しゃっくり100回
「ヒック……、ヒック……」
「おい、知ってるかユキ」
「ん……ヒック、なに……ックを、知ってる……って?」
「しゃっくりって100回したら死んでしまうんだって」
「ヒック……、ヒック……、……ええっ!」
「ちなみに今お前のしゃっくりは73回目だ。……あっ、74回目」
ハルはそう言って、私のしゃっくりを楽しそうにカウントしていく。わざわざ私の目の前で、丁寧に指を折っていく。それを見て、男のくせに私より綺麗な手をしてやがる、なんてことをぼんやりと思ったりもした。
「85回目……86回目……」
「ヒック……ヒック……」
「94回目……」
「うわあああっ! 私まだ死にたくないよぉ。ハル助けて!……ヒック」
残りカウント10を切ったところで、私は死んでしまうんだという実感をようやく持った。そしてあろうことかこの男に助けを求めてしまった。世界で一番弱味を握られたくない男。
この古川春に。
「96回目……」
ハルはいつもの憎たらしい笑顔をさらに100倍憎たらしくした顔で、歪んだ微笑みを浮かべた。
うわぁ、まさか私の人生で最後に見た笑顔が、こんなのだなんて。最悪だ。
それは今も心の一番底でベッタリと貼り付いている。忘れることは出来ない。
思い出すたびに、ハルのその歪んだ笑顔をぶん殴って、泣き顔に変えてやりたくなる。
そんな幼少時代を二人で過ごした。
思えばこのときから、ハルは歪んだ性格をしていた。