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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode3:再臨の剣
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3-34 聖剣と魔剣

 レイは一歩、ローグに向かって足を踏み出した。

 同時に、文言を呟く。


「――聖剣よ、光を宿せ」


 白銀の剣から黄金の光が放たれる。

 ローグがそのさまを見て舌打ちした。直後の出来事だった。

 凄まじい音が炸裂する。

 レイの聖剣とローグの魔剣が、中央で衝突した音だった。

 相変わらずローグの魔剣は常軌を逸していた。グレンのように受け流すならまだしも、聖剣と正面から激突して傷がつかないなど魔剣しかありえないだろう。

 レイの「光」が、ローグが操る「闇」を寄せ付けない。

 ギリギリ、と鍔迫り合いが続く。

 レイとローグは至近距離で睨み合った。


「……まさか転生してまで俺の邪魔をしに来るとはな。本当に厄介な奴だ」


 ローグは魔剣に力を込めつつ、不愉快そうな口調で言う。だが、まだ余裕は消えていない。


「お前のような奴がいるから、余計な悲劇が増えるんだよ……!」


 レイは言葉と共に足を踏み出した。力ずくでローグを押し飛ばし、さらに前へと踏み込んでいく。

 高速の振り下ろし。ローグはそれを、魔剣を上にかざすことで防御した。弾かれた剣を、レイはその勢いを活かすようにぐるりと回して脇腹に叩き込む。

 ローグはそれを魔剣で受け止め、彼の意識が剣に向かったところでレイはローグを思い切り減り飛ばした。

 圧倒していた。魔国軍最強の怪物であるローグを前に、レイの力は間違いなく通用していた。

 それも『女神の加護』による力ではない。グレンとの地獄のような鍛錬の成果が、こちらの世界でも確かに効果を発揮している。

 ならば、もう迷いは何もなかった。

 鈍い音と共に数メートル以上吹き飛ばされたローグだったが、地面を滑るように勢いを減衰させ、どうにか膝をつく。


「それにしても、またお前が勇者の証を宿しているとはな……」


 ローグは口端から血を流しながら、それでも平然とした表情でレイに告げる。


「理由なんて俺が知るかよ。女神にでも直接聞いてくれ」

「……勇者アキラ。いや、今はレイと呼んだ方がいいのか?」

「好きに呼べ。どっちも俺だ」

「そうか、レイ。哀れなものだな。お前は、一度裏切られた聖剣の力にまだ縋り続けるのか」

「……」

「――まだ、女神の操り人形を続けるつもりか?」


 ローグは笑みを深めて告げるが、レイに動揺はない。ただ敵を見据えて押し黙っていた。


「悪いな」


 そうして聖剣を上段に構えると、真っ直ぐにローグの懐へと踏み込んでいく。


「その手の揺さぶりはもう通用しないんだ」

「……っ!!」


 金属音が連続していく。レイの聖剣に、ローグは魔剣で的確に対処していく。

 やはり怪物だった。レイはグレンとの鍛錬で自分の力を開花させたからこそ、ローグの実力が如実に伝わってくる。

 だが、それでもレイは負けない。打ち合う。グレンから教わった『力の使い方』で、ローグを徐々に追い込んでいく。

 レイの額に冷や汗が伝う。紙一重の剣戟。一瞬後には勝負をひっくり返されそうな緊張の連続だった。

 まだレイはグレンの域には達していない。つまり前世の自分には及んでおらず、それはかつて互角だったローグの力量をまだ下回っている可能性を示唆する。

 しかしレイは知る由もないが、今のローグは土精霊ノームとの戦闘で魔力をかなり消費していて、下手に魔術を無駄撃ちできない。ゆえに剣で対応するしかないのだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


 レイは咆哮と共に、逆袈裟に剣を振り抜いていく。

 それは、これまで紙一重で防御し続けたローグに初めて鮮血を舞わせた。


「……お前」


 ローグは困惑したようにレイを見つめる。


「まさか、その力は聖剣による加護ではないと……?」

「ああ」


 レイは即答し、


「こいつは借り物の力なんかじゃない」


 聖剣を、ローグの方へ真っ直ぐ向ける。

 魔力感覚が鋭いローグなら分かるのかもしれない。

 今のレイが、『女神の加護』を纏っているわけではないのだと。 


「――俺の力だ」


 ゴッッッ!! と、凄まじい音が炸裂する。 

 レイが再び真正面から踏み込み、振り下ろしをローグに叩きつけた轟音だった。

 ローグの表情が歪む。彼は魔剣で受け流すように体勢を切り替え、レイの横をすり抜けるようにぐるりと位置を入れ替えていく。

 レイは振り向きざまに神速で剣を振り抜いた。だが、それは予期していたのかローグは膝を曲げて頭を下げることでレイの剣撃をかわす。

 

