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御姉妹  作者: セキド ワク
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最終話  巣立ち



 お通夜を終え、そして美輪家とその身内だけのお葬式を終えた。

 静まり返る美輪家。


 お通夜の日、和頼の傍で眠り続けたクラッカーが、なぜかそのまま亡くなってしまった。

 確かに大分年老いてはいたが、死ぬにはまだ早すぎるし、平均寿命でいっても、あと数年は生きれたはず。まして、美輪家での生活ならその平均をゆうに上回っておかしくない環境でもあった。

 毛並も老い方もまだまだ若々しかった……だが、和頼にくっ付いて行くように逝ってしまった。

 強く念じると死ねるというのだろうか?



 子供達もまた、自室と和頼の部屋を行ったり来たりして落ち着かない。どこに居ても和頼の残像が映り、その度に、もういないのだと感じ、悶え苦しんでいる。


 激しい寂しさに襲われ、あまりの悲しみに、食事も(のど)を通らない。


 生きていれば誰にだってある別れだ。そして誰しもこれを克服していかなければならない。その為に必要なら、今は沢山泣いたって構わない、乗り越える為に。



 あっという間に数週間が経った。



 衰弱する六姉妹、見かねて透子が子供達と茜と恵をリビングに集めた。

 このままでは、それこそ命に関わると。


 子供達はもう……死んでしまいたいと思っていた。


 六姉妹は、美しさも教養も、それこそ富も名誉も地位も、自分達を慕う多くの者達も全部持っている、持っていないのは和頼という存在それだけ、といっても過言ではない。

 心さえ切り替えることが出来たなら、ちゃんと幸せになれる。しかし、子供達はこの悲しみから抜け出せずにいた。



 和頼が子供達のこんな姿を見たら、それこそ、気絶してしまうほどにショックを受けてしまうだろう。なにせ、腹痛の子供の姿に、心を引き裂かれたくらいだ。


 いつも子供達に付き添っていた、警備会社の者達も、今のこの状況にショックを受けて、星丘など髪の毛が全て白髪になってしまった。

 世の中でこの現象をリアルに見られるのは、政治家から総理大臣へとなり、信じられない重責を背負った時くらいだろう。



 大好きな子供達がこれでは、和頼も死んでも死にきれない。

 唯一の救いは、すべては和頼が瞼を閉じた後に起きたということ。

 子供達も、そして和頼も最後まで笑顔でいたから……、最低でも和頼はニッコリと微笑んで瞼を閉じた。



 しかし今そう言ってはいられない。見る見るうちに痩せ細り、精神的にも肉体的にも危険な状態に陥っている。

 お金があるだけに、仕事や生活に支障はないが、一番大事な自分自身が崩れ落ちようとしていた。



「ありがとう来てくれて。大丈夫? ほら……そこに座って」


 一人ずつを気遣いながら、丁寧に手を添えて、椅子へと座らせていく。

 恵や茜も少し老けていた。

 まだたった数週間、それでもヤバイ。ここで手を打たなければ本当に大変なことになる。


「あのね、本当は四十九日の納骨の時に言おうかと思ってたんだけど、いや、本当はもっと後だったけど、でも、言わなきゃって、私、和頼さんと約束してたから」


「ん? ……今なんて言ったの? もしかして、ぱぱ?」

 子供達が一斉に透子を見る。もうこの世に居るはずのない存在を求めて。


「そうよ、あなた達のパパ。そのパパから私、あなた達のこと宜しくって頼まれてるの」

 和頼の名前に弱った目が一瞬輝いたが、またすぐにくすむ。どうせもうこの世の中にいないと、会えないんだと。……分かり切っている。

 今日まで毎日、何度もそのことを考えて苦しんでいるのだから。

 どれ程胸の真ん中に穴が開いているか……。



「さてと、それじゃ、これ、受け取って」

 そういうと透子が手紙を取り出した。そしてテーブルの中央へと置く。

「なにこれ? え? もしかしてパパから? ねぇ、そうなの?」みよ。

「ちょっと、本当? 嘘ぅ」震えるれせ。

「あ、もしかして、透子さんがなりすまして書いたんじゃないでしょうね?」

「そんなわけないでしょう。これは正真正銘の本物よ」

「パパ、パパが私達にってこと?」ゆりな。

「ぱぱぁ」涙を流すまやか。

 皆、涙もろく弱々しい。少し触れただけでも散ってしまいそうな花びら。



 するとなずほともえみが同時に手紙へと手を伸ばした。痩せ細った手が、必死にそれを掴む、そして和頼を求めるように手紙を開けた。


 六姉妹が顔を摺り寄せながら手紙を覗く。少し遅れて茜と恵も覗く。

 と、そこには。



『おはよう、こんにちは、こんばんは。パパだよ。皆、仲良く元気にやってるかな? みよ、まやか、なずほ、ゆりな、れせ、もえみ。いつも言ってたから、聞き飽きてるかも知れないけど、今日もいつも通り、大好きだよ』


「パパぁ、私もぅ大好き」

「私もぅだよぅ」

 子供達が皆、手紙にすがりつく。


『恵さんと茜さんも元気かな? あんまり無理しないようにね。俺、心配性だからさ、なんか皆のことが心配で。一つ俺からお願いがあってね、俺がいなくなっても今まで通り、いつも笑顔でいて欲しいんだ。これは、どうしても約束して欲しい。その代り、もしその約束を守ってくれるなら、俺から皆にプレゼントがあります。とはいえ、ただであげる訳にもいかないよ』

 子供達も茜も恵も、和頼の言葉にどんどん引き込まれていく。


『そこで、俺の作った謎を解き明かしてね。いっぱい、いっぱい考えて、沢山のプレゼントを用意したからさ、どうかケンカしないで皆で仲良く謎を解いて、皆で俺のプレゼントをゲットしてね』



「ど、どういうことぉ。もうぅパパぁ」

「パパァ~」


『さて、それじゃこの手紙はここまでね。みよ、まやか、なずほ、ゆりな、れせ、もえみ、それと恵さんと茜さんも、俺と遊ぼう。遊ぼうね』

 一瞬で皆の表情が変わった。


 手紙に書かれた二つのこと、一つは笑顔で仲良くいるという約束。その約束を守れたら、パパである和頼の作った謎解きで一緒に遊ぼうという二つ。



「相当難しいらしいからね。私はその案内人なの。先に言っておくけど、謎解きがどうしても解けなかった時は、その解答が、無人島にある梓さんが入るはずだった場所に隠してあるから。でも、それは本当に行き詰った時に開けてって」


