういうことすんの?!」

「嫌だったら話して。ちゃんと調べたんだったらどうなったのか言えるでしょ」


 片思いの相手に嫌な部分をバラすという脅しは相当酷いものだと思うけれど、こっちだってあんな噂されて優しくしたい気持ちなんかほとんど残っていないのだ。

 早くしてと促すと、委員長達が目配せし合って話し始めた。


 まず委員長達が最初に私についての変な噂を聞いたのは夏休み頃。その時は家出してるらしいとか、家が複雑だからとかそういう内容だった。新学期が始まってから3人のうちまず違うクラスの子が私について色々噂が出てるっていうのを聞いて、それから委員長がいろいろと耳にしたらしい。噂の仕入先は同じクラスの女子、部活繋がりの関係、あとは廊下ですれ違った時に耳にしたこと。


「援交とか虐待っていうのは、部活で……でも誰が喋り始めたか覚えてなくて、聞いてもわかんなくて、皆誰かからなんとなく聞いたとか……家のことは、同中の子とかが喋ってたけど……」


 前に同じクラスだった子や卒業した中学が一緒であれば家庭の状況はなんとなく知っている人もいる。そういう人にも話を聞いてみたけれど、皆事実を知っているだけで、そこから噂に発展した手がかりなどは掴めなかったそうだ。

 部活の方でも過激な噂が流れていたけれど、改めて出処を探ってみても皆話のきっかけをよく覚えていないという反応だったらしい。その時の話題を出して水を向けてみたけれど、皆隠しているというより、本当に覚えていないような感じだったらしい。


「いや、そんなこと言われても信じるの難しいんだけど」

「本当だから!! その子らに他に誰と噂したか聞いて辿ろうとしたけど、皆誰と喋ったか覚えてないって同じように言ってた! 本当に!」


 あれだけ大勢、新学期からずっとヒソヒソしていて皆ぼんやりとしか覚えてないなんてあるわけないと思う。だけど、委員長の必死の顔は嘘をついているようには見えなかった。大体、嘘をつくメリットがない。バレれば代償がすぐに自分の身に返ってくることはわかっているのだから。本当だからと言い募っている委員長の両脇で、同じように頷いている2人も涙目になるぐらい必死だった。

 この3人があちこちでコソコソしているのは見かけていたので、まるっきり嘘と断じる要素も少ない。


「じゃあ、私を引き取ってくれた人に対しての噂は?」

「え……」

「親戚の人が男の人で、イチャイチャしててって話してたでしょ。あれ誰から聞いたの?」

「そんな話、してない。勝手に盛らないでよ」

「いやいやしてたでしょ」


 ぽかんとした委員長が、ふるふると首を振る。何でそこで嘘をつくのか。


「いや、本当にしてないから!! 私が知ってるのは虐待のことと援交のことだけ!」


 私の手にこれ見よがしに握ってあるスマホに、あの日の噂話が録音されていることはよくわかっているはずだ。なのに、なんでそんなすぐバレるようなことを言うのだろう。私に対してあたりはキツいけれど、普段は委員長としてしっかりしていて頼られているのに。


 もしかして、本気でそう思っている?

 必死に否定する3人に、僅かに疑問が浮かぶ。

 私のすぐ横にある黒い布の中からは、僅かに唸る声が聞こえていた。






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