新入りさん
翌朝、サバニはいつものように支度をし、早めに家を出た。店に向かうと扉の前に人影を見つけた。
「……ラキ?」
そこにはラキの姿があった。
「よおサバニ」
「……どうしたの?」
サバニの問い掛けにラキはへへっと笑いながら腰に手を当てて話し出した。
「ここに通えばリリに会えそうだし、灯り見てるのも楽しいなーと思ってよ……ついでにおまえの灯りも見られるし」
「それは仕事の邪魔」
「いいじゃん。隅っこにいるだけだから」
「僕はいいよって言える立場じゃない。お店掃除するからもう中入るね」
さっさっとお店に入ろうとするサバニをラキは慌てて止め、別の提案をしてきた。
「あ!じゃあじゃあ!おれも掃除する!おれ掃除得意なんだ!それなら入っていいだろ?」
ラキの言葉にサバニはしばらく迷い、遊ぶわけじゃないならいいのかな?という考えに至った。
「……手伝いの間だけね……邪魔はだめ」
「大丈夫大丈夫ほらやろうぜ掃除!」
サバニはまだ迷っていたが、ラキの嬉しそうな顔を見ると、今からやっぱりダメとは言えず、それにせっかくここまで来たのに追い返すのは可哀想な気がして中に入れることにした。
ラキが掃除を真面目にするのか不安だったサバニだが、以外にも手際よく次々と綺麗にしていくラキの姿に安心して、自分の掃除に専念しだした頃、ラキがサバニに話し掛けた。
「……なあ」
「どうしたの?」
「……悪かったよ昨日」
「……いいよ気にしてない」
「……なあ」
「ん?」
「おれラキだ。ちゃんと自己紹介してないだろおれ達。……よろしくな」
少し恥ずかしげな表情で明後日の方向を見ながらラキが話す。
「僕はサバニ。よろしく」
サバニも自己紹介した。するとムズムズするような感覚が沸き上がり、嬉しいような恥ずかしいような感情が混ざり合ってそれがなんだか面白くてふふっと笑った。そんなサバニをラキはちらっと見る。そしてラキもへへっと照れ臭そうに笑った。
そこで扉が開く音がして、カガリが店に入ってきた。
「よおサバニおはようさん。……ん?おまえは誰だ?」
カガリは見慣れない顔を見つけて首を傾げた。
「あ、えーっと」とラキが言葉にならない言葉をこぼしているのを見てサバニはカガリに説明した。
「僕の友達で、お店の掃除を手伝ってくれてたの……」
「なるほど手伝ね、それはありがとな!……じゃねえだろっと」とカガリはそう言いながらサバニのおでこに軽くデコピンをした。
「誰が勝手に店に友達入れていいって言ったんだ?ん?ここはお前の友達を勝手に入れていいところか?違うよな?ここはお店で、仕事するところだ。大事な灯りもあるし、もっと慎重に行動してほしい。今度から友達を店に入れたいときは、おれかリタに許可を取ること。二人とも店にいないなら、それまで待ってもらうこと、その習慣をつけとかないと何かあってからじゃ遅いんだ。いいな?」
「はい。ごめんなさい」
とサバニは謝りつつ、昨日のことはバレないようにしなきゃと思うのだった。
「なあ、あんまりサバニのこと怒んないでくれよ。サバニはダメって言ったのにおれが聞かなかったんだ」とラキが話に入る。
「昨日サバニに灯りを見せてもらってかっこいいなって思ってさ、ほらあそこにあるの。おれあれが好きなんだ」と言ってラキが太陽の時計を指さした。
それを聞いてカガリは低い声でサバニを呼んだ。ラキは何故カガリがサバニを呼んだのか不思議に思い振り返ると、サバニがやってくれたなという顔でラキを恨みがましく見ていた。そこでやっとラキは自分の失言に気がついた。
「サバニ……昨日勝手にここ入ったのか?」
「……ごめんなさい」
「しかも今バレなきゃ揉み消そうとしたよな」
「……すみません」
「……デコピンもう一発だな。おでこ出しな」そう言ってカガリは指を鳴らし始めた。サバニはそれに大人しく従いおでこを出す。そんな二人の会話を聞いてラキが身を乗り出す。
「お、おれも!おれにもデコピン!それもおれが悪いんだ!だからおれにもしてよ!」
「……ようし!二人ともそこに並んで目をつぶれ」
カガリは両手それぞれでデコピンの用意をして構えた。二人は目を閉じて来るべき衝撃に身構える。だが、おでこに痛みがくることはなく、代わりに頭にポンポンと手がのる感触に二人は目を開けた。
「もうやんなよ。必ずおれかリタが来るまで待ってもらうこと、いいな?」仕方ないなという表情でカガリは二人に話し掛けた。
その言葉に二人は勢い良く「はい!」と返事した。
「よし!じゃあこの話しはおしまい!二人とも掃除ありがとうな。いつにもましてピカピカだ。それからおまえ、おれの灯りかっこいいっつったな?なかなか見る目がある。灯りに興味あるのか?」
カガリの問い掛けにラキはうんと力強く頷いた。
「すっごいある!あ、おれラキって言います!……ねぇ!おれもここで働きたい!おれも弟子にしてよ!そしたらここに通ってもいいでしょ?」
キラキラとした目でラキがカガリにお願いする。
「んーつってもなあ、いきなりは決めらんねえな」とカガリがうーんと唸っていると、後ろの方から声が聞こえた。
「いいんじゃない?」
その声に反応して三人が振り返ると、扉に寄りかかってこちらを楽しそうに見ているリタの姿があった。
「……いたのかよ。声掛けろよな」
「ふふふ掛けたじゃないか今。それに私が入って来たときは、誰かさんがデコピンしようとしてる真っ最中だったから声掛けそびれたんだよ」とリタは可笑しそうに話した。
「……見てたのかよ……」見られていたことに恥ずかしさを感じ、カガリはリタを軽く睨んだが、その視線をまったく気にした様子もなくリタはまたふふふっと笑い、懐かしそうに呟いた。
「……デコピンされてた側がする側になるなんてね。ふふふ」
リタの言葉にカガリは更に睨みを深くしたが、これもリタにはまったく効果はなく、面白そうにカガリを見ていた。
「ねぇねぇおれなっていいの?弟子になっていいの?」
カガリとリタが話していると急かすようにラキが話に入ってきた。
それを聞いてカガリはまた少し悩み、それからラキに話し掛けた。
「……お試しからな。それと!親の許可をちゃんと取ってこい。まずはそこからだな」
「わかった絶対取ってくるから!やっぱりなしとかダメだからな!やったサバニ!」
ラキが満面の笑みでサバニを見たのでそれにつられてサバニも笑みを返した。
「弟子って言ってもすぐには作れないからな。暫くはサバニから基礎を教えてもらいな。サバニも復習だと思ってしっかり教えるようにな」
カガリの言葉に二人は「はい!」と元気よく返事をした。




