第四章 第十話 虚ともう一人の仲間
「俺たちも行くぞ!!」
「ええ、急ぎましょう。一刻をも争います」
「絶対後悔させてやるヨ…!」
だから怖いって!!
そう言いながら他の四人と別れた後、三人で道なりに沿って森の奥へと進んでいくとすっかり変わり果てたその姿をみて愕然とした。
「なんだよ、これ…、酷すぎる」
火によって焼き尽くされ、黒くなってしまった木や灰と化したそれがあたり一面に広がっている。それだけではない。生き残った木々たちにも農夫が言っていたように凶暴化し暴れまわったニュンフェーや動物たちにつけられたであろう数々の傷が生々しく残っていた。
「今のところ、生き物の死骸のようなものは見つかっていませんが…」
クリスが顔を歪ませながら言う。幸い、クリスが言ったように今のところ死骸などは見つかっていないが、もしかしなくてもこれは…。そんな嫌な考えが嫌でも浮かぶ。
「…!止まるネ!!」
辺りを注意深く見渡していると、燐明の鋭くよく通る声が俺たちを捕らえた。
「燐明…?」
その声は今まで聞いていたどの声よりも緊迫していた。燐明から緊張感がひしひしと伝わる。そこにいたのは間違いなく『七つの大罪・暴食の罪』暗殺者の燐明だった。
「来るヨ…!!」
その声と同時だった。
「危ない!!」
「うおっ!?」
鋭い音、それと共に物凄い勢いで俺をめがけて“何か”が迫ってきた。
な、なにが起きたんだ!?
クリスに引っ張られるようにしてその“何か”を避けると、俺が先程までいた場所は大きく地面が抉られていた。
わ、わぁお……。
「や、やべぇ…」
「全く、ぼさっとしていないでください!大丈夫ですか!?」
「わ、わるい。あぁ、お蔭さまで…。……にしてもやばいな、なんなんだ一体」
「……ニュンフェーネ」
「え?あれが?」
「ええ」
俺を狙って攻撃を仕掛けていたのは、他でもない“あの”ニュンフェーたちだったのだ。
にしてもあれが本当にニュンフェーなのか?想像してたのとまったく違うな…。
ニュンフェーと聞き、最初はピンと来なかったがニンフと言われ想像したのはよくゲームなどにも出てくる緑色かなんかの特殊な形をした長い耳をした妖精みたいなものだったが目の前にいる“それ”はそんなものではない。
「本当にあれが…?」
「まぁ、あれが本来の姿ではありませんがね」
目の前にいる“それ”は姿こそは想像していたそれと近かったが、身に纏う雰囲気が全くもって別物だった。俺の身長の半分もない大きさのそれが纏うには不釣り合いなほどの気、もとい瘴気といった方が正しいのだろうか。それが明確な殺意となって俺たちを呑みこもうとしている。
「アノ瘴気…、間違いナイヨ。アイツの仕業ネ…!!」
「やはりIのせいで凶暴化していたのですね…」
「でもこれ、俺たちが王都に戻る前に出会ったやつらよりも明らかにやばくないか!?」
そう、今まで出会ってきたやつらは確かに黒い瘴気を纏ってはいたがこんなにも恐怖を抱かせるほどではなかった。
何がこんなにも違和感を抱かせるんだ…?
「アノ目…、いつ見てもキモチワルイヨ」
「目?」
燐明の言う目とは一体何なのか。
「なんだよあれ…」
言われるまで全く気が付かなかった。あんなにも禍々しく堂々とそこに存在しているのに。
「あの目がIの“虚”に侵された証拠です」
それは燐明の言う通り、気持ち悪いという言葉が最も当てはまっているのかもしれない。ニュンフェーたちの目はまるでクレヨンでめちゃくちゃに塗りつぶしたかのように真っ黒だった。
あの目は何も映していない…。
普通ならば白であるはずの部分が真っ黒に塗りつぶされたそれに浮かぶ瞳は血のように真っ赤に濡れ恐怖を覚える。
「アイツは間違いなくココにいるネ」
「そういうことになりますね」
「じゃあ余計に早く行かないと!!」
彼らを早く助けてあげたい、しかし一刻も早く全ての元凶であるIを見つけなければ。そんな思いばかりが先走ってしまう。
「その前にまずは彼らから片付けるしかなさそうですね」
クリスの言う通りだ。目の前にいる彼らはそうやすやすと前へ進めさせてはくれる気配はない。Iを探しに行くにはまず彼らをどうにかしなければならないようだ。しかし、目の前にいる凶暴化したニュンフェーは一匹や二匹ではなかった。
五、六……いや少なくとも七はいるな。でもこれだけならさっきの力があればいけなくもないか…?
