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ヘンタイ先輩と女子高生  作者: ちゃー!
ヘンタイ先輩と消えた上履き
2/9

艶子と蜜子

 ※


 次の日の朝、私は寝不足で気怠い身体に鞭打ちながら、学校へと登校し上履きに履き替えようと靴箱を開けると、綺麗さっぱりそこにあるはずの上履きがなくなっていた。


「ない……?」


 間違えて他のところに仕舞ったのだろうか。私は他の生徒より早めに登校しているため、周りには誰もいない。近いところにある靴箱を探したいが、とはいえここも一種のプライベートな空間。許可なくみるのも気が引ける。それに誰かに見られて変な噂を流されても嫌だし……。

 ここは大人しくスリッパを借りて先生に相談しよう。間違えて入れたなら他の生徒が申し出るだろうし。


 この学校では外に置きっぱなしにした上履きは職員室にある。私が昨日仕舞い忘れた可能性も充分あるのだ。

 もし、仕舞い忘れた場合学年主任の先生に謝り、もう二度としないと一筆書かなければならないらしいと聞いた。

 そうだとしたら憂鬱だと思いながら、私は重い足取りで職員室へと向かった。



 無事教師への報告を終え教室へ行くと、殆どの生徒が登校し終えた後だった。時計は8時25分を指している。あと5分で朝のホームルームが始まる時間だ。

 そんなギリギリの時間に光里はいつも登校してくる。


「おはよう、柚子葉」

「光里、おはよ」


 光里が私の足元の違和感に気が付く。私は上履きをなくしたことが恥ずかしく、それを誤魔化すように軽く笑った。


「柚子葉上履きは?」

「いやぁ、なんていうか朝来たらなくて……お恥ずかしながら」

「職員室は?」

「行ったけどまだ届いてないみたいでなかった」

「ひどい……」


 光里は綺麗な顔にキュッと力を込め、怒りの表情を浮かべた。


「そんな、私がなくしただけだろうし」

「上履きなんか簡単になくさないでしょ! きっと誰かに盗まれた……」


 光里は何かに気が付いたかのようにはっとした後、顔を青ざめさせながら右手を口元に当てた。


「光里どうかしたの?」

「ううん、なんでもない。ちょっと貧血かも」

「大丈夫?」

「うん、ごめんね」


 そのまま光里は考え込むようにして自席に着いた。

 その表情はとても苦しそうで、私が変な話題を出したせいだとしたら申し訳なさに胸が痛む。

 その後、すぐに予鈴が鳴り、担任の教師が教室に入り朝のホームルームが始まった。

 教師は私の上履きが紛失したことを軽く話し、見掛けたら言うようにということだけ伝え教室を去った。


 翌日、私は家にある予備の上履きを持って学校へ登校した。普通に授業を受け、部活もないので帰宅の準備をする。

 いつも光里と帰っているのだがその日は光里は用事があるというので、私一人で帰路についた。


 そしてその翌日の朝――、校門のところで偶然光里と会った。


「おはよう、光里。珍しいねこんな早い時間に」

「うん、これから早起きしようと思って」

「続くかなぁ?」

「疑わないでよぉ。頑張るし」


 そして、玄関で靴箱を開けると中はもぬけの殻になっていた。私が絶望したかのように「またぁ」と声を上げた。


「柚子葉?」


 光里も私の隣から空の靴箱を覗いた。


「ない……」

「うん、またなくしちゃったみたい」


 私が脱力していると、光里は私の右手を握り、真っ直ぐとした目で私を見た。


「探そう! 」

「う、うん」


 私達は二手に分かれて周囲を探した。

 私は下駄箱周辺にあるゴミ箱の中や窓の外等をざっと見回し、光里は玄関の外を見て回っていた。さすがにないかと意気消沈していると「柚子葉!」と、私の名を呼ぶ声が聞こえた。


「あったよー」


 光里が下駄箱の一番隅にある誰も使っていない靴箱の中を指差した。

 そこには私の上履きがしまってあった。


「何でこんなところに……」

「嫌がらせっしょ。とりま見つかって良かった」

「そだね」


 この微妙な隠し方に意味はあるのだろうか。嫌がらせだとしたら私は一体誰に恨みを買ったのだろう。

 特に険悪な仲の人はいないし、オタク嫌いの人に狙われたかな……?

 恨みと言っても空いてる靴箱の中に置くくらいだから、犯人はそこまで悪い子じゃない気もする。

 無事見つかったことだし、私はあまり深く考えずに学校での時を過ごした。


 ※


 そして、五限目の体育の時間になった。体育は隣のクラスとの合同だ。

 更衣室でジャージに着替えている最中、私は大きな欠伸をした。


「柚子葉、また遅くまでネットかゲームやってたの?」

「えー勉強かもしれないのに。まぁ、合ってるけどさ」

「ロッカーに全教科教科書置きっぱにしてるあんたが勉強してるとか微塵も想像しなかったわ」

「うぅ、だって持って帰ると重いんだもの。光里は偉いよね、毎日全部持ち帰っているなんて」


 光里は頭が良い。それに努力家で教科書もキチンと毎日持ち帰り予習復習をしているようだ。おそらくもっと上の偏差値の高校を選ぶことができたのではないかと予想されるが、何故この学校に来たのか等、そこら辺の深い事情については聞いたことがなかった。

 まだ四月だ。焦ってお互いのことを根掘り葉掘り探る必要はない。



 皆が着替え終わり、二クラス分の女子が体育館に集まって出席を取る。

 一人一人名前を呼ばれていき、そこで“木立”と呼ばれた子がおり反応する。

 光里の友達の木立艶子がいるのかと探すが姿が見えない。


「柚子葉どうしたの?」

「今、光里の友達の木立さんが呼ばれた気がしたけれどいないなぁって……」

「あー、それは“木立”違いだよ」


 光里が三列先の斜め前方に腰を下ろす女子を指差した。長い髪をサイドテールに揺って、若さに似合わない完璧なメイクを施したオタクとは無縁そうな女の子がそこには座っていた。


「あっちは蜜子ちゃん。艷子と双子の姉妹なのよ」

「似てない……」


 まじまじと見つめると確かに顔の造形は似ているのかもしれない。が、かたやオタク、かたやリア充となると見た目が瓜二つとは言えないだろう。

 人はファッションでここまで変わるか。

 世の女子が必死に化粧を学びより美しくなろうとする気持ちが少しわかった。

 体育の教師がパンと手を叩き、出席を取り終えたことを合図する。


「よし、全員いるね。まずストレッチから、じゃあ六組と五組でそれぞれ出席番号順に並んで、向かい合わせた子同士で組んでね」


 私の向かいは先程噂をしていた木立蜜子だった。蜜子の身長は百五十センチくらいだろうか、私は女子の中でも背が高い方なので一回り背の低い子とストレッチをすることになり申し訳なく感じてしまう。

 不安そうな私を他所に蜜子は手を後ろに組み首を傾げながら私へ笑いかけてくれた。


「よろしくね! えっと……」

「唐金柚子葉。木立さんよろしく」

「柚子葉ちゃん、私のことは蜜子って呼んで。双子の姉も同じ苗字だから名前で呼んでもらっているの」

「わ、わかったよろしく」


 先生の指示に従い、片方が床へ足を広げて座り片方が背中から押す役目となった。

 私は小さい蜜子に過度に力をかけないようにしながら、彼女の背中をゆっくりと押した。

 あまり力を掛けていないが彼女の身体は柔らかく、抵抗なくペタンと床にくっついてしまった。


「すごい……蜜子ちゃんって身体柔らかいんだね」

「美容のために毎日ストレッチしてるからね」


 美容! 高校生にもなったらやはりそういうことを気にしなければならないのか。

 家に帰ったらだらだらとアプリゲームをしたり動画サイトを見て、そのまま寝てしまう私の生活とはまったく違うようだ。


「柚子葉ちゃんも綺麗だよね。何かやってるの?」

「私は特に何も……」


 気を遣わせてお世辞を言わせてしまったようで申し訳ない。


「何もしてないのにそんなに綺麗なの!?」

「全然そんなことないって、蜜子ちゃんの可愛らしさに比べたら私なんてスッポン以下だから」

「スッポン……? 柚子葉ちゃんて面白いこと言うね~」


 ボケが伝わらなかったらしい。根本的に性質が違う子と話すときはいつも失敗してしまう。

 艶子の方は慣れれば話しやすそうだったけれど、蜜子の方はもう別世界の人間にしか思えない。

 嫌いではないのだけれどこの手のタイプには苦手意識をどうしても感じてしう。話題の共通点が少なすぎて盛り上がりようがない相手なのだからこればかりは仕方がないだろう。

 学校では皆仲良くと教えられるが、仲良くしない自由はあると私は思う。勿論集団で露骨に無視することはよくないとは思うが、最低限の付き合いだけにとどめ深く付き合わないのは個人の自由なはずだ。

 彼女の方も私のような“イケてない女子”には微塵も興味がないだろう。

 蜜子とは特に盛り上がることもないがそれでいて気不味くならない程度に会話をしながら体育の時間を共に過ごした。

 私はこの時、彼女とはそれきりの関係だと思っていた。


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