第二章 第四話 邂逅と花の都
「わぁ…!凄い!!」
大きな門をくぐるとそこには今までのどの『夢』でも見たことない世界が広がっていた。クリスたちに見せてもらったものとは少し違う花石で照らされた街に、花石によって動かされている乗り物や噴水。日が落ち先程より暗くなった街を暖かく光る花が照らすそこはとても幻想的だ。通るたび見かけるどのレストランの厨房でも使われているその火は花石によって作り出されていた。行きかう人々は地上だけでなく、空飛ぶ絨毯のようなもので空をも行きかっていた。よく見るとその絨毯の先にも花石が浮いてるようにも見える。どうやら一般家庭や町、普段の生活使われる花石は団員が持っている物とは違い、動物はおらずただ花がその中にあるもののようだ。
クリスの言っていた通り本当に『花と魔法』の世界なんだな…。へー、そうなんだー、凄いなー程度にしか思っていなかったが花石ってそんなに大事なものだったんだな。
「ユウグレア…!みっともない声を出さないでください。先程も申し上げましたが、覚えてはいなくても貴方は今、『元帥様』なのですからね」
「わかってるよ」
そう答えつつもうきうきした気持ちがこみ上げてくるのを抑えきれずにいた。
「ユウグレア」
「うう、ごめんって」
「全くしっかりしてくださいよ、『元帥様』」
そう、先程から行きかう人のほとんどが俺を見かける度に「元帥様、元帥様」と声を掛けてくれる。なるほど、クリスがここまで念を押すのにも納得だ。しかし、その度にユウグレアという人物がそれほど大きな存在だったんだと痛感させられる。ユウグレアは一体どこに行ってしまったんだろうか…。もしかすると、俺がこの世界に来た時にこの世界にあった身体としてユウグレアが選ばれ、そのことでユウグレアという人物は本当に消えてしまったのかもしれない。嫌な考えが浮かんだが、クリスたちは違和感を感じていない。俺を『ユウグレア』として受け入れている。その可能性は大いにあった。
なんだか本当にそうだとすると申し訳ないな…。
「どないしはったん、元帥様。そないな暗いお顔をしてはりますと皆心配してしはりますよ?」
「こより…、何でもないんだありがとう」
「何でもないならそんな顔しないでよね」
「ちょっと、ウルはん」
「いいんだこより。俺、そんなにひどい顔してる?」
「してる」
ばっさり切るなぁ、まぁ多分きっとそれが彼なりの優しさなんだろうけど。
「…無理して笑ってる顔」
「え?」
ボソッと呟くように言うと、ウルはそのままクリスたちのいる前の方に行ってしまった。
「そんな辛気臭い顔してたらかっこいい『元帥様』が台無しダヨ。シャキッとスルネ」
「むぐっ!?」
な、突然何を口に突っ込まれたと思えばこれは……焼き鳥…なのか?
焼き鳥のような見た目をしているが、身は俺の良く知る焼き鳥よりも赤い。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「……美味しい」
「はは、そりゃここ、アルストロメリア名物のフランマドラゴンの串焼きだな」
「ドラゴン!?」
「ええ、先程うちらがあったんと同じものどすえ」
「あいつはIの影響か凶暴化していたけどな。まぁ、ともかくあの燐明が食べモンを分けてくれたんだ、それほどあいつも心配してるってことだな…。難しいとは思うけどよ、俺たちもちゃんとあんたの傍にいるんだ。安心してくれよ」
最初、グライスを見たときはその風貌からとても寡黙な人かと思っていたがその第一印象とは違い意外にもグライスは気さくな人だった。一人取り残されたような心細さを感じていた俺にとってそれはとても有り難いものだった。
「グライス…、うん、ありがとう。もう大丈夫。こよりも燐明もありがとうね。あと、ウルもーーー!!!……聞こえたかな?」
「ふふ、ちゃんと聞こえてはるみたいどすえ。こっちに向こうて叫んではりますよ。照れてはるのやろか?」
「ふっ、そこは放っておいてやれよ」
「あはは、そうだな」
「それにしても元帥様はほんまに皆はんから好かれてはりますなぁ。うち、あんなに喋りはるグライスはんを見るんは初めてですわぁ」
「え!?いつもああじゃないの!?」
「しー、どすえ、元帥様。グライスはんに聞こえてしまはりますえ?」
「しまはる?あ、あぁそうだね」
こよりの喋り方は聞いていてとても落ち着くがその独特性故聞き取れないことがある。
ニュアンスで何となくわかるからいいけど。
「え、じゃあいつもはやっぱり寡黙な感じなの?」
「ええ、いつもは『そうだな』とか『そうか』などを二言三言言いはる程度で…」
「え!?じゃあもしかして今ってこれ以上ないくらいレアなの!?」
「ええ、正直うちらもびっくりしはりましたわぁ。きっとそれほど元帥様のことが心配やったんやろなぁ。元帥様、今回はどことなくいつもと違う感じやったし」
「そうかな?でもそっか」
こよりの一言に一瞬ヒヤッとしたが、それよりも何よりグライスの優しさが身に染みる。きっと喋るのはあんまり得意な方ではないのに『ユウグレア(おれ)』が不安で一杯にならないように気を遣ってくれてるんだろうな。後ろめたさというか罪悪感はあるけどそれは素直に嬉しかった。
「本当にみんなありがとうね、…ぶっ!?……いたた、クリス?」
悦楽に浸っているといきなりなにかとぶつかったような衝撃がした。どうやらみんなで話しながら歩いているうちに前を歩いていたクリスたちに追いついてしまったようだ。
「着きましたよ」
「お帰りなさいませ元帥様!今回の遠征はいかがでしたか?」
「帰られてすぐのところ申し訳ございません、バーナード総大将様。ネモフィラ王国との外交の件なのですが……」
「あぁ、お帰りなさいませアルクイン国防大将様!お待ちしておりました、こちらの結界なのですが、先日アルクイン様が仰られていた通りに……」
何やらとても大きな建物のようで、中に入るとクリスの言葉が掻き消されてしまうほど沢山の人が待ってましたと言わんばかりに駆け寄り話し始めた。
「驚いたか?ユウ」
「え、あ、うん」
思わず驚きのあまり口をぽかんと開けてしまった俺に、グライスは小さな声で聞いてきた。なんだか一人取り残されているようで心細かったのでグライスが話しかけてくれて助かった。
「あの、グライス、バーナードとアルクインって?」
「あぁ、そうかお前さんは忘れていたんだったな。バーナードはクリスの、アルクインはヴィヴィのファミリーネームだ」
「へぇ~…ってヴィヴィが国防大将!?」
あの『怠惰の罪』を全身で表したようなあのヴィヴィが!?
