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こっち向いて、神様  作者: 夏野 夜子


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夏の終わりの溜息の夜10

「ルリちゃん、本当に欲しいと思う? どんな苦労をしても、どんなことがあっても手に入れたいと思う?」


 真剣な顔をして、神様が問う。

 ミコト様の傷に効くかもしれない薬であれば、大変なことがあっても手に入れたい。そりゃもちろん命懸けとかは難しいかもしれないけど、それでも手に入れられる可能性があるのであれば動きたい。

 私も真剣な顔をして頷くと、神様は頬に手を当ててハアと溜息を吐いた。夕飯の献立に悩む主婦のように見える。


「あの、そんなに大変なんですか。その薬を手に入れるのって」

「まぁねぇ……」

「ど、どこにあるんですか?」


 何かものすごい山奥とか、崖の上とか、海の底とか言われたらどうしよう。そう思いながら訊いてみると、神様はわかんないのよとアッサリ肩を竦めた。


「……えっ?」

「千年前くらいまではね〜どこそこにあるみたいって噂が流れてきてたりしたんだけど。最近は全然聞かないのよねえ」

「えっ」

「ほら、竹取物語ってあるでしょ? あれに出てきてたやつ。メイドイン月の薬なのよ」


 アレ、マジの話だったのか。というか、あの薬残ってるのか。宇宙産の薬とかなんか効きそうな響きあるけど。


「あの、不老不死の薬とかですよね。確か富士山に捨てたとかだったんじゃ?」

「やだーそんなもったいないことするわけないでしょ。珍しいし誰かが拾って、しばらくあちこち回されてたのよ」


 万博で飾られる月の石に群がる観光客のように、ほほうこれが月の薬かと野次馬になっている神様達の姿を思い浮かべてしまった。


「私も見たことあるけど、アレがまあ月の薬かどうかはよくわかんなかったわ〜。大陸の天帝から賜った妙薬だって話もあったしねえ」

「え? 先生?」

「天帝よ、天帝。天におわす帝ってこと。中国大陸で一番強い神様ってとこかしらね」

「ああ、そういう。出処もあやふやですね……本当に薬なんでしょうか」

「それは大丈夫でしょ、見るからに効きそうなオーラ出してたし」

「オーラ」


 胡散臭い、と思っていると、神様が補足してくれた。オーラとはわかりやすく言っただけで、ご神力のようなものが出ていたのでわかったらしい。実際に傷を癒やした神もいたとかで、力のあるものが見れば価値ある薬だとすぐにわかるようなものらしい。


「そんな代物だから、あんまり噂に出てこないってことは誰かが隠し持ってるのかもしれないのよ」

「誰かが……」


 誰にも知られずに隠しているとなると、誰か他の神様の可能性が一番高い。力もあるので他者の目から隠すことも容易いということだった。事情を話してツテをあたれば見つかるかもしれないけれど、その薬を使わせてくれるかどうかはその神様によるし、断られたらまず無理になる。


 他には神には及ばないものの妖怪や狐狸の類という可能性もあって、そういった相手はミコト様のほうが地位がうんと高いので隠した本人が見つかれば使わせて貰うことが出来る。けれどもし隠した本人が死んでしまっていた場合、見つけるのがかなり難しいこともあるそうだ。


 可能性は低いけれど人間が隠しているということもあるかもしれない。最近で言うところの霊能力者や呪術者などであれば神様にも気付かれずに所持することが出来ることもある。当然相手が人間であればミコト様の力のほうが強いけれど、人間相手だと法律が出てくるのでこれまたややこしかったりするのだとか。世知辛い現代社会である。


「どの場合でも手に入れるのは簡単じゃないんですね……」

「そうねえ。人の手にあるんだったらもしかしたら海外に渡ってるかもしれないし」

「そうなると、すぐに探すことも難しいですね」

「あの薬が天帝の下さったものなら、あちらに話をしてもらえるかもしれないけど」

「中国の神様とも交流があるんですか?」

「あるある。最近は日本旅行って人気だし。爆買いツアーとかでよく来てるわよ」


 神様、爆買いするのか。日本の化粧品や家電製品がお気に召しているのだったら何よりです。


「とりあえず、どうやって探したらいいんでしょうか」

「神様関係はあたってあげるし、妖系もこの子達にとりあえずは探させてみるわ。マンション関係から人のルートも当たってみるけど、ルリちゃんも誰か心当たりのありそうな人を探してみてくれる?」

「はい。他に出来ることってありますか?」

「そうねえ、もうすぐ新学期になったら動くのも難しいでしょうしねえ、何人か知り合いのリストを作ってあげるから、とりあえずそこに行ってみるとか?」


 神様や妖怪を訪ねて行くというのは初めてなのでどうなるのか予想もつかないけれど、温厚なタイプを選んでくれると言っているので大丈夫そうだ。お礼を言うと、気にしないでと明るく微笑まれた。


「ルリちゃんがいなかったらミコト様は今でもお屋敷に引き篭もってたでしょうから。応援してるわ」

「ありがとうございます」

「ちょっと心配性なとこもあるでしょ? ルリちゃんも気を付けてあげて」

「はい」

「特に友達関係ね。ぱっと見ただけだけど、あの一緒に来てた男の子は注意したほうがいいかも」


 一緒に来てた男の子。誰のことだろうと聞き返そうとした瞬間、ミコト様の呼ぶ声が聞こえた。






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