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倉庫の怪1

※なんちゃってホラー感のあるお話注意

 何もすることがない。

 基本的に、すずめくん達はそれぞれに仕事がある。めじろくんはミコト様の秘書、すずめくんは私の世話の他にお屋敷の切り盛りをしていて忙しい。紅梅さん白梅さんは家事の監督をしているし、他の人もそれぞれ食事の支度や掃除などを沢山こなしている。

 つまり、暇人は私だけである。


「散歩して来ますねー」


 外へ出る階段を降りてちりめん鼻緒の下駄をつっかける。これは気軽に行き来できるように私専用だとすずめくんが用意してくれたのだけれど、大体どこの建物に行って外に出ようとしてもちゃんと用意されているのが不思議だ。誰かがこっそり運んでくれているのか、それとも予備をいっぱい買ってあるのか。判明しているのは、色違いのちりめん鼻緒をミコト様が使っていることくらいである。


 庭で木に登り剪定をしているりすさんという可愛い名前のおじさんに声を掛けてからぶらぶらとその辺を歩く。今日はもうみかんも収穫したし、鯉の餌もやったので目的のない散歩だけれど、幸いこのお屋敷は普通じゃないのでそれほど退屈ではなかった。


 このお屋敷は、たまに小物の位置を変えている。

 小物といっても、大きな松の木だったり、川の流れだったり、建物の中であれば廊下が伸びていたり、台所が反対側に行ったりするので割と大きい。東西南北に位置する大きな建物と庭の位置はほとんど変わらないけれど、それ以外の小さな建物やお風呂なんかは結構位置を変えていたりするのだ。池の形が変わっているなんて毎日だし、私がよくエサをやりに行くせいか最近は池の真ん中にちっちゃい島が出来て橋で渡れるようになっている。


 もちろんイギリスの魔法学校のように勝手に移動しているわけではなく、ミコト様が不思議な力でどうにかしているらしい。

 細々と建物の位置を変えるのは、例えば湿気が一ヶ所に溜まらないようにだとか大きな買い物をする時に運び入れやすいようにだとか、そういう理由で仕えているすずめくん達がミコト様にお願いしているそうだ。

 庭については前は庭木のお手入れだとか植え替えなどで動かすことがほとんどだったけれど、私が来てからは飽きないようにとちょいちょい変えてくれているのだとめじろくんが教えてくれた。お礼を言ったらミコト様は非常に照れながら慌てて、屏風の角に足をぶつけていたそうだった。


「朝顔、ゴーヤ、へちま、なんとか朝顔、ちっちゃいヒマワリ、ケイトー、……なんとか草、はまなす」


 たまにミコト様やすずめくんが庭で草木の名前を教えてくれるので少しずつ覚えてきているけれど、それでも半分くらいは忘れている。順番が色々変わるせいだと思う。食べられるものや毒のあるものの方が覚えやすいのはやっぱり実用性があるからだろうか。


「あれ、倉が」


 夏の庭から秋の庭へと変わる屋敷の東北に当たる角に倉があった。

 街角で古い家にあるような上半分が白い壁で下半分が黒く煤けた木の壁、瓦も黒っぽい銀色のものだ。このお屋敷の建築形式から言うと比較的新しそうな感じである。多分、土蔵というやつだろう。

 2階建てらしく、上の方にある小さな窓もしたの方にある出入り口の扉も開かれていた。明るい昼間なので中はよく見えない。


「誰かいますかー? 入ってもいいですか?」


 庭と庭の境目にはふわっとした風が吹いているので、それを利用して中に風通しをしているのかもしれない。近寄ってみると、両開きになっている小さい窓も扉も分厚く作られているのがわかった。密閉性を高めるためなのか、内側にいくに連れて段々に穴の大きさが小さくなっている。黒っぽい金属で縁取りされている扉の断面は手のひらを広げたよりも厚く、ちょっと触ったくらいでは動きそうになかった。


 大きな石を切り出した土台で周囲より一段高くなっている。そこに登り、開け放たれた入り口のすぐ外に立って中を覗き込むと、ひんやりとした空気が顔に当たった。


「こんにちはー」


 扉から光が差し込んでいる四角い部分だけが眩しく光っていて、内部の様子は覗き込んでもほとんどわからない。中は板張りで、うんと磨き込まれてつるつると光っていた。じっと暗いところを見つめていると徐々に目が慣れて、物が沢山並んでいるらしいことがわかる。


 顔を戻して日向の方を向くと眩しい。東の方の庭ではセミが鳴いていて、北の方の庭では小さく鹿の鳴き声が聞こえている。

 ちょいちょい変わっているとは言っても大体の構造をわかってしまっているところばかりだ。ミコト様はこのお屋敷の中のどこを見ても良いと言っていたので、多分怒られはしないだろう。


 入り口で下駄を脱ぎながら、私は圏外だけどなんとなく習慣で持ち歩いているスマホのライトを点けた。






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