優しいしゃっくりの治し方
「そりゃモテるかモテないかで言ったら」
「言ったら?」
「モテるでしょ」
「マジか〜」
そうか。ハルはモテるのか。あんな大きいだけのでくの棒が。なぜモテるというのだろう。気のきいた台詞の一つも言えないし、笑顔は憎たらしいし、前髪は目にかかっていて鬱陶しいし、明るいわけでもないし、男にしては声も小さいし、運動が出来るってわけでもない。そんなハルに春が来たのか。
私はナルミにハッキリとそう告げられて、どこかショックだった。それを隠すために机に突っ伏した。なんでこんなに悔しいのだろう。そうか。ハルに先を越されたからか。私も心のどこかでは、恋人が欲しいなんて浮ついたことを考えていたのだろうか。
まぁ、どうでもいいんだけどね。ハルが誰と仲良くしようが、関係ないから。
「……おい、プリント受けとれよ」
「あ、ごめん」
「……なに?」
こんな味気ない顔の男の、どこがそんなに良いのだろう。
「……オレの顔になんかついてる?」
「鼻」
「鼻?」
ハルは鼻の頭を軽く擦った。
「目、口、耳、眉毛、髪の毛」
「……小学生みたいなこと言わないで下さい」
あと、他の女の子からの視線も。とは言えなかった。
「……ック。ヒック」
「なんだ。またしゃっくり出たのか」
「そう……ック。みた……ック」
ハルはじっと私の方を見た。
「両方の人差し指で、耳の奥を少し痛いくらいに抑えて、一分待ってみ。治るから」
私は言われた通りに、人差し指を両耳に突っ込んだ。なんだかバカみたいなポーズだ。それでもしゃっくりが止まらないよりかはいいので、私は我慢して一分待った。
「……治った」
「だろ?」
「すごい。ハルなんでこんなこと知ってんの?」
「お前のしゃっくりが毎日うるさくて授業に集中出来ないから調べたんだよ」
「あ、聞こえてたんだ。……ごめん」
耳が少し熱くなる。
「これからはそうやって治すように。そうじゃないと100回したら死んじゃうから」
それだけ言い残すと、ハルはまた正面を向いた。それが本当なのか確認したかったのに。でも、もう死ぬこともない。水筒がなくても、私はしゃっくりを止める術を得たのだ。100回を超えるまでに耳の奥を押さえればいいんだ。
私は無敵になったのだ。