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日本列島薬探しの旅3

「あ、鞠ちゃん久しぶいたっ痛い、ごめんなさいっごめんて」


 夏と秋の庭の間にある倉の扉を開けると、鞠がものすごい勢いでバウンドしながらぶつかってきた。小さくて軽い存在なのでダメージはそんなにないけれど、ばいんばいんと天井と床で跳ね返りながら何度もぶつかってこられると捕まえるのも難しい。

 山の神様の一件でミコト様が物騒な感じになったときに、鞠や動く灯台などはすずめくん達によって倉に入れられてしまっていたらしい。街に一緒に連れ出すには荷物が多くなりすぎること、物なのに動くところを万が一にでも他の人に見られたら良くないということからだそうだけれど、その後もなんやかんやあって完全に放ったらかしになっていたことでご立腹のようだった。


「いいんじゃよ……人はそうやって容易く忘れ去りよる」

「ほんとごめんなさい。なんか色々あって」

「そういうものじゃて。人にとっての物の価値とはな……」


 ガタガタと全体的に騒がしい中で、屏風に描かれた絵の中のおじいさんが代表してチクチクと文句を言ってくる。それに平謝りしながら、ジワジワ近付いてくる灯台や壺を遠ざけて座った。鞠は隙きあらば暴れようとするのでもう脇に抱えている。


「それで、此度は何の用向きがあってこのがらくた屋敷に来たのじゃ」

「ミコト様の傷に効きそうな薬のことで、何か知らないかと思って」


 倒れ込んできた琵琶という楽器がベンベンなるのを抑えながら訊くと、おじいさんが絵の中でふむと釣り竿を置いて長い髭を撫でる。


 二学期まであと2日。日本を飛び回るようにあちこちの神様に話を聞きに行って、それらしい話が訊けたのがたった2人だけだった。


 まずひとりめ。これはとても有名で力の強い神様で、私は現実世界の神社の本殿でミコト様を待っていることしか出来なかったけれど、昔実際にその薬を人が賜るところを見ていたらしい。その薬は中国の天帝から貰ったものではなく、確かに月から渡ってきた者によってもたらされたものであるらしい。片手で持てるほどの器に入っているらしいけれど、どんな傷であってもほんの微量でたちまち治してしまうほどのものだそうだ。とても力の強いものなので、そうそうなくなるようなものではないだろうとのこと。例えば、海の底に投げ入れたとしても、その力は消えないくらいのものだったそうだ。


 そしてふたりめは、近くの県にある八幡宮のお使いの人がこのお屋敷にやって来て教えてくれたものだった。

 そのお使いの人によると、主である八幡神様という神様が昔ある戦のあれこれで、その薬がある土地神様の手から人の世に渡っていたことを覚えていたらしい。大体八百年前くらいだと言うので鎌倉時代とかそれくらいの話なのだろう。手にした者が権力者となり、新たな権力者へと受け継がれ、あちこち人の手を渡ってそれからの行方はその神様も知らないと言っていた。


 相変わらず現在どこで誰の手にあるのかはわからなかったけれど、とりあえずその薬が実在していて今も存在している可能性が大きいこと、そして八百年前くらいには人が持っていたということが判明した。

 また、あちこちの神様も親切に協力してくれているけれど誰も今の持ち主を知らないということから、神様の誰かが持っているという可能性は低いのだと判断してもよいのではないか、という結論に至ったのだ。


「鎌倉時代とかだったら、誰か由緒ある家系の人にいきなり訊きに行くより、ここのモノの人達の方が情報が得られるんじゃないかと思って」

「確かにの。ここいらには時の権力者の手を渡り歩いたものもおる。刀や鎧はまさにそういったものもあるじゃろう」


 とは言っても、ここにあるモノは普通の物よりも多くの気を得ているけれど、喋れるような付喪神にはなれないといった品物ばかりである。おじいさんは人の形をしているしここでミコト様の気をもらっているので喋れるけれど、他のものはただ少し動けるくらいで言葉を伝えることは出来ない。


「もし出来るんだったら、おじいさんに話を通訳して欲しいんですけど」

「出来ることには出来るが……」


 おじいさんが顔をしかめる。


「もしかして、それらしい情報を持っている人がいないとかですか?」

「いや、やかましくってとても聞き取れん」


 とりあえず、あちこちでガタガタ震えてアピールしているものを静かにさせないといけないようだ。






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