夏の終わりの溜息の夜6
人数が多いと、色んな種類の食べ物を食べられて美味しい。12個入りのたこ焼きは女子のために半分だけ青のりナシにして、唐揚げは余ったものをじゃんけんで取り合う。カラフルな花の形をした綿あめ、色んなトッピングが選べるかき氷。夜のとろっとした空気に色んな光が混ざりあって、どんな食べ物でも美味しく感じた。
「おねーちゃん達、買ってって! じゃんけんして勝ったら1個サービスだから!」
「マジで? やるー」
あんこを平たいどら焼きの皮一枚で巻いたようなお菓子の夜店で、日焼けした金髪のあんちゃんが声を上げる。みかぽんが勝って1つをノビくんにあげて、のんさんが勝ってひとつを百田くんにあげて、そして私が負けた。
「ご、ごめん大沢くん」
「や、別に」
「大沢、俺の半分やるわ! 俺の胃がしょっぱいの食えって囁いてるからさー」
「食いかけじゃん……」
歯型の付いたものを強引に大沢くんに引き渡し、ノビくんがイカ焼きを所望する。ミノさんも食おうぜ! と誘われたので、一緒に列に並ぶことになった。他の皆は鶏皮餃子を買うかどうかで協議している。
「ミノさんさー」
「何?」
「アレ家の人じゃね? さっきからついてきてんだけど」
「あ、うん……」
子供用の浴衣を着た可愛らしい少年2人、そして甘い香りとともに妖艶な美しさを周囲に振りまいている美女2人、そして夜なのに帽子を被り熱帯夜なのにパーカー来た挙動不審の怪しい男性。
せめて隠れるとかそういう努力をもっとして欲しい。周囲の視線を引きつけまくっているので無理かもしれないけれども。
「何? ミノさん黙ってきたとか?」
「ちゃんと許可取って来たよ」
「めっちゃ心配症じゃね? ミノさん超大事にされてんじゃん」
「そのようですね……」
一応、私があっちを見るとサッと顔を隠してはいる。けれども「これ! すごく美味しいです!」「不思議な食べ物ねえ」「甘くて美味しいわね」とか普通に聞こえてきているのだ。お土産を約束した意味はなんだったんだろう。各自でぶどうアメを買えばよかったのでは。
チラチラとこっちを見ては顔を隠し、近付いてはハッと気付いて慌てて遠ざかるを繰り返しているミコト様は何がしたいのだろうか。心配してくれるのはありがたいといえばありがたいけれど、こうもしっかり付いてこられると微妙な気持ちになった。ノビくんにバレているということは百田くんも気付いているだろうし、ちょっと恥ずかしい。
「ミノさん彼ピとデートじゃなくてマジよかったねー」
「かっ……!!」
「うん。まあ彼氏とかいないけど」
「作んないの?」
「別に欲しいと思ってないし」
何か叫び声ともごもごと動いているのが視界の端で見えたけど、私は気にせずイカ焼きを注文した。小さめのイカ焼きなので、ノビくんは別に自分用のを注文している。人気なのか後ろに人も並んでいるので、じゃまにならないように夜店と夜店の隙間に入って待つことにする。
不意に、イカ焼きを持っていない手を誰かが握った。くいっと引っ張られてそっちの方を見ると、くりくりした目の男の子がじーっとこっちを見ている。鼻のあたりにそばかすが浮かんでいて、寝癖のように毛がぴょんぴょんと跳ねていた。紺色の浴衣を着ていて、短い裾から足が見えている。
「おねーさんだれ?!」
「えっ?」
こっちのセリフだと言いたいようなことをいきなり聞かれて戸惑うと、キラキラした目をしながら誰?! 誰?! と問われつつ手を引っ張られた。
「こっち! はやく!」
「いや、ちょっと待って人違いじゃ」
誰だと言われながらなので人違いも何もないかもしれないが、ノビくんを待っているのに勝手に動くのはどうかと思う。人通りが多い中でノビくんに声を掛けてみるけれど、聞こえなかったのかノビくんの返事を聞く間もないままざかざかと木の間を引っ張られて歩くことになった。
「ねー! はやく!」
「いやいや、どこ行くの?」
「おまつりはじまっちゃうー!!」
お祭りは既に始まっている、と思って振り向くと、随分と屋台の明かりが遠い。いくら神社の敷地が広いからといって、こんなに暗い場所が広がっていただろうかと首を傾げた。引っ張られるままに前を向くと、前方の方に提灯の明かりが見える。神社の道はどこも提灯で飾られていたので横道に当たったのだろうかと思って見ているとどうもおかしい。
「……いやいやいや……」
明るく揺れる提灯の他に、フラフラと揺れ動く光が見える。青かったり黄色かったりするそれは、ふわふわと空中を漂う炎のように見えた。
これってアレでは。人魂では。
「ねー! おねーさんはやく!!」
「えぇー……」
振り返ってもミコト様はいない。肝心なときに何をしているのだろうか。夜店に夢中だったらぶどうアメ投げつけてやる。