「分かってるよぅ。そんなモノ開ける訳ないじゃん。これはパパから私達への挑戦状だよ。どんなに難しくったって、絶対最後まで辿り着くから」

 皆が頷く。既に笑顔だ。

 しかし、やつれた顔色には……傷心の深さが(にじ)む。


 でも、愛するパパとの約束、その為ならどんなに困難でも守る。


「それじゃまず、皆で仲良く御飯食べましょうか? 私、なにかお腹に良さそうな柔らかな食事作るから」

「うん。作って」

「そうだね。皆で食べようか」

「それじゃ、待ってて、すぐ、すぐ作るからね」

 透子は涙ぐみながらキッチンへと走って行く。ホッとしながら透子は思う、和頼が自分に託したそれが、こういうことだったのかと。



 人が悲しみや苦しみを忘れるのに、最低三年はかかると、心理学者から言われ、更にその倍の、六年位かかる者もいると和頼は知った。

 その期間内に、別のことや夢や希望を見つけられたら、人はスムーズに傷を癒すことができると。


 和頼は色々な専門家に聞きながら、子供達の心のありとあらゆる癒しを考えた。

 六年かけても解き切れないほどの、沢山の謎と沢山のプレゼントを用意した。

 死神に取り()かれた日から、毎日、毎日、子供達と離れた後のことを考えて。


 一人一人に宛てた手紙も何百通あるか分からない。趣味であるオルゴール、子供達を思って何曲も作曲した。絵描きに頼んだ家族の絵も沢山ある。

 他にもとんでもない物まであり、あげたらキリがない。


 謎解きとは関係なく、誕生日にはケーキとプレゼント、イベントがあるような日にも、それぞれプレゼントを用意してある。

 病と闘いながらの日々、ずっと子供達のことだけを考えて、ずっと用意して、ずっと手を握り続けていたのだ。



「いただきます。よ~し、パパ、待っててよ」

「パパ、絶対、謎解いちゃうから。私、頭良いんだからね」

「っふふ。ホント、パパって遊ぶの好きだなぁ~」

「だね。またパパと遊べるね」

 久しぶりに笑顔の食卓。もちろん無理しているのかもしれない。でも、本当は分かっている、人が生きていくのには逆境にも強く立ち上がらなければならないと。

 崩れ落ち深く傷ついて、本当にもうダメだと思って狂いそうでも……、それでも笑っていく。


 皆、心の中で『ありがとうパパ』と泣いていた。寂しくて悲しくて会いたくて、それでも和頼の願いや想いを守ってあげたいと思った。

 見せるのは苦痛に歪む顔ではなくて、いつも一緒に笑っていた顔。


 まだ今は上手に笑えなくても、少しずつ心を癒して、本当の笑顔を取り戻して、そして今度こそ和頼と上手にさようならをする。





 こうして六姉妹は、和頼と数年かけて遊びながら、深い悲しみや寂しさを徐々に癒していき、本当の巣立ちをすることになるのだった。


 日本中を駆け回り、和頼の出す謎で遊び尽くす。ただ、この謎解きで海外を飛び回るようなことはない。それは安全面からで、和頼らしい判断といえた。

 常に星丘や銀錠、運転手である枕木などがバックアップし、見届け人である透子と共に遊び尽くした。



 しかし、子供達が遊んでいる半ばで、この日本にとんでもないことが起ころうとしていたのだ。そのことを知ったのは、子供達が二十三、四歳の頃だった。


 かつての学友や美輪家と繋がりがある多くの大物達からの相談。

