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八つの大罪と七年戦争  作者: 月乃
鏡合わせの花たち
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第六章 第十六話 虚飾の夢と走馬灯

ここはどこだろう。周りには俺の見たことのない景色が広がっている。いや、覗くといった方が正しいのだろうか。辺りを見渡していると、突然、暗い闇の中にぽつんとまるで映画のようにある光景が映し出される。

これは…Iの走馬灯?

 そこにいたのは俺が知っている王よりも随分と若い姿の彼ともう一人、薄汚い白衣を身に纏い、変に曲がった丸渕眼鏡をかけたぼさぼさ頭の男性。

あいつは…?それにここは何か研究室かどこかか?

『ユハ・ミロスラフ!ついに完成したとかなんとか』

『ああ、国王陛下。よくこんなところまで…!ご足労いただきありがとうございます』

やっぱり…。

ユハと呼ばれた男性は恭しくお辞儀をすると王を何か薬品箱のようなものの前に連れて行った。

あれは…薬?それにユハ・ミロスラフって、あの『八つの大罪・憂鬱の罪』ユハ・ミロスラフのことだよな?

確かユハはマッドサイエンティストで薬学の天才だったとグライスが言っていた。

あれもあいつが作ったのか?

『これがそうか…』

『ええ、これさえあれば敵なしですよ!私の自信作なんですけどね!これを撒けばあっという間に軽くて嘔吐や眩暈、普通の人間族ならまぁ一分も持たずして呼吸困難や全身痙攣などを引き起こして死んでしまうでしょうね!!あの頑丈な巨人族ですら十分もこの毒を吸い続けていたらあっという間にお陀仏ですよ』

な!?そんなのを世界屈指の大国が持ってたら洒落にならないぞ!!

『くくく、これさえあればこの世界は私のもの…』

得意げに語るユハに満足気な国王。こんなものが本当に出回ってしまえば大惨事どころの騒ぎではない。

これじゃまずい…。

『喜んでいただけましたか?王よ』

『ああ、もちろんだ!褒美は弾むぞ』

『有難き幸せ…。それにしてもまぁ、Iくん?盗み聞きとは、感心しませんねぇ』

え、I!?全体を見ている俺ですら気が付かなかった…。あ、でもそうか、これはIの走馬灯なんだから当然Iの見たものになるんだよな。それなら見れないのも当然か。

『な、I!貴様何時からそこに!?』

それからはあっという間だった。ユハがIと対峙するもIの圧倒的強さの前にユハはIに敵わなかったこと。そのユハが作り上げた毒薬をIが“虚”にするものの、王が残り一つを持ち去ってしまったこと。その王がさもIが反逆者であるかのように仕立て上げユウグレアたちを呼んできたこと。それにより国から逃げ、王が二度とその薬を使わないように、そしてその最後の毒薬を今度こそ葬る機会を伺っていたこと。Iが辿ってきたすべてを見て驚愕した。俺が驚愕していると、目の前の映像が大きく変わった。

「これは…?」

そう呟きながら映像に触れると画面に映っているイメージが一斉に俺の中に流れ込んできた。

「何、これ…」

 突然飛び込んできたそれに思わず目を瞑るもそれは一瞬のことだった。再び目を開くとそこにはまた俺の見たことない景色が広がっていた。

これは王…?と、誰かが話している?これはIの走馬灯じゃなさそうだな。だとするとこれは一体だれの?

その疑問も走馬灯を見ていくうちにすぐにわかった。

そうか、これは王の…。

Iが王を斬った時、Iもまた俺同様王の走馬灯を見たのだ。

Iが見た王の走馬灯…。

それは王が辿った偉大なる人生の数々を鮮明に教えてくれた。

これは…?

しかしそれは皮肉にも同時にそんな偉大なる王が道を踏み外した瞬間も教えてくれるのだった。そしてついにその時が来た。

あれは王と…誰だ?話している相手が全く見えない。…?何か聞こえる?

かすかだが王の話声が聞こえる。

他は鮮明に聞こえたのに何でここだけ?

何かを隠すかのように霧がかかってしまいなかなか聞こえない。かすかに聞こえる声に耳を澄ませる。

『ああ、神よ。ええ、……………はい……毒、ですか?……それさえあればこの世界を支配し平和にすることが出来るのですね。…はい、必ずや』

神?毒?一体何のことだ?

