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変化1

 月が変わって、二学期が始まった。夏休み中も登校日には学校に来ていたけれど、あちこちで生徒が喋っている賑やかな学校を見ると奇妙な気持ちになる。

 一学期の終わりくらいには、なんとなくもうこういう日常には戻れないんじゃないかと思っていたから。


「お前ら明日の実力テストに向けて悪あがきしろよー。あと箕坂、もう勝手にクラスメイト増やさないように」

「はーい」


 むっちりふくふくと茶色の餅のようになったすずめくんは、私の机の上で我関せず眠っている。胸ポケットに入ってでも付いていくという執念を見せたすずめくんを流石に怒られそうだと思いながら連れて行ってみると、実際は当たり障りなくクラスに受け入れられた。

 そうなった理由のひとつはクラスのムードメーカーであるノビくんがすずめくんの可愛さを大げさに広めてくれたこと、もうひとつは私に関する噂が広まっていたことだ。


 夏休みに入ってすぐ、私は家出をしたことで、義理の親になった人が行方を調べようとあちこちへ連絡したらしい。どうやって調べたのか同級生数人も対象になって、その内容もちょっと普通ではなかったそうだ。いきなり怒鳴ったり、脅迫するようなことを言っていたとみかぽん達がやんわり教えてくれた。迷惑を掛けてしまった人達には謝りに行ってほとんどの人は気にしないと言ってくれたけれど、なんとなく距離を置こうとする人も何人かいた。そうなって当然のことだろうし、仲の良い友達や百田くん達は全く気にしないでいてくれているから助かっているけれど、あんまり親しくない人にとっては話題のネタになってしまっているようだ。


 チチオヤが頭おかしい人で、私がギャクタイに遭っているとか。

 そのせいで、私に関わると家までやって来て恫喝されるとか。

 今も家出したまま暮らしてるとか。

 ストレスのせいで頭がおかしくなってるとか。


 微妙に当たっているようで当たっていない噂は友達が耳にするとすぐに否定してくれているらしいけれど、退屈した人達にとっては暇つぶしにもってこいのようで下駄箱の前からクラスに来るまでに何人かヒソヒソしながらこっちを見ているのに気付いた。


「欲求不満だから妄想たくましーんだよああいうの。ほっとけって感じ」

「ルリ、気にしちゃダメだよ。あんま行き過ぎたのは録音して名誉毀損で訴えるとか進学先にチクるとか言えばいいから」

「う、うん。そんなには気にしてない。ありがとう」


 始業式とホームルームで早めに放課後に突入し、私達はもう見慣れた文化祭の小物係で集まりながら手を動かしている。学校初日ということもあって、残って作業をしている人はあんまりいなかった。私は生首のマネキンをよりリアルに仕上げ、すずめくんはサクサクとエサ箱にクチバシを突っ込んでは私の肩に止まってちゅんと鳴いたりしている。


「そんなことより、あのさ……ものすごい変なこと訊くんだけど、不老不死の薬とかって……聞いたことある?」


 口さがない噂に文句を言ってくれていたみかぽんが、若干呆れた目になった。


「ルリちもルリちでさー。そんな変なこと言わないほうがいいよ?」

「そーだよミノさん!! 非行に走っちゃダメだから! クスリ、ダメゼッタイ!」

「いや、そういう系のクスリの話じゃなくて。ノビくんは黙ってて」


 目のところに穴が空いている絵画を描いていたノビくんが真剣に言ってくれたけれど、ヤクに手を出すほど追い詰められてはいないし、その入手ルートは別に知りたくない。

 竹取物語に出てきた不老不死の薬が、今でも現存するらしい。そういうぼんやりした説明だと、妙にオカルトチックになるなあと思いながら話をする。飛び出す系のギミックを黙々と考えている百田くんには正直に説明しているけれど、流石に神様だの穢れだのというのは誰にでも話して信じてもらえるものではないことはわかる。ノビくんはまあ、百田くんに付き合って前々から私の事情を知っていたりするけれど、どこまで真に受けているかもわからないし。


「やー、全然聞いたことないわー」

「オカルト好きだけど、そういう伝承系とかって守備範囲外」

「ですよね」

「不老不死ってやばくね? ミノさんアンチエイジングとかキョーミあんの?」

「アンチエイジングってレベルじゃないじゃん! ノビは静かにしてろ!」

「そんなに怒らなくってもよくね?」


 人間の手に渡っているのであれば何か噂とかが流れているかもしれないけれど、流石に女子高校生にそんな噂は流れてこない。そもそもこの街の近くにあるとも限らない。けれど、とりあえず何か知ってそうな人がいたら教えて欲しいと頼んでおくことにした。神様や食器や刀に事情聴取した後なので、もう恥とかそういう気持ちは薄れている。

 変な頼みながらも頷いてくれる友情に感謝していると、大沢くんが近付いてきて口を開いた。


「あのさ、うち、親、日本史の先生なんだけど」

「えっそうなんだ」

「へー意外だわ! 高校? どこの?」

「や、私立の。元々史学専攻だったっぽいし、何か訊いてみる」

「ありがとう。そうしてくれると助かる」


 大沢くんは頷いて、また作業に戻っていく。百田くんも寺関係で聞いてみてくれていると言っていたし、意外にあちこちに探せる糸口があるのかもしれない。それに、専門分野の人に聞きに言ってもいいんじゃないかという気持ちも出てきた。オープンキャンパスも2年から参加できるものもあるし、そういうのに行ってもいいかもしれない。

 少し収穫があった気がして、私は帰ってミコト様に報告するのが楽しみになった。






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