第九話 策略と陰謀
冷静に、そう思おうと必死になっている意思とは裏腹に俺の頭の中は焦燥によって支配されていた。
もし、Iが本当に俺が『夢』で見た“I”ならばあいつは王を殺そうとしているのかもしれない。王はまだ生きているということはあの『夢』は正夢なのか?
ただの夢のはずなのに、妙にリアル…いや、『入れた』からかどうもその嫌な考えが拭えずにいた。
いや、もしあれが正夢だとしたらまだ止められる。それにもしかしたらみんなの言っている“I”は俺の知っている“I”とは別人なのかもしれない。そうだ、別人の可能性もあるんだ。それを確かめるためにも一刻も早くIを探し出さないと…!
「ユウグレア」
「え?」
「あまり気負いすぎるなよ」
「グライス…」
どうやら考え込んでいたのが顔にでも出たんだろう。昔から叶には隠し事が下手だと言われていたが、そんなにみんなに心配をかけるほどだとは…。
参ったな。
ばれたのは彼らが『ユウグレア』さんのことをよく知っているからだと思いたい。
「そうですよ、貴方がそんな辛気臭い顔をしていたら見ているこっちまで気分が沈んでしまいます」
「クリス」
「いいんですよ。このぐらいはっきり言わないと『元帥様』は分からないでしょう」
…返す言葉も見当たらないな。
「う、そうだよな。ごめんな、もう大丈夫だ」
「ほんまに…?」
「ああ、悪い。今度こそ行こう!」
いくら考えていたって仕方がない。だけど早くIを見つけなければ。でも一体どこに?本当にここにいるのか?そんな思いばかりが先走っていたらしい。
確かめないことには仕方がない。だけどそれよりもまずは落ち着いて判断しないと。そう、なんて言ったって今の俺は仮でも『元帥様』なんだからな!
そのことをつい忘れてしまっていた。
大事なことを教えてくれる仲間ってやっぱり頼もしいな。『ユウグレア』さんが羨ましくなってきたな、こんなに頼れる仲間がいて。いや、俺にもいるか、頼れる人たちが。なんだか二人に会いたくなってきたな。
____そう、それでいい
「え?なんか言ったか?」
「いや、言ってないが…。どうかしたか?」
「いや、何でもない…」
さっきのといい今のは一体何だったんだ?
そんなことを考え込んでいると勢いよく背中を叩かれた。
「うぇっ!?」
なにこれデジャヴ。
「はぁ、全く情けない」
「え、燐明…さん?と、ウル?」
「燐明さん?…まぁいいや。また考え込んでる…。ほら、行くんでしょ」
「え、あ、あぁ」
「早く指示を出すネ」
「あ、そっか。俺が指示を出すのか」
「全くしっかりしてくださいよ…。ほら、ヴィヴィなんて待ちくたびれてまた眠ってしまいましたよ」
「うわ!マジだ!!おい、ヴィヴィ起きろ~!仕事だぞ!!」
「う~、はたらきたくないでござる~」
「こら、ニート発言しないの。起きろ~」
「あはは…。それでどないしはりますん?」
「そうだな、クリス」
「はい」
「この森の大きさはどれぐらいだ?」
「王都の約三つ分ほどでしょうか」
「は!?そんなでかいのか!?王都も結構でかいよな!?!?」
滞在していたのはほんの数時間ほどしかなかったが、王都・アリストロメリアも随分大きな都だったはずだ。少なくとも埼玉・東京・神奈川を合わせたぐらいは優にあるだろう。それの約三倍だなんて関東平野よりももっと広い森だということになる。
嘘だろ…、随分広い森だななんて思ってたけどそんなに広いだなんて……。眩暈がしてきた。
「まぁ、王都を守るようにあるのがこの森だしねぇ。ほら、帰りに一度通ったでしょ」
「え?そうだっけ?」
「ええ、一度濃い霧の中を通ったでしょう」
「あ、あぁ。あの何でも森の力で通ったらすぐに森を抜けれたってやつ?」
「そうです。まぁ、正確には森の花石とニュンフェーたちの力なんですが…」
「へぇ~」
「それがこの森だ」
「あ、これがあの森だったのか!まさかそんなに広いなんて…。だから『あの霧』だったのか……」
「まぁそういうことになるな」
「普段はあれ、森に害をなしたりする人はあの霧の中に入ったら気が付いたら森の入り口に逆戻りするようになってるんだよ、凄いよね」
「へぇ、それは凄いな。え、でもそしたらなんでIは入ってこれたんだ?」
こんなに広い森をあんな大火事にするには森の中心から火を放たないといけない。
ギリィ……
「え?」
歯ぎしりにしては大きすぎる音のする方を向くと、燐明が唇を噛みながら拳と肩をわなわな震わせながら凄い形相で森の方を睨みつけていた。
しまった。燐明にIは禁句だった。
「…って燐明!口!血!!」
燐明の口からは、あまりの歯ぎしりあまりか、それとも唇を強く噛んだからか真っ赤な血が零れ落ちていた。しかしそんなことなど気づいていないといったように唇を震わせながら燐明は口を開いた。
「アイツならこの森に入れるヨ…」
「え?」
「確かに、あのお方ならこの森に入って火をつけるんも可能やね…」
「それもIの能力?」
「ええ。“あれ”は人の心だけでなく命あるもの全てに“虚”を見せ偽ることも出来ますので。本当……チッ」
クリスさん、今舌打ちしませんでした?ねえ??
「って、待てよ…?」
「どないしはりました、元帥様?」
「これだけ広範囲に火の手を回させる為にはいくら風を起こせたり、炎を操る能力を持っていたとしても森の中心から火を放たないといけない」
「そうだね」
そう、そう思ったからこそ火を放った犯人は森の中に入ったのだと思ったのだ。だが肝心なことを忘れていた。
「なぁ、確かさっき森の中心には精霊樹と巨大な花石があるって言ってなかったか?だったら…」
「精霊樹が危ない…!」
「そんな簡単なことに気が回らないなんて…」
「まだあいつの能力が響いてるのかもな……」
「チッ」
あの、だからクリスさん?
「ユウグレア!!」
「は、はい!?」
燐明が早く行かせろといわんばかりの声と形相に思わず身が竦む。
「えっと、そうだな、早く行かないと精霊樹が危ないし…。おい、誰か精霊樹の場所が分かるやつは!?」
「……」
「え、なんでみんなそこで黙るんだ?」
さっきまでの勢いは何処へ行ったのかみんな一斉に黙ってしまった。
「……わからないネ」
「え!?」
「ユウいがいはねぇ…?」
いつの間にか起きたのか、ヴィヴィは重い瞼を擦りながら言う。
「え?俺以外は?ってことは知ってるのは俺だけ?」
「……そういうことになるな」
「精霊樹の周りにはあの霧が一層濃く立ち込めているのです。ですから精霊樹の正確な場所は精霊樹に認められた一部の人間と一部のニュンフェーしかわからないのですよ」
「そんな…」
「大丈夫どすえ」
「でも、」
「うちらには元帥様が付いてはりますもん。例え元帥様が覚えてへんでもきっと精霊樹はんの方から元帥様を見つけてくれはりますよ」
「そうだね」
「うふふ、ユウもじつはおぼえてたりねぇ~♪」
「ソウダヨ。あんまり深く考えないコトネ」
「痛っ!?ちょ、燐明!!」
マジで燐明のチョップは容赦がないからやめて頂きたい…。でも、そうだな。初めから悲観的になってたらダメだよな。
「それで、どうするんですか」
クリスが咳払いをし、先を促す。
「そ、そうだな。この森は広いから手分けしてIを探そう」
さっきまでのおどけた雰囲気とは一変、みんな『七つの大罪』としての凛とした引き締まった表情で強く頷く。
凄いな…。俺も気を引き締めないと。
「じゃあ、俺はIを探しながら精霊樹を探す。嫌な予感がするから燐明とクリスは俺についてきてくれ」
「わかったヨ」
「仰せのままに」
「ウルとこよりは一緒に東の方を探してくれ。ウルはさっきの水龍をまた出せるか?」
「わかった。うん、問題ない。出せるよ」
「あの水龍に探索能力とかは?」
「あの子たちの目に映ったものは僕も見える」
「じゃあそれを利用して広範囲を調べてもらえるか?」
「わかった」
「こよりにはもしニュンフェーたちや弱った動物たちがいたら治療してやってほしいんだ」
「はいな、もちろんどすえ」
「ありがとう。ヴィヴィとグライスは西の方を探してくれ。ヴィヴィは空を飛べたよな?上からIを探してくれ」
「わかった~♪」
「それと、ヴィヴィは確か人形を操ることが出来たよな。それを今使うことは可能か?」
「う~ん、このこたち??」
そういうとヴィヴィは宙に浮いたまま両手をバッと大きく横に広げた。すると、ヴィヴィの紫色の瞳が淡く光り、ヴィヴィの周りの空間から何処からともなく沢山の人形が現れた。
「す、すごい量だな…。その子たちにも探すのを手伝ってもらえるとすごく助かるんだけど平気か?」
「うふふ、みんなでばんだって~♪……だいじょうぶよねぇ~?うん、うん。ね?………うふふ、だいじょうぶだって~」
「そ、そうかありがとう。助かるよ」
相変わらず本当に人形と話しているようで不気味だな…。動いてるしあの人形……。
「グライス」
「ああ」
「グライスはあの闇を使って探索とかは出来るか?」
「あぁ、可能だ」
「それじゃあそれで頼む」
「わかった」
「それと、グライスには怪我をしたやつらを森の外まで避難させてほしい。平気か?」
「ああ」
「それとみんな」
一通り指示が終わった俺は改めてみんなを見渡した。みんなの瞳が俺を信頼してくれているのが分かる。皆には記憶を失くしてるってことになっているが、少なからず『見ず知らずの俺』という違和感は感じているだろう。それなのにこんなに信頼してくれているなんて。なんだか複雑な気持ちになったが、それは決して心地が悪いものではなかった。
『ただの』俺には何もできないけど、皆が信頼して期待してくれてるんだから『元帥様のユウグレア』として頑張らないと…!
「もしそのIの能力でニュンフェーたちやほかの動物たちが凶暴化していたとしても出来るだけ傷付けるな。できればみんなには殺してほしくない」
「……」
みんなが黙ってしまうのも仕方がない。無茶を言っているのも十分わかっている。今までは直接姿を現していなかったIがいるかもしれないのだ。自ずと普段相手にしている物よりも凶暴化している可能性の方が高くなる。クリスや燐明たちの話を聞く限りIは相当強い。苦戦を強いられることは目に見えている。みんな分かってはいるがそれをあえて口にしてないだけできっと不安で一杯だろう。
何より、俺も怖い。
そもそも殺してほしくないとは言ったが本当にそんな事態に陥るのか?とすら思えてくる。だが、そんな思いとは裏腹に灰色と黒に染まった森は俺たちを今にも喰らおうとしているようにも見える。
これは今まで見てきたどの『夢』よりもやばい、俺の本能がそう伝えてる。だからこそ
「でも、皆には絶対に死んでほしくない。本当に危ないと思ったら躊躇うな。生きて戻れ。これは命令だ。わかったな?」
「「「「「「Ego intellego!」」」」」」
…ん?なんて言ったんだ??ま、まぁいいか。
「Iが見つかったら…、て、あ、ど、どうしよう」
「ああ、そうか。貴方は忘れていたんでしたね。皆さん、翔花輝花石はお持ちですね?」
クリスがさも当然のように懐から取り出した花石を掲げながら問う。すると、みんなはクリスの持っているそれと同じものを取り出し頷いた。
「へ?ナニソレ、しょうかき…?しょうかきってあの消火器か?」
「あのって、この翔花輝花石以外何があるっていうのさ」
「え!?消火器ないの!?」
嘘だろ、まさか火を消すのも花石なんじゃ…
「これは花輝花石の一種です。通常の花輝花石は衝撃を与えると発光するのですが翔花輝花石の方は衝撃を与えると空に上がり発光するので遭難した際などのSOSサインとしてもよく使われるのですよ」
なるほど、花火みたいなもんか。
「もともとは軍事用だったんだけど、一般家庭用としても普及したんだよねぇ」
科学の進歩というやつか、凄いな。
「じゃあ、Iを見つけたらそれを空に放ってくれ。って俺のは?」
「貴方のもありますよ、ほらここに」
「本当だ、よしこれでOKだな」
なんだか緩んでしまったその空気をひきしめるため、俺は咳払いをして改めるとみんなを見据えた。
「よし、行こう!!」
今度こそ本当にいかないと、嫌な予感がする…!
行こう、と言ってから随分と時間がかかってしまった気がする。本当に急がなければ。間に合わなかった、なんて事態だけは避けたい。
みんなで目配せをして頷くと、グライスとヴィヴィは西の方へ。ウルとこよりは東の方へ一瞬で消えていった。
に、忍者かよ…。まぁいいや、あいつらに任せておけば安心だろう。それより俺たちも早く探さないと…!




