第六話 花園と罪の胸騒ぎ
「うわぁ!ここは!?どうしたんだこれ!?!?王道のバラにプリムラ、フウセンカズラ。ペチュニアにライラックまである!育成が難しいと言われるアルストロメリアまで!?そういえばアルストロメリアってこの国の王都の名前と一緒だよな?国花だったりするのか!?てかこんな最繁期がバラバラの花たちがなんで一緒に咲いてるんだ!?」
「わーわーうるさ…」
「だってこんなにいっぱい…しかも見たことない花までいっぱいあるんだぞ!?」
突如として目の前に現れた花園に思わず興奮を隠しきれずまくしたてる。流石は王宮の庭園。それはまさに花園と呼ぶのにぴったりの場所だった。
「こういうところは本当に似ているな」
「どうしたのってここはユウが作ったダヨ」
「え、俺が?」
「ええ、ユウグレアも花が大好きでしてね。行く先々でいろんな花の種を採取してきてはこの中庭で育てていたんですよ」
それって違法じゃ…、この世界では平気なのか?にしてもやるな…、俺。俺じゃないけど。
「記憶は忘れても花のことはちゃんと覚えてるなんて、ほんとユウらしいよねぇ」
「いやこれはやばいって、花屋でバイトしてるけどこんなの見たことないよ。これはやばいよ」
「ばいと…?なんですそれは」
しまったぁぁぁ…、そうだった、興奮しすぎて失念していた……。うっかりこっちの話持ち出しちゃったよ、これ完全に怪しまれるやつじゃん、やばいやばいほらみんな怪訝そうな顔してこっち見てるようわーーー終わった、いやむしろ豆腐の角にでも頭ぶつけたの?ばりな顔してるよやばい。
「えっとこれはですね、いや違うんですよ何というかほらあれ花屋で倍花をとれるからバイトルー、なんちゃって?あは、あははは…」
って何言ってんだよ俺無理ありすぎるだろなんだよバイトルって仕事探ししてるんじゃないぞ俺!?
「それ普通にダメじゃん、天下の元帥様が何やってんのみっともない……、引くわーマジ引くわー」
「ないネ」
「ないな」
「ないねぇ♪」
「ないですね」
「ま、まさか、元帥様に限ってそんなこと…!してはりまへんよね…?元帥様」
やばいこれはいろいろまずい。なんかごめん、ユウグレアさん。こんなところで信頼がく下がりだなんてまさかユウグレアさんも思ってなかったよなほんっとにさーせん!
「ちょ、ちが!そんな訳ないだろ、ただの冗談だよじょーだん!な、なんだよその訝しげな視線は!!ほんとだって、そんなことするわけないだろ、もー。あは、あはははは…」
「あはははは、ユウ必死すぎ」
「だってそれはみんなが…!」
「うふふ、そないなことほんまに思っとらんですよ、元帥様」
「全く、貴方って人は…」
「せや!せやったら皆はんで元帥様がよく通ってはったお花屋さんと元帥様の花園に行きまへんか?」
「そうですね、ちょうど今日一日だけでも休暇を頂いたことですし、どうせ使うなら少しでも『我らが王』に色々と思い出して頂きたいですしね」
「え、でもみんなのせっかくの休みなんじゃ」
「全く思い出せずに仕事になんないユウに構う方が大変だし~」
「うぐ、それは…」
「ケーキ食べたいダヨ」
「え、ケーキ?」
「燐明の言ってることは気にするな、お前さんの花園で採れるはちみつをふんだんに使ったケーキをこよりが作ってくれるんだがな、それのことだ」
「あぁそういう…、ってさっきから言ってる俺の花園て?」
「あぁ、そのことか。お前さんは仕事の褒美のほとんどを寄付に充てていたんだが唯一自分の趣味に充てるものがあった。それがその花園だ。国の中にいくつかある」
「へぇ、それはまた凄いね、早く見てみたいな」
「ふわぁふ…、あそこはよくねむれるからすき……♪」
まだ寝るのかよ…。
「さぁ、話も纏まったことですしさっさと行きますか。早くしないと日も沈んでしまいますしね」
あ、本当だ。特に気にも留めていなかったが、先程、初めて王都に来た時には既に随分暗かったからてっきり日が沈んだもんだと思っていたがまだ日は落ちていないようだった。
…というより日が落ちてから随分時間も経ってるのに時間の流れが遅い?…そんなまさかね。
お城はどうやら都の中央に立っているようで、都全体はフランスのモン・サン・ミッシェルを思わせるような造りをしている。クリスたちについて下っている途中にも沢山の人たちから声を掛けてもらったり食べ物を分けてもらったりしている。
燐明凄い嬉しそう、なんだかこうしてみると本当に年上にだなんて見えないんだよな~。
「あ、」
「どうしました?」
「そういえばグライスから聞いたんだけどみんな大将なんだよね?」
「そうですよ」
「それがどうかしはりました?」
「そのみんながお城を空けちゃって平気なの?」
「平気だよ、じゃなきゃ遠征なんていけないよ」
「あ、そっか。でもどうして?」
「花石ですよ」
「花石?」
「それでねぇ~、こうやって、とおくのひととおしゃべりするんだよ~」
「あ、電話みたいな感じか」
「でん…?なんですかそれは」
「え!電話を知らないの!?人類の大発明を!?!?」
「だからなんですそれは」
「マジかほんとに知らないんだ…」
文化の違いかな?いやでもまさか電話を知らないだなんて思いもしなかった…。というよりこの世界には存在しないのか。
「本当にさっきからなんなんです?馬鹿にしているのですか」
そう言いながらクリスは不機嫌そうに眼鏡を持ち上げる。
うわっ、やば。今にもカチャカチャしそうな勢いだよ。
「えっと、じゃあ、遠く離れた人と会話するのはどうするの?」
「ですから花石を使うのですよ。たった今ヴィヴィが説明したでしょう」
「あ、花石が電話の代わりになるのか。って今自分でそう言ったのか。やばい混乱してきた」
「むー、ユウったらちっともおはなしきいてくれないのね」
頬を膨らましながらヴィヴィは器用に宙を浮いたままその場でくるっと一回転してみせる。
「あ、ごめんヴィヴィ、そうじゃないんだ。すぐには結び付かなくって」
「それでその『でんわ』とは一体なんなのです」
「えっとー、それは…」
これは言って平気なやつか…?でもここで言わなかったらもっと怪しまれる気がする…、まぁいいや、ええい言ってしまえ!
「えーと、俺の知ってるちょうどこの花石みたいに遠くにいる人と会話できる機械だよ。大抵は俺ぐらいの年の人ぐらいからはほとんどの人が一人一台持ってるんじゃないかな?」
「なるほど、世の中には私たちの知らないものがまだまだあるのですね。それを知っているとは…、やはり腐っても『元帥様』といったところですね」
良かった、どうにか怪しまれずに済んだみたいだ。それにしても……
「いくらなんでもそれは酷くない?まぁいいけどさ」
「今の貴方にはピッタリな表現でしょう」
「うぐぐ」
「まぁ、我々が主に軍事用に使うのは会話の方ではなく遠隔透視魔法の方ですが」
「えんかくとうしまほう?」
「相手の顔を見ながら話せるというやつですよ、その方が正確に物事を伝えられるでしょう」
「あぁ、ビデオ通話みたいなもんか。あ、いや何でもない気にしないで」
「はぁ、まぁいいです。まぁつまり、花石の力で城内にいるものに直接指示を出しているのですよ。ですので旅先でも統括等の業務は大丈夫なのです」
「へぇ、なるほど。そういえば、ウルは何の大将をしてるの?」
「何の大将って…、僕の場合はあくまで行政の一部の統括と大将をやってるだけでその管轄の大将をしてるわけじゃないからね……」
「そうなの?まぁ似たようなもんだろ?」
「確かにそうだけどなんかその言い方だとなんか語弊があるように聞こえる…」
「まぁいいじゃん、それで何やってるの?」
「僕は農作とか環境とか含めた産業だよ」
「へぇ~、その年で産業大将なんてすごいね。経済面絡んできて大変じゃない?」
「別に…、僕が得意なのは水を操ることだから農作とかちょこちょこ手伝ったりしてたんだよ。その辺のイロハを叩き込んでくれたのユウだし経済面はユウが得意だったから……」
「へぇ、そうだったんだ」
ユウグレアさんは本当に凄いな、俺なんて日本の経済なんて考えたこともなかったよ。
「それじゃあこよりは?」
「うちは文化大将をさせて頂いてはります~」
「あー、確かにぽいね!」
「さ、着きましたよ」
「わぁ、ここが!!!さっきより凄いな!わー、見たことない花がたくさんある!」
「まぁ、そりゃあんたが作った花園だしね~。そりゃそうなんじゃない?」
「ふわぁふ…♪」
「うふふ、一息入れましょか。元帥様、はちみつを頂いてもええやろか?」
「え、あ、うん。いいんじゃないかな?」
俺のじゃないから知らないけど…。
「ケーキ!!」
「おや」
「どうした」
「いや、以前からこんな花があったかなと思いまして」
「どれだ?…あぁ、確かに。初めて見る花だな、こんなものあったか?」
「いえ、そのよう記憶は…」
「なにこれなんだか気味悪ーい」
「ひかってるねぇ…?」
「どうしたの?」
「貴方なら何かわかるかも知れませんね、この花はご存知ですか?」
「これは…『ハナズオウ』……」
「流石元帥様やねぇ。うちらも一応花石の持ち主としてある程度お花の知識は持ってはるつもりなんやけど、やっぱり元帥様には敵いまへんわぁ」
「やはりこれだけやけにわざと目立っていますし、何か深い意味でもあるんでしょうか?」
「深い意味?」
「ええ、例えば花言葉などで何か伝えようとしている、とか」
「考えすぎじゃない?」
「だといいんですが」
「花言葉……」
「ユウグレア?」
「ハナズオウの花言葉は確か、高貴、質素、不信仰、豊かな生涯、エゴイズム……あと他に有名なのは、裏切りのもたらす死」
「裏切りのもたらす死、ですか…」
「あ、ごめん…」
しまった、『ラゲナリア』にはかつて裏切り者がいたんだった。このタイミングでこの言葉はまずかったか…?でもこれはなんだか……
「嫌な予感がする」
「同感です」
「なんだろう、なんだかものすごく胸騒ぎがする。ここにいちゃダメだ」
____大変だー!!助けてくれーーー!!!
下か!
都の下の方から聞こえてきた悲鳴に俺が反応した時にはもうみんな準備はできている、といった様子で俺の方を見ていた。皆の顔を見渡し、互いに見合い頷くと同時に俺たちは俺の声を合図に一斉に駆けだした。
お読み頂きありがとうございます。近頃一層寒くなって来ましたね。皆さんお体などは大丈夫ですか?季節の変わり目でもありますのでお気をつけてくださいね^^*




