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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode3:再臨の剣
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3-8 朝弱い系ヒロイン

 そんなこんなで三日が経過していた。

 ついに目的地に向かって出発する日である。


「つまりは初依頼のスタートというわけだ。分かってるか?」


 レイは自分の荷物を確認しつつ、隣に佇むセーラに言う。


「うん。分かってる」

「そーかそーか。それじゃ、まず服を着替えようね?」


 寝巻きのような格好のまま、ぐっ、と指を立てるセーラ。


「あれ……?」


 セーラは小首を傾げる。その表情はとても眠そうだ。

まだ朝早いから仕方ないとはいえ、もう少し緊張感を持ってほしい。

レイはセーラの荷物から適当な服と外套を取り出すと、彼女を着替えさせようとする。

すると、セーラは少し顔を赤くした。


「……セーラ、自分で着替える。レイは、あっち行ってて!」

「どうした……?」

「どうもしてない。セーラはもう、大人だから。自分で着替えるの」

「お、おう……」


 レイは大人しく彼女の指示に従いつつ、何だか娘が成長したかのような感慨に浸った。


「謎の悲しみがあるな……」

「そんなにセーラを着替えさせたいなんて……レイの、変態さん」

「なんて誤解だ!!」

「でもセーラの体、見たいんでしょ?」

「そんなことないって!」

「…………ふうん。そう、なんだ。レイ、ひどい」

「俺にどうしろと」


 真顔で突っ込みながらも、レイはレイで剣を装備して外套を羽織っていく。


「うわぁ……」

「おい待てリリナ。このパターン何回目だ。俺は別にロリコンじゃないと何度」

「セーラ、肉体年齢的にはレイとあんまり変わらないはず」

「そんなわけあるか」

「マリアスが言ってた」

「人造魔族うんぬんとは関係なく、ただ小さいだけってことか……」

「セーラ、小さくない。心は誰よりも大きい」


 ふん、と胸を張るセーラ。残念ながら胸はなかった。


「ところで、そろそろ集合時刻ですよ。早く行きましょう」


 いつものメイド服に着替えたリリナがそんな風に言う。


「なあリリナ……やっぱり、普通に旅の服装かなんかの方がいいんじゃ……」

「これは私の誇りなんです! やめませんからね!」

「あ、そう……まあ、ならいいんだけど」

「立場的には同じ冒険者の仲間扱いなので、レイ様のメイドだと証明するものが服ぐらいしかないですし」

「何だか俺の趣味が疑われそうなんだよな……」

「ロリコンよりメイドさん好きの方がマシじゃないですか?」

「どっちの称号も嫌だよ!」

「……レイ様、ひどいですね」

「別にリリナが嫌だと言ってるわけじゃないんだが……」

「ふん、まあいいですよ。照れ隠しなのは分かってますから、許します」


 リリナは両手を腰に当てて言う。たゆん、と豊満な果実が揺れた。

 セーラとは大違いだ。


「何だか、失礼なことを考えられてるような……?」


 エスパー染みた能力を発揮して首を傾げるセーラ。

 ともあれ彼女を引っ張って、レイとリリナはすたこらと外に出る。


「遅いじゃねえか」


 ライドがあくびをしながらレイに声をかけてくる。


「お前がちゃんとこの早朝に起きられたとは驚きだな」

「一応、仕事だぞ。そりゃ多少は真面目になるさ」

「多少じゃ困るんだがね。まあいいさ」


 いつも通り溌剌とした雰囲気を出すフリーダは苦笑し、


「後はマリーだけかな?」


 そんなことを言う。

 見れば、ノエルはいつの間にかライドの近くに立っていた。


「……気づいてなかったよね?」


 レイの表情を見て、ノエルは少しだけムッとした表情で言った。


「そんなことはないぞ?」

「嘘だなー。獣人の嗅覚は誤魔化せないよ!」

