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御姉妹  作者: セキド ワク
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七話  ぱーりぃぴぃぽー 後編



 小っちゃい。それが和頼の第一印象だ。

 プールの長さは、二十五メートルあるかどうかで、幅は通常のプールより一コース少ない感じ。船からの想像とは、大分違った。それより何より、スワンボートが異様に小さい。大人一人乗り、もしくは子供の二人乗り。

 屋根も低く、白鳥というよりアヒル。


「わ~可愛い。早く乗ろうよ」

「美輪様、あちら側には手漕ぎボートも有りますので」

 確かに手漕ぎだし木製ではある、けれどゴムボートの延長程度、あまりのちゃちさに唖然としていた。


「アレ、私がお願いしたヤツでしょ」なずほがいう。

「それはもう。御嬢様方の為なら」永友が深くお辞儀する。

 和頼は何気なく「選んだの?」と子供達に聞くと「うん。パンフレットで」と返ってきた。


「あんな小さなサイズでイイの?」

「もっと小さいのが良かったンだけど、それじゃパパと乗れないかもって」

 和頼は、目の前に浮かぶソレでも乗れないかもと頭を掻く。


「早く乗ろうよ」手を引くまやか。

 仕方なく小さなスワンに乗り込む。いざ乗り込んでみると乗れないこともない。しかし、それはあくまで自分一人ならだ。

 まやかが乗ってきた瞬間、その狭さに大変な騒ぎ。


「わぁ。ひひっ。凄い揺れる。パパの間に座るぅ」

 狭い空間で右へ左へ動き、和頼の股の間にすっぽりと入った。

「パパが漕いで。まやかが運転するからさ。しっかり掴まててよ」


 子供が足の間にいるから凄く漕ぎづらそうで、出発してすぐ、水の抵抗力に足が悲鳴を上げていく。それでもまやかは絶好調だ。

 二分ほどで他の姉妹達が戻ってこいと騒ぎだした、が、気にすることなくまやかはプールを浮遊する。

 狭い空間にも慣れてきて、背凭れに寄りかかりながら足を投げ出す和頼。

 乗ってから五分ほど経つと、プールサイドを子供達が追いかけてきて、まやかに「これ以上ダメ」と最終警告してきた。仕方なく端に寄せるまやか。


 次に乗り込んだのは、れせ。

「五分だからね」

「え~、まやかは五分三十秒くらいだったジャン。ウチにもちゃんとしてよ」

「分かった、ゴーサンでイイよ」

 れせも和頼の間にすっぽりと入る。笑顔でキャッキャッとはしゃぐ。


「どう、上手でしょ?」

「ああ、凄く上手いよ。船長みたいだ」

 プールの中を行ったり来たり。そして五分半程で、またも子供達がプールサイドを追いかけてくる。

「ずるいよれせ」

「違うよ。今戻ってるジャン」

「戻んなくていいから一番近いトコに着ければいいでしょ。あ~もぅ」

 なんだかんだで下りたのは約六分。


 次に乗ってきたのはもえみだ。

「言っておくけど、私は六分乗るよ。ズルした方が悪いンだからね」

「はぁ、ちょっと待ってよ。それじゃ私は? 私五分しか乗ってないよ」まやかが腕組みしていう。

「アンタが一番ズルしようとしてたでしょ。それに五分半じゃない」


 もえみも間に潜り込みハンドルを握る。凄く楽しそうにはしゃいでいる。

 大人になるとこういうことではしゃげなくなるよなと思いながら、和頼もスワンを楽しんでいた。


「もえみ~。もう六分だよ。早く戻ってよ~」

 時間が少しずつ伸びていく。約束が少し破られていく。

 皆、ギリギリまで乗っていたいのだ。

 和頼はそういうすべてが可愛くて愛おしい。子供達と同じように、和頼も本気で楽しんでいた。だが足はとっくに限界を知らせている。もえみが降りた時点で既に合計十七分漕ぎ続けている。


「やった~。パパ出発~」

 次はゆりなだ。ゆりなは運転よりも和頼に寄りかかり甘えている。おかげで和頼もあまり急いで漕がずに済む。

「ほら、ゆりな、前見て、ぶつかっちゃうよ」

「ホントだ~。ぶつかっちゃうね。へへぇ」

 ゆりなが運転しないから、和頼が手を伸ばす。しかしギリギリでハンドルを切っても車の様には小回りが利かず、軽くヘリにぶつかり擦る。その瞬間、もしかしたらこのスワンを弁償で買い取ることになるかもとゾッとする。更に、プールの方に傷が付いてこの客船ごと買い取ってと言われたら困るなとニヤついていた。


