夏の終わりの溜息の夜5
蝋梅さんに待ち合わせ場所である駅まで送ってもらうと、もう既に私以外の全員が集合していた。5分前行動が徹底しているグループだったようだ。私を見て、甚平姿のノビくんがイエス!! とガッツポーズをしている。
「さすがミノさんだわ! 俺信じてた! ありがとう!」
「何が?」
「こいつ浴衣見たかったらしーよ。マジで可哀想な頭の持ち主だわ」
「だからフラレるんだよ」
「当たりがキツい!!」
みかぽんはピンクがメインの可愛い浴衣でまとめた髪の毛も小さな蝶のピンがランダムに留めてあって可愛かった。のんさんは祭と大きく書いてあるTシャツにショートパンツ、腕にはなぜか水の入ったプラスチックの虫かごのようなものを持っている。もう一人、ゆいちは彼氏と行くらしいので一緒には行かないけれど、もしかしたら神社で会えるかもと言っていた。
対する男子は百田くんとノビくんが甚平を着ていて、大沢くんはTシャツに開襟シャツを重ね着してジーパン姿だった。ノビくんだけが既にテンションを上げきっていて、女子に無駄に絡んでは冷たい対応を取られている。
「お前、何持って来てんだ」
私のバッグを凝視している百田くんは、ミコト様お手製のお守りを見ておののいていた。何が見えているのかわからないけれど、普通に外出するときにシェルターごと移動してるような装備だぞと言われてしまう。そんなに強そうな装備なのか。さすが神様だ。
「今日はスズメも連れてないのか。危ないことするなよ。変なもんも食うなよ。とにかく危険なことに突っ込んでいくなよ」
「急に百田くんがお母さん属性に」
「あほか。お前に何かあったら恐いだろ。街を壊す気か」
ミコト様はゴジラかなにかだろうか。恥じらいながらお守りをちくちく縫うゴジラを想像すると結構可愛いような気がした。バケツプリンを喜んでいた大きな天狗に通じる何かがある。
全員で電車に乗って一駅、神社の最寄りに着くと駅のロータリーから既に提灯がぶら下げられていた。まだ空はオレンジ色のままだけれど、既に提灯の電気がついていてワクワクする。神社へ向かって人の流れが出来上がっているので、皆ではぐれないように気を付けながらその流れに乗った。
「のんさん、何で虫かご持ってるの?」
「金魚持って帰るから。昨日水汲んどいた」
「なんか本格的だね」
「弟が金魚好きでさ。うちの水槽デッカイよ?」
15センチくらいの金魚は、子供のときにここのお祭りで獲ってきたものらしい。のんさんは金魚すくいが得意らしく、毎年お祭りで持って帰って育てているそうだ。
「ルリも持って帰る? 一緒に入れてあげよっか?」
「うーん……うちは鯉いるから……」
「あー金魚があんま小さいと同居難しいかもね」
あんなにやかましく喋る鯉と一緒に育てられる金魚はちょっと可哀想な気がするし、これ以上生き物も増やすのはどうかと思う。持って帰らないけれど、のんさんの金魚すくいの手伝いをすると約束しておいた。
しばらく歩くと、大きくこんもりとした森のようなものが見えてきた。広い敷地を囲うように太い幹が生えていて、道に沿って回り込むと石で作られた大きな鳥居が現れる。
「うわー、すごい立派な神社だね。しかも綺麗。建物も新しい」
「そう? 結構古くない?」
「あっちの建物、何年か前に建て替えしてたよね」
普段良く見ていた神社がアレだっただけに感動してしまったけれど、それを差し引いても立派な神社だった。
敷地は広大で、幅広の石畳がまっすぐ本殿まで続いている。その両側に砂利が敷かれていて、賑やかに夜店が商売を始めようとしていた。御手水も屋根の付いた大きいものがあるし、敷地内に池まである。結婚式も行える大きな建物もあった。ミコト様の神社よりはどちらかと言うとお屋敷に雰囲気が似ている。
「みんなー混んでるからはぐれんなよー! 男子に抱きついててもいいんだぜ?」
「普通にスマホあるしはぐれても大丈夫でしょ」
「あそこの大きい木で待ち合わせにしよ」
「何か寒い! 俺だけ! うわバナナある! 皆バナナ食おうぜバナーナ」
「あ、私ぶどうアメ買わなきゃ」
眩しいくらいのライトを付けている夜店は、どれも美味しそうで楽しそうに見える。何を食べようかと迷いながら、私は不意に視線を感じた。