「なっ……」

「あまり舐めるな。お前が俺の戦い方を分かっているのと同じように、俺はお前の戦い方を知っている」


 ローグの魔剣がレイの腹部に突き刺さる。その直前にどうにか聖剣を滑り込ませた。

 ギィン!! という金属音と共に衝撃でレイが仰け反り、くるりと宙返りして体勢を立て直す。

 どうやらローグにも生け捕りを狙っているような余裕はなくなったらしく、刃を使った本気の一撃だった。

 

「……覚醒か。それとも聖剣を握った際の不自然な三秒に、俺には分からない何かがあったのか……」


 ローグは淡々と呟き、


「……まあ、いい」


 面倒臭そうに嘆息した。そうしてローグはゆっくりと背を向けた。レイを無視し、『空間回廊』の方へと歩き始める。

 レイは踏み込むための前傾姿勢になりつつ、尋ねる。


「逃げる気か?」

「ああ。今の俺がお前を相手にするのは正直なところ面倒だ。勇者を相手にするなら、それなりの準備が要る」

「……一応聞くが、逃がすと思ってるのか?」

「質問で返すがな、レイ」


 ローグは顔だけレイを振り返ると、瞳を一瞥した。


「――俺が過去一度でも、お前から逃げられなかったことがあったか?」


 ローグはその言葉と共に、呟く。


「闇の眷属よ」


 ズズ……!! という音と共に、魔剣から放出された闇が蠢き、何かを形成していく。

 僅か数秒。それだけで闇は形を成す。

 生み出されたのは、間違いなくアンデッド系の魔物だった。

 これこそが、ローグと、その手に持つ魔剣が宿す能力が組み合わさった固有魔術。その魔剣で殺した数々の死霊を扱い、魔物を生成するのだ。それはもはや神の領域にも足を踏み入れた不遜なる力。彼は誰にも負けたことがない。なぜなら強いことは当然だがそれに加え、撤退の手段が誰よりも完成されているからだ。

 生み出された十数体にも及ぶ魔物が、一斉にレイに向かって押し寄せていく。そのうちの何体かは倒れているリリナたちに意識を向けた。

 ゆえにレイは魔物たちを無視するわけにもいかず、舌打ちしてローグを睨む。

 だが彼は、すでに階段を降りている最中でその背中の半ばまでしか見えなかった。


「そもそも俺と戦っている場合じゃないだろう? ガングレインじゃ今頃、お前の望まない事態がたくさん起こっているだろうからな」

「何……!?」

「また今度だ、勇者レイ。今度は魔王様がいる時にでも会おうじゃないか」


 言うだけ言って、ローグは階段を下りていく。今度は振り返らなかった。


(魔王だと……!? 先代のシャウラはかなり前に亡くなった。なら……!)


 ――新しい魔王が、すでに誕生したということなのだろうか。

 レイが危機感と焦燥感に苛まれつつも、魔物たちをすべて斬り伏せた頃には、ローグの姿はもはや完璧になかった。

 今からでは、もう追いつけないだろう。

 命に別状はなさそうだが、傷ついたリリナたちを放置するわけにはいかず、ローグが言っていた要塞ガングレインのことも気になる。


「……リリナ、セーラ。大丈夫か?」


 折り重なるように倒れている二人の傍に駆け寄り、レイは心配そうに顔を見やる。

 すると、ぐったりとしているセーラを抱き締めているリリナだけが薄く目を開けると、小さい声で言う。


「……ありがとうございます、助けてくれて」

「……いや、遅れてごめんな」

「やっぱりレイ様は、私の勇者さまです、ね……」


 リリナはレイの頬に手を伸ばし、撫でるようにしながら、そう言った。


「だけど、私だけの勇者さまじゃない……だから、今は、行かなくちゃならないところがある。……そうですよね?」

「……ありがとう、リリナ」


 レイはリリナによる説明を受けた。

 ローグが下った階段の奥にある『空間回廊』のことから、大要塞ガングレインのこと。そしてライドたちがそちらへ向かったこと。

 その話を聞いて、レイの覚悟は決まった。


「ひゃ……!?」

「悪いな。少し揺れるから我慢してくれ」

「わ、分かりました……」


 レイは辛うじて意識のあるリリナを背負い、意識のないセーラをお姫様抱っこすると、できる限り揺れないように意識しながら、疾風のように駆け出していくのだった。




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