 ゆりなの甘えが和頼を優しく穏やかにしていく。可愛くてしょうがない。

「ゆりな! いつまで乗ってるの、もう七分になるよ」

「私じゃないもん。今、パパが運転してるから、パパだよ」

 急に自分のせいにされてビックリする和頼。慌てて端へと戻る。


「ごめんごめん。時間分からなかった」

「パパ。悪いのはゆりなだから」皆がいう。


 次に乗り込んだのはなずほだ。乗り込む時にちらりと周りを見ると、色んな人がこの光景を見ていた。いつから見られていたかは全く分からないが、至る所に人が居る。


「パパ~。今日はおはぎもバニラアイスも食べれて良かったね」

「ああ。美味しかったな」

 なずほは凄く話したがりで、色んなことをいう。もちろん子供は皆聞いて聞いてというスタンスだが、なずほは少しだけお姉さんぶる。誕生日は一番後なのに。


「ねぇ、パパ。お家帰ったらさ、たまにはあの曲聴かせて。私、凄く大好きなの」

「そうだな。恵さんや茜さんにもたまに言われるよ。もう弾かないのって」

 八分手前で端へと戻った。


「長くない? なんか最初に乗った方が損ってこと? アタシもう一回乗りたい」

 まやかが少しふて腐れている。その横をすり抜け、みよが乗り込む。

「さて、私も運転はいいや、パパが運転して」

 そう言って和頼に抱き付いてきた。


「パパ、漕ぐの疲れたでしょ? みよが漕ぐから、足外して休んでていいよ」

「ホントか、助かる~」

 みよはすぐ和頼を心配する。そして和頼の為にお手伝いをしたがったり、時には、ダンスホールでの時みたく他人に食って掛かる。姉妹を言いまとめるのも基本はみよ、皆もそのことはよく分かっている。


「重いねこれ。パパ足疲れたでしょ~。部屋に戻ったらみよがマッサージしてあげよっか」

「みよの方が疲れちゃうンじゃないか? 無理しないでいいぞ」

「大丈夫。どう? 速いでしょ」

「ああ。俺より全然速い」

 八分程度で端へと戻った。


 皆もっと乗りたがっているが、パパの足が疲れてるとみよがいうので皆もグッと堪える。実際に漕いだみよは相当オーバーに言う、が、実際、和頼の足は本当にパンパンに張っている。


 和頼は、どれほど大勢の者が見に来ていたかを、スワンから下りてようやく認識した。録画用カメラも、口論中の親達も移動してきている。

 我が子の姿がダンスホールから居なくなってて、心配になって探しにきたのかも知れない。

 そして、まだ揉め続けていた。



「まだ乗りたかったら、いいよ。ここで見ていてあげる」和頼の言葉に、もういいという。

 一人で乗ることで、せっかくパパと乗った感覚が薄れたら嫌だからと。

 それにしても、わざわざ付いて来た他の子供達も誰も乗っていない。

 スワンの数は全部で六つあり充分。つまり、美輪家が楽しんでいる所を邪魔してはいけないと気を遣ったのだろう。元々これを言いだしたのも娘達だし、乗りづらいのかも。


「皆も乗りたかったらどうぞ。スワンなら危なくないと思うよ。ただ、あっちの手漕ぎボートはやめた方がいいかな。おっこっちゃうと、ね、水着じゃないし」

 和頼の言葉に大護や他の子達が親達を見る。和頼はその目を見て、もしかしたらこの子達は親と乗りたいのではと思った。

 しかし、相変わらず親達は口論している、とても仲良く乗れる雰囲気ではない。先程マネージャーが言っていたように、それぞれの不平不満が溢れている。


 和頼は面倒だし放っといて部屋に戻ってしまおうかと考える。そうすれば子供達とおしゃべりできるし、子供達もその方が喜ぶ。もちろん自分もそうしたい。

「あの、そろそろ部屋に戻ろうと思うのですが……、イイですかね?」

 近くに居た永友にそういうと、主に聞いてくると急いで報告に向かう。その時点で二択だ。当然いいですよという自然な返答と、もう一つは、なんて理由かは分からないが、ゴタゴタに巻き込まれるタイプのものだ。


 急いで戻ってくる永友。だがその後ろを喜多河夫婦も来る。更に他の家族も。

 どっちだ? 今日は本当にありがとうございました的な、お開きの挨拶か?