「おっと…、声は小さめでな?」
「あ、そうだった。ごめん」
「あぁ。それで、ヴィヴィが国防大将だっていう話だったか。ちなみにお前を除く俺たちは皆大将だ」
「え!みんな!?」
「あぁ、俺は大司法大将、ヴィヴィは国防大将、クリスは総大将ってな感じでな」
「へぇ~…みんな凄いんだね」
「あんた程じゃないさ。俺たち『ラゲナリア』は王国軍の中でも独立した特殊軍隊だって言ったことは覚えてるか?」
「うん」
「俺たちは独立した特殊軍隊でありながら普通の王国軍を総括する軍隊でもある」
「え、独立してるのに?」
「あぁ。まぁそれはあくまでも俺たちの仕事の一環だがな。『その担当』は燐明だ。俺たちの仕事は別にある」
「別?」
「まぁ、この世界は『花と魔法』の世界であり、強い奴が偉くなれるいわゆる弱肉強食な世界なわけだ。んで、強い魔法を使える奴がたいてい強い奴になるわけだが、魔力の源は『花』だ」
「あ、そうか。俺たちは他の人と違って『花石』を持ってる」
「そういうことだ。俺たちは強い、この王国では間違いなくトップだ。だから、国のあれこれを色々と任されている。国民は強い奴がやる方がよっぽど安心する。そういう世界だしな。それに、元々ここにいるのは生憎『そういうの』が得意なやつばかりだ。あんたが集めたんだしな、流石だな『元帥様』」
「へぇ…、あ、じゃあ王様は?」
「いるぞ、代々続く王族の人がな。まぁ、王族だからか知らないがよくわからない特別な力を持っていてな…。全くもって使えない弱い奴って訳でもなくてな」
「仮にも自分の主を…」
「いいんだ、俺たちはみんなあんたに惹かれてついてきた。俺たちの主はあんただ」
「っ…」
グライスの言葉の節々から『ユウグレア』をとても慕っているんだということがひしひしと伝わってくる。まただ。また、どうしようもなく、申し訳なくなる。
「まぁ、そんなわけで王様はちゃんといる。でもあんたの力は世界一とまで言われているからな、力が全てなこの世界では実質あんたが王だ」
「まさか」
まさか世界規模になるとは思わなかった。いやまぁ、確かにクリスがこの国は最も栄えているって言ってたけどさ。話が壮大過ぎてついていくのに精一杯だ。それに今の俺にそんな力なんてないぞ?本当にこれから先色々と大丈夫か?
先が見えない不安に押しつぶされそうになる。それでもここに立っていれるのは出会ったばかりのはずのみんながいるからかもしれない。
なんでか初めて会った気がしないんだよな。
「いや、それがそうでもないぞ?この王国では現在『伝統の王』と『力の王』のふたりがいる。それでもうまくバランスを保っているのはあんたの飾らない性格なんだろうな。実際、あんたなら乗っ取ろうと思えば簡単にできるのにあんたはそうしないしな。よく『別に権力なんて興味はない。俺はみんな楽しく笑えてればそれでいいんだ』って言ってたもんな」
「ほら、ふたりとも話していないでさっさと王の元へ行きますよ」
「呼ばれたか…、ユウ」
いつの間にか話を終えていたクリスの後を追い、建物内を進む。
「そういえばここは?」
「はぁ?そんなことも知らず今まで歩いてたの?お城だよ、お・し・ろ。国で一番立派な建物」
「お城!?これが本物か…」
なるほど、道理で大きくて広いわけだ。
「そんなにキョロキョロしないでください、みっともない。さ、着きましたよ。ここです」
赤いふかふかの絨毯の上を歩いていると、灯りを口にくわえた左右に見たことのない竜のような動物の彫刻が施された立派な大理石の扉の前に着いた。
「凄い……」
あれ、でもこれどっかで見たことある…?でも一体何処で?
「てか、今のユウをそのまま王に合わせちゃって平気なの?報告とかどうするのさ」
俺が彫刻の扉に感嘆しているとウルとクリスが何やらこそこそと話し始めた。
なんだ?内緒話か??
「ユウグレア、ちょっといいですか」
「ん?なに?」
「いいですか、今から我々は今回の遠征のご報告のため王に謁見します」
「王様と?」
「そうです」
「でも俺何も」
「ええ、分かっています。ですから、今から私の言うことをして頂きたいのです。それぐらい今のあなたでも出来ますね?」
物凄くいやな予感しかしないお話だが、今の俺にできることが限られているのも事実だ。それに…、この雰囲気は断れない予感…?
「が、頑張ります…」
皆の視線に俺はそう答えるしかなかった。




