目障りなので
それから私たちはだいたい10回くらい一緒に春を超えて、現在高校一年生になった。どんな縁なのか知らないが、高校にもハルはいて、ついでにいうとクラスまで同じという始末だ。
ハルの身長は中学生まで大して私と変わらなかったのに、この数年でバカみたいに伸びて、一気に178センチくらいになっていた。脳みそに行く栄養を全部身長に回したんじゃないだろうか。それくらいヤツは目障りなほど大きくなっていた。
目障りなので、シャーペンで背中を思い切りぶっ刺した。
「……ってぇ」
「……」
「……なんだよ」
ハルが刺されたところを押さえて、後ろを振り向く。
「授業中なので、前を向いて下さい」
「アンタが刺してきたんでしょうよ」
「だって見えないんだもん。短足。上背ばっか伸ばしてバカじゃないの」
「あのな、俺も好きで伸びてるわけじゃねぇんだって」
目と目が合う。こいつはいつもそうだ。私を見るとき、見透かすような目でじっと私を見てくる。目を逸らすと負けたような気がするから、私も見返してやる。相変わらず目つきが悪い。
ハルの前髪は長くなった。今風の髪型なんだろうか。男の髪型は今一つよく分からない。髪と髪の隙間から、ハルの目が見えた。
「あー、そこの二人、仲がいいことは大変結構なことなんだが、見つめ合うのは授業以外でやってくれ」
先生に注意されると、教室に笑いが起こった。私の顔は沸騰したヤカンのように熱くなる。私の昔からの悪い癖だ。注目を浴びると、いつも顔を真っ赤にしてしまう。
「……なに赤くなってんだよバーカ」
「バカじゃないし」
「でもこの前赤点だったろ」
「社会は苦手なんだから仕方ないじゃん!」
「また西田と古川の夫婦漫才が始まったよ」
「夫婦じゃないから!」
外野からのヤジに対して、私たちの声が重なってしまった。
「お前らほんと息ぴったりな……」
そのことで余計に恥ずかしくなった。穴があったら入りたい。机の引き出しがタイムホールの入り口だったらいいのに。
「……バカだな」
ハルは昔と変わらない憎たらしい笑みを浮かべて、前を向き直した。そのときほんの僅かに、椅子を左にズラして私が黒板の文字を見えるようにしてくれた。
この授業中、ハルが後ろを向くことはもうなかった。私はハルの無駄に大きくなった背中に視界の八割を奪われながら必死に黒板を写す。
一度熱くなった耳は、まだほんのりと熱を含んでいる。