「美輪様。もう少しだけここに留まって頂きたいとのことで、お願いできますか? なんか他のお客様との話が付かないようで……」

 つくか! そんなの何年経っても無理だろと和頼は呆れていた。

 それに、何故自分達家族が巻き込まれなければいけないのだと、本当に嫌気がさしている。例え、直接子供達が巻き込まれていなくても、こういうゴタゴタ自体、同じこと、何よりも楽しくない。


「すみません美輪さん。美輪さんにどうしろという訳ではないのですけど。御嬢さん達もごめんね。少しだけお父さん借りてもいいかな?」

 その言葉にみよが一歩踏み出した。


「大護のお父さん。パパは貸せません。自分のケンカは自分で」

 みよの言葉に和頼の心が揺さぶられた。

 これは自分にとっても絡み付いた(いばら)であり、自分がしっかりと決着を付けないから余計ややこしいことになっていると。元々、車を強引に停車させられたことが始まりで、そういうカタをしっかり付けないからいけないのかもと。


「みよ、それとまやかもゆりなも、なずほももえみもれせも、ちょっと待ててな。少しだけ話をするから。これは、ちゃんと話つけた方がいいことかも知れない」

 和頼の言葉に、熱くなった親達の背筋に冷や汗が湧く。怒らせてしまったのかと顔色を(うかが)い始めた。


「みなさん。何が気に食わないかは分かりませんし、一個ずつ聞く気はない。でも、散々話してここまでこじれてるなら答えは簡単です。何かしらで勝負するしかないですね。運よくここにはスワンが六つあります。それ使って勝負するしかないでしょう」


 周りにいる者達が、盛り上がる意味でのざわつきを見せる。他人のゴタゴタはそれなりに面白いが、ダラダラとしつこいだけのモノはただウザイだけ。周りで黙認していた者達も、いい加減うんざりとしていた頃だ。


「どうです? お互い言い分はあると思いますが、このレースで勝った者が正しいでは。勝者が敗者を言いくるめるのは権力の証ですし、言い訳なしで勝負しては。これを逃げるのであれば、それでも構いませんけど、ここで逃げるような者と話して話をまとめられるとは思えないので、俺は部屋に戻りますけど。どうします?」


 和頼が激怒して何かしらの制裁が下るのでは、という不安は消え、皆がホッとしていた。和頼は実際、子供に怪我や酷い仕打ちでもさせられない限りそんなことは絶対にありえない。

 ただ、そのように感じるという者は、自分がそうする人であり、そういう考え方なのだ。


 美輪家がスワンで仲良く遊ぶ間も、張り詰めた不平不満を吐き散らし、自分の我とプライドを通す為に(えい)(えん)争っていたわけだ。ことが長引けばわだかまりも増え、きっと裏で策を(ろう)したり制裁もするだろう。そういう者達だ。


「いいでしょう。私は美輪さんの案で問題ない」

「こっちだって異論はない。受けましょうこの勝負」

「喜多河さんはどうです? 私らから逃げますか?」

「いや。私も皆さんがお受けするのであれば、何も言うことはない。ええ、当然、やりましょう」

 ここでいがみ合う者達が皆、承諾した。


 全部で九家族。一度にレースできるのは六つ。

 美輪家の娘の数と同じだけ、スワンを用意してくれたのだろう。


「それじゃ、まず、一人ずつ自己紹介した方がいいですね。みなさん周りで見ていますし、誰がどのスワンで勝ったか分からないのでは意味ないので。それと、無茶をしないように、お子さんと一緒に乗り込んだ方がイイですね」

 和頼はそういうと、女の子の親御さんはレースを辞退することを勧めた。和頼の言葉にそれら家族がとりあえず身を引いた。すると丁度六家族が残った。


 家族単位で並ぶそれを見て和頼が言う。

「そうだな~。リレー方式だな。最初に執事と子供が乗って、向こう側で父親と入れ替わり、ターンしてスタート位置に戻ってゴールだな」

 和頼の説明をネット放送のカメラがアップで捉える。親達も真剣に聞いている。


「執事も参加?」

「その方が、人の入れ替わりの時間も勝負になるし、色々な要素がある方が勝負として面白い。後、一人での往復は疲れでノロくなるしダルイ。こういう勝負はパッパッと速攻で決めた方が、見る方もやる方も勝負としてスカッとするはず」


 カメラが家族の顔を撮影していく。

 第一スワン。喜多河大護。父、裕次郎。執事、永友総助。ちなみに母は志保。

 第二スワン。(かな)(えだ)(たか)(むね)。父、(なお)(ふみ)。執事、長谷部(はせべ)(てつ)。母、沙織。

 第三スワン。成見直哉。父、義政。執事、守泉(もりいずみ)仁史(ひとし)。母、優子。

 第四スワン。財前(ざいぜん)(まさ)(ゆき)。父、(やす)(はる)。執事、()(むら)(みのる)。母、真紀。

 第五スワン。富蔵(とみくら)(みつ)(のり)。父、謙司(けんじ)。執事、周防(すおう)武昭(たけあき)。母、弘美。

 第六スワン。幸坂(こうさか)(とも)(てる)。父、(あきら)。執事、鳥島正造。母、景子。

 以上が参加する男子学友の家族達だ。


 ちなみに辞退した女子三家族は、吉形(よしがた)綾音(あやね)。父、秀行。母、美絵。それと豊増(とよます)奈緒。父、(けん)(すけ)。母、遙香。最後に柴宮(しばみや)優美(ゆみ)。父、誠。母、真純。である。


