第三話 過去ともう一つの罪
十人十色、とはよく言ったものだ。目の前にいる六人は全くと言っていいほど協調性がなかった。一人は異様なほど食べ続けているし、一人はただただ退屈だと言わんばかりに空を眺めているし、一人は相変わらず浮いている。常識人だと思っていたこよりでさえなぜか花と会話している。
いや、花と会話してるってどういうことだよ!冷静に心の中で突っ込みを入れられている自分がこわい。いやこれ人と言うよりなんだか動物のようにさえ見えてきたぞ。うん、まるで動物園のようだ!!
そんな珍獣たちで溢れかえっている動物園のような雰囲気の緩みきったその場を正すように短く二回クラップ音が聞こえた。
「ほら、皆さん。いきますよ」
クリスが手を鳴らすとみんなは自然とまとまった。その光景を見ると、なんだか慣れているんだなぁと思う。全く、さっきまでの珍獣パレードっぷりはどこへ行ったんだ。
「ちょっと、ユウ。早くしないと置いてくよ」
ウルにそう急かされ、俺ははっとしたように六人についていく。
本当にこれでよかったんだろうか。そんな思いが頭をよぎる。
いや…、あの場で路頭に迷うよりはこれでよかったんだ。
「これで、よかったんだ…」
「不安か」
自分にそう言い聞かせるように呟いた言葉は、どうやらグライスの耳には届いていたようだ。
「グライスさん…、うんちょっと」
「はは、“グライスさん”ね。あんたにそう言われたのは何年ぶりかな」
「あ、ごめんなさい…」
「気にするな、グライスでいい。あと俺に敬語もなしだ、“元帥様”」
「…じゃあ、グライス。そういえば俺たちは王国軍に所属してるって言ってたけど、普段はなにをしてるの?」
「……戦争だ」
「戦争!?戦争なんかしてるの!?!?」
「僕たちも別にしたくてしてるわけじゃないんだけどね」
「…『七つの大罪』はもともと『七つ』ではなく『八つの大罪』だった」
いきなり何の話だろう?戦争と何か関係があるのだろうか。そう戸惑いながらも聞き覚えのあるその言葉に反応する。
聞いたことがある。今の『七つの大罪』ができる前は『八つの大罪』とされ、確か嫉妬の代わりに…
「確か『嫉妬』の代わりに『虚飾』と『憂鬱』がいたんだっけ?」
「正確には違いますね。『嫉妬』の代わりというよりかは『虚飾』は『傲慢』へ、『憂鬱』は『怠惰』へとそれぞれ一つの大罪となり、そこへ『嫉妬』が追加されたという感じでしょうか」
「一つに…」
「まぁ、現実の出来事がそんなうまくできているはずがありませんが」
「…それでも、似たようなことは起きてしまった」
「似たようなこと?」
「もともと私たちも貴方に集められたときは『七つの大罪』ではなく『八つの大罪』だったのですよ」
「えっ、」
「…僕が『ラゲナリア』に入る前……、ユウに見つけてもらう前の話だよ」
「俺に…?」
「そう、元帥様、あなたにね。だから僕も昔の『ラゲナリア』、『八つの大罪』だった頃のことはあまりよく知らないんだ」
「えっ、そうなの?」
俺とウルが説明を求め、クリスの方を見やると彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「…話すのは全くもって気乗りは致しませんが、元帥たる貴方に話さないままというわけにもいきませんし、団員であるあなたにも知る権利はありますしね、ウル」
何処から話せばいいのかわからない、というようにクリスは形にしようとした言葉を何度も飲み込む。あんなにきびきびと喋っていたクリスがこんなに歯切れが悪くなるなんて……。そんなに深い事情でもあったのかな。勘違いから始まったことで元帥としてここにいるとはいえ、見ず知らずの人たちの深い事情を赤の他人である俺が聞いてしまうことに気が引けると同時に、興味本位で聞いてしまったことに早くも後悔していた。
「昔、『ラゲナリア』には二人の男がいた」
そう答えたのはグライスだった。クリスに代わり口を開いた彼だったが、彼の口もまたクリス同様にとても重そうだった。
「馬鹿な男たちネ。あんなに身勝手なことして……、次あったらただじゃおかないヨ」
俺たちの前方を歩いていた燐明が我慢ならないというように言った。先程の彼女からは想像もつかないような顔をしており、思わずゾッとした。
…あれ、でもなんだか悲しそう?
