始まりの星空
とある冬のとある地方にある国の大きな駅。大勢の人が行き交う大きな駅。丁度夕暮れ時で会社帰りの人や学校帰りの人で溢れている。僕は自分が乗る電車を待つ間改札近くの椅子に座ってその光景を眺めている。日本にいる時はこんなにも人がいるなんて考えてもいなくて、始めは驚きで立ち尽くしてしまった。それと同時に世界にはこんなにも人がいるのだと実感した瞬間でもあった。今でもその時の驚きや衝撃を忘れられず、これから行く先々でどんな人に出会えるのだろうとワクワクしている。
そんなことを思っているうちに列車の時刻になったのでホームへ向かい列車に乗る。これから街の外に向かうのもあってか人は大分少なくスムーズに座ることが出来た。しばらくして列車が発車し、夕闇の中を走りだした。その車窓から見える夕日に染まる古い街並みがとても美しく見えた。そうして景色を堪能していると向かいの席に座っているお婆さんが声をかけてきた。
「君すごく若く見えるけど幾つ?」
と聞かれたので
「26です。」
と答えた。
「まぁ、そうなの。まだ若いのに1人で旅行?」
「はい。色んな国に行っていろんな人に会ったり、色んな風景を見たくて。」
そう答えるとお婆さんは最初は驚いた顔をしたがにっこりと優しく微笑んだ。それからお婆さんと色々な話をした。どこの国から来たとかお婆さんのお孫さんの話なんかを。気がつくと窓の外は陽が落ちていた。窓の外の暗闇の中にキラキラと大小様々な星が輝いていた。その輝きに見蕩れていると
「この次の次の駅で降りてそこから北へ20分ほど行った所に開けた丘があるから行ってみなさい。街の灯りが届かないから星が綺麗に見えるわよ。」
とさっき見せた優しい笑顔でお婆さんが教えてくれた。
「そうなんですか。じゃあ行ってみます。教えてくださってあ
りがとうございます。」
そしてお婆さんが言っていた駅に着き、お礼を言って席を立とうとした時、
「あ、待って。これを持って行きなさい。何かあった方がより星を楽しめると思うわ。それに雪が降っていなくても丘の上は寒いからこの水筒も持って行きなさい。中には暖かい紅茶が入っているからきっと暖まるわよ。」
と言いながら布の袋に入ったクッキーと蓋がコップになっている小さな水筒をくれた。
「え。水筒なんて頂いていいんですか。お婆さんが困るんじゃあ。」
「ううん。いいのよ。あなたと会えたのも何かの縁ですし、思い出にとっておきなさい。」
そう言われたので申し訳ない気持ちもしたがありがたく頂いた。
そしてお婆さんに改めてお礼を言い列車を降りて改札を出て北へと向かった。季節が冬なのもあり北風が冷たい。早くお婆さんから貰った紅茶で暖まりたいと思いながら歩いた。そんな事を考えているうちに丘の頂上に着いた。一息ついて見上げると空一面に無数の星が輝いていた。
「わぁぁ、凄い。」
僕はその光景にまた見蕩れてしまった。それからしばらく眺めてから丘の上の芝生に座り紅茶とクッキーを広げた。運良く丘の上は風がそんなに強く吹いていなかった。それでも寒かったので急いで水筒の蓋になっているコップに紅茶を注ぎ、飲んだ瞬間体中に暖かさとお婆さんの優しさが広がった。
「あったかい。」
紅茶の温かさを感じながら目を閉じ、故郷にいる母親と密かに恋心を寄せている人を思い出していた。
「母さんと翠は元気にしてるかなぁ。2人にもこの星空を見せてあげたいなぁ。」
そんなことを思いながら僕はしばらく星を眺め、次はどんな人に出会いどんな風景を見られるのかと胸を躍らせていた。