 これら家族が、先程からいがみ合っている面々だ。

 一年生の頃からずっと同じ学園で、顔ぶれもたぶん変わっていないはず、だが、和頼は誰一人知らない。誰ともきちんとした関係を築いていない。


 中学に上がると、クラス替えの無い特別クラスというのが設けられていて、そこでは勉強よりもひたすら子供同士が仲良くし、イイ交友関係を結ぶという制度があるらしく、それは、将来会社を継ぐことが決まっている者同士が、この社会でいがみ合わないように、そして助け合うようにという趣旨らしい。

 先生からのそんな説明を受けたことがあった和頼は、その(わずら)わしさから、普通のクラスでイイという書類にサインした記憶が微かにある。

 まだ先の話だが、その特別クラスになると高校を卒業するまで一つのクラスだ。


「いいですか。ちなみにハンドルは子供に任せて下さい。大人は足で漕ぐだけ。それと永友さん。あそこに浮いている手漕ぎボートを皆で話し合って、障害物としてプールに散りばめて下さい。レースはなるべく、ソレに当たらないように注意して進める」

「はい。(かしこ)まりました。ただ今」

 永友は主やゲーム参加者にアンケートし障害物の配置を決める。


「こりゃ~グレード高ぇな」奏枝孝宗がいう。

「ばか、楽勝だよ。はっきり言ってウチが勝つよ。ねぇ父様」光徳。

「そうだな。もちろんウチが勝つ」富蔵親子が勝利宣言する。

「ははっ。よく言うよ。若さから見ても断トツこっち」幸坂親子が余裕をみせた。


 喜多河家のスタッフがプールへと入り、更に細かく船を移動する。すると、成見直哉の父、義政が「スタッフが船を押さえて固定したら」と提案してきた。それを「そこまで固定すると危ないのでは」と財前雅幸の父、康治が拒む。

 とにかく意見の合わない者達だ。企業のトップだけあって凄く我が強く、誰一人弱気な者がいない。必ず自分が勝つと信じてやまない。


 そんな者達をよそに、執事達が凄く不安そうにしている。和頼にはそれが堪らなく面白いようだ。用意する永友も緊張を隠せない。和頼も興奮を隠せない。

 そして和頼はその興奮を子供達にも分けてあげたくて、ある提案をする。


「なぁ、ちょっといいか?」

「な~にパパ」

「どうせこの後部屋に戻ったらさ、ベッドのどこで寝るか言い合いになるだろ? そこで提案なんだけど、あのスワンから一つずつ選んでさ、一位になった順番から選んでいくのはどうだ? 面白くないか?」

「いいよ。それ乗った。どうせいつもまやかとみよがいいトコ取るし、こっちの方がおもしろそう」

「そうね、ウチも賛成」

 子供全員一致で合意した。そして誰を選ぶか悩む。

 みよともえみが軽くかぶったが、後は全部バラバラに決まった。


 かぶった二人があっち向いてホイをし、みよが勝った。

「それじゃ私は幸坂~」一番若い父親だ。

 だが、子供達は執事の年齢をまったく考慮していない、それが可笑しくて仕様がない和頼は、可愛い子供達の頭を撫でる。それを気持ちよさそうに味わう子供達。


「大護~。私は喜多河家を応援してるからね」もえみだ。

「私は孝宗(たかむね)()しだよ~。絶対負けないで~」れせ。

「成見君。勝っちゃっていいよ。一組の意地みせてやって」同じクラスのなずほ。

「光徳~。誰が最強なのかそろそろ教えてあげなよ」まやかが()きつける。

「財前君。格の違いを分からせるいいチャンスだよ」ゆりな。

「あなた達バカね~。見てよ幸坂君のお父さん。智輝君~、学備学園の頂点が幸坂家だって知らない人が居るから、今ここで証明してあげて。選ばれし者がどういうものか」みよ。


 子供達の台詞に、参加者だけじゃなく、見ているあちらこちらで声援が上がる。その声に更に参加者の気持ちが(たかぶ)る。


「おおぉ。絶対勝つ。財前家の誇りにかけて、うちがどれほどの家か見せてやる」

「何をおっしゃる。奏枝家がなぜここまで伸し上れたか、教えましょう」

「冗談はダジャレだけにしときな。今日は一日中イラついてたんだよ、アンタらには。幸坂家を新参扱いした言葉は、この勝負の後で撤回させてやるからな」

「アンタ達は所詮、口だけだよ。成見家は甘くない、シャレ抜きで勝ちにいく」

 親達も皆、とんでもないテンションだ。

 室内プールだからエコーもかかり、自分で自分の台詞に舞い上がって、更にブチ切れてく。それを、放送部のカメラが、二台で捉える。


「パパ、これ、凄い白熱ぶりだね。どうしちゃったのかな? マズイかなぁ?」

 少し悪乗りし過ぎたかなと不安がる子供達の頭を、大丈夫だよ、という意味で撫でる和頼。元々子供が焚きつけなくとも、約半日いがみ合っていた者同士、理由があればこうなるのは必然。