「一人はマッドサイエンティスト」
「「マッドサイエンティスト!?」」
「…これはまたなんというか、流石ユウの選んだ人だね…?」
なんだろうそれ、俺のことじゃないけど全然嬉しくない。
本当にこれはまた、としか言いようがない予想だにしていないぶっ飛んだ事実が伝えられた。
「そいつは薬学及び医学の天才でな、王国どころか世界一の医者だった…。が、ユウもどこから連れてきたのか謎だらけの奴でな、他の団員との折り合いもとてもいいとは言えなかった。まぁ、医者や薬剤師としての腕は確かなんだが……毒愛好家で、そういう危険物ばかり作っては『人類の進化のために不可欠な実験なのです!』とか言いながら人体実験をしちまうような困りモンだった」
いやそれ普通に凶悪犯罪者じゃ…。
「だが腕は本当に確かで、実際に人類の進化に貢献するような新薬とかもたくさん作ってたもんだから王国も手を焼いててな。そこでユウグレア、お前がそいつが引き取ったんだ。『憂鬱の罪』ユハ・ミロスラフを」
「アレは白衣の下にメスやら注射器やらを潜ませてるただの変態ヨ」
えっと、それは…。
「変に歪んだ度の合っていない丸渕眼鏡にぼさぼさ頭、薄汚れた仕込みだらけの白衣と本当にどうしようもない見た目の人でしたが、空気中にある粒子を化学式化して攻撃したり毒を生み出したりとその天才的な頭脳だけは確かでしたよ」
「なんかここまでボロクソに言われると逆に可哀想だね…」
とりあえず中身と外見は一旦置いといて天才だってことはよくわかったが、なんだかウルが言う通り本当に可哀想だ。
「もう一人は……」
「……?もう一人は?」
「……“I”、得体のしれない男だ」
「えっ!“I”!?」
俺はその人物を知っている。
「え、なにユウ、知ってるの?…じゃなかった、覚えてるの?」
知っているも何も、つい最近その名を耳にしたばかりだ。しっかりと、この耳で。
まさかあの夢とこの夢が繋がっていたなんて…。
俺が見る夢はいつもバラバラでもう一度同じ『夢』に『入る』なんてことは初めてだった。
いや、まさか。まさか、な。そんなはずはないか、きっとただの偶然だ。
「黒いマントの、リコリスの男…」
俺がそう言葉にした瞬間、その場の空気が変わった。俺とウルを残して。取り残された俺らは他の団員から次の言葉が発せられるのを固唾を呑んで待っていた。
「あれは“虚”どす、そこには何もあらしまへん」
一番初めに再び口を開いたのは今まで黙ってみんなの話を聞いていたこよりだった。
「“虚”?」
「ええ、そう表現する他ありません。あれは本当に何もわからないのです」
「なにも?」
「ええ、本当の名も、その正体も能力も何もかも。ユウグレア、貴方以外の者は誰も、何も。貴方の判断に異議をなすつもりはありませんが、正直あの者を団員として迎え入れたことだけは理解し難いです」
「そんな人たちがいたなんて…」
「あの、結局その二人は…」
いまその二つの『罪』が存在しないということは『憂鬱の罪』のユハと『虚飾の罪』“I”、その二人は今……
「死んだよ、ユハは」
「えっ」
「“I”の手によって、な」
「団員同士の殺しはご法度です」
「彼はその掟を破り、何処かに姿を消した」
「……だけならよかったんだがな」
「まだ続きがあるの?」
「あぁ、そいつがある日沢山の反王国側の人間を引き連れてやってきた。それが7年前の出来事だ」
「僕が『ラゲナリア』に入る前、でこの大戦争の始まり…」
「あぁ、あとはお前も知っての通りだ。奴は今も王国に不満や反意を持っている奴らを集め、日に日に勢力を増している」
「今日も僕らはその反王国側の勢力を鎮圧するためにここまで来たしね、本当やること一杯で参っちゃう」
「泣き言ばかりも言っていられませんよ、こうしているうちにもIは人々の心の“虚”の部分を利用して勢力を増やしているのですから」
「…なんでIは王国に反旗を翻したの?」
「それは……」
「わからしまへんのどす」
「わからしま…あ、あぁ、わからない?」
「ええ、当の本人は世界の秩序を保つため必要な『革命』だ、と言っていましたがね。私には何時まで経っても彼の考えていることが理解出来ません。まぁ、理解したくもありませんがね」
「言ってることとやってることがめちゃくちゃネ」
「うふふ、“しろ”はしんじつをしっている……♪」
ヴィヴィ?クリスがそう言うとヴィヴィはニコッと笑うだけだった。
うう、なんだ?ヴィヴィの笑顔が物凄く、恐い。
顔は笑っているのに目は全く笑っていなかった。全て知っているんだぞ、と見透かされているようで心がザワザワする。思わず彼女から目を逸らしてしまった。
「兎に角、彼の真意は分かりませんが今も王国の何処かで争いの種をばら撒いているのは確かです」
彼は本当にそんな人だったろうか…。俺の見たIは何というか壊れ物を扱うようで、でもどうしようもなくて悲しんでいる、という感じだった。
俺が見た“I”とみんなの言っている“I”は違うのか?
