第十二話 信頼と弱虫の勇気
今までの経験則から何かとても嫌な予感する。その予感は見事に当たったようで突然茂みが揺れる。
「!?」
「するダヨ!!」
そういうと燐明は右手の人差し指と中指を口元に持っていき、指で口を挟むようにすると赤い魔法陣のようなものが浮かび上がり、勢いよく文字通り火を吹いた。けたたましい音と共に深紅の炎が頭上を覆う。
「火を吹いた!?!?」
条件反射で頭を抱えうずくまる。
「って、あれ、熱くない?」
不思議に思っていると今度は何か燃え盛るような音が近くで聞こえてきた。
「今度は何!?」
「それで終わりだと思わないでください」
恐ろしいほど冷たい声が辺りに凛と響く。その声がした方を向くと、髪をかき上げながらそう吐き捨てるクリスがいた。かき上げた髪の下から覗く瞳は氷のように冷たく青く不気味に光っており、その周りには彼の瞳と同じ光を帯びた無数の鬼火が浮いていた。
「あ、あの、クリスさん…?」
「来ますよ!」
「は、はひ!」
もはや声なのかどうかも怪しい音のする方を向くと、先程のニュンフェーたちとは明らかに違うが“何か”が俺をめがけて突っ込んできた。まずい、そう思い咄嗟に後ろに飛び退くが突っ込んできた“何か”の後ろに隠れていたそれに気付くことが出来なかった。
避けきれない…!
「チッ」
「な、」
舌打ちと共に飛んできたのは青く光る火、火、火。それがクリスの鬼火だと気づくのにそう時間はかからなかった。文字通り鬼の如くその身が燃え朽ちるまで喰らうその火が“何か”を次々と倒していく。周りをよく見てみると、先に燐明の業火にやられたそれがあたり一面に横たわっていた。
「こいつら…さっきの奴らと明らかに違う」
それと…さっきと明らかに違うのは二人の雰囲気なんだよな……。なんで急にこんなにピリピリし始めたんだ?まさかこいつらはIの…?
「な、なんだ!?」
そんなことを考えているとどこか遠くから大きな音がした。それは地面を大きく揺らし、その衝撃を俺たちのいる遠いこの場所まで伝えた。
あっちの方向は確か…
「ウルとこよりがいる方か!?」
「あの水柱はウルのものですね」
クリスが言うようにウルたちがいると思しき場所からは音が鳴るごとに音と共に高い水柱が上がっていた。
「うわっ!今度は何!?」
ウルが創り出す水柱に呆気に取られていると、彼らのいる場所の反対側から同じぐらい大きな音がした。
「アレはヴィヴィネ」
あちらもあちらで爆発音のような音がする度に白い閃光が走っている。
「な、皆大丈夫かな!?」
「四人なら大丈夫でしょうが、あの四人がここまで激しい戦闘をしているということはあちらにもきっと“これ”と同じものが出たんでしょうね。穢らわしい…!」
吐き捨てるようにそういうとクリスはそれきり黙ってしまった。燐明も灰と化した“何か”を睨みつけていて何も話さない。
「な、なぁこれって…」
Iの、そう言おうとした瞬間目を疑うような光景が目の前に現れた。
「な、灰が…!?」
先程、燐明の業火とクリスの鬼火により灰になったばかりの“何か”がある一点に集まっていた。それはみるみるうちの別の“何か”に姿を変えていき、あっという間に巨大なケルベロスのような姿に変えた。
「ひいいいい、なんだよあれ!?」
「チッ、さっさと饞鬼に喰わせるべきだったネ…。オイ、饞鬼起きるヨ」
『ギヒヒヒヒ、よぉうやく俺様の仕事ですかい姉さん』
「さっさとアイツを喰うネ」
『んん~~?どぉれどれぇ~?…んん?って、いや、姉さんアレマジでヤバい奴じゃないっすか、無理ですよアレ』
お前ほんとキャラ大丈夫か…?むしろそっちが素なのか?
「いいからさっさとヤレ」
『いやいやいや、だから無理ですって。いくら俺様でもアレ喰ったら消えちゃうっすよ』
「というと?」
『アァン?気安く話しかけてんじゃねぇよぉ、このガキぃ。記憶を失くしたかナンダカ知らねぇケドヨォ、今のあんたなんか怖くもなんともネェンダヨ、アァン??』
ぐ、剣(?)にも言われてしまった…。
そう思った刹那、空を切る鋭い音と何かが地面に刺さる鈍い音が聞こえた。
「ひぃ!?」
「言葉遣いには気を付けろ」
饞鬼の目擦れ擦れに刀の刃先を向けたクリスがどす黒いオーラを放ちながら言う。
「いい加減にシロ…?」
『ひぃ、姉さんまで…!!事実じゃないっすk…』
「あ゛あ゛?」
「ちょ、今はそんなことしてる場合じゃないだろ、ってうわぁ!?」
無表情で地面に剣を突き刺し追い詰める燐明をたしなめ本題に戻そうとした瞬間、物凄い速さで“黒い何か”が飛んできた。
シュウゥ……
え、ちょっと待って何、今絶対聞こえちゃいけない音がしたよな?うん。
恐る恐るその聞こえちゃいけない音のした方を見やると、“黒い何か”が付着した部分の地面がドロドロに溶けていた。
え、ナニアレ、液体?液体だったのか?嫌そんなことより地面ってあんなにドロドロに溶けるものだったっけ?とりあえず全然意味わかんねえけどとりあえずやばい、それだけはわかる。うん、やばい。
「チッ、厄介ですね」
あのクリスさんなんかさっきから舌打ちの回数増えてません?平気?それ平気なやつ??
「オイ、さっさとしろ。ホラ、お待ちかねの飯ヨ飯」
『いやいやいやいやいや、雑っすヨ!じゃなくてアレ見たでしょ姉さんアレ!いくら俺様でも無理っすよ!!』
「な、あれ!さっきの場所!!」
饞鬼の言葉にちらりと先程溶けた場所を再び見ると、溶けていたはずの場所が黒く塗りつぶしたように“無くなって”いた。
「……間違いナイネ。コイツでも喰えないとシタラ」
「これはIの作り出した“虚”ですね」
「これが“虚”!?」
ケルベロスの目は先程のニュンフェーたちよりも深く黒く、クレヨンで塗りつぶしたような眼をしていた。先程のニュンフェーたちはIの“虚”に侵された者たち。だが目の前にいるこいつは明らかに違う。Iの“虚”そのものだ。
あれは本当に何も映していないんだ。さっきまでのとはまるで別物だ。……怖い。
本能がそう告げる。
「もしかしてこれ、ウルたちの方もこんな風になってるのか!?」
「恐らくは……。しかしこれは厄介ですね、きっと“これ”は我々と相性が悪い」
「え?」
「一気に片付けるしかないネ!」
「そうですね、燐明、炎は!?」
「使えるヨ!」
「一気に畳みかけましょう!」
「お、おう!?」
って俺はどうすればいい!?
言うや否や二人は同時に地面を蹴った。
やっぱり速い!とてもじゃないけど追いつけない!!
「うおおおおおおおおお!!」
クリスが初めて出会った時のように紫色の焔を刀に纏わせケルベロスに襲い掛かる。刀の刃の部分にいくつかの魔法陣が連なって現れたかと思うと、焔の勢いが一気に増した。
「饞鬼!」
『オウヨ、姉さん!!』
燐明も先程のように火を吹きだしたかと思えば、饞鬼がその炎を呑みこんだ。
「え、炎を呑みこんだ!?」
すると、饞鬼のいる方の剣は焔を纏い始めた。燐明がもう片方の剣と剣を重ねると、饞鬼のいない方の剣まで同様に赤い炎を纏った。
「す、すごい」
「焼き殺してヤル!」
だから怖いってば!!
「ハアアアアアアアアア!!」
紫色の妖艶な焔と真っ赤に燃え盛る炎を纏ったそれぞれの刀と剣が同時に振り下ろされる。二つの炎がケルベロスを包み燃え盛る。
やったか!?
ケルベロスは二種類の炎に焼かれ苦しそうに悶える。その悲痛そうな叫びに安心してしまったのが間違えだった。突然、周りに轟く叫びと共に何かが破裂するようにしてあたりに散らばった。
「何…!?」
「くっ…」
「な、は、なんだよあれ!」
四方に飛び散ったそれは先程と同じく飛び散った場所に次々と“虚”を創っていく。
「まずい、このままじゃ森が…!」
こんなにたくさんの“虚”が出来てしまっては森が一部消えてしまう、なんて事態にもなりかねない。
「どうすれば…って、は!?」
「増えたヨ」
『イヤ、なんかアレ増えたっていうより復活してないっスカ姉さん』
「きりがないな」
饞鬼の言う通り出来たばかりの“虚”の部分から次々に様々な大きさのケルベロスが生まれる。その大きさは熊ほど大きいものから小型犬ほどまで様々だ。幸い、先程のケルベロスが分裂したからか先程ほどの大きさはない。しかしこれではクリスの言う通りきりがない。
「どうしたら!?炎でも駄目なんて…」
「闇雲に斬ってもまた分裂するネ」
『俺様もさすがにコレは喰えネェしヨォ?』
「なら余計にどうしたらいいんだよ!?」
「落ち着いてください!あれを倒す方法がないわけではありません」
「まじか」
「それは落ち着きすぎネ」
『現代っ子すネェ』
ギクリ。
「ほ、方法って!?」
そうこう言っている間にも奴らはやる気満々と言ったように低く唸る。
やばいやばいやばいやばい、これはやばい。今すぐ襲い掛かってくる気満々だよ!?饞鬼の言葉にいちいち気を取られてる場合なんかじゃないよこれ!?!?
「やばいって、はやく!方法!!」
「“虚”には核というものがありまして我々で言ういわゆる心臓に当たる部分があるのですが、それを壊せば倒せることは倒せます」
「じゃあ核を壊していけばいいんだな!?」
『簡単に壊させてくれりゃぁヨォ、いいンダガナァ?ギヒ、ギヒヒヒヒ』
「あれは簡単には殺らせてくれないネ」
「た、確かに…」
多分また斬っても今みたいに再生されるか分裂されちゃう…、そんなんじゃ本当にきりがないどころか俺たちの体力だけが一方的に削がれていく。本当に一体どうすれば!?
「……ユウがやるしかないネ」
「俺が!?」
「そうですね、私たち二人はこのタイプの奴らとはとても相性が悪い…。貴方でないとここを突破するのは難しいでしょう」
「でもどうやって!?俺、さっき武器出せなかったし…」
「たった一回の失敗で諦めてしまうのですか?違うでしょう?貴方はそんな人ではないはずです。例え、今の『貴方』が違うとしても」
「え?」
もしかして、クリスは気付いて…。
「貴方は仲間のため、いいえ、困っている人やみんなの為に失敗しても何度でも立ち向かう人です。諦めないこと、私たち団員にそれを教えてくださったのは貴方でしょう。教えてくださった張本人が忘れたからと言って私たちを失望させないでください」
「あ…」
「ソレニ、コレを倒せるのは悔しいケドユウぐらいネ」
「え?」
「コイツは斬ってもダメ、燃やしてもダメ。キット核が固い何かに覆われて中で動いてるネ」
「動く…」
「それをどうにかしないとコイツラはずっと増え続けるヨ」
「でもそんなのどうすれば…」
「ユウならできるネ」
「何を根拠に…!?」
「我們が!!」
「え?」
「我們がユウグレアを信じてるカラ!!それ以外何が必要ネ!?」
『旦那ァ…、コレアンタが姉さんに言ったんダゼェ…?』
「え…」
「ソレニ」
「うん?」
「ソレニ、ユウには『アカの明星の力』があるネ」
「『アカの明星の力』?」
「先程話したでしょう、種族特有の基礎能力というやつです」
「そんな力が俺に…?」
でも、その力があるのは『俺』じゃなく『ユウグレア』さんだ。
「ええ」
「ソレなら内側から浄化し燃やせるネ」
「でも」
「必ず使えます」
「っ、」
「我們を、必ず守ってくれるヨネ?」
そうだ、今は俺がみんなを守らないと。こんな俺じゃ俺より強い燐明たちを守れないかもしれない。馬鹿らしいって、無理だって笑われるかもしれない。でも俺は今、こいつらの『元帥様』なんだ。たった一回の失敗がなんだ、まだ一回しか失敗してないじゃないか。やれるまでやろう、もうあの時みたいなことが起こるのは嫌なんだ……!!
「わかった、俺やるよ。それを使うにはどうすればいい?」
「ユウ」
「うん、ごめん」
「いえ、まずは武器を出す必要があります」
「っと、やっぱり問題は武器か…って、うお!?……まぁやっぱりそりゃ話が終わるまで待っててくれるわけないよな…!」
俺たちが話している間にもケルベロスの容赦のない攻撃は続く。避けながら話してはいるものの正直苦しい。
早くどうにかしないと…。
考えることばかりに気がいっていたのがまずかった。分裂したケルベロスは個体差はあるが分裂したからか一匹一匹のスピードが予想以上に速かった。
これは…、さっきより避けるのがきつい…!
必死に避けるものの、燐明たちと違い戦闘経験も武器もない丸腰の俺が何度も立て続けに襲い掛かってくる数十もの奴らを避けきるには限界があった。
「っ、ぐぁっ!?」
ギリギリでそれを避けていた俺は大きな奴らばかりに気を取られ小さなケルベロスに気が付かずまともに攻撃を喰らってしまった。
くっそ、なんだこれめちゃくちゃいてえぇぇぇ!!こんなんまともに何度も喰らってたら死んじゃうよ!何とかしないと……にしてもほんっといってえな!?なんなんだよもう!
「ユウグレア!」
想像以上の激痛に悶えていると聞きなれた声が聞こえたと同時に後ろから思いっ切り引っ張られる。
「ぐえ!?」
な、なに!?く、首が閉まる…。
「なにぼさっとしてるんですか!?」
「く、くりす……げほっげほ」
『はあぁぁあ、ったくゥ情けないっすヨォ旦那ァ。鬼さんがいなけりゃ今頃木端微塵どころか消え失せてるゼェ?ギヒヒヒヒ』
「へ?」
その言葉に恐る恐る先程いた場所を見るとケルベロスの群れが地面に大きな黒い穴をあけていた。
「ひぃ…」
「足は!?」
「な、なんとか…」
そう強がってはみたものの傷口が焼けるように痛い。ただの動物に噛まれたならまだしも、あんな奴らに噛まれたからか徐々に皮膚が壊死していっているのがよく分かる。
何とか持ってくれ…!
「気休めデモナイよりましダヨ!」
燐明はそういうと口元に右手を持っていくと、手のひらに乗っている何かを優しく吹くように息を吹いた。すると先程のような業火ではなく、金色に輝く柔らかな息吹が傷口を覆った。
「な、これは!?」
「ソレがあれば壊死ぐらいはナントカ食い止められるヨ」
「マジで!?」
それは助かる!にしても燐明はチートか何かか?あ、神獣か。まぁ、何でもいいけどありがとう!!
「デモこよりに見てもらわないと治らないネ」
これ、治るのか、よかった…。
「いや、だいじょうぶだ、ありがとう」
「では、すみませんが我々が時間を稼ぎますからユウグレアは武器を出すことに専念してください!!」
「わかった」
「燐明!」
「ウム」
「って、おれをなげるなぁぁぁぁぁ!!……うぷ、よ、酔った…」
『姉さん、ナイスキャッチィ~♪そのままァそこらへんに捨てましょうゼェ?』
「捨てんな!…うぷ……」
「危ないネ、クリス」
「うわぁ!」
「おっと。おや、こちらも危うい。燐明」
「だ、だからおまえらなぁ~~~!?……うぷ…」
二人は無駄のない動きで襲い掛かってくる敵をするりとかわす。負傷した俺を交互に抱えながら避ける二人は容赦という言葉をまるで知らないようだ。クリスと燐明の間を物凄い速さで回転しながら飛んでいく。二人は遠慮なしに飛ばしてくるのでジェットコースターで何度も往復している気分だ。
目、目が回る…。
「俺でキャッチボールするな!!」
ようやく投げるのをやめた二人を確認し、俺はクリスの脇に抱えられたまま抗議する。すると彼は悪びれた様子など微塵もなくしれっと言う。
「さて、お遊びはこれぐらいにしてそろそろ本気を出しますか」
「遊びの自覚はあったんだ!?」
『ギヒヒ、待ちくたびれたゼェ?この俺様を待たせたんダァ、とぉぜん覚悟は出来てるよナァ、ギヒヒ』
「ブッコロス」
「覚悟しろ、愚図共が。歯向かったことを後悔させてやる」
あの、皆さん怖いからね?ほんと。
そう言いながらクリスが眼鏡を外すと真っ白な煙が彼を覆い隠す。彼の姿が見えなくなったかと思うと、その中から現れたのは黒を基調とした青いアザミ模様の着物に上から下にかけて淡いグラデーションのかかった花色の羽織を羽織った、先程のスーツ姿の彼とは全く別物の“鬼”のクリスだった。相変わらずオールバックの艶のある黒い髪の間から覗く四本の角と、真っ白な肌によく映える切れ長な眼の淵と頬の鮮やかな青い模様と青い唇。そのどれもが人間離れした、否妖らしい妖艶な雰囲気を作り上げていた。
「す、スーツじゃない…」
「そこですか…。ふふ、言ったでしょう?本気を出すと」
刀に手を置き、余裕気に唇を舐める姿は大人の色気をあたり一面にまき散らしているようにも見える。
え、えろい。
『ギヒヒ、姉さんだって負けてネェゾォ?オイ』
「フン」
「まさか燐明さんまで…」
「するわけナイネ」
「してくんないの!?」
「疲れるヨ」
「嘘でしょ!?」
「デモ」
『ギヒ、破壊力はもぉうちょい、欲しいよナァ~?』
「わかってるヨ」
そういうと双剣を持つ燐明の手が艶やかな紅の毛並みに覆われていき、それは手先まで覆い爪も金色の鋭い爪へと変わっていく。手の方に気を取られていると、燐明の背中からは彼女よりも大きいのではないかと思うほどの大きな翼が現れた。その翼は腕と同じく艶やかな紅の羽根に、毛先が光の当たる角度によっては淡いピンクにも水色にも見える黄金の羽根を持っていた。それはまさに『神獣』と呼ぶにふさわしき姿だった。
「きれい……」
『ギヒヒ、当然だろォ?姉さんの神獣型も綺麗だけどヨォ、この半獣型は色気が半端ネェンダヨォ』
「な、お前のと一緒にするな!なんかお前のは変態みたいになってるぞ!!」
というか、こいつらは最終形態を持ってるとかみんな揃いも揃ってチートだなほんと!何もできない俺がだんだん惨めに感じてくるよ、トホホ…
「さっさとしないとまずいアルヨ」
燐明がそう言ったかと思うと低くずっしりとした唸り声が辺りに響く。
「うわほんとだ!まずい、とりあえず体勢を立て直して…」
慌てて体勢を立て直そうとした刹那、何かが勢いよく斬り捨てた。
なにこれデジャヴ!本当にこれ何回目だよ!?って、え、スパッ?今スパって聞こえた?何事??
「ほら、相手は待っていてなんかくれませんよ」
か、かっけえええええ!!
「フンッ」
クリスに目を奪われていると、今度は燐明が大きく剣を振り上げた。
な、薙ぎ倒した…。
「さ、燐明、行きますよ。まずは逃げられたら厄介です、囲いましょう」
「ウム」
「ユウグレア、お願いしますよ」
「え?お、おう!」
一瞬何のことかわからなかった。いけないいけない、しゃっきりしないと。……にしてもなんだったんだ今の…。二人とも凄い。
「剣ダヨ」
「え?」
二人の強さに素直に感心していると、燐明が唐突に告げる。
「ユウが一番得意だったのは剣ダヨ」
「…!わかった!やってみる!!」
剣、剣をイメージしろ俺!!こないだゲームで使ったあの剣とか…。
しかしそれを邪魔するかのように奴らは大きく吠える。
「な!」
「させるか」
それを許さないとばかりに後ろから斬撃が飛んでくる。
「クリス!」
「貴方には指一本触れさせません!なので貴方は具現化に集中してください!!」
「ああ!」
大丈夫、大丈夫だから。
しかし何度も何度もイメージすれど一向に武器は出てこない。
「なんで!?」
俺には出せないんじゃ…。
「諦めるナ」
「燐明…」
「信じてるヨ」
何度も、何度もやってるよ…。なのになんで…。なんでこんなにもやってるのに出ないんだよ!
焦れば焦るほど具現化出来るという可能性から遠ざかっているのが嫌でもわかる。だが、二人が俺を庇いながら傷付きながらも戦っているのを見て焦らずのはいられなかった。
きっと、俺がいなければふたりがこんなに傷つくことはなかった。俺が無能だから…。
___あの時と同じだ。
「ユウグレア!!」
「クリス…?」
「焦ってはいけません」
「無理だよそんなの!!」
「なぜ?」
「なぜって、だって!俺が出来ないと二人とも…!!」
「二人とも、なんです?」
「……」
「言うネ」
「二人とも死んじゃうんだろ!?」
「死にませんよ」
「は?」
「我々は貴方を残して死んだりなんてしませんよ。今我々が死ねばあなたは助かりませんしね」
「な、」
「ソレニ」
「なに、」
「ソレニ、ユウのためなら死んでもいいネ」
「はぁ!?」
「『ラゲナリア』に入る時、元帥であるアンタのためなら命を懸けてもイイ。そう思ったから入ったヨ。ケド」
「けど…?」
「今はそのときじゃないヨ」
『俺』のために向けられた言葉ではないそれは一体どう受け止めればいい?
俺を庇い、復活し続け、更には分裂して増え続ける敵に何度も何度も傷付きながらも立ち向かっていく彼らの言葉を俺はなんて顔をして受け取っていいのかわからない。
……俺には受け取る資格がない。
「例え、ソレが『ユウグレア』でなくテモ。『夢』デモ、命を懸けてもイイ。そう思ったヨ、『夢』」
「っ、……俺は…」
みんな気付いて…。
「それに貴方はもう気が付いているはずですよ」
「え?」
「貴方はもう武器を出せる。出せないのは心が弱いから」
「心が弱い…?」
「ええ、『知らない』ことばかりに怯え、自分は出来ないと自分自身が諦め見捨ててしまっている。それでは具現化など出来るはずがないでしょう?貴方が先程できたのはなぜです?」
「それは…」
それはあの時はみんなを助けなきゃと必死で、藁にも縋る思いで聞こえてきた声を信じたからだ。
もしかしてあの声は…。
「貴方は具現化すべき武器はもう知っている、怯えていないで『男』らしくシャンとしなさい!『夢』!!」
そうだ、応えなきゃ。こんなにも『俺』を認めてくれて励ましてくれて、そして信じてくれてる二人のためにも。
____…そうだ、オレを信じろ夢。お前ならできる。なんたってお前は……
な、なに!?またあの声か!?重要なところが聞こえないよ!!
____イメージしろ
イメージ…。
その声は先程よりもより鮮明にすっと『俺』の中に入ってくるように聞こえた。
なにこれ…、まぶし!?
声を認識した途端俺の中には見たこともない景色や人、そして武器のイメージがなだれ込んできた。するとその中でより一層強く光り輝く何かを見つけた。眩し過ぎるそれに『俺をとれ』と言われている気がしてならない。
あと…、もうちょっと……。とど、け………!!
それに触れた途端、光り輝いていたそれはより強い閃光を放った。
「な!?」
い、今のは…?
あまりの眩しさに咄嗟に瞑ってしまった目を恐る恐る開く。
「な、これ!?」
「やりましたね…!」
「だから言ったネ」
『ッたく心配かけさせやがってヨォ』
「で、できた!?できたのか!?」
左手に確かな重みを感じる。
できた!出来たんだ…!やった!!
何度も諦めかけ、その度に二人に励まされながらようやく武器を出せた。その事実がただただ嬉しかった。
「しかしここで安心するのはまだ早いですよ!まだ、武器を出せただけですからね」
「う、」
「ソウネ、『アカの明星の力』を使えなければ意味がないネ」
「うう」
現実が胸に突き刺さる。
「でも」
「はい?」
「でも、今ならいける気がする!!」
行ける、絶対に。
二人がついてくれているという事実が俺の背中を強く押した。
ここまでお読み頂き有難うございます、作者の月乃です☽
あと三日でクリスマスですね!!世間はもうクリスマス。街中を歩けばどこもかしこもクリスマスムード一色で、ああもう一年が終わるんだなぁとしみじみしてしまいます。皆さんはどのように過ごされますか?私は今年魔の受験というやつが立ちはだかっていますので正直あんまり嬉しくないです。私も遊びたい!!!この小説は今後も更新していきますのでお付き合いいただければなぁと思います^^*
そういえばTwitterもやってますので、基本五月蝿い日常垢ですがもしご興味があれば覗いていただければ喜びます。
Twitter【@tsuki_Lirika508】
皆さん、冬も本格的になってきましたのでお体にお気をつけてお過ごしください^^
それではまた☽