 ただちょっと着火しただけさと、和頼は自分にも言い聞かす。


「それではそろそろよろしいでしょうか?」

 喜多河家の用意した司会者が審判を務め、戸惑いながら参加者に声をかける。

「まだ、準備運動が終わってないでしょうが。見れば分かるだろ?」

 やる気満々のレスラーのよう。とてもこの後、アヒルの様なスワンに乗り込むとは思えない。

 男の子達同士もギラギラした目で意識し合う。元々こちらにも因縁がある。

 参加を辞退した女子の父親も、この戦いに血が騒いでいる。

 自分のフラストレーションもこのレースで晴らしたいといった表情だ。何より、先程までの遠慮がちな会話ではなく、これだけの来客者の前で、いや、妻や娘の前で決め台詞を吐いてみたいのだ。



 ついに子供達がスワンに乗り込む。意気込みとは別に、スワンは可愛らしい。


 執事達が各スワンの元へと歩く。永友。長谷部。守泉。保村。周防。鳥島。

 あまりの緊張に手と足が同時に出ている者やロボットのようにカクカクとしている者がいる。ネット放送のカメラが表情まで映す。

 各スワンに乗り込む執事。プールの向こう側では、父親達が血走った目でスワンを待つ。そのすべてをカメラが追う。


 レースが始まれば一瞬で決着が着く。二十五メートルの往復で終わる。長くても一分ちょっとだ。

 各家庭の母親達は、レースに出ず応援。

 参加者だけでなく見ている者達にも緊張が走る。


 六スワン全てが準備を終え、スタートを待つ。

「それでは宜しいでしょうか? では、これより、喜多河家。奏枝家。成見家。財前家。富蔵家。幸坂家によるスワン障害物レースを行います」

 来客者達が湧く。カメラがそれらをゆっくりと撮る。


「レディ~……スタート!」


 物凄い音を立て各スワン一斉にスタートする。

 本来、船というのは徐々に加速した方が効率いいし、足のスタミナ的にもそうするべきなのだが、家を取り仕切る総支配人である執事達にとって、主の()(しん)とプライドのかかったこのレースでは、例え足が千切れても手や歯を使い、その身が壊れようとも、必ず一番で主に渡し、幼き頃からお世話してきた坊ちゃん共々勝利へ導きたいと奮闘している。


 最初こそ並んでいたスワンだが、すぐに差が出始めた。それは各自が進むことで起こる波が原因の一つかもしれない。

 執事の脚力がポイントかと思いきや、ハンドル操作を任された子供達の方が遥かに重要だったのだ。分かり易く言えば、同じエンジンを積んだスワンでも差が出るということだ。


 波立つ水面にハンドルを取られ、揺れる度にブレーキと進行進路のロスとなる。一番遅れているスワンなど、進行方向に対し真横を向いてしまっていた。

 他のものも、斜めになるスワンを必死にハンドリングで立て直そうともがく。


 障害物のボートのせいで、また一段と難しさが増していた。

 見ている者がギャーギャーと騒ぐ。和頼も子供達も思っていた以上に楽しんで見ていた。

 順番を待つ父親達は、子供と執事の頑張りに我を忘れて叫んでいる。


 一番にターンポイントに着いたのは、富蔵家のスワンだった。

「良くやった周防。後は任せろ」そういうと父、謙司がスワンに乗り込む。

 息子の光徳を股の間に挟みゴールへと折り返す。ついでポイントに着いたのは財前家。

「お父様早く。まだ追いつけるよ」雅幸が父、康治へと笑顔を見せる。

「よし、ぶち抜くか!」

 執事の保村がプールサイドでお辞儀して見送る中、雅幸と康治親子が追撃を開始する。次にポイントに着いたのは成見家と喜多河家で、ほぼ同時だった。しかし、執事と父親との乗り降りの差で、喜多河家が少しだけ早くスタートをきった。

