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こっち向いて、神様  作者: 夏野 夜子


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神のイケニエ9

 暑い……なんか暑い……

 ハッと目を覚ますと、戸の隙間から明るい光が部屋に入り込んでいた。そして、私の額に何かが乗っている。

 何か熱いものが。


「暑……何、」


 手でそっと掴むと、小鳥2羽が迷惑そうに起きた。羽の生え揃っていないスズメのヒナはちーちー鳴いて、綺麗なグリーンのメジロは手の上でまた丸くなって目を瞑る。


「すずめくん! めじろくん!」


 いつの間にかお屋敷に帰ってきていた2人に頬ずりすると、お日様に干した羽毛布団の匂いがする。鳥は意外と体温が高いのだと気付いた。頬で羽のふかふかしてすべすべした感覚を楽しんでいると、几帳の向こうからミコト様が恨めしそうにこっちを見ていた。


「ミコト様! すずめくん達が帰ってきました」

「それはわかるが……ルリよ、頬ずりし過ぎではないか」

「すんごいふわふわですよ」


 温かくて小さい生き物の気配は、近くにあるだけで心が暖かくなる気がする。羨ましそうなミコト様の手に2羽を乗せると、途端に小鳥はクチバシでミコト様の頬を突き始めた。


「うっ、痛い、すまなかった」


 ちかちかと鳴いている小鳥に向かってもうせぬ、とか謝っているミコト様はちょっと面白い。鳥の鳴き声だけれどミコト様にはきちんと文句に聞こえているのだろうか。


「あらあら、羨ましいわね」

「私もルリさまに頬ずりしてほしいわ」


 ふんわりと甘い香りを漂わせた美女2人組が、開け放った戸から滑り込んできて私をサンドイッチにする。


「白梅さん、紅梅さん」

「ルリさま、元気でよかったわ」

「とても寂しかったわ」

「大変な目に遭ったわね」

「みんなで心配したわ」

「ありがとうございます。お二人も無事でよかった」


 すりすりすりすりと白いほっぺに挟まれながら労られる。

 白梅さん達は、ミコト様がお屋敷を飛び出して山の神様のところに行った後くらいに、めじろくんの指示でみんなを纏めて不穏な気配になったお屋敷から逃げ出していたらしい。神社のお社を通って最初は蝋梅さんのお家にいたけれど、良くない気が広がってきたので皆で車に乗って少し遠くまで行っていたということだった。


「車がとても狭かったから、けものの姿がある者は戻して乗せたけど、大変だったわ」

「小蛇さまもお乗せしたけれど、鯉と喧嘩してしまって」


 蛇を怖がる小動物や鳥の人達も多いので、白梅さんが片手で白蛇の首根っこを掴み、反対の手で鯉の尾を掴んで喧嘩しないようにしていたらしい。想像するととてもシュールな光景だった。中庭の方から「ル〜リィ」と鯉の呼ぶ声が聞こえてきているので、みんな無事に帰ってきているようだ。


「お屋敷に入れたってことは、もう空気も元通りになってるんですか?」

「まだ前と同じとはいかないけれど、ほとんど澄み切ったお力で満たされているわ」

「あんなに恐ろしい気が満ちていたのに、さすがルリさまね」

「いや、私じゃなくてミコト様でしょ?」


 私には澄み切った空気も良くない気配も全くわからないし、昨日はミコト様を説得したくらいしかしていない。あとは生姜焼きを焼いた程度だ。

 首を傾げると、美女コンビも同じようにコテンと首を傾けた。美人の2人がそんな仕草をすると、左右対称で対のお人形みたいな可愛らしさがある。


「ルリさまが荒御魂アラミタマをお慰めになったのでしょう?」

「ここまで宥めたのは、ルリさまがミコト様に自らをおそな」


 むぐっ。

 白梅さんの口元を塞いだのは、小さな手だった。

 いつの間にかめじろくんが子供の姿に戻っていて、目が合うとニッコリと微笑む。


「えっ」

「そろそろすずめに食事を与えなくては。さあお前達も朝餉の支度をなさい」

「今日のお味噌汁は何にしようかしら」

「サラダも作らなくちゃ」

「えっえっ」


 緑の水干姿でめじろくんはさあさあと白梅さん達を追い立て、ミコト様の手からすずめくんをそっと受け取ってにこにこと部屋の外へと歩き出す。


「えっ待って今の何? 私が何したから?」

「着替えは用意しておきましたので、あちらでお支度をなさいませ」

「めじろくん、待って。私なんかヤバイこととかしてないよね? 生贄とかじゃないよね?」


 追いかけると、めじろくんが立ち止まってくるりと振り返る。そしてふと下を向いたかと思うとふわんとスズメのヒナが男の子の姿へと変化した。ふくふくしたほっぺでニッコリ笑ったすずめくんが、私にぎゅっと抱きつく。


「ルリさま、大丈夫です! うちはそういうのじゃないんで!」

「そういうのって何? 何なの?」

「ほらすずめ、早く行こう」


 ぐりぐりとお腹の辺りに擦り寄ったすずめくんが、またヒナの姿に戻ってめじろくんに受け止められる。黄色いくちばしでねだるようにちーちー鳴くと、めじろくんがそれに頷きながらスタスタと廊下を歩いていった。

 サッと振り向くと、ミコト様がサッと視線を逸らす。

 何が。


「……何が……?」


 何が何なのかはよくわからないまま、微妙な不安を残しつつもお屋敷に日常が戻ってきたのだった。






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