「まぁ、なんだっていいけど。僕たちは王国を守らなくちゃ、『ラクリマ』から」
「あんな話聞かされた割にやけに平然としているな、あまり興味はなかったか?」
「そういうわけじゃないけど…。でもだからと言って僕たちのやることが変わるわけじゃないじゃん」
「ふふ、ウルはんは大人やねぇ」
「む…、なに子ども扱いしてるの?」
「ふっ、実際お前さんはまだ子供だろう」
「もう!」
「あ、あの!」
「どないしはりました?元帥様」
家族のように楽しそうに和気藹々としているところ申し訳ないがどうしても気になるところが一つある。
「あ、えっと、『ラクリマ』って…?」
「あぁ、元帥様は忘れてしもたんどしたっけ?『ラクリマ』っちゅうのは、Iが率いる革命軍のことどすえ」
「ふん、なにが革命軍ですか。そんなのただの自称でしょう」
「まぁまぁ。まぁ確かになんで革命軍なんて名乗っているのかもわからないしな…。今の王国がそこまで国民に反感を買うようなことしたわけでもないと思うがな」
「本当に何もわからないんだね…」
「ふふ、それはちゃいますよ、元帥様。『わからない』ということがわかってはりますよ」
「『わからない』ということが?」
「ええ、せやからそない気落ちせいへんでくださいな」
「あぁ、そうだね」
見ず知らずの世界で戦争に巻き込まれ、挙句の果て戦争の原因が分からないという思った以上に大きすぎる俺の不安を軽減させる為に言ってくれただろう、こよりのその言葉が彼女の独特の喋り方も相まってか心が軽くなった気がした。……まぁ、彼女は『元帥様』である俺に対して言ってるんだろうだけど。
「あ」
「どうしたネ?」
「あ、いや。ふと思っただけなんだけど」
「なにダヨ?」
「『ラクリマ』ってさ、どういう意味なの?」
「あぁ、そのことですか。革命軍は皆、白塗りに黒い涙のお面を着けていることから『涙(lacrima)』と呼ばれるようになったのですよ」
「なるほど…」
夜の帳が下りるのを知らせるように、闇のように黒い烏がどこか寂しそうに鳴く。その烏も俺たちを一瞥すると何処かへ飛んで行ってしまった。
「おや、話し込んでいるうちに随分と日が沈んでしまいましたね。今日はここで休みましょうか」
「そうやね~、ほなさっさと準備しちゃいまひょか」
団員たちがテキパキと準備をしてくれている。
俺に手伝えそうなことは…ないですね、はい。なんだろう、初めて会ったはずなのにこの人たちといるととても安心する。
初めて出会ったはずなのに今までずっと共にしてきたような安心感に今までずっとあった不安も少しは軽くなった気がした。
この人たちと一緒なら少しはこの不安だらけの『夢』も少しは楽しめそうだな。
そう思いながら見上げた夜空には恐ろしいくらい白く輝く満月が王者のようにそこに居座っていた___。
そして五日後__
「さ、いよいよ目的地に着きましたよ。ここが王都・アリストロメリアです。貴方はこの王国の『元帥様』なのですからシャキッとして下さいね、ユウグレア」
大きく聳えるそれの門の前にすると、クリスの言葉も相まってかなんだか緊張してきた。
『夢の中』でうまくやっていけるのか、不安で溢れているが何故だか不思議とこの人たちと一緒なら何とかなる気がしてきた。
俺のこの『夢』はまだ始まったばかりだ____。
お読みになって頂きありがとうございます。更新がだいぶ遅くなってしまい申し訳ありません。趣味として始めたこの小説ですが読んで頂いている方がいると知りとても嬉しいです…!ありがとうございます!少しでもこの世界観を楽しんで頂けたらなぁと思います。これからは定期的に上げられるよう頑張りますので引き続き読んで頂けると嬉しいです^^*
ここまで読んで頂きありがとうございます。拙い文、失礼しました。




