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ヘンタイ先輩と女子高生  作者: ちゃー!
ヘンタイ先輩と消えた上履き
8/9

解決編:後編

 何か物騒な手紙を私は貰ったのだ。今の流れで忘れるところだった。

 そこには端的に言えば光里と仲良くするなと言う事が毎回書かれていた。


「光里と同じで蜜子ちゃんも、艷子ちゃんが上履きを仕舞うところを偶然目撃してしまったんだ。蜜子ちゃんは艷子ちゃんが光里と仲良くしている柚子葉に嫉妬してやってしまったことだと勘違いした。だから柚子葉ちゃんにこんな手紙を送ったんだね」

「蜜子が……」


 艶子は厳しい目を蜜子へと向けた。

 蜜子は悔しそうにしかめっ面をしながら、黙ってしまっている。


「蜜子、何であんたが」

「うっさい、関係ないでしょ」

「関係ないことないでしょ」

「ふ、二人共落ち着いて」


 私は睨み合う二人を嗜めるように間に入った。

 ふんっと鼻を鳴らしながら、双子の姉妹は互いにそっぽを向いた。

 私はここまで聞いて、蜜子のその行動の理由に思い至った。

 きっと蜜子は、艶子が光里を想う姿に胸が抉られたのだ。

 ただ一つ疑問がある。最初に私へ手紙を教科書に挟んで渡した方法だ。

 艶子から私へ手渡しされた教科書に手紙を挟む隙が彼女にあったのだろうか。


「この手紙を最初に教科書に挟んで柚子葉ちゃんに渡したのは蜜子ちゃんだ。では、どうやったか。この手紙はパソコンで打ち出されているが、斜めになって文字も擦れているだろう。普段パソコンを使い慣れている艶子ちゃんはこんな失敗はしない。だから艶子ちゃんではない」

「何でわざわざ慣れないパソコンを……」

「パソコンで打ち出したのは、艶子ちゃんは習字を習っていて、習字をすぐ辞めてしまった蜜子ちゃんと筆跡がまったく違っていたからだよね」


 何も喋らない蜜子の変わりに先輩が彼女の行動を説明していく。

 否定せず苦虫を噛み潰したような表情の蜜子の様子から間違っていない事を知った。


「確かに……。でも、先輩。蜜子ちゃんはどうやって私の教科書に手紙を忍ばせたのですか? 状況から言って不可能です」


 光里が偶々持っていなかった教科書を私が受け渡し、艶子に渡しそれを再度手渡しで返してもらう。

 いくら姉妹と言えどあの短時間にクラスも違う艶子に知られずに手紙を忍ばせるなんて可能なのだろうか。


「二人は双子だがファッションの系統が間逆で全く似ていない。けれど元は双子だ。蜜子ちゃんが艶子ちゃんの真似をして柚子葉ちゃんに数Ⅰの教科書を借りたらどうだろう?」


 そういうことか。あれは艶子でなく蜜子だったのだ。だから艶子は手紙のことは全く知らなかった。

 しかし、まだ疑問は残っていた。


「でも、あの時光里に最初教科書借りに行っていたよね? 偶然光里が持っていなくて私が持っていただけで」

「蜜子ちゃんは知っていたのだろう。光里は教科書を持ち帰るが、柚子葉ちゃんは毎日置きっ放しにしているってことをね。そうすることで艶子ちゃんと面識がない柚子葉ちゃんに教科書を借りる自然な流れを作った」


 蜜子は苦々しい顔をしながら、ヘンタイ先輩の推理に補足した。


「体育の更衣室でそんなこと話してたのが偶々耳に入ったの。別にあんた達のことずっと観察していたわけじゃないから」

「蜜子ちゃんはなんでこんな事を……」

「その男に聞けばいい」


 蜜子は先輩を泣きそうな顔で指差した。


「私がここへ戻ってくるのを待ち伏せていたってことは、あんたは全部わかっているのでしょう」


 蜜子は逆恨みをぶつけるように、全知全能の神のように余裕で笑うヘンタイ先輩に怒鳴った。

 先輩は挑発するように「もちろん」と人差し指を上げた。


「光里と艶子ちゃんと柚子葉ちゃんが三人で仲良くお昼を食べているところを目撃したら絶対蜜子ちゃんは行動を起こすと思ったよ」

「あっ、だから太都君はあの日、三人で食事しろだなんて変な事私に言ったんだね」


 光里は、納得がいったように、手を叩いた。


「手芸部は体育祭の衣装作りが今日の昼休みが締め切りだと先生から聞いていたから、蜜子ちゃんは絶対あの場所を通るとわかっていたからね」


 まんまと先輩にハメられてしまった蜜子は悔しそうに、拳を握りしめていた。


「でも、待って。手紙を私の靴箱にしまうなら、今日は何で一緒に帰ったの?」


 思いついた疑問を蜜子に問うが、また黙ってしまった。言いたくないという意志を感じる。


「一緒に帰った後に、手紙が靴箱にあったら、蜜子ちゃんがやったとは誰も思わないだろうからね。以前艶子ちゃんに扮して手紙を渡す時に自分の正体がバレるようなミスを犯して、自分がやったと思われないように蜜子ちゃんは偽装したかったんだよね」

「ミス……?」


 私は数Ⅰの教科書の貸し借りをした時の事を引っ張り出して来た。


≪ありがとう、柚子葉ちゃん≫


 そうだ、あの時私は"柚子葉ちゃん"と呼ばれた。艶子はあの時点で私の事は親し気に下の名前で呼び合う関係ではなかった。


「そう言う事か……」

「蜜子は、なんでそんな事したの……?」


 双子の姉妹の艶子は蜜子の気持ちが理解できないと、悲しそうに視線を落とした。

 私はそんな艶子が見ていられなくて、蜜子に視線を合わせるように目線を下げた。


「蜜子ちゃんは艶子ちゃんの事が大好きなんだよね」

「っ!!」

「艶子ちゃんと話したいのにパソコンで怖いゲームをしているから近付けなくて、艶子ちゃんと共通の話題が欲しくて身だしなみに気を使うように言っても艶子ちゃんは興味なさそうにするだけで、虚しくて、悲しくて、だから艶子ちゃんに対していつも怒ってたんだよね」


 蜜子は、はっとした表情をしながら私の言葉を聞いていた。

 否定はしない。ただただ黙っているだけだ。


「蜜子ちゃんは、私と光里が仲良くしていて、艶子ちゃんが友達を奪われた腹いせに私の上履きを隠したと勘違いしちゃったんだよね。だから私と光里の仲を引き裂きたかった……普通に私に光里と仲良くするなと言っても効果がなかったから、奇妙な手紙も使って。蜜子ちゃんは艶子ちゃんのために全部やったんだよね。そして、私達三人が一緒にお昼を食べてるのを見て、今度は艶子ちゃんがもっと遠くに行ってしまう気がして悲しくてまた、手紙を入れようとしたのだよね」

「蜜子……」


 艶子が私を除け蜜子の前に立つ。そして、強く睨むと片手を振り上げた。

 蜜子は避けるつもりがないのか、これから来る衝撃に堪えるように目をキュッと瞑った。

 しかし、教室に響いたのは平手打ちの肌がぶつかる音ではなく“ペチリ”と手が軽く頬に付いたような間抜けな音だった。

 痛まない頬に疑問を感じるように蜜子は艶子を見上げた。


「蜜子、ごめんね。私、鈍感で貴方の気持ちに気が付かなかった。私は蜜子とは話す必要のない関係だと勝手に思っていた」

「……熟年夫婦か私達は」


 蜜子は頬を膨らませ、そっぽを向いた。


「夫婦じゃない。姉妹よ。私がこの世で一番大切な存在が蜜子」

「は……はぁ!?」


 今度は林檎みたいに真っ赤に蜜子はなった。


「何言ってるの!? そんな訳ないじゃない」


 艶子はゆっくりと首を振り、蜜子の手を両手で握った。


「私が世界で誰か一人しか守れないと言うのなら、私は迷わず貴方を選ぶ。ここにいる誰でもなく蜜子が一番大事」

「柚子葉ちゃんや伊塚光里より?」

「ええ」

「そこの変な先輩よりも……?」

「もちろん」


 蜜子は目に涙を溜め、嗚咽を漏らし泣き始めた。そんな蜜子を艶子は優しく抱きしめる。


「ごめんね、蜜子。私は貴方を放ったらかし過ぎた。もっとちゃんと話し合える関係でいれば今回のような事は起きなかったのに」

「ムカつく。謝らないでよ、私が駄々捏ねてるみたいじゃない」

「違うの?」

「うるさい!」


 蜜子も強く艶子を抱き締めた。

 美人姉妹が抱き合う姿に私は垂れそうになる涎を必死に堪えた。やっぱ女の子同士は絵になる。

 散々艶子に甘え落ち着いた蜜子は、私達をぐるりと見回し頭を下げた。


「……変ないたずらしてごめんなさい」

「気にしてないよ、全部元通りだし」


 蜜子は良くも悪くも素直な子なのだろう。

 皆、毒気を抜かれ、仕方ないと諦めの笑いをこさえていた。

 そして、場をまとめるように光里はパンと一本締めのように手を叩いた。


「よーし、仲直りとしてこれからファミレス行こう。ドリンクバーで乾杯」

「行きたい、行きたい。二人は予定大丈夫だよね」

「うん」

「大丈夫だよ」


 私達はそのまま先輩を置いて、帰ろうとした。


「ちょっと待って、俺は置いてけぼりなの?」


 その場の女子はみんな、来るの? という表情で先輩を振り返ってみた。


「俺も連れて行ってくれるなら奢るよ」


 奢るという言葉に、女子達は耳ざとく反応した。


「もちろん、太都君も一緒に決まってるじゃない」

「ヘンタイ先輩、早く準備してきてください」

「太都先輩が来るの待ってます」

「早くしないと先行くから」

「君達ね……まあ、俺の存在意義なんてそんなもんだよね」


 先輩は小走りで、鞄を取りに化学室の方へと走っていった。

 それから全員でファミレスへ移動し、散々無駄話をして、盛り上がって、友情を深めた。

 嫌らしくて、ムカつく人だと思っていたけれど今回はヘンタイ先輩に助けられてしまった。

 彼がいたからこんなに楽しい時間が過ごせたと思うと、彼に対しての印象も少し良くなった。

 斜め向かいに座るヘンタイ先輩を見ていたら、目が合ってしまった。

 彼はニコリと私に笑いかけた。私は少し恥ずかしくて顔を逸らしてしまう。

 何だろう、胸が熱くて顔も何だか熱を持っているような気がする。

 この気持ちの名前をこの時の私はまだ知らないのだった。


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