楽しいか楽しくないか
「ではまたのお越しをお待ちしております」
「ああ。楽しみに待っているよ」
「さようなら」とリリはサバニに笑顔で手を振った。それにサバニも小さく手を振り返す。
扉が閉まり、カガリとサバニだけになるとサバニがポツリと言葉を落とした。
「華やかじゃないって僕の灯り……」
リリが自分の灯りを気に入ってくれたことに喜びは感じたものの、自分が常から気にしていることを言われてしまい嬉しいのかそうじゃないのか、複雑な気持ちが混ざりあって思いの外暗い声が出てしまった。
「嬢ちゃんがそう言ったのか?」
カガリの問い掛けにサバニは小さく頷く。
「おまえの灯りを貰ってあんなに喜んでたんだから、嬢ちゃんだって悪い意味では言ってないだろ?」
「……でも……」
「……サバニおまえはさ、灯り作るの楽しいか?」
「え?うん」
「じゃあおまえはもう作りたいもんちゃんと作れてるよ。楽しく作ったもんを否定してやるな。こうしなきゃいけないなんてことは何もないんだ。楽しいか楽しくないか。あとは自信。それでだいたい上手くいく」
な?とカガリはサバニの頭をクシャクシャと撫でた。
「俺は、おまえの作る灯りを見ると穏やかな気持ちになれる。それはおまえの魅力だ。
今あるものをどう捉えるかで、良いにも悪いにも変わる。それにな、否定して違うものを選ぶと何も良いものはできないぞ。ちゃんと見つめな。サバニがどうしたいのかを。……って言っても俺もおまえくらいの時には嫌になるくらい悩んだしな……まぁとことん悩んでみるの有りかもな。それまでは一人で本番作るのはお預けだけどな」
へへっと笑ってまたクシャクシャと頭を撫でてきた。
「ずーっと悩んでたら、ずっと見習いのままなの?」
「んーそうだな。悩むというか、優柔不断は模様に出る。それは商品にはならない。一人で一つ作れるようになるには、おまえの中に何かストンと落ちてこないとおまえ自信が苦しむことになる。俺達だって別に悩みなく作ってるわけじゃねーが、芯だけは通してる。おまえもそーなりゃいくらでも徹夜に付き合ってもらうさ」
「……うん。わかった」
「ほんじゃまた上行くわ。次は14時だな。昼は俺達上で適当に食うから、おまえも時間来たら弁当食っていいからな」
「……上には酒のつまみしかないよね。駄目だよ。僕買ってくるから昼くらいちゃんと食べて」
サバニはじとっとカガリを見つめた。
「……わーったよ。食べる食べる。これで買っといてくれ。」
と言ってカガリはサバニにお金を手渡すとサバニは満足げに頷いた。
カガリが二階に行く音を聞きながら、サバニは番台に戻り先程のリリとのこと、カガリから言われたことを考える。
「……僕は、どうしたいんだろう……」
誰に聞かせるともなしにこぼれた言葉は、誰の応えも得られぬまま寂しく空気に溶けていった。