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日本列島薬探しの旅2

 全然収穫がない。


「ルリよ、駅ナカの弁当は同じものしか売っておらぬから、八重洲の百貨店で見繕わぬか?」

「う、うん……」


 いや、収穫はあった。

 おのぼりさん状態だったミコト様が東京駅に精通するくらいに成長していた。

 でも薬に関して、全くそれらしい情報を得られることができなかった。


「いや〜最近聞いたことないわ〜」

「そんなんあったね懐かしい」

「何じゃそれは」

「これは東京限定たまごまご……有難く頂こう」


 そんな感じで意外とフリーダムな神様が全国規模でいらっしゃるということだけわかった。新幹線の乗車回数と飛行機の搭乗記録だけが増えて、二学期も間近に迫って来ている。


「今日もなんにもなかった……」

「そうか? あの村雨という菓子、ほろほろしていて何ともよい味わいだったが」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「ルリちゃんと撮ったスナップもアルバム2冊目になったけど」

「それもどうでもよくて」


 移動時間が長くて一泊する場合は、大体和室の2部屋続きになっている旅館に泊まっていた。交互について来ている白梅さんと紅梅さんのどちらかと私が一緒に寝て、残りのミコト様と小鳥コンビ、そしてお父さんが布団をギュウギュウに敷いて寝ている。

 この大人数なので私は誰と布団が隣でもいいのだけれど、向こうの部屋のメンバーいわくこうしないと平等でないらしい。お布団を敷き詰めて寝るのは修学旅行みたいに楽しそうで少し羨ましい。


「いや、楽しんでる場合じゃないですよ。全然それらしい話も聞かないし、もうすぐ夏休み終わっちゃうし、世界史の課題はまだ終わってないしでどうしたらいいんですか」

「ルリさま、学校の課題はすずめらの責任ではありません!」

「すずめ、シッ」


 空気の読めるめじろくんが、すずめくんの口に今日買った和菓子を突っ込んで黙らせている。じっと見ていると、めじろくんが私にもそっとひとつ渡してきた。もう夕食も済んでいるけれど、やけっぱちなので私も食べることにする。白梅さんのお茶はいつどこで飲んでも美味しい。


「まあまあルリよ、そう焦ることでもないではないか。実際にあるかどうかわからぬのだし、ゆっくり探せばよい」

「いや、逆でしょ。あるかどうかはっきりさせないとこのまま何年もこんな感じだったらどうするんですか」

「何年もか〜……ルリちゃん、今度北海道とかも行く?」

「わ、私は海外に行ってみたいと思う。パリとか……!」

「旅行の話じゃないから」


 この集団、大きくなればなるほど頼りなくなっていく反比例システムで構築されているな。

 お父さんは最初のお泊り旅行で「ルリちゃん、ミコト様の傷の手当て、毎日してるんだって……? 大変だから、お父さんが代わってあげるね!」といい笑顔で言ってからというもの、毎日何だかんだで楽しそうにやっているようである。天狗のお見習いさんということで一人前になるまではあんまり人前で顔を晒してはいけないらしいけれど、最近は一緒に写メを撮るときとかもマスクを付けていなかったりするので大丈夫なのかと心配だ。


 行きたい観光地をキャッキャと言い合っている成人男性2名を止めたいけれど、薬に関する情報がなさすぎて他に提案できるような場所も方法もない。

 神様以外が薬を持っている場合も想定して探そうにも、私の人脈と言えば同級生くらいしかないのだ。一番それっぽい百田くんにはメッセージを送っておいたけど、「親父に聞いてみる」という返事以来音沙汰がなかった。

 重い溜息を吐くと、ミコト様がそっと手を握ってきた。


「ルリよ、そう深刻になってくれるな。私はルリとこうしてあちこち出歩くのも楽しいし、随分と傷が楽だ」

「……それ、テンション上がってて痛みを感じてないだけじゃないですか?」

「うむ、まあそれもあろうが、あれほどの痛みは簡単に消えるものではない。ルリがこうして力を尽くしてくれていることが嬉しく、私の傷を慰めているのだろう」


 私の前では痛がったりしないようにしていたけれど、やっぱり傷が相当痛かったのだろう。少しはマシになっているらしいけれど、もっとガツンと効くような薬があるならやっぱり欲しい。あの神様に教えられるがままに調べているだけではなくて、より積極的に探さなければ、と思った。


「その、それでその、もっと近くに共にいれば傷も痛まぬと思うので、今日はその、」

「ミコト様、ルリちゃんはお父さんと一緒に寝るそうです」

「主様、ずるいですよ!!」

「めじろも一緒がいいです」


 ミコト様が握っている私の手を更に包み込むようにお父さんが握り、更にすずめくんとめじろくんも乗せてきた。なんだろう。試合前の気合でも入れているのだろうか。やったことないけど。


「……よし、薬探し頑張るぞー!」

「おー!」

「な、なんだ? ルリ、今の掛け声は」

「えー! もっかい! ルリさまもっかい!」

「めじろもおーってやりたいです」


 結局、いつもの組み合わせでお布団を敷いていた白梅さんが加わって全員でやってから、その日は就寝することになった。






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