「おし、追い込むゾ大護。しっかりと運転しろよ」

「了解、お父様」

 喜多河家のスワンが猛スピードで追いかける。その後を成見家が追う。次にポイントに着いたのが幸坂家。少し遅れて奏枝家だ。これで全てが折り返した。


 みよは幸坂家の順位に、ようやく執事の重要性を思い知らされていた。子供達は和頼の服をギュッと掴みながら、レース展開を飛び跳ねて見ている。

「いけぇ喜多河家スワン」

「そのまま逃げ切れ富蔵家スワン」

「抜かせ財前家スワン」

 観客たちが口々に各スワンを応援する。そんな中、後方から猛スピードで迫りくる幸坂家のスワン。その光景に皆がどよめく。


「行くぞ智輝。ゴボウ抜きだ」スワンの中で一番若い父、晃が、息子、智輝の頭を撫でながら、物凄い速さでスワンを漕ぐ。


「うあぁ~い。頑張れ~。全部抜いちゃえ~」みよが大興奮だ。

 前を行くスワンが後ろから迫りくるその気配を感じ必死に漕ぐ。逃げる。しかし、行く手を障害物のボートが塞ぐ。波がボートの角度を変える。

 圧倒的な推進力で進む幸坂家のスワンは、他よりはラインキープ出来ている。それでも障害物には苦戦し、父、晃が息子の智輝へ指示を出す。


 親がハンドルを握るのは反則だ。出せるのは手でなく指示だけ。

 各スワンから進路指示が聞こえる。そのおかげで見ている者は、各スワンのしようとしていることがはっきり見て取れた。

 仕事を終えた執事達も、プールサイドを追いながら祈りを捧げている。


 そしてようやくこのレースに決着が着いた。なんと、ターン時点ではビリから二番目であった幸坂家が、ギリギリで抜いたのだ。その差はサッカーボール一、二個といったところ。二位が富蔵家。三位が同着で財前家と喜多河家。四位が成見家。ビリが奏枝家という結果となった。


 ボロボロの足で子供と執事に支えられてプールサイドへ戻る。喜びを前面に押し出す幸坂家。もう少しで逃げ切れたはずの富蔵家は、物凄く悔しそうだ。

 他も皆、落胆している。


「こんな事なら何か、商品でもかければ良かったかな~」

 幸坂家の勝ち誇った態度に、参加した皆が悔しさを隠せない。見聞きした感じでは、一番の若造といった扱いを受けていたと察すれた。


「ほら、皆さん。勝負の勝者にはそれなりの言葉と態度を。囲碁や将棋ならなんて言いますか? どうぞ」

「くぅう。仕方ない。……参りました」

「はい、お次は」

「参りました。」

 敗者全員が幸坂家に礼儀正しく降参を告げた。この時の智輝とその父、晃と母の景子、そして執事の鳥島の優越感に浸りきった顔は、本当にご満悦としか言えないものだった。


 金持ち喧嘩せずとはどういった意味のことか分からないが、仕事でもプライベートでも、人の上に立つ喜びを知った者達には、しっかりとしたルール下で白黒はっきりつけないと収まらないこともあるということだ。しかし――。

「今回のレースはこういう結果に終わったが、これはあくまで今日一日のいざこざの話であって、全てではない。このリベンジは……必ず、必ずお返しします。みなさん、首を洗って待っていて下さいよ」財前家の父、康治がいう。

「そうですね。これで全てが終わっては話にならん。やるのなら日を改めて、もう少し競技も吟味して頂いて、そこで再び勝負としましょうか」富蔵家の父、謙司もいう。

「いいでしょう」喜多河家、裕次郎。

「受けましょう、その勝負」成見家、義政。

 他の家も受けることとなった。当然、幸坂家もリベンジを楽しみにしていると王者の目線で言い放つ。更に、今回は娘の為に辞退してくれた、吉形家も豊増家も柴宮家も参戦したいと名乗りを上げた。


「美輪家はどうします?」

「ウチですか? もちろん出ませんよ。今あるイベント事で手一杯なので、とても他に手が回りませんから。それにウチは皆さんより低い位置でイイですし。学校の事でも――」

 和頼が何を言おうが、実際、ここに居る者達と何の勝負をしようが現実の世界の何も変わらないし揺るがない。

 美輪家が、小、中、高、大学へと毎年寄付をする額はとてつもなく。溢れる財産も世界レベル。美輪家がヘタに加われば趣旨が変わってしまう。こういうレースや勝負事は、ある程度どんぐりの背比べでないと話にならない。

 つまり無差別級ではなく、ウェートを合わせる。

 今日したレースに市民が加わってもシラケるのと同じで、本気で負けたくない者同士が競わなければ意味がない。

 負けても構わないと感じている美輪家は邪魔なだけ。


「そうですか。まあ、そうでしょうね」何となく皆も納得する。

 ここに居る者達も、一億程度の賞金額では動かない。そんなはした金で大切なプライドをかける訳がない。日々いくらの仕事をこなし、どれほどの利益を上げている者達かで考えれば当然そうなる。和頼が前に開いた賞金額一千万弱の大会で大恥をかくこともない。

 和頼もまた、この者達とハナから本気で競い合う闘争心がない。子供達の何かが関係していれば話が変わるかも知れないが……。



 カメラが勝者の幸坂家を撮りながらインタビューをする。それを周りで悔しそうに見ている親子。子供達にもこのレースは相当響いている。

 お金持ちの家に生まれた宿命とでもいうべきか、このレースから次なるバトルが生まれたことはまず間違いない。


「それではウチはそろそろ部屋に戻りますので」

 和頼は子供達とじゃれながら部屋へと戻っていった。

 部屋へと着くとくつろぐ間もなくお風呂の支度を始める。空っぽの大きな湯船にお湯を入れ、その間に部屋で寝る為の準備をする。


「ほら、今日はどうやって寝るンだ。位置はどこか決めたのか?」

「あたしはパパのこっち側~」

「ズルいよみよ。またすぐそこ取って」

「何言ってるの? 今日はレースの結果でしょ? 私の選んだスワンが一着だよ」

 皆がそっかと悔しそうにしている。


「んじゃさ、二位を選んだ私はこっち」まやかが反対側を選ぶ。

「それじゃ三位の私は~」

「ちょっと待ってよゆりな。私だって三位だったでしょ」

 同着だったもえみがいう。


 なんだか雲行きが怪しい。いつものように大ゲンカが始まりそうだ。段々と言い合いが始まった。これもいつものパターンだ。


「パパ。今日もお願い。もぅ頭来た。ボッコボコにしてやる」

「望むとこよ。こっちこそ知らないからね」

 そういうと、美輪家流、エアーケンカが始まった。

 これは、お互い距離を置き、相手目がけて自分が思い描く最もカッコイイ技で攻撃し、相手を離れた所からイメージ攻撃するのだ。相手はそれをイメージで避けながら順番を待つ。攻撃は一回交替。それを和頼がしっかりと見て、どっちがよりカッコ良くそしてダメージを与える攻撃をしたであろうかをジャッチするのだ。


 もし、美輪家以外の他人が見たら、子供の動きをバカにするかもしれない、が、和頼にとっては世界一可愛いケンカなのだ。


 皆の色々な想いが動きで分かる。みよはこんなポーズがカッコイイと思っているのかとか、まやかは連続で繰り出すパンチが強いと思っているなとか、れせの回転してのキック、更に蹴り上げるキックに足払いからの踏みつけ。

 姉妹皆が沢山の技を持っている。一人あたり大体十個。

 長い間に、必殺技が増えていく。


 しかし、パンチの出し方も猿手気味で威力もなく。キックも膝が少し曲がっていたり、子供独特のものだ。強さとはほど遠い。でもそれが和頼には可愛い。

 必死に避けたり攻撃し合う。離れた相手を本当に攻撃している設定で頑張る。


 六人の同時バトルが特に見栄えがいい。三人ずつの攻防で、誰が誰に攻撃してもいい。ただ、攻撃は三人ずつ同時。それが終われば三人同時防御。誰から来るか分からない。時には二人から狙われることもある。それを必死に避けたフリするとこは圧巻だ。そういった全てのやり取りが、攻撃にしろ防御にしろ可愛いのだ。


 抱きしめたくなるのを我慢して、その動きをジャッチしている。

「はぁはぁはぁ、どうパパ。どっちが勝ち」

「ゆりなだね。次がなずほ、そんでもえみでれせかな」

 和頼が言う前から本人達は何となく勝敗順を知っている。やっている本人が一番分かっている。だから今まで物言(ものい)いが付いたことはない。

 子供達も和頼がちゃんと見て、ひいきやインチキなしでジャッジしてくれているのが嬉しいのだ。自分達の全ての攻撃や防御、気持ちの面まですべて見てくれているようで、子供達もこのエアーケンカが大好きだ。

 何より痛くないし。


「パパ。お風呂溜まってるよ」みよが風呂場から和頼を呼ぶ。

「それじゃ皆、お風呂入ろうか」

「は~い」

 軽く汗をかいた服を脱ぎ捨てる子供達。それを急いでハンガーへ吊るす。そして自分も服を脱ぎ、何となく下を隠す感じで風呂場へと入った。

 大分大きな洗い場と湯船。子供達は湯船に足先を入れたり抜いたりして「熱い、熱い」と渋っている。


「いい皆? お風呂やお湯は火傷したら大変だから、いきなり足や手を突っ込んだりしたらダメだよ。初めはこうやって――」

「はい。ちゃんとできるよ」

 毎日同じことを注意し教える。お風呂だけじゃなく、色んなものを危なくないように、当然の習慣として覚えさす。


 和頼は昔、子供とお風呂に入るべきではないと考えていた。幼い園児を瞳や梓や茜や恵に任せ、本当の親でない自分はそうするべきではないと。しかし、まやかの腹痛の件の後から、少しずつ考えが変わっていった。何より、子供達が望むことを拒んではいけないと。


 去年一度、もう四年生だし一緒にお風呂入るのは恥ずかしくて嫌じゃないのと聞くと、まずは六年生まではそういう質問しないでと言われた。そう思ったらちゃんと言うし、一緒に入りたいからそうすると。

