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夏の終わりの溜息の夜13

「ル、ルリ、そ、そろそろ」


 もぞもぞと動いていたミコト様が、小さな声で呟きながらほんの少し離れる。ふわっと木の匂いが2人の間を通り抜けると、ミコト様が頬を赤くしてあちこちに視線を泳がせていた。


「ミコト様、顔赤いですよ」

「そ、ルリも赤いぞ」

「暑いせいです」

「そうか。そうだな。夏だから。私も暑いからだ」


 お互いになんかモニョモニョ言いながら、再び歩き始める。木の枝に提灯がぶら下がりっぱなしなのが気になって振り向くと、そこにはもう提灯も切り株もなかった。

 程なくして黒く見える木々の間から、眩しいくらいの明かりが近付いてくる。夜店の間まで歩くと、ガヤガヤと騒がしい人混みとあちこちで聞こえる発電機、スピーカーを使ったお囃子の音が体を包むように大きくなった。


「うおッ! ミノさんいんじゃん!!」


 直ぐ側で、イカ焼きを咥えたノビくんが大げさなジェスチャーをしながら叫ぶ。

 イカ焼きの屋台でお会計をしている内に私を見失って、百田くん達に連絡しようか迷いながら周辺を探していたところらしい。ノビくんの証言と、食べているイカ焼きがまだ柔らかそうなままだったことから、私がいなくなって5分程しか経っていないということがわかった。

 神様と不思議な仲間達のお祭りにご招待されていた時には1時間くらいは経っていそうな気がしていたので、ミコト様のお屋敷の中のように現実の世界とは時間の流れが違うのかもしれない。


「てかあれじゃん? ミノさんの保護者的な? 前会ったッスよね?」

「ああ、うむ、ルリのことで心配を掛けたようですまぬ」


 ノビくんは持ち前のコミュ力で私の隣に立っているミコト様に話し掛けていた。普通に距離を詰めてきているので、うんと年上であるミコト様が逆に挙動不審になっている。帽子と髪とパーカーで傷のことを隠しているので明るい場所でよく見るとミコト様は少し怪しい格好だけれど、ノビくんは気にならないらしくニカッと笑って挨拶をしている。


「やーミノさんにストーキングとかマジ心配性とか思ってたけど、迷子放送行くべきか迷ってたんで良かったッスよー」

「す、すと……?」

「てーか、お? お?」


 非常に馴れ馴れしい言葉遣いかつ何気なく失礼なことを言っているノビくんが、私とミコト様の手が繋がっているのを見付けて変な動きをした。何となく気まずくて手を離すと、ノビくんがなんとも言えない腹立つ笑い方で首を傾げてきた。


「こーれーは? もしやミノさん? 夏のアヴァンチュール的な?」

「きもい」

「いって! 照れすぎって!」


 物凄くうざい絡み方をされたせいなので、私が正拳突きをしてしまったのはノビくんのせいだと思う。この人、こういうとこがあるから彼女と長続きしないのではないだろうか。もっと大人な対応を学んで欲しい。


「ルリ、ルリよ、拳は良くないぞ」

「ミコト様は先に帰っててください。私は友達と金魚すくいするんで」

「そ、そうか、そうだな、楽しむとよい、気をつけてな」


 ミコト様に手を振って、痛がっているノビくんを無視して歩き出す。しばらくするとみかぽんや百田くん達がこっちに手を振っていて、それに応えながらふと思い出した。


 そういえば、あの神様が言っていた「あの一緒に来てた男の子は注意したほうがいい」というのはどういうことなんだろう。

 というか、誰のことなんだろう。


 今日、一緒に来ていた皆のうち、男子は百田くんとノビくん、大沢くんの3人だ。

 注意というのがどういう注意なのかはわからないけれど、もし神様の言っていた男の子が百田くんのことであれば、何か霊感のようなものが強い百田くんが体調を崩さないようにという注意なのかもしれない。だけど、それは百田くんに対して注意をするというより、ミコト様に対して気にかけるというほうが合っているような気がする。百田くんは小学校の頃から知っているし、何か危害を加えてくるような人ではないことが確かだ。


 男女の関係という意味で一番手が早そうなのはノビくんなのは明らかなので、そういう注意であれば彼かもしれない。だけどノビくんの彼女といえばキレイ系というか常にメイクとネイルしてそうな感じというか、どう考えても私はその範囲に入っていない気がする。ノビくんは常に誰に対してもフレンドリーなだけなので、私に対してもそんなに何か思っているわけではなさそうだ。


 残る大沢くんはそもそもほとんど接点がない。今は文化祭で同じ班になっているから喋るけれど、それでも百田くんやノビくんのように無駄話をすることもないし、大沢くんは班決めのときに欠席していたのでうちの班に割り振られた経緯から考えても、百田くん達ともそれほど親しくはないようだった。注意する以前に近くに立っていることも少ない。


「ルリち、イカ焼き美味しかった? もう食べたの?」

「あ、いや、なんか子供に取られたというか」

「は? 何それのんびりしすぎじゃない?!」


 ハッキリした性格のみかぽんが怒りつつも詰め放題で取ったらしい大きなアメを分けてくれる。それを口に入れながら、こっそりと男子3人組を見る。

 誰を見ても特別注意する必要がなさそうな気がするけれど、神様がせっかく言ってくれたのだから、一応気をつけることにしよう。とりあえず、ミコト様が心配するようなことはしないようにして傷を大きくしないこと、それから、ミコト様の傷を治すことができるかもしれない薬を探すこと。それが今の最重要事項だ。

 心の中で再確認しつつ、私は金魚すくいのポイを買った。






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