エピローグ
「柚子葉ちゃん、俺の彼女になってよ」
「なりません」
ファミレスで皆で喋っている最中、いつものやり取りを義務のようにこなした後、艶子が私の方をじっと観察するように見てきた。
「どうしたの?」
「柚子葉ちゃんは太都先輩の告白を受ける気はゼロなんだよね?」
「勿論だよ! 世界がひっくり返ってもぜっったいない」
「柚子葉ちゃん容赦ないねー」
ヘンタイ先輩は私の拒絶もヘラヘラと笑いながら、軽く受け流していた。
艶子は「そっか」といい、大きく頷いた。
私が、どうしたのかと聞こうとしたが、艶子の声で遮られた。
「太都先輩」
「何、艶子ちゃん」
「好きです。私と付き合ってください」
今、なんて言った?
待って、いや、まさか、そんな……
その場にいた艶子以外のみんなが石のように固まってしまっている。
艶子は先輩の方へ身を乗り出して、本気だと言うように真剣な表情で迫った。
「私、中学の頃からずっと太都先輩の事好きだったんです」
「えーっと……、柚子葉ちゃん」
ヘンタイ先輩は私に助けを求めるように、私を呼んだが、聞こえないふりをして目を逸らした。
蜜子ちゃんはどうだと様子を見ると、特に変わった表情もせず冷静にジュースをすすっている。
「蜜子ちゃん……」
「ん? どったの?」
「落ち着いているけど、知ってたの?」
「そりゃあ、姉妹だからね。今告白するとは思わなかったけど」
「そ……そう」
ヘンタイ先輩は考え込むように両手で顔を覆い、うんうんと唸っていた。
「先輩、ダメですか?」
「そうだねぇ。俺は好きな子がいるから」
「でも、その好きな子は先輩を振りましたよ」
「そうなんだけどさぁ……」
「太都君付き合ってみたら?」
そこでずっと何も言わなかった光里が艶子に加勢した。
光里と先輩は数秒見つめ合い、幼馴染が味方につかないと知ったのか先輩は溜め息を吐いた。
「ともかく、申し訳ないけど付き合えません」
先輩ははっきりとそう宣言した。艶子は少し残念そうに、首を落とした。
「残念です」
「ごめんね、艶子ちゃん」
「大丈夫です。諦めませんから」
「ぐっ……」
大人しそうな様子なのに、艶子は割とグイグイ行くタイプのようだ。
意外な一面に、少し呆気に取られてしまった。
たじたじの先輩を見る事はあまりないので、少しスカっとした。もっと困ってしまえ。
艶子の告白によって少し複雑になった私達の人間関係がこれからどう変わっていくのかはわからない。
ただ、学園生活が楽しくなってきそうな予感は光と共に溢れていた。