 周りや世間からどう思われるかと言えば、血の繋がらない者同士がと()(わい)な目で見られるかも知れないと感じている。和頼はそういうことを凄く悩んだ時期があったが、答えは自分の心にあって、子供達の心にあると分かった。

 考えに考えて、どうでもいい他人の腐った目や考えに振り回されて、子供をないがしろにすることはしたくないと、毎日毎日悩んだ末に答えを導いたのだった。


「よく温まるンだぞ。ほら、ちゃんと足の裏も洗って」

「パパくすぐったい」

「こら逃げるな。危ないからゆっくり」

「パパ~。頭洗って~」

「はいよ~。こっちおいで」


 毎日一緒にお風呂へ入り、色んな話をする。今日は、大護がプレゼント喜んでいるかとか、おはぎやアイスの話とか、スワンにまた乗りたいとかそれは色々。

 ようやく洗い終え、湯船で温まり風呂を出る。バスタオルで子供達を拭き、和頼は最後に脱衣所を出た。


「こらこら、まだ頭乾かしてないのに手拭い外してる子は誰だ?」

「なずほだよ。あともえみも」

 和頼が急いで追いかけると、濡れた髪のままベッドへ飛び込む。

「うわぁ、布団が濡れるよ。誰かドライヤ~持ってきて~」


 こんな時はいつも、みよかまやかが持ってきてくれる。そしてなずほかもえみかゆりなから頭を乾かす。強風で一気に乾かしていく。大抵最後がみよだ。それが済むと今度は弱風でブラッシングして髪をサラサラに梳かす。最後に軽く冷風をかけておしまい。


「きゃぁ、涼しいよ」

 ふざけるそこにノックの音が響いた。まやかがドアを開けると、チップを拒んだ女性スタッフが立っていた。


「あの、クリーニングするものがあればと思いまして」

「あっ、どうも。ちょっと待って下さい」

 和頼は、ハンガーに掛けた服を順番に匂っていく。軽い汗の匂いはするが、良い匂いだ。しかし、和頼は自分のスーツの番に来て「臭い」という。その言葉を聞くと、子供達は大はしゃぎで笑う。美輪家では、たまに冗談でこれをやる、子供達はこの『臭い』が面白くて堪らないのだ。そんな中、スタッフの女性が顔を真っ赤にして笑いを堪えている。

 それを和頼に見られると「すみません。すみません」と必死に堪えながら謝る。


 和頼は、平気ですよと笑顔で答えた後、手に持つ服の束をもう一度匂い「臭い」と言ってみた。子供達は笑い転げ、女性スタッフもついに堪えきれずしゃがみ込んで笑ってしまった。ようやく笑いが収まると、服を手渡した。

 ドアを閉め「さあ、そろそろ寝よう」と明かりをオレンジ色に落とす、そしてベッドへ入る。


 大きなキングサイズのベッドに、大人一人と子供六人が寝転ぶ。

 和頼は、あのスタッフは多分廊下で服の匂いが臭いか嗅いでいるだろうなと思いながら、子供達の様子をみていく。


 大分大きなベッドだから、落ちたりはしないだろうと思うが、仮に落ちても平気なようにクッションを周りに置いたり、椅子でストッパーを作ったりしていた。

「パパ、何してるの? 寝ないの?」

「寝るよ。もう疲れてヘトヘトだもん」

「あっ、そうだった。みよがマッサージしてあげるんだった」

 そういうとみよが隣から和頼の上へと(またが)ってきた。マッサージの真似事をする。


「どう? パパどっか疲れてるとこある? そう言えば、今日さ、アイドルが持ってきたケーキあるでしょ? 大護の。あれにロウソク付いてたでしょ? あれさ~本物じゃなくて電気のヤツだったの知ってた~」

「うそ~。うそだろ」和頼が吹きだしている。

「本当だよ。執事の人がスイッチつけたり消したりしてたもん」

 そう言えば、永友が火を付けに現れたと和頼は思い出す。

 確かにアイドル達が歌っている間に何かしていた。それは火をつけていたのではなく……スイッチを入れていたワケか。

 それじゃ、大護の吹き消す演出は何? 今時のセレブはロウソクも電気なのか?


 和頼は、美輪家のエアーケンカと同じくらいブッ飛んでいると笑いながら、上に乗るみよを元の横位置へ戻した。

「ありがとう。気持ち良かったよ。もうすっかり疲れも取れた。もえみもなずほも寝ちゃったぞ、みよももうおやすみしよう」

「はい。おやすみなさいパパ」

「はいおやすみ」

 和頼がそういうと、反対側からまやかの眠たそうな声がした。

「おやすみなさいパパ」と。

 そして腕にしがみ付くまやか。その隣から、ゆりなの寝ぼけたおやすみの挨拶。それに和頼は小声で「おやすみ」と答える。

 やがて皆の寝息がして、その寝息が和頼の子守唄となり、和頼もまた深く眠りに落ちていった。






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