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神のイケニエ7

 お屋敷に帰ってきたからか、それともお風呂で汚れを落としたからか、ミコト様はぼんやりすることなく普通の態度に戻った。着替えが恥ずかしいという理性も取り戻したようで、タオルを被ったミコト様を置いて私は先に脱衣所を出る。

 ミコト様の腰に付いていた鞘を刀と一緒にしておこうと小部屋に入ると、押し入れの中の箪笥に入れていた筈の刀がそこに横たわっていた。


「マジで動いてるし……はい、これに入っててね。うわあぶなっ!」


 刀の先を鞘に入れようとすると、ガタガタッ! と刀が暴れる。


「危ないんですけど刃物動くとか! あ、これ反対なのか」


 ガチャガチャ動こうとする刀と格闘していると、下に私と似たようなスウェットを履いて上にバスタオルを被ったミコト様がやってくる。


「これ、大人しくせぬか……すまぬルリ、私がやろう」


 刀を鞘に入れるのはちょっとコツがあるらしく、ミコト様が鞘の上の方を左手で握り、右手で柄を持ってスラッと刀を動かして侍のように刀を仕舞う。カチッと音が鳴ってしまったとき、思わずおお、と声を上げてしまった。


「今の動きかっこいいですね!」

「そそ、そうか? ルリもやってみるか?」

「何かその刀危ないんでいいです」


 断ると刀がガチャガチャ言っている。侍ごっこには憧れるけど、やるなら普通の刀がいい。

 きちんとしまっておくようにミコト様にお願いして、薬箱を探し出す。


「薬、足りるかな」

「塗らずとも良いが……」

「ハイハイ」


 広範囲に渡っている傷は、しっかり塗ると服に染み込みそうだ。大きな薬壺を見つけたついでに白いサラシも見つかったので、傷の大きさに切ったそれを薬を塗って貼り付けるようにして更にその上からサラシを巻いていく。


「お腹に包帯してるとヤクザみたいですね」

「や……やくざものとは……」

「腕上げてください」


 痛くないか聞きながら薬を貼り付けて、大人しくしているミコト様の胴体に腕を回して巻きつける。そのときに両手をミコト様を抱き込むように回して巻くと少し気恥ずかしかったけれど、ミコト様の方が顔を赤くして目を瞑っていたのであんまり動揺せずにすんで良かった。

 肩から腕にかけては細い包帯でぐるぐる巻きにして、顔にはいつも通りに手当する。ミコト様が恥ずかしそうにもじもじしていたので、ゴッホのひまわりをモチーフにした仮面をそっと付けてあげた。よし。


「ごはん作りましょう。お腹空いたし」

「うむ」

「しょぼいものしか出なくても文句言わないでくださいね」

「い、言わぬ!」


 このお屋敷は昔ながらのかまどがあるところと、家電が置いてある部屋が並んでいるのだ。大きな冷蔵庫を物色すると、冷凍室にお惣菜や下準備をしたお肉が並んでいた。デザートにするつもりだったのか、冷蔵のところにはレアチーズケーキも入っている。

 さすが。これで私とミコト様という家事低レベルの2人だけでも貧しい食事にならなくてすんだ。


 ごはんを炊いて、その間にキャベツを刻む。善くない気とやらに曝されてた野菜だけど大丈夫だろうかと思いつつシャキシャキしているので気にしないことにした。水出しで作られていた出汁でお味噌汁を作って、具はダイコンと油揚げにする。小松菜のおひたしは下茹でして切って冷凍しているのをお皿に乗せてチンして醤油とかつお節を乗せ、ごはんが炊き上がる直前に保存袋から解凍した豚肉とタマネギを焼いていく。

 ミコト様もお腹が空いてきたのか、ニコニコしてお箸を用意したり、ごはんをよそったりと手伝ってくれた。


「紅梅さん味付けの生姜焼き大好き。いただきまーす」

「うむ。頂こう」


 お味噌汁は半透明になった短冊切りのダイコンが美味しい。タマネギで柔らかくなった豚肉も食べやすく、野菜と交互に食べるといくらでも入りそうだった。ごはんも上手に炊けて、出来立てのほかほかにお箸が進む。


「美味い。ルリは料理がとても上手だな」

「これ準備したの、白梅さんと紅梅さんですよ」

「それでも仕上がりがよい。生姜焼きの焼き目も綺麗についている」


 ミコト様が褒め上手なので、ごはんのおかわりも盛り付けてあげた。少し恥ずかしそうにしていたけれど、いつもめじろくんがお膳のお世話をしているので多分一人でおかわりとかはしたことがないのだろう。お味噌汁もおかわりするか訊くと頷いたので、きちんと美味しいと思ってくれているようでほっとする。

 デザートのレアチーズケーキは、他の人がいないのをいいことに大きめにカットして食べることにした。手作りアイスも見つけたので、夜にでも食べることにする。


「こうしてると私達、あれみたいですね」

「なっ!! そ、な、わ、私もそう思っていたが……!」

「やっぱりそうですよね。完全にお留守番の子供みたい」


 静かなお屋敷の中で、ちょっぴり寂しいけれどどこかのびのびした時間が流れている。一人っ子だったので、兄弟がいる状況を体験しているみたいで少しワクワクしてしまった。






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