もっと聞こえないかと耳を澄ますも、そこで強い光が辺りを包み、俺は元の映像を映す画面の前に戻されてしまっていた。

まさか…。

 そこまで来て俺の中で何かが繋がった。

王は『初めの夢』の時、世界を平和にって言ってた。それに今だって。それに神って…。もしかして王はこの世界を平和にするために毒という力を使って支配しようとしていた…?そんなの間違ってる。

王は方法こそ間違ってはいたものの世界の平和を願っていた。そこに悪知恵を吹き込んだ者がいた。

それが神…?全ての黒幕は神だったっていうのか?もしかしてIもそれを知って…。

そう、Iは世界を守ろうとしていたのだ。たとえそれがユウグレアたちとは正反対のやり方だったとしても。その思いは一緒だったのだ。

俺は勘違いをしていた…。多分、皆も。

いや、ユウグレアは唯一それに気が付いていたのかもしれない。

何より驚いたのは、Iはユウグレアから生まれた存在だったということだ。ユウグレアの数々の苦悩から生まれた、ユウグレアの悪い『夢』。彼の“虚”からIは生まれたのだ。そう思えばIとユウグレアの数々の不可解な部分にも納得ができる。だからこそユウグレアは唯一彼の思惑を知っており、今日この日この機会まで彼を待っていたのかもしれない。

 そして、Iがユハ殺害事件の後、戦争を起こして七年。どうして急に事を進めようとしたのか?その原因は俺にあった。クリスの言っていた『鏡の世界』。それは他ならない『俺たちの世界』だったのだ。ユウグレアは(おれ)の鏡。対の存在であるはずの俺がこちらの世界に来てしまった。二つの魂が同じ世界に留まり続けることは不可能。そんな状態が続けばどちらかは消えてしまう。今回は別人ではなく、『ユウグレア』という器を使って俺が『この世界』に来てしまった。その場合、俺が『この世界』に居続ければ器であるはずの『ユウグレア』は消えてしまう。自分の母体であり本体でもある『ユウグレア』の消失を防ぐ為、俺を殺すためにIは突然動いたのだ。

俺が…『この世界』に来なければこんなことにはならなかったのかな。

____そんなことはない

そうかな?

今では聞きなれたその声に心の中で返事をする。ようやくこの声の正体も分かった。

____……その為にお前を呼んだんだからな

え?

 よく聞こえなかったが何かとても大事なことを言われた気がした。

でもそっか。あの声の主はあなただったんだな。ずっと近くでみんなを、俺を見守っててくれたんだな。

Iの人生が終わる……。

走馬灯も終わりが近づいてきた。あれはつい先程までいた森だ。俺と出会い、そして別れ、再びこの場で出会う。Iは一体どんな気持ちで俺たちを見ていたんだろう。世界を守ったはずなのに敵として追われ、誰にも理解されずに最後は『自分自身』の手によってその生涯を終える。

寂しくないのかな…。

もしかしたらあの涙はそういった意味も含まれていたのかもしれない。

これは…ついさっきの……。

先程まで激戦を繰り広げていた王の間が映る。

気付いてやれなくて、ごめんな。

俺がIに向かい剣を振りかざす。その衝撃に耐え切れず一階まで押し落とされてしまった。霞む視界の中、上に戻ると安堵しきった俺がそこにいた。こちらには全く気が付いていない安心しきった顔だ。一気に間合いを詰め襲い掛かる。防がれるも、何とか力で押し切る。これで最後だと、最後の力を籠め思い切り振りかぶる。

泣いてる…?

戦っているときは俺も無我夢中で気が付かなかったが、ぼやけるIの視界がその事実を物語っていた。

しかしその決死の攻撃もヴィヴィの人形によって防がれてしまった。そして目の前にいる俺が下から剣を振り上げる。剣も手を離れ、なす術を失くしたIはその攻撃を受け入れる。もう俺の顔もまともに認識できない。朧げな意識の中、ゆっくりと驚愕した俺に手を伸ばす。

それにしても神って一体どんな人だったのかな……。

 そう思いながらIの見る最後の景色を目に焼き付けていると、思いがけないものが霞みゆく景色の中、俺の、いやIの目に飛び込んできた。

え、あれは…?

意識が薄れゆく中、月明かりの逆光のせいで顔は見えないが、俺の後ろで半壊した城に腰掛け髪をなびかせる誰かが笑っている気がした。

「あーあ、“今回も”つまらなかったなぁ」

ノイズがかったその声が締めくくるかのようにそう言うと、俺の視界は砂嵐のブラウン管テレビの電源を切ったかのようにプツリと闇に消えていった……____。


ここまでお読み頂き有難うございます、作者の月乃です☽

いよいよ次話で最終話になります。驚きです。何が驚きって、時間が経つのが早い!早すぎる!!この話を書き始めてからは本当にあっという間でもう最終章かぁとしみじみしています。夢たちのこのお話もそろそろクライマックスを迎えます。皆さんの目でこのお話の最後を見届けてやってください。前にもどこかでお話させて頂きましたが、この、今回の旅のお話は終わってしまいますが、『八つの大罪と七年戦争』の『七つの大罪』たちのお話は書きたいなと思っています。今回書ききれなかったこともいっぱいあります。団員たちが何故『七つの大罪』に入ることになったのか、その経緯やどのような過去を歩んできたのか。そんなお話をまたできればなと思っています。その時はTwitterやこちらでもお知らせしたいと思うので、また読んでやってください^^

よろしくお願いします!

このままだと続きまで喋ってしまいそうなのでこの辺で失礼します。

それではまた☽


月乃 Twitter【@tsuki_Lirika508】

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