 そこで信じられない事実が打ち明けられた。




 ――Xデイ――


 この国が抱えていた借金から分かっていたことだが、それは、日本経済の没落(ぼつらく)であり、財政破綻、金融の崩壊など……。


 他国からというより、自国民にしている借金と言えばそうで、一見おかしな話だが、そうかといってチャラになったり無かったことになるわけでもない。

 更に、世界経済も動く。


 そしてこの借金も、本を正せば、政治家が国民に対する無駄な政策や手厚過ぎる社会保障などで票を得る為に使い込んだものとも言える。

 つまり、国民は被害者、うんぬんとはあまりならない。


 今現在もこの危機の中、何も気づいていない顔で、人権だ保障だと、負債政策を続けさせる。普通に考えれば色々とおかしいと分かるはずだが、他人事というか、あまり事を考えずに生活を送る。



 美輪家自体は、財産を日本円だけではなく、色々な国のお金や資産に綺麗に分けてあるからそこまで凄い痛手はないが、この国のお金などが、紙切れのようなものになれば、殆どの者は笑ってはいられない。

 それどころか生きていられない、かもしれない。


 他所の国と違い、裕福に慣れすぎたこの国が、今更そこまで落ちればもう二度と立ち上がれない。

 ただでさえ自殺者の多い国だ。

 戦後の地獄から這い上がった大和魂は、もうない。あるのは、仮想の論理。



 今目の前にそういった現実が、分刻みで迫っていたのだ。

 世界各国がその情報と予想とで、色々なことを想定し動き出す。

 迫り来る時計の音、そんな中での相談であった。



 和頼との謎解きゲームで、心を取り戻しつつある美輪家の子供達は、これに対して即座に答えを出した。

 すでに子供達と同じ世代の者や、その知り合いの者達が、この日本の中枢で働く時代。それらが(わら)をも掴むように、本気で切り抜けるべく動く。


 謎解きで研ぎ澄まされた思考、更に和頼の築き上げた多くの伝手、それらを駆使して秘密裏に計画は進んでいく。

 ただし、今までのシステム、悪く言えば官僚や一部の政治的、特別会計なる闇のモノはそのままの状態で、実現可能な対策が練られた。



 そして下準備が済んだ時、この国の政治家がある法案を出した。



 それは、未納税者であるニート達を処罰し、きちんと罪に問うというもの。

 そしてそれらに、自らの選択で選ばせるのだ、片方は国で用意した各施設で働くこと、もう一つは一般の者達が脱税した時と同じような処置を受けるか、刑務所へと入るかだ。



 正直、刑務所に入られても財政的には赤字で、逆に損害が出るが、それでもこれにはいくつもの意味がある。

 一つは、労働するかしないか自由に選択ができるということ、もう一つは納税の義務をこれ以上無視させないということ。

 更に不正に生活保護費を受けさせないという点。他にも多くの意味はある。


 これはあくまで未納税者であって、働いてなくとも、親の資産などでお金を得ている者は関係ない。

 あくまで、納税違反していることが重要。



 二択の内、きちんと働く方を選んだ者達は、小学校の様な各施設へと移り住み、そこで今までの未納分と現在の分を稼ぐこととなる。期間は基本三年制、悪質な者には六年制も一応用意されていた。


 最初こそ心はキツイが、そこは強制労働施設ではない。もう片方の選択肢である刑務所とは根本的に違う。

 いくつもある職種から自分に合った物を選び、小学校の時間割のように働く。

 全ては、確立された学校システムとほぼ同じだ。



 多くの自由はあるが、学校同様に規則と、単位のように基本ノルマはある。

 そこは納税の義務を果たさないという罪を犯した者が、その罰とツケを払う場所である。少しは厳しい。でもそれ以外は、様々な自由が保証されている。


 自室は各個室で、施設内にはマンガ喫茶のような場所も設けられている。

 コンビニや服などあらゆる店も充実し、当然、病院もあり生活するには何も問題は無い。



 今までの生活と変わるのは、小学生がきちんと学校へ通うように、最低限のことをさせられるということだけ。

 これを一般の者達が聞けば『当たり前だろ』と普通に返されるかも知れないが、この国が、法律内であればどんな生活をしても自由というスタンスなので、そこを尊重はしている。

 とはいえ、それと未納や脱税は別だが。



 仕事の在り方もその時間割も自由、途中で仕事場を変えることも自由、ルールとしてあるのは、仕事は真面目にする、ということと各作業の最低ノルマはこなす、ということ。


 給料は完全歩合。仕事をこなした分だけきちんと支払われる。そこから未納分と現在のあらゆる税金が引かれ、それ以外がお給料となる。

 賃金は安いが、通常配給の食事は無料。施設内の物は基本貸し出しで、自分の物になるのはお店で自ら購入したモノだけとなっている。



 この法案が成立してすぐ日本は大きく動いた。

 一般の者達は「その法案で何か変わるの?」と普段通り無関心で、何なのかさえ分からない、しかし、その普段の生活の中でいきなり景気が変わり生活が豊かになっていく。

 毎日同じように満員電車に揺られていたはずが、色々なことが激変する。公共サービスや人員不足の弊害が突然解消され、介護サービスなども格安で受けられるように。

 知らぬ間にありとあらゆる物が便利で生活しやすくなる。お金の回りも変わり、経済のグラフはウナギどころか(りゅう)昇り。


 どうせ今更どうあがいても、付け焼刃であり、焼け石に水と高を(くく)っていた海外の者達が度肝を抜かれた。完全に出し抜かれて焦っている。


 膨大な単位で利子が増えていたそれが、簡単に減り始めたのだ。それどころか上がり切った債務グラフが急降下していく。

 今まで散々足掻いて、派遣法などをいじくりどうにか経済を回復しようと試みるも、やはり海外の労働者には及ばず不発に終わっていた。

 しかし、このニート達は派遣の者よりも安い賃金で、更に圧倒的な人数、決められた期間をしっかり働き続けるわけだ。


 加えて言えば、一部の不安定な派遣社員も施設へと移り、しっかりとした納税額を弾き出す。

 法律上の最低賃金は、もちろん保障されているが、今までのツケである未納分、不正な免除分など様々な返済をすると実質そうなる。

 溜まった個人のツケもきちんと返済されて、国としてはありえない利益が生まれていく。



 そして、最も重要なのは、この計画の裏には、美輪家六姉妹とその伝手がいる、ということだ。

 分かり易く言えば、日本の経済に直接関係している大企業が、何処の国とも対抗できるほどの人材を武器に、一気に勝負に出たのだ。それも数千社以上が。


 この法案が決まった時点で、すでに世界がひっくり返ることは、約束されていた計画だった。だからこそこの法案には色々な規則や約束もある。


 当初、当然のように人権やら何やらを訴えて反対した野党議員もいた。更に色々な団体もいた。だが、これは遊びではない。

 反対も何も、もうこの道が開けなければ明日はない、この国は無価値に近い紙幣の吹雪に埋もれて終わる。そうなれば破滅の歴史が……永遠に続くのみ。


 反対している者達が、この法案は、触れてはいけないパンドラの箱だと気付いた時には時すでに遅く、自分達の反対発言や意見に多くの責任を背負うこととなる。


 討論気分で反論をしてしまった議員達は、この国の現状を知っている全ての権力者、財界しかり、官僚、政治家、はたや味方である後援者などから一斉に潰され、消された。それも二度と這い上がれないほど徹底的に。


 この法案が決まった後も、その是非には、様々な責任が課せられていく。

 つまりこの件に意見があり、反対の言葉を一票投じたいのであれば、とある書類にサインをし、全財産を放棄の上、ホームレスとなって主張するということ。

 自分の立場を明らかにし、予想される国中の被害者達と、同じ条件下で筋を通すという規約。


 言論の自由も個人の主張も保障されているが『私はXデイにより、例えこの身がホームレスとなっても、ニート達がニートとして生活する人権や自由を奪うことには反対だ。その為なら全財産が紙切れになっても構わない』という趣旨のことを、嘘偽りでなく、他人事ではなく主張できるのだ。


 それぞれに意見はあるだろうから、それをしてもらっても大いに構わない。


 例えば『これはニートだけのせいではなく、官僚や政治家達が不正なことにお金を使って起きた負債だ』とか言いたいことはあるだろうから。

 他にも意見はあるだろう。思いつく限りの考えを述べればいい、しかしそこに、答えはない。



 Xデイが起きた時、一番の被害者は、真面目に働く一般の者達。守らなければならないのは、ニートでもお偉方でもなく、ごく普通に暮らす一般人、それらが何事もなく平穏に暮らせることが第一条件、不平不満はその後。

 でなければあまりにも真面目に働く者が(むご)すぎる。



 ただ、そういった一般人をおろそかにしてでも、言いたい人権や主張があるのであれば、まず己自身の身をもって示す、でなければ困る。


 もちろん、そこまでしてもただの一票だけど。ただし、そういった票や書類が、国民の代表である政治家、様々な団体などの総数、二十五パーセント集まったなら、その時はこの法案は破棄となる約束もしっかりと明記されてあった。

 本来なら過半数以上であるべきだものだが、四分の一で成立する、なぜなら絶対に集まらないからだ。


 社会人が毎日当たり前のようにしていること、いや、幼い子供達でさえ幼稚園や学校へと通っている。

 xデイのリスクの前では――偽善は通じない。


 もう、今までのような戯言は通らない。




 六姉妹とその協力者達のおかげで、恐ろしい破滅は回避できたが、本来なら間違いなくXデイを迎えていた。

 この国の政策がスムーズに行った歴史など、ほとんどないのだから。


 だが、一般の者がその恐怖を知ることなく回避したことで、いずれ甘くふやけた論理を口にする者達が出る、なにせそういう者達は、何も現実を分かっていない。

 どんな恐怖が迫っていて、それが訪れたらどれ程の悲劇が降り注いだかを……。


 結局、そういう口だけの論説者によって、今まで必死に踏ん張りがんばってきた一般市民達が被害を受ける。これまでずっとそうやって、名も言わぬ誰かが、同じ国民として、弱き立場の者達を、文句も言わず、支え助け、守ってあげていた。

 まるで身内のように。


 ここからは皆が変わらなければならない。

 きちんと国も、名簿などで調査して、全てを確認するべき。体の不自由なものや病気な者達が、しっかりと援助されているか、困ってはいないかなど。

 すべてが平等とはいかなくとも、皆が『仕方ないか』と納得してくれるくらいの政策や社会でないと、Xデイや経済ショックが起こった時に、心が壊れて立ち上がれなくなる。


 ただ、それでも、「だから?」と流す者達は居る。


 この法案や話に納得する者は、自分が生きてきた経験の中で、きちんと世の中の裏表が分かっている。最低でも、世間は厳しく残酷だと知っている、良識ある者。

 実際、上が決めたこと、国が決めたことは、ずっと守りこなしてきている。


 逆に反対する者とは……?


 一般の者達は、日々働いているし法も守っている。それを踏まえず文句だけ言う者には必ず裏がある。

 不正な何か、ズルイ何か、だらけた生活、甘えなど。

 文句を言うことで何かを得ようとしている。


 そしてこの国はそのツケを払う羽目となった。それだけのことだ。


 すでに人権を理由に拒む方法はもうない。破滅か再生かの二択。

 つまり今は、破滅を回避する為に、ずる賢い誰かが、一旦、甘い蜜をすするのは止めて、Xデイを乗り越えなければならない。悪いことがしたければその後だ。

 それほどの最重要法案であった。


 とはいえ、誰もがそんなに善良じゃない。

 この法案をどうにか掻い潜る者達だって中にはいる。あの手この手を使いズルする者、借金、破産宣告、強引な仮病、挙げたらキリがない。

 しかし、そこは泣き寝入りだ。そういう者まで取り締まり更生させていく余裕はない、一人でも多くの未納者が、一般生活者のように暮らせればそれに越したことないが、まずは国の崩壊や破滅を防がなければならなかったからだ。



 そしてこの法案や政策によって、国も国民も、一時的には救われ、Xデイは無事に回避された。



 全ては六姉妹とそれに携わる多くの権力者たちのなせるワザ。今回ばかりはさすがに他人事では済まない事件だったから、多くの政治家や官僚達も動いていた。


 積み木の上を飛び跳ねるように、危なっかしくも豪快な六姉妹は、和頼のいなくなった後戻りできない世界で恐れることなく行くあてを探す。

 その姿に魅了された者達が後を追ってついていく。何か楽しいことはないかと。


 Xデイは一時的に回避されたが、仕上げとしてもう一つの政策が残っている。

 それは少子高齢化対策。六姉妹は、元からある少子化対策の法案などの見直しと追加事項で、新たなことを実行に移した。



 和頼が六姉妹と遊ぶ為に計画していた地下施設を、この少子化対策に使うことにしたのだ。

 元々は無人島で戦のような遊びを多くの者達と開催していたのだが、新たな遊び場として構想されていた物。

 その計画に財政の回復した国が政策として動くのだから、とんでもない地下施設へと変貌していく。


 かつてないほどの地下都市。


 六姉妹はその場所を、男女の出会いの場にした。その世界では誰もが着ぐるみを身に纏い、互いの身元を隠し生活する。


 目的は――子孫繁栄。


 詳しいことは一般世間にも様々な機関にも秘密。

 デリケートなことだけに、何重にもプロテクトがかかり、知っている者達には、守秘義務や特別規約にサインをする仕組みとなっている。

 一般では、一部の女性にだけ公開された極秘事項だった。


 その地下施設内でのシステム、そして少子化対策プログラムは法の名のもとにしっかりとケアされ、のちの色々な保障が約束されていた。


 何もかもが秘密裏に進んでいくが、これに携わる者達もまたすべて、今現在のこの国を牽引しているような大物達ばかりであった。


 ニートであった者達や結婚や出産などで悩んでいた者達は、六姉妹の作った道を歩き、閉ざされた世界から、一般人とも別な新しい一歩を踏み出した。



 ――まさにそれぞれの巣立ち。



 各施設から出たくないと思う者も少なくない。

 でも、ニートになりたての者や、他人に傷つけられた心の傷が癒えていない者、まだわがままが許され通る者は、当然、これらの政策に不快を示し、それこそ強制施設だと嫌悪する。が、長い間引きこもりを経験し、自分をしっかりと見つめ直しているような者達は、心がホッと軽くなっていた。

 やるべきこと、そしてやりたいこと、義務、更に遊び、メリハリのついた充実感は、仕事の大変ささえ満足感に変えていた。


 この納税対策と少子化対策の二つの政策が、日本のごく平凡な日常を、そのまま維持させることに成功した。差し迫った危機を少し、回避できたのだった。


 誰もが日常の、ささやかな笑顔を、なくさないように。



              御姉妹 おしまい。





最後までお読みいただき、ありがとうございました。


六姉妹の携わった地下世界を描いた『着ぐる民』という作品が、【R18】の方にありますので、お暇な時に、お読みいただけると……嬉しいです。


本当に、ありがとうございました。

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