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日本列島薬探しの旅4

 騒がしい倉の物々を静かにさせるために、ときに諭し、ときに怒り、あとはクロスで拭いたり褒めたりしつつ分類をしていった。1つは近代チーム。主に江戸時代終盤から現在までに作られたもので、薬の消息について全く知らないというチームである。美術品が多いけれど、情報を持っていないので集めて倉の角近くにじっとしていてもらう。

 また鎌倉時代以前に作られていて、かつほとんど人の世に流通していないというチームも薬について知らないというので、同じように端に寄っててもらう。意外にもこのチームに分類される物品が一番多くて大変だった。


 鎌倉時代から安土桃山時代くらいにかけて作られたもの、またそれ以前に作られていたけれどこの時代以降にもよく用いられていたもの。特に、当時の薬の持ち主や薬の渡ったルートなどをよく知っていそうな、権力者に愛された系の品物。メインに事情聴取をお願いするチームは、さほど多くはならなかった。


 まず、巻物。屏風に描かれているおじいさんの解説によると、物事を記録するという性質のせいか見聞きしたことをよく覚えていることも多いらしい。ただし、虫食いなどで物忘れが激しい場合も多いとのこと。

 それから武器類。刀や弓矢、鎧兜などで立派なものは権力者が使っていたというものが多く、さらに次世代の権力者へと受け継がれてきたものも多い。他には美しい調度品や茶壺などは価値が高く、同じように身分の高い人の間を渡り歩いてきたものが多いそうだ。


 二十数点に絞られた対象のモノに、おじいさんを介して話を聞いていく。


「元号がマイナー過ぎるんですけど……」


 ただでさえ嫌いな歴史、しかも日本史の、さらに教科書にもほとんど載っていないような出来事や年代についての話を聞くのは、学校で授業を受けているよりも辛い時間だった。

 スマホを片手に、元号から年代を割り出し、権力者の名前をググり、令制国の場所を調べる。出来事や人物をネットの海で発見しても、物が話した内容と年代が合わなかったりしてまた混乱するのだ。


「えーっと、そのほんにゃらのナントカさんがそれっぽいものを持っていたようだけれど、確かとはいえないし、自分が下げ渡されちゃったのでその後のことはわかんないと」


 よくわからないマークの付いている兜が、ガクガクと頷く。ルーズリーフに聞いたことを記録して、それから大きく溜息を吐いた。

 月で作られた薬というのは、物の間でもそこそこ有名だったらしい。あれがそうだったと思う、くらいの話はちらほら聞けたので、それを繋ぎ合わせると八幡神様の話の通りに人間の権力者の手を渡っていたというのは本当のようだった。ただ、動けたり人と話をしたりすることが出来なかった物が、薬の行方についてはっきりと断言できるほどではなかった。

 薬の足取りは、戦国時代終盤の混乱で完全に途絶えていた。


「徳川家康って薬とか詳しかったんじゃなかったっけ? 不老不死の薬とかあれば眉唾でも手に入れてそうなんだけど……持ってなかったのかなぁ〜」


 誰でも知っているような武将が手にしていたのであれば、なんか資料館とか歴史を研究している人とかそういうところで記録がありそうな気もする。ミコト様の倉の中にはびっくりすることに家康に所有されていたという品物もあったけれど、訊いてみてもそういうのは知らないと答えられた。まあ、馬に乗せる鞍であれば、薬の話にはちょっと縁が遠いかもしれない。


「関ヶ原の戦いのせいで……」


 鞠をぐりぐりと触りながらすでに変えられない歴史について恨み言を言っていると、カタカタと小さい音を立てながら小さな器が近付いてきた。白っぽい茶色で、両手で持つくらいのサイズの、多分抹茶を飲む時のお茶碗的なものである。その四割ほどが大きく欠けていて、金色の繋ぎ目で補修されているけれど、欠けた場所を補っているのは全く別の素材の器のようだった。チグハグな素材で欠けを補っているのが侘び寂びなのかは全くよくわからないけれど、その器は壊れやすい物として普段倉の棚の下の方で保管されているものの1つだった。

 私の膝の前で動きを止めた器を見て、絵のおじいさんがふむと頷く。


「こやつも何やら伝えたいものがあるようだの」






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