「嗅覚で嘘も見破れるのか」

「野生の勘みたいなものじゃないかな?」

「何で疑問形なんだ。お前が言ったんだろ……」

「……仕方ない。わたしが場に溶け込む能力が高いってことにしておいてあげるから!」

「まあ、明るい割に存在感はないよな」

「ひどい!?」


 涙目のノエルである。


「ライドー! レイがいじめるよー!」

「一理ある」

「ライドまで!?」

「うるせえな……耳に響くんだよ」

「そんな……わたしは影が薄かったんだ……」

「“薄影”って異名はどうだ?」

「やかましい」


 レイのアホみたいな発言にノエルは真顔で突っ込む。

 ライドが屋敷の方に目をやりつつ、


「で、マリーは?」

「あの子、意外と朝に弱いからなぁ。ちょっと見てこようか?」


 ノエルは言う。


「あ、でもレイが確認してきてくれない?」


 彼女は少しだけいやらしい笑みを浮かべた。


「わたしより、きっとその方が良いよ」

「そうか……?」

「それに、あっちの手伝いもしなきゃだし」


 ノエルはフリーダたちの方を見やる。

 エルヴィスやその他数人の従者が、馬車の点検や整備、荷物の整理をしていた。

 リリナやセーラもそれを手伝っている。


「それじゃ、頼んだよ!」


 ノエルは快活に笑い、馬車の方へ向かっていった。

 ライドだけがぼんやりと座っている。


「お前は?」

「んー……寝るわ」

「ダメダメじゃねえか」


 ともあれ。

 そんなこんなでレイは屋敷の中へと戻っていく。


「……えーっと、マリーが泊まってる部屋は、このへんだったか?」


 ガチャ、と扉を開く。

 部屋内にはベッドがあり、そこには一人の少女が寝転がっていた。


「……んぅ」


 色っぽい吐息が漏れる。


「まだ寝てるのかよ」


 言いながらレイが近づくと、マリーはこちら側に寝返りを打つ。

 普段はツインテールに結んでいる髪が野放しにされていた。

 つまりは金髪ロングになっている。

 強気そうに見えるつり目がちな瞳も、目を瞑っている状態では優しげで、普段とはまるで違う雰囲気を漂わせている。

 近くで見ると、やはり顔が小さく、白磁のように白い肌が美しいと感じた。

 そのギャップに、レイは思わず息を呑んだ。


「おーい、時間だぞ。起きてくれ」


 レイがマリーに声をかけると、彼女は「んー……」と、起きているんだか寝ているんだか分からない返答をした。


「時間だぞー!」


 レイはマリーの肩を掴んで揺さぶる。がくがくと頭が揺れた。

 すると、彼女は薄く目を開けた。


「なにー……?」


 ぼんやりとした表情で、レイに問いかけてくる。


「出発の時間だぞー。起きてくれー」

「や」

「いや、やと言われても」

「や。寝る」

「キャラおかしくない?」

「まだ眠いのー……」


 マリーはそう言って、またもや睡眠の態勢に入ろうとする。


「だーから起きなさいってば」


 レイは呆れたように言いつつ、彼女の上半身を起こし、布団を剥ぎ取った。


「えっ」

「どしたのー……?」


 驚くレイにマリーが小首を傾げる。


「お前、服……!?」


 マリーはネグリジェのような格好で眠っていたらしい。

 要するにほとんど下着姿だった。

 艶かしい脚線美が顕わになり、いろいろな箇所が際どい。

 レイは流石にヤバいと思い、目を逸らす。


「ていうか、誰―……?」

「レイだよ。とりあえず、早く服を着てくれた方が嬉しいんだが」

「レイー……?」


 マリーはそのまま十秒ぐらい小首を傾げた状態で停止していた。

 が、直後にみるみるうちに顔を赤くしていく。


「――あ、貴方、わたくしの部屋で何をしているんですの!?」

「ようやく起動したか」


 彼女はガバッ!! と猛烈な勢いで起き上がり、毛布で自分の体を隠す。


「いや、起こしに来ただけなんだけどな……」

「起こす……? あ」


 マリーは明るい外を見てすべてを察したのか、サーっと顔が青くなっていく。


「ね、寝坊しