十七話 競争会
「ちょっと、本郷さん。待ってくれます?」
和頼は、準備に入る君弥を引き留める。
「どうしました? 美輪さん?」
和頼は君弥と子供達を引き連れ場所を移動する。
ネット放送のカメラのない死角へと。
そして静かに話を切り出す。
「あの、見ての通りの展開になってしまって。正直、困ってます。それでですね、本郷さんに頼みたいことがありまして」
そう切り出し、説明し出した。
内容は、あの女優達を倒して欲しいというものであった。
当然ながら、今更ワルツ和頼などに戻れるはずがない。
「まぁ、言いたいことは分かりますけど、ウチも、無茶はできませんからね。あの女優達を倒すだけなら他愛もないことだと思いますけど、最後まで生き残らないと美輪家とお近づきになれないわけですから。それがルールなのですよね? あいにく、美輪家の開くイベントは、インチキができないですから。監視のカメラも四方から狙っていますし」
すると和頼が、内ポケットから折りたたんだ紙を取り出した。
「もし、本郷さんが、女優達や先ほどのメーカー各社を全て潰せたら、その時は、優勝しなくてもお近づきになりましょう。その証として」
そういうとその紙を手渡した。
「なんですかこれ? ん?」
小切手か何かかと君弥が覗く。
「それ、私が考えたお風呂場を掃除する、自動掃除機君です。その発売の研究費や出費をウチで援助します」
「ほ、ほ、ほ、本当ですかこれ? マジかこれ。嘘みたいだ。これが当たれば俺は一気に父さん達を見返せる」
パニックに近い興奮で紙を見る。細かく書かれた構想とデザインに驚く。
壁や天井まで掃除するのかと感心している。
あとはその道のプロがきちんと研究し最終設計する。通常作業だ。
「これ凄いですね。――良いでしょう。分かりました。全力であの女優達と我が社の敵でもあるメーカーを蹴散らしましょう」
上手く行けば新たなプロジェクトが始動する。自動風呂掃除機。
和頼と君弥が固く握手する。それを子供達が不思議そうに見ていた。
「九条、第二ラウンドのゲーム、お前にも参加してもらうことになる。全力で護衛を頼むわ」
九条があまりのことに驚いている。
「あ、ウチの銀錠も貸しますから使ってやって下さい」
和頼はそういうと携帯電話で連絡を入れる。
「パパ。随分と凄い作戦だね。そんなに困ることでもあるの? ワルツ和頼って、なに?」
その言葉に、全身に汗が流れる。
そして「何でもないよ」と言い訳をするが――。
「それはパパの本当の姿よ」と女優達が現れた。
和頼も君弥もびっくりして心臓がうねる。
「随分と姑息な手を使うのね。まぁそれくらいでないと、美輪家がここまで大きくならないわよね。そんなワルツ君が、ウチの事務所に戻って来たら、それは楽しいでしょうね~」
聞いていやがったと女優達を見る。
女優達は不敵に笑う。残念だけど、私達の助っ人は強いわよと自慢する。業界の伝手をなめると痛い目をみるといったでしょと高笑う。
今この時、それぞれが独自の伝手を頼りに動いていた。
決戦は第二ラウンドの電動一輪車になる。
第一ゲームは美輪家の子供達同様に、ラジコンヘリだけに簡単にどうこうできるものではない。そうなれば勝負は次に賭けるしかない。
「お嬢ちゃん達は、ワルツ和頼を知らないのね。パパはね。テレビのお仕事をしていたのよ。凄いでしょ?」
「ちょっと、そういう話は子供にすべきじゃないでしょう」君弥が少しイラつく。
子供達は興味津々だ。パパがテレビに出演していたのとキラキラが溢れる。
「テレビ? パパがぁ。本当に」満面の笑みでゆりなが問う。
「そうよ。私と一緒にクイズ番組にも出たのよ。確かね『クエスチョンスロット、納得、偏差値クイズ』だったかしら」
和頼は恥ずかしさで真っ赤になる。
そして立花紅と共に出演したことを思い出した。
子供達は「なっとく偏差値クイズ?」と繰り返す。――恥ずかしい。
「そう。パパは凄かったわよぅ。他のパネラーが……」
「もうその辺で」勘弁してくれと話を止める和頼。
いつもなら和頼の為に食って掛かるみよまで、興味が勝っている。
自分のパパがクイズ番組に出ていたなんて、どんな感じか聞きたくなるのも仕方がないかも。
美輪家は基本、シアタールームでの映画鑑賞以外、テレビなどは全く見ないが、動物が出る番組とクイズ番組は、家族で楽しく会話できるので、ごく、ごくまれにだが見るのだ。
こんなはずではなかったと寒気が走る和頼。
やはりというか、イベントのコントロールを失っていることに不安が募る。
――と。会場中にアナウンスが流れた。
第一試合の、ラジコンヘリバトル本戦の用意が出来たようだ。
美輪家も君弥も女優達も、元居た会場内へと入っていく。そしてそれぞれの用意された席へと向かう。
「はい、これがれせ様ので、こっちがみよ様の。それでこれが――」
友居がラジコンのコントローラーを手渡していく。場内には、予選同様にルールなどの説明が流れ続ける。
「予選でも言いましたが、赤外線式は使えませんので。どうしてもの場合、最高で三機まで切り替えできますので、係の者の仲介によりくじ引きとなります。なお、電波式、2.4ギガヘルツ帯のRCシステムをお使いの方は問題ありませんので、係の指示に従って――」
同時に百機飛ばしても混信しないという説明の後、バトル自体の説明に入った。
内容は予選とは全く違うもので、参加者達のどよめきが随所に起こる。
まずは、ヘリを一機撃墜するごとに百万円。更に、予選ではなかったシステム、虫取りが追加した。
学備学園関係者及び大手メーカー各社などは、機体に赤のシールを貼り、それらが敵を撃墜しても金銭は発生しない。あるのは生き残りのみ。
ただし学備学園内だけでの特別ルールとして、撃墜ポイント制があり、第一と、第二ゲームで稼いだポイントの最終獲得点で、学園内の順位及び、用件取り付けが交わされる。
なお、機体が最後の一機として生き残れば、第一ゲームの優勝者となる。
女優達や大手メーカーの者達は、優勝した時に限り、美輪家との直接交渉が約束されている。
予選を勝ち残った一般参加者達の機体には、白のシールが貼られ、それらヘリが、赤シール機を撃墜すると百万円、白シール機を撃墜で十万円ゲットとなる。
そして虫取りシステムとは、一般の観客からクジで選ばれた者達が、虫取り網を持ち、白いシールの機体だけを地上から狙いゲットするというものだ。
白シール機は十万円。ちなみに赤シール機体はゼロ円。
網を持つ者はあくまで一般の参加者を狙うことになる。
そして一般参加者はセレブ達を。そのセレブ達は、自分のターゲットを狙いつつ生き残りをかける戦いなのだ。
セレブ達にとっては凄くハンデに見えるが、この位の三角関係が丁度良い。
なお、白シールの機体が最後まで勝ち残り優勝すると、景品として車が貰える。他にも、ポイント数で色々な景品が用意されていて、その中に、美輪家の子供達の狙う自動掃除機も入っている。
全ての者達の興奮が伝わってくる。
ヘリを用意する者達、そして地面でジャンプし網を振り回す者達。
この虫取り網のシステムを思いついたのは、列車内で子供達が言った「虫みたいだね」という言葉からだ。
単純に流れてしまう会話だが、和頼には充分引っかかったようだ。
各機体に色シールと番号シールが貼られていく。
撃墜した者とされた者は、互いにそれをシートに記入し、後で提出する仕組み。双方の申告なので、まずイカサマやインチキはできない。
もちろん映像としても記録があるので問題もない。
「御嬢ちゃん達は、自動掃除機が欲しいんだよね? 確か二ポイントだったかな。おじさんにお手伝いさせてくれないかな? 僕は、新谷進っていう者なんだけど」
突然話しかけてきたそれを星丘が警戒する。和頼も少し遅れて振り返る。
見た目は六十代半ばくらいで、お腹がぷくりと出ている。
少し距離を置いて話しているので、星丘も和頼も様子をみている。
「あなたは?」
和頼の声に新谷が向き直った。
「こんにちは美輪さん。僕はこういう者です」
そういうと雑誌を開いて手渡してきた。
そこには、ラジコン飛行機の鬼ごっこで十連覇しているとの記事が載っていた。
和頼は興味津々に競技内容を読む。ルールは単純で、いわゆる空中戦。撃ち合いではなく、敵機の後ろを取り、十秒以上張り付けば撃墜というルールらしい。
鬼ごっこといっても、普通の鬼ごっことは大分感じが違う。一対一やチーム戦などもあり、マニアの間でひっそりと行われているものらしい。
とはいえ、世界の戦争傾向は、すでに無人機によるドローンバトルが支流。
となれば、このただの遊びが、実は世界最強兵器にもなりうる。
あくまで仮定の話だが。
「なるほど。凄いですね」
「いや。それ程でも。今回、ラジコンヘリのイベントがあると情報が入って、僕も早速エントリーさせて頂いたわけです。それで、御嬢様達のお役に立てればと」
「お気持ちはありがたいのですが、子供達は、じっとしてませんし、ばらけて飛ぶので、とても守れませんよ」
和頼の言葉に、そうですかと落ち込む。作戦はなく、自由なバトルをするのですねと納得したようだ。
「あっ、そうだ。新谷さん、できれば撃墜して欲しい番号がありまして……」
「何番ですか?」
和頼が配布されたナンバー名簿をチェックする。そして分かる範囲で指さす。
「分かりました。陰ながらお手伝いさせて頂きます」
そういうと嬉しそうに自分の席へと戻っていく新谷。とそこへまたも別の者が。
「どうも美輪さん。今日はまた随分と豪勢なイベントで」
突然和頼へと話しかけてきたそれに、星丘は無警戒だ。
「あ、どうも堀塚さん。良治君も。あれ? 相楽さんは仕事ですか?」
「いや、相楽は家で色々あって孫の子守りをしているよ。息子夫婦が離婚だなんだって大変なんだよ。本当なら、こんな楽しいイベント見過ごせないだろうけど、なにせ孫が小っちゃいから、可哀そうだって」
堀塚邦茂。アーマーワークスという建設会社の専務。堀塚良治。彼も同じ会社の重役だ。
邦茂と良治は親子だが、美輪家同様、血は繋がっていない。話せば長くなる事情の元、親子になったのだ。
相楽が社長を務めるアーマーワークスは、美輪家の家を建てた業者で、和頼のありとあらゆるわがままや要求を格安で請け負ってくれている。
ちなみに美輪家から仕事以上の援助は一切受けてはいない。それどころか建築面で美輪家が世話になっているくらいだ。
「あ~、ドッヂボールの時のお兄ちゃんだ」もえみが良治に微笑む。
良治は子供達の頭を撫でながら「ちょっと見ない間に、また大きくなったな」と笑う。
「そうだ、今度お墓参りに行ったらびっくりするぞぉ。色々な物がいっぱい増えたから」良治はそういうと、ケタケタと笑った。
アーマーワークスは、美輪家が所有する無人島の二島を任されていて、今も建築し続けている。船を使っての大仕事だ。
「あれ? 美輪さんは出ないの?」
「ええ。私は、参加しませんよ。これはあくまで子供達のゲームだから」
和頼はそう言って子供達の頭を撫でていく。
子供達も「まかせて」とポーズを決める。
「そう。それじゃ、オジちゃん達から逃げないと、すぐに食べられちゃうよ。パパが守ってくれないから、危ないぞぉ。負けちゃうぞぉ」
いかにもオジサンといったノリでふざける邦茂を、良治が「ヤメレ」と止める。
「んじゃ俺達、行きますので、健闘を祈ってます。お嬢ちゃん達、がんばってね」
良治の言葉に、あかんべ~とポーズを決める。
それを見て良治は、相変わらず可愛いなと微笑む。
和頼は立ち去る二人の背中から視線を移し、学備学園の親達の様子を探る。
どうやらほとんどの者が取引に失敗したようだ。交渉決裂。
ギリギリまで頼み込んでいる姿もあるが、たぶん無理であろう。
このイベントに辿り着いた者、更に参加できた者達を買収するのは並大抵のことではない。散々交渉し続けた親達も、ようやくそのことに気付き始めている。
もちろん取引に成功した者もいるようだが。
このイベントに参加するのがなぜ難しいのか? それは十の関門があるからだ。そして最も簡単な第一の関門で、ほとんどの者達が行き詰り振り落される。
何かしらで美輪家の情報を得て、そしてこのイベントなどを知る。そこから必死に検索し参加方法を探る、しかし一向にそれらしい情報が画面に出てこない。
上がるのは全て美輪家の悪口。
検索合計数の約九割以上が美輪家の悪口や欲に塗れたモノ。
その中を永遠とループして終わる。
あることに気付かない者には探し出せないのだ。
なぜ悪口や欲塗れの検索結果を彷徨っているのか、さえも気づけない。そして、このイベントに女性が少ないのもまた、美輪家の子供達に悪意がある者が多い結果かもしれない。何より排除されているということに気付いてもいない。
そもそも、イベントを見た感想が「面白そう」や、その真逆で「別に詰まらないからどうでもいい」という単純な発想の者では辿り着けない。趣旨が全く違う。
ここへ辿り着いた者は皆気付いている。ここがなんなのかを。
面白いかどうかを決めるのは誰? ここへ参加している一般の者達は何?
普通の者の感覚だと、バンドや演劇などのライヴを見に行く観客と自分を、重ね合せるだろう。だが、それが違う。
このイベントの客は美輪家の子供達、たったの六人だけなのだ。そしてそれ以外の参加者は、全て残らず演者でありアイドル側ということになる。
このことわりにさえ気づけないようでは、残りの関門など到底通過できない。
別に興味ないからいいや、ではなく、参加したくても辿り着けない。客が美輪家であるということと、全てを選ぶ権限が客側にあるということは同一なのだ。
誰が主なのか気付けないのは、普通のイベントでは、一般の者達がお金を支払いイベントを楽しむからで、参加者や観客が支払われる側になるなどないからだ。
つまり、お金や利益、需要と供給の流れが違う。真逆。
なぜ美輪家がこのようなイベントを開いているのか? 別に美輪家だけでひっそりと遊んでも充分楽しめるはず。それどころかその方がもしかしたらとんでもなく有意義かも知れない。それをわざわざお金をかけて開く意味。
参加できないような者達は、そういった全ての答えに届かない。分からない。
出来ることといえば、ただ子供のように誹謗中傷を繰り返すのみ……。
それしかできない。
――何も分からないから。
参加できた者達に多いのは、高学歴で低所得の者や、夢に燻り続けている者などが主にすり抜けてくる。いわば、チャンスが必要な者だけが上がってくる。
実力も想いもなく、口だけの者が辿り着ける場所ではないということだ。
口だけとは――。オタクと呼ばれる者達が増えた世の中で、皆がそれを、簡単に名乗るが、元々の意味合いでは、その筋のマニアであったはず。今では、モドキとさえ言い難い偽者ばかり。知識も想いもない。あるのは悲しいまでの嘘。
つまりそれでは届かないということだ。
すべてにおいて、自分で得た知識ではなく、ただ単に、他人の嘘情報に踊らされているということ。
ここへ平然と辿り着く者達は皆、分かりやすく言えば頭が良いのだ。賢さや常識を持っている。そして、ここで自分のチャンスを掴む目的も持っている。
資金が必要な者、伝手が必要な者、仲間が必要な者、他にも自分に必要なモノをどんどんとゲットしていく。
もし、それらを手に入れる前に、和頼が手を引いてしまったら、もうイベントを止めてしまったら、それが自分達にとってどういう事態かも分かっている。
だからこそ美輪家の子供達を全力で楽しませる。
嘘や上っ面ではなく、本当のエンターティナーとしてイベントに挑む。
つまり、プロの演者と何も変わらない立ち位置なのだ。
一見、観客に見える者達こそが、煌びやかな舞台に立ち、美輪家という客をもてなしている構造なわけだ。美輪家やイベントがどうのと愚痴り罵っているようでは話にならないのだ。
おいしい情報は届かない。隠される。
ここに参加している者達やあらゆる者達から、嘘やトラップを仕掛けられてシャットアウトされる。まさに自然淘汰。
「そろそろですね」
近くに座る学備学園関係の者が和頼に声をかけてきた。
和頼も会釈し状況を見る。
「それでは、ただいまより、ラジコンヘリバトルを開始します。まずは、離陸して下さい。そしてスタートの合図が鳴ったらアタックを開始して下さい」
子供達がキャッキャと騒ぎながらヘリ離陸させた。
「わぁあ、揺れるよ」れせの機体が宙でふらつく。
「あぁ、無理コレ。どこ行くの? ちょ、こらぁあ、そっちは~反対でしょ」
想像以上に苦戦しているようだ。と、ホイッスルが鳴った。
それと同時にヘリ同士がぶつかり合い、一瞬で半分近くが堕ちていく。ちなみに、同時に落ちた場合は両者ともアウトで、どっちも勝ち負けはない。
あくまで叩き落として生き残るとポイントだ。
いきなりの混戦。虫取り網を手に持つ者達もまた、地上から大きくジャンプして白いシールの機体を狙う。
予選と違い、参加選手が叫びながら戦う。相当熱くなっているようだ。一機撃墜で百万円。結構な数が無駄に散っていったが、それでもまだ充分に残っている。
子供達もまだ残っている。
百万の価値を背負った機体を、必死にコントロールしている。
「さて、そろそろ、本戦ならではのトラップを発動します」
アナウンスの後、重りのついたバルーンが放たれていく。それが空中で障害物としていくつも浮かぶ。
更に、天井に設備された照明装置が下がり、そこに貼られた紙テープが、無数に垂れ下がる。
「パパ~。何? 何アレ。これじゃ上に逃げられないよぅ。どうしよう」
下の網から逃げる為と、上から踏みつけるように攻撃していたそれが、障害物のせいでできなくなる。高度を上げ過ぎれば紙テープにプロペラが絡まり墜落する。飛べる範囲が一気に狭まった。
皆が一斉に苦戦する中、数台のヘリがとんでもない攻防を見せている。
和頼がそれをチェックすると、先程ここへと来た新谷という男と、美輪家を建築したアーマーワークスの堀塚邦茂の機体だった。
次々と撃墜していく。
美輪家の子供達も、騒ぎながらもどうにか逃げ延びている。
あっという間に三分の一程度に減っている。
「さて、そろそろ最終トラップの発動となります」
その言葉と同時に場内にどよめきが起こる。
場内に、大型扇風機が数台運ばれてきた。
「エエエエッ、パパぁ、無理、ヤダよ、なんで、まだ始まったばかりでしょ」
和頼も井辺に、これはさすがにまずいと合図を送る。何度も首を横に振る。
井辺がそれに気づいた時には、既に巨大扇風機が始動し始めていた。
一気に暴風が起こる。気流が乱れ次々に落ちる。
機体同士がクラッシュしていく。
みよとまやかの機体も一瞬で吹き飛び壁にぶち当たって無残に終わった。
「パパ! な~にアレ。あんなの反則でしょ。無理だよ~」まやかが言う。
子供達は和頼の考えた物だと思っているようだが、これは和頼の案ではない。
和頼も子供達同様に、一目で無理だと感じている。
大型扇風機のトラップの話は和頼も聞いていない。
長時間のバトルになったら、紙テープで飛べる範囲を狭めようと案は出したが、バルーンの障害物も知らない。
何より、しょっぱなからトラップを発動して、ここまで難易度をマックス状態にするなど変だと感じている。
場内を見渡す和頼。
和頼は頭を掻きながら井辺を見る。井辺も申し訳なさそうにお辞儀をする。
美輪家の残りはれせとゆりなだけだ。もえみもなずほも自滅していた。周りの者達も、バトル以前に自滅していく。これでは賞金も何もあったものではない。
手招きで井辺を呼び寄せ事情を聞くと、どうやら、イベント会社のスタッフが、セレブ参加者の増加によって増え過ぎた賞金を死守するべく、必死に考えて、イイ具合になるようにといくつものトラップを考案したのだという。
賞金の帳尻を合わせる為ということだ。
和頼が、たまたま井辺との会話の中で参加者増加のことに気付き、設定額の変更をしたが、もし、金額設定を元の赤シール機四百万、白シール機百万でスタートしていたら、確かにとんでもない額と取り返しのつかない間違いが起こっていたかもと納得はする。
ただ、賞金設定を変更したことが末端まで届いていないことと、元々の情報がもっと早くに報告がなされていないのは、どうかと思う和頼だった。
イベント会社の社長は井辺で、直接は会社の人間でない和頼だが、スポンサーであり、金銭面で何かあれば、全て美輪家が背負うのだから、その辺はしっかりして欲しいと井辺に釘を刺す。
……というより、この難易度では子供達が楽しめない。
井辺いわく、ペットボトルロケット砲という案も挙がったようだが、さすがに、噴射する水の後始末や飛び交うロケットの危険性を考慮して、中止し、そして害の少ない扇風機となったようだ。
そう聞くと理にかなっているトラップだが……、何とも言えない。
和頼と井辺が話す中、れせとゆりなが敵機と必死に戦う。
まさにドックファイト。
飛行機ではなく、ヘリコプター独特の性能で、ギリギリ生き残れている感じだ。
数の減った場内でヘリ同士がぶつかり合う。
喧嘩ゴマの様でもあり、虫の争いの様でもある。
何度も離れてはくっ付くを繰り返す。
残っている者達の中では、圧倒的にれせとゆりなが下手である。やはり女の子には難しいようだ。
新谷進。堀塚邦茂。そしてゲーマーから、ねたきりダルマ。妻卵。ホストから、へのへの模経児。学備学園から、喜多河大護。富蔵光徳。仲込陽時。銭葉卓賭。
他にも数名いるが、まず学備学園の知っている大人達は全滅している。
本郷君弥も女優達も大手メーカーも撃沈したようだ。
やはり、普段から遊んでいる者や相当なセンスがないと、とてもじゃないがこの戦況を生き残れないようだ。
れせとゆりなが生き残っているには、いくつもの理由がある。まず一つは、網を持つ者達が下から援護してくれていること。もう一つは、あまり狙われていないこと。そして、大型扇風機を操るスタッフが、二人を避けていること。
それにいち早く気付いた邦茂と新谷は、ヤバくなると、れせやゆりなの近くへと身を潜め、暴風をかわしている。もちろん二人を援護してもくれている。
今のとこは、だが。
ただ、れせもゆりなも一ポイントずつしか持っていない。二人の腕から言えば、敵機を一つ撃墜しただけで充分凄いが、それでは自動掃除機まで辿り着けない。
タイムアップまで逃げ切るか、あと一機沈めるしかない。
ゆりながワザとれせにヤラレてくれれば、それでゲットなのだが、和頼は絶対にそんなことは口にしないし、二人もそんな気はさらさらない。
それなら初めからこんなイベントを開く意味などないから。ただ店で買えばいいだけのこと。
妥協せずに必死に挑むれせとゆりな。
他の者達も激しい空中戦を繰り広げている。見ている観客達は、すでに宙を舞うヘリの攻防に呑まれている。
それもそのはず、この状況が嫌でもそうさせている。赤いシールを貼る機体、つまり賞金首の機体を操縦するのは、全て学備学園の子供達だけ。それを別格なほど上手い大人達が追い詰めているのだから、ハラハラして当然。
学備学園の子供達はというと、ギャーギャー喚きながら操作する子、集中して黙っている子もいるし、目と口を開きっ放しの子もいる。
騒ぐ親の隣で、それぞれ必死に操作し、逃げ回る。
「パパぁ、もうダメかも」れせが弱音を吐く。
ゆりなも相当焦っている。和頼は二人の間に入ると、一人ずつ、ひょいっと持ち上げ、右ももと左ももに子供達を乗せ「大丈夫、二人共上手だよ」と声をかけた。
「ホントに? やれるかなぁ」
二人の頭を撫で「ああ、パパが保証する」と笑った。その途端、れせとゆりなの表情が怯えから狩る者へと変わっていく。
そして、二人共にガタガタと震え始めた。
真剣になって体が反応しているのだ。本気で一等を狙っている。子供を乗せた足からその真剣さが直に伝わってくる。
子供の真剣な目ほど可愛いものはない。
圧倒的に強い相手を追いかけるれせとゆりな。残った者達で、一番レベルの低い二人が宙を舞うヘリをかく乱する。そのせいで他の者達がバルーンに接触したり、暴風に流されたりと荒れ始めた。
「やったぁ。パパ、やったよ」
れせがついに模経児を撃墜した。そのすぐ後にゆりなが光徳を仕留めた。
「見てよパパ、私もだよぅ」ももの上でゆりなも嬉しそうにはしゃぐ。
すると、ポイントが自動掃除機に達したのを理解したのか、皆の遠慮が消えて、一気に二人へと襲いにきた。
れせもゆりなも、和頼のももの上でバウンドしながら、ビャービャー騒ぎ逃げ回る。しかし思いのほか、すぐには撃墜されない。それどころか、たまに反撃して、なかなか上手い空中戦を繰り広げている。
目の前でラジコンヘリがバトルをするとこんなにも迫力があるのかと、和頼も、そして会場に居る観客達も興奮していた。
空を自由に飛ぶ物の不思議さや優雅さに、どんどん魅了されていく。
カッコいい飛行がある度、何度もどよめきが起こる。
ヘリの数が減り、ごちゃごちゃさが解消されたことで面白さが数倍増している。子供のおもちゃでこれなら、ドローンなどを駆使した本域の競技にしたらとんでもないことになるであろう。
『さぁ、残り一分となりました。果たして何機が生き残れるか? 全てを撃墜した最後の一機として優勝をもぎ取れるか』
激しさを増しているが皆ギリギリで踏ん張る。
白いシールの機体は、新谷と邦茂の二機だけになっていた。それ以外はすべて、虫取り網の餌食となった。そして赤シール機は、れせとゆりなと卓賭の三機だけ。大護と陽時は新谷と邦茂に撃墜された。
と、ついにゆりなと卓賭も撃墜されてしまった。残りは三十秒ちょっと。
必死に逃げるれせ。それを挟み打つ新谷と邦茂。
と、邦茂がれせを素通りし、新谷へとアタックを仕掛けた。意表を突く攻撃に、新谷の機体が一気に網ゾーンへと落とされていく。
「よし来た。おりゃ」
ホスト集団が一斉にジャンプし飛び掛かる。花澤麗路と時雨明の網が、ぶつかりながらも新谷の機体を捉えた。
「やりぃ。ゲット~」
悔しそうにへたり込む新谷。場内にはれせと邦茂のヘリがグルグルと回る。
まさに一機討ちの勝負だ。
先程まで二機に追われていた時と違い、向かい合うように飛ぶ。
そしてれせが先に仕掛けた。れせのアタックをかわした邦茂が、通過したれせの機体を追う。今度は邦茂がバックから攻撃する。だが、れせが物凄く低空飛行し、網を持つ者達のテリトリー内を飛ぶ。
邦茂がそのことに気付いた時には、すでに遅かった。
襲いくる網の猛威。上昇したいが、縦の動きをする余裕などない。
逆に床スレスレを縫うように逃げ回る。
邦茂のヘリに、網を持った者達が群がり、上から被せるようにバシバシと音を立てて襲いくる。完全にれせの作戦が勝ちだ……がしかし。
「五、四、三、二、一、ゼロ、タイムアップ」ホイッスルが鳴り響く。
邦茂はギリギリの所で逃げ延びた。もう少しでれせの単独優勝であったが、そう簡単にはさせてくれない。
「あ~ぁ。もう少しだったのになぁ」
れせの作戦に感心し、和頼は頭を撫でる。れせも嬉しそうに甘える。
観客も、れせの低空飛行の機転に、自分もそういう策に負けないように勉強しないとと反省しつつ、虫取り網の嵐の中を逃げ切った邦茂にも驚いていた。
新谷も、自分もあの野球やゴルフのフルスイングするような網を潜り抜けられていればと、羨ましく思うが、新谷の場合は、アタックを受けてコントロールを失っていたから、同じように避けるのは不可能に近かった。
それぞれが感想を抱きながら余韻に浸る。
第一試合のラジコンヘリバトルが終わり、係の者へとポイント用紙を提出する。
「美輪さん。次の試合の用意には、時間が掛かりますけど、お昼の方はどうしましょうか? そちらも用意させますか?」
井辺の問に、即答せずに少しだけ考える和頼。
電動一輪車の速度検査やコースの整備、傘などの安全確認などの流れを計算する。もちろん第一試合のポイント集計や様々なチェックもあるしと。
「そうだね、お昼の用意も徐々に進めて下さい。足りない分の買い付けは、済んでいますか?」
井辺が頷き書類を見せる。紙にはパンやおにぎりなどの個数が記されていた。
和頼のチェックを受けると、急いで去っていく井辺。いつもと違ってイベントの進行が上手く回らない。
ほんのちょっとの歯車の不具合で、何もかもがかみ合わなくなる。
和頼の元に邦茂と良治が挨拶に来て、最後まで生き残ったれせを褒めると、またどこかへと去って行った。
学備学園の親達は、第一ゲームの結果を見て、美輪家に挨拶に来る余裕もなく、もう一度交渉や取引に入る。
すると和頼の元へ誰かが歩いて来た。
「お久しぶり、和頼。お弁当の用意を始めていいのよね?」
「お久しぶりです梓さん。そうですね。今すぐ食べる訳ではないですけど、次のゲーム前に食べることになるかも」
和頼は数ヵ月ぶりに会う梓の姿に驚いていた。
まるで病気にでもかかってしまったかのような弱々しい姿。一緒に暮らしていた時は、ふっくらとして歳より遥かに若く見えていたが、今ではその見る影もなく、痩せ細り髪の毛もロマンスグレーに。
何か不幸なことでもあったのかと思う和頼。子供達も星丘も梓の変貌ぶりに驚きを隠せないでいる。
と――。
「そうそう、和頼、この人が今一緒に暮らしている方で――」
梓の後からひょこっと姿を現した老人が、和頼に深くお辞儀する。
和頼も立ち上がって挨拶を交わした。
ぼそぼそと小声で話すその老人を見て、和頼ははっきりと分かった。梓は病気や不幸なことがあったのではなく、むしろその真逆だと。
二人共、とてもよく似た感じの老い方なのだ。二人で築いた生活に順応したのだろう。ゆっくりと穏やかに、優しい時間を過ごしているに違いないと。
梓だけを見た時には、不幸な何かがとしか感じなかったが、二人が揃うと、幸せだからこそそういう感じになったのだと分かる。
特に女性は、相手色に染まるのが得意だし、この数ヵ月、同じ物を食べて、同じテンポで歩いているのだとはっきり分かった。
子供達と星丘は、イマイチ分かっていないようだが、瞳と二人暮らしをしていた和頼には、女性が変化するという出来事が少しだけ理解できた。
挨拶を終えると、梓とその老人は二人で仲良く去っていく。
子供達とは軽く笑顔を覗かせただけで、会話はなかった。和頼は、子供達と梓の関係性は薄かったのか……と考え深げだ。
「パパ、梓ばぁ、ヤバかったね。……別人みたいだった」
和頼はとりあえず頷いてみせた。今が幸せという仮説はせず、梓の年齢時計が、一気に相手の針に追いついたことを純粋に驚いてみせた。
幸せの形は傍から見ても分からない。様々な見方をして初めて見えてくるモノもある。梓のあの姿は、きっと……いや絶対、幸せの姿なのだろう。
和頼はそう本気で思った。
透子が、恵に頼まれて持参した、子供達の衣装をどうするのかと聞いてきた。
「まだ着替えは平気。先にお弁当食べることになるから、汚れると大変だし」
頷く透子。
和頼は会場内を見渡す。至る所で取引や交渉が行われている。そんな中、口論をしている者達もいる。
運動会の日にもそんな光景があったが、負けず嫌いが多いのか穏やかじゃない。
子供達と雑談しながら、しばらく様子を見ていると、和頼の元に、あの女優達が近づいてきた。見知らぬ者を一人引き連れて。
「ワルツ君、紹介するわね。この方が私達の助っ人、影脇よ」
「初めまして、影脇助貴といいます。現場では、スタントなどの裏方をやらせてもらっています」
影脇助貴。三十歳。元レーサーで、今はあらゆるアクションスタントをこなす。特に乗り物などを使わせれば彼の右に出る者はいないと言われている。
だが、今の世はCG、つまりコンピューター時代。スタント職も不況ではある。
「どうワルツ君、参ったでしょ? 彼は業界で脇助伝説というドキュメントドラマになるほど有名な裏方職人よ」
女優達が口々に影脇を絶賛する。和頼はただ黙ってそれを聞いていた。
「美輪さん。悪いけど、僕も仕事なので手は抜きませんよ。お嬢ちゃん達には悪いけれど、ここは本域で勝ちに行きますから」
影脇の言葉に和頼の目の色が一気に変わる。物色するように、下から上へと影脇の身体を見定める。そして、微かに何かの危険を嗅ぎ取った様子を見せる。
「いいでしょう。それなら、私も参戦して直々に子供達を守るまでです」
和頼の言葉に、またもネットをチェックしている者達が騒ぐ。そのどよめきに、他の者達も「なになに」と感染していく。場内の空気が波立つ。
和頼の参戦。
かつて、流れるプールでの水上バイクでも似たようなことがあり、参戦した和頼だが、皆の記憶で一番印象に残っているのは、今から二年前、瞳が永眠した年に、落ち込む和頼を励ます為に、何か気分転換になるイベントはないかと試行錯誤した結果、和頼が兼ねてから興味を持っていた、武器による武闘大会を開催した。
ルールは簡単で、ありとあらゆる得意武器を持ちより、それらで誰が一番強いかを競い合うというもの。ただし、武器の強度は最高でも木製。
全ての武器は、基本、相手の防具が割れない威力に設定する。そして、先端の尖った刃物や弓矢などは、刺さらないように加工しなければならない。
試合は、一本かドクターストップのいずれかで、判定はない。
それぞれが、自作の武器と防具を身に付けその大会に参加した。当然、美輪家の子供達は不参加だし、普段イベントに参加するような者達も一人も居ない。
参加者はすべて、その道で鍛えた我流の者達。そして、武器使用だと謳っているのにも関わらず、空手や拳法や総合格闘技、柔術の達人なども参戦してきたのだ。名誉と賞金額に釣られてだろう。
有名な選手などもいて、とても華やかだったが、試合が始まるやいなや、会場はあまりの残酷さに静まり返った。
この大会で、素手で挑み、更に防具も身に付けていない、空手家や拳法家や柔術家は一瞬で血塗れになりタンカーで運ばれた。
木刀が腕をへし折り、鼻を突き潰す。ヌンチャクが耳を裂き、肋骨を砕いた。
それでさえ、頭部に振り下ろさなかっただけ、相当手加減しての結果だった。
見ている観客はこの結果が、最初、信じられなかったようだ。百九十センチ以上ある有名な格闘家が、あっという間に血塗れに沈む姿。
だが、すぐに気付く。この戦いに殴り合いなどないと。
そして生身の体でのガードなど無意味だと。
武器同士の戦いで、防具の上からでもその痛みで悶え転がる姿に、改めて武器が何なのかを理解する。
武器とは、人が狂暴な動物をも仕留めることのできる、唯一対等になれる物。
木製とはいえど、老人が振り下ろす攻撃でさえ生身の頭部で受ければ即死だ。ガードした腕など一撃で折れる。というより剣道での小手は元から一本だ。
鍛えた体さえ簡単にへし折る。武器とはそういうもの。
野生動物は鋭い牙があり、手には無数のナイフがあり、草食動物でさえも、角やハンマーのような蹄を持っている。
あの猪の突進や牙や蹄……。
和頼にとって、相手がナイフを持っている程度では一ミリも揺らがない。
恐れさえない。
獣の爪や牙を防ぐことの難易度に比べれば、簡単な算数レベル。
ただし、それはあくまで、相手がただの殺人鬼の場合で、鍛え抜かれたプロの殺し屋でないことが条件だが。
和頼は、大会参加者内で、素手の格闘家達についで、最も軽装な防具で挑んでいた。ラグビーなどで使用するヘッドギヤに額当てを付けたような簡単なもので頭部を守り、体に関しても、インラインローラーなどで身に付ける防具を、服の内側に着込む程度。
上手くプロテクターに当たれば、苦痛で済むが、腕や足の内側や顔や首、さらに横腹などががら空きだった。
和頼の場合は、あえて自分に課した軽装であった。
和頼の第一試合の相手は剣道の達人であった。それは凄まじい戦いで、二年経った今も、未だにマニア達が名勝負だったと、映像を独自解説する。
勝ち進んだ和頼の第二試合の相手は盾と細長い剣を装備した騎士だった。
組み合わせによって、それこそジャンケンの様な関係性にも感じる強さやもろさがこの戦いの醍醐味で、この騎士の相手が和頼の木球でなければ、きっと決勝まで行けたに違いなかった。
最高防御を誇るナイトに対し、和頼の武器は相性ピッタリだった。
ちなみに和頼の武器は、普段のチェーンに鉄球ではなく、細い丈夫な紐に木球。携帯のストラップの様な丈夫な紐は、逆にチェーンより強度があるように思えるが、完全なる弱点がある。それは、チェーンはムチのように波打ちコントロールできるが、紐は操りづらく木球が先に動くしかできない。
つまり攻撃のパターンやバリエーションが半分以下になる。さらに速度も遅く、持ち手の長さによってしか速度変化できず、右手と左手の紐の長さをずらさないとタイミングを読まれかねないほど危うかった。
しかし、圧倒的な和頼の攻撃に対戦相手達は散っていく。
第三試合は長槍だ。殆ど無敵に近い突き。そしてスネへの攻撃。
和頼の反応がコンマ一秒遅れていたら一本といった鋭さ。
射程距離が、和頼の操る木球の方が長かったことと、逆に長く持った相手の槍の難点が露呈し、投げ放たれる木球の速度や動きなどに分があったことで、ギリギリ勝利を掴む。
大きな差はなかったが、二つの木球をグルグルと回し、身に纏うことで、和頼は攻撃と防御の両方を同時に得ていた。一方、長槍はというと。
似たような攻撃範囲だった為、間合いに突出しているはずの長槍の利点が消え、防御の面での差が勝負の分かれ目となった。
そして準決勝、和頼はここであえなく敗退する。
相手はスリングショット、いわゆるパチンコといわれる武器。木製の弾丸を放つガンマンで、その腕も並ではなかった。
必死に粘り試行錯誤するが、圧倒的な武器の差にハチの巣状態にされ、弾丸を受けた指の骨を三本も折られてしまった。
相性は最悪だった。
これがもし、盾を持つ騎士であったなら、ものの数秒でガンマンを仕留めていただろう。だが、これもまた運命。全ての武器には向き不向きの相性が存在しているのは、戦った者も、それを見ていた観客達も気付いている。
傷ついた体で、敗者達が決勝を見守った。
最後の戦いはスリングショットの者と弓道の者だった。そして、互いに撃ちあうその一射が相手を捉えるが、球数に物を言うパチンコを弓矢が打ち抜く。お互いの防具と球と矢の違いが勝敗を分けた。
誰もが優勢と思っていたスリングショットがパワー負けしたのだ。
そして、武器最強は弓だということが決まった。
この大会でジャンケンのように、それぞれの武器に相性があることもはっきりと分かった。
巷では、第二回を開催して欲しいと願う声があるが、和頼はもう開く気はない。和頼の中で全ての武器の特性がある程度分かり完結してしまったのだ。
そして、やはり行きつくのは弓が最強だとも思うようになっていた。だからこそ人は銃を使うのかと。
実際の武器ではまた細かな違いが出るであろうが、この武器の大会の各試合では、頭で思うのと全然違う結果が幾つもあった。決勝にしてもそうだ。どう見ても弓が不利だと感じたが、いざ戦うと、拳銃とライフルのような特性の違いがあり、その差が上手くハマって弓が勝利した。
回数を重ねれば、勝敗は何度もひっくり返ると分かる。
だからこそ一回で終了なのだ。
敗者はこの大会で戦死したのだと諦めてもらうほかない。
イベントには、見たこともない武器から有名な物まで揃い、その殆どが、最高のパフォーマンスをみせていた。
ハンマーやムチなども相当強いと分かった。
他にも珍しい武器が幾つも強さを発揮し、この大会を目にした者達は独自の理論を論じ、最強武器が何かを語るようになっていた。
それと同時に、素手で戦う無意味さを知った。
そんなモノは強さでもなんでもないと。
影脇と向き合う和頼を皆が見つめる。
二年前に戦ったあの光景が目に焼き付いて離れないのだ。二つの木球を大道芸の様に操り、そして敵を華麗に仕留めた強さを。
ヨーヨーやけん玉の様に、お手玉や投げ縄のように、そしてダーツや投石。
和頼が自在に操る木球や紐技が、皆の心を射抜いていた。
それでも、チェーンや鉄球の時に比べれば、遥かに技は少ない。
さらに言えば、和頼の真骨頂は、鉄球四つを同時に操る技だ。
どんなモノでもそうだが、練習を重ねた者だけに許される神業がある。
ジャグリングや、リフティングのフリースタイルにしても、あらゆるスポーツもダンスも音楽も、それこそ車やバイクにしてもそうだ。
それらは時として人を魅了する。
和頼という名のカリスマが参加するのかと皆がソワソワする。
子供達を遊ばせて、遠くから見守るのではなく、子供と一緒に参戦するのかと。
列車の中で、マジシャンの四季流が美輪家のファンだと言ったのは嘘ではなく、紛れもなく憧れだ。人前に立ちたい、そして目立ちたいと思うような者にとっては、ごく普通の者が感じる以上に感性を揺さぶられている。
「パパも出るの? 本当に? 一緒に遊べるの? やったぁ」子供達が喜ぶ。
「それじゃ、俺も用意しないとな」
そういうと、和頼は子供達を連れて会場内を後にした。