先程、どうにかしなければと無我夢中になっていたら突然光だし現れた大槌。あれがあればここを切り抜けることが出来るかもしれない。
「ナニぼさっと手なんか見てるネ!まだまだ来るヨ!!」
「は!?まだ来るのか!?!?」
「少なくとも、この足音の数から十…いや、十五はいるでしょね」
「おいおいマジかよ…」
話す隙すら与えるつもりはない、そう言っているかのように咆哮とも言える彼らの叫びが轟く。
「あはははは…、やる気満々って感じだな」
ある程度予想はしていたが急展開すぎてついていくのが必死だけど、これはもうなんていうかやられる前にやるしかねえな!!
「行くぞ!!」
俺のその声が合図だったかのようにニュンフェーたちが一斉に俺たちに襲い掛かる。しかし、それよりも早くクリスと燐明が地面を蹴った。クリスは左からくる奴らと、燐明は右からくる奴らと対峙する。
俺はあいつか!
クリスたちよりも少し奥の方にいかにも、というような他のニュンフェーたちよりも濃い瘴気を纏ったそいつを見据える。幸い、今の俺よりも戦闘に慣れている二人が複数のニュンフェーたちを相手にしてくれているお蔭で俺はそいつだけに集中することが出来そうだ。空高く吠えるそいつに身構える。
来る…!
そう思ったが束の間、禍々しい瘴気を纏ったそいつは吠えるなり俺との間合いを一気に詰めてきた。
「な、はや!?」
流石はボス感があるだけあってさっきの奴より断然速いな!?
擦れ擦れで避けることが出来たがそう何回も避けることは出来ないだろう。
早くどうにかしねえと!イメージしろ!さっきのような武器を!!
「…て、は?なんで!?……うお!?」
いくらイメージしても武器が出てこない!?
そう、先程のようにいくらイメージしても左手が光ることはなく武器も出てきてなどくれなかったのだ。しかし、当然ニュンフェーは待ってくれるはずもなく俺が必死になっている間も容赦のない攻撃が止むことはなかった。必死に奴の攻撃を寸でのところでかわしているものも、その攻撃は徐々に正確なものになってきている。このままでは一方的にやられてしまうのが目に見えている。
どうして!?なんででないんだ!?このままじゃまずい…!
焦れば焦るほど奴の攻撃をかわすのがギリギリになってきていることが自分でもわかる。
どうすれば!?
そう思った瞬間だった。今までよりも大きな声で吠えると、真っ黒な瘴気で覆った手を振りかざしながら奴が俺に向かって猛突進してくる。
やばい、逃げないと!!
そう思い、足を動かそうとしたが逃げ回っているばかりで体力ばかりを消耗してしまっていたせいか足がうまく動かずもつれてしまった。しかし奴はもう目の前まで来てしまっている。
もう、ダメだ…!
そう思い、ギュッと目を瞑り来るであろう衝撃に身構えていたが、予想していた衝撃が俺に届くことはなかった。
「ナニヲ呑気に遊んでるカ!!」
「燐明!!」
恐る恐る目を開いてみるとそこには見慣れた背中があった。
なんだろう、何度でも言うけど物凄いデジャヴ!でもありがとう助かった!!
「全く貴方は…、フランマドラゴンの時といい飽きませんね」
「クリス!!あー、うんやっぱり間違いじゃなかったよな…」
「は?何の話です?」
「いや、こっちの話。それよりお前らあいつらは!?」
「ダレニ向かって言ってるネ。あんなもん準備運動にもならないヨ」
『ギヒヒヒヒ…、本当だゼェ。ったくヨォ…せぇっかく出番かと思ったら食べちゃイケネェなんてひでぇじゃネェカヨ、ナァ?』
「アハハ、流石燐明達……ってなんか喋った!?」
これもものすっごい既視感あるんだけど一体さっきからなんなの!?
「全く、五月蝿いヨ。黙るネ、饞鬼」
『ギヒヒ、そぉんなことを言ったってヨォ、姉さぁん。食べていいっていうから働いてんのにヨォ、これじゃあ契約違反ジャァありませんん?』
なんなんだこの猛烈なやつは。
「何度も言わせるナ、五月蝿イ。黙って働ケ」
『ったく、パワハラっすヨォ』
「……お前、以前会った時と随分キャラ違うが大丈夫か?」
『ハァア?うるせぇナァ、気安く話しかけんジャネェヨ、ギヒヒ』
「こいつ…!」
あはははは…、クリスさん今にも血管切れそうだから落ち着てくださいね……。わなわな震わせてる拳も降ろして!!
『ンンン?お前、ユウグレアじゃあネェカ、ギヒヒヒヒ。間抜けな面してんから誰かと思ったゼェ??ギヒ、ギヒヒヒ、すっかり落ちぶれてやがんナァ、オイ』
「饞鬼」
『ギヒヒヒヒ』
「って、どこから喋ってんの??」
『ってオイオイそりゃナイゼ、旦那ァ』
「いやマジで」
『オイオイィィ、嘘だろォ!?ココダヨココォ!!』
「は?だからどこだよ…って聞きづらいな、もうちょっと聞き取りやすく話してくれよ」
『ギヒヒヒヒ、ココダヨココ。ちょ、姉さん、見せて…。って、俺様の喋り方にケチつけんのってホント姉さんとあんたぐらいだゼェ?』
燐明に『饞鬼』と呼ばれる謎の声の主に言われ、燐明は心底嫌そうな顔をしたが渋々といった感じで俺の方にそいつを見せてくれる。
『ホラ、ちゃぁんとココにいんだろォ、ココにヨォ。見えたかよ、アァン?』
「うわあああああ!!け、剣が、剣が喋ったぁ!?」
いやいやいやいや、それはねえだろ。母は、馬鹿を言うなって。いくら俺でもそこまでは予想しなかったぞ?
『ハァア?俺様と剣なんかと一緒にすんじゃネェヨ。俺様はそんなちっぽけな奴じゃネェンダヨォ、アァン??』
燐明の二本ある、刃の途中から緩く幅が広い三日月のようにカーブした特殊な形をした剣の片方にそいつはいた。
うわぁ、なんだか花見でめちゃくちゃ面倒臭い酒に酔ったタチの悪い兄ちゃんたちに捕まった気分だよ、帰して。
鈍い音と共に剣が勢いよく地面に刺さる。
「ひっ!?」
「……?」
『わーわー、俺様が悪かったッテ姉さん。お願いだからそんな目で睨むなヨォ』
無言のまま勢いよく地面に刺された饞鬼がふて腐りながら言う。
『ったくヨォ、あんたのせいで怒られちまったじゃあネェカヨォ』
「って、ええ、おれのせい!?」
『どう考えてもあんたのせいだろうガヨォ』
「オイ」
『へーへーすみませんネェ』
どうやら饞鬼も燐明には頭が上がらないようだ。契約がどうこう言っていたし、やはり主従関係なのだろうか。
「ええと、それでちゃん、ぽん?さんだっけ?」
『ちげぇヨ!!どんな間違いだヨ美味しそうダナコノヤロウ!』
「ああ、ええと、で、なんだったっけ?」
「饞鬼」
「あー、そうそう。それそれ」
『雑すぎカヨ…。まぁ、その呼び方は姉さんがソウ呼んでるだけだからナァ?』
「え、本当の名前は違うの?」
『ギヒヒヒヒ、俺様は俺様だゼェ。それ以下でもそれ以上でもネェンダヨォ』
「え、あのごめん、かなり意味が分からない」
「ユウ、そこは思っても突っ込んじゃいけませんよ」
「あ、そうか」
「フン、これを呼ぶにはこれで十分ネ」
『ったくゥ、そぉんな風にあしらっちゃってもヨォ、姉さん俺様のことだぁいすきな癖によ……gjv;bんsは:おjぁお:¥いあ*m、kc』
「…ナニカ言ったカ?」
『ず、ずみまぜん』
「ひ、ひぃ…」
こ、こわ…燐明さんだけは怒らせないようにしよう……うん、ほんと。
「そんなことより何をぼさっとしていたのですか」
「あ、そうだ!さっき鏡を壊したときみたいに武器を出そうとしたんだけどうんともすんとも言わなくて…。一体どうしたら……」
饞鬼のことは気になるが、今はそれよりも先にこっちの問題の方が先決だ。ただでさえみんなの足を引っ張ているのにこのままでは本当にただのお荷物になってしまう。
「ふむ…、まぁ、当然でしょうね」
「ウム」
「え、ええ!?」
「全く、五月蝿いですね」
「ちょ、え?どういうこと!?」
「ですから、想像の範疇だった、と申し上げているんです」
「はぁ!?」
「五月蝿いヨ」
「え、あ、ごめん。で、でも!え、それじゃあ俺が武器出せないのも知ってたの!?」
「ええ、まぁ」
「ウム」
「え?」
「はい?」
「ン?」
え、ええええええええええええええええ!?!?
こんにちは、作者の月乃です!読んで頂きありがとうございます^^*
この作品もついに十話になりました!まだまだ夢たちの旅は続いていきますのでもうしばらくお付き合いしてくださいますと幸いです☽




