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灯りの少年  作者: nankome
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訪問者

「御免下さい」と、一階で声がし、カガリが顔を上げると時刻は12時をとうに越えていることに気がついた。サバニにお昼ご飯を頼んだことを思い出し、カガリは一階へと降りていく。するとそこにはスーツ姿の男が二人立っていた。カガリが降りてきたことに気づくと二人は軽くお辞儀をする。カガリも会釈を返すと一人がニコニコと人の良さそうな笑顔をカガリに向け話始めた。

「お昼にすみません。私ツキと申しまして、灯りの販売促進について考案しておるものでございます。本日はその販売に関しますことで、是非とも制作者の方に協力を頼めないかと思い、伺わせていただきました」


「……はあ販売促進……具体的にどういったことでしょう」


「はい。私共が考えております事業とは、灯り製作における効率化を図り、安く大量にを目指したより実用に特化した灯りの制作の提案でございます。現在の灯り屋の多くが、伝統的な灯りの文化に習い、灯り一つ一つに意味を持たせた物を作っておられます。それをですね、意味を持たせず蛍火を完全なる飾りとして捉え、同じ柄の灯りを大量にお作り頂けないかということなのです。蛍火に意味を持たせていたのは元々は悪魔除けとしての効果を高めるため。しかし昨今では悪魔はおとぎ話に出てくる空想の生き物と捉えられております。灯りに描く蛍火に意味を付ける必要はないのです。単純な話蛍火さえ描いてあれば、それは灯りとして成り立つのですよ。確かに意味を込めたものに比べて輝き方や長さは劣りますが、一つの灯りを制作するのに最低でも一週間はかかっていた制作時間がその半分いや慣れればもう半分にまで縮められると思うのです。それに……」



ツキの話を静かに聞いていたカガリだったが、手を前に出し、制止の合図をツキに送るとカガリは切り出した。


「ツキさんすみません。そういった話なら他あたって下さい。俺は根っからの職人でして、手を抜いて作るような灯りの作り方はしょうに合わないんですよ。幸い今のところ経営は安定してますし、金にはそんなに困ってません。飢え死にしない程度に稼げれば多くは望まない。わざわざ来ていただいたのに申し訳ありませんがこの店ではお引き受けできません」

そう言ってカガリが深く頭を下げるとツキはいえいえと首を振った。

「私もいきなり来てすぐに良いお返事が貰えるとは思っておりません。今までやってきたことをガラリと変えていかねばなりませんし、私がお話しました内容は職人の方々の想いを否定するようなことでもありますので……ですが一度じっくり考えてみてはもらえないでじょうか?勿論全ての時間を私が提案したやり方で制作するのではなく、今までの手法を求めて訪れるお客さま方には従来のやり方で作っていただいて結構でございます。……また訪問させて頂きますので少し頭の片隅に置いて頂けないでしょうか?」ニコニコと顔色崩さずツキはカガリに問い掛けてくる。



「ええまぁ……はい」

複雑な面持ちでカガリは曖昧に変事を返した。


「では本日はこれにて失礼させて頂きます。大事なお昼にお時間割いていただきありがとうございました」と言ってツキは踵を返し、無表情のままずっと扉の近くに待機していた男と共に去っていった。



二人が立ち去るとカガリは疲れた様子で側にあった椅子に深々と腰掛けた。

「はぁーーーっ……。面倒くさいのが現れたな……」とカガリは誰もいなくなった一階で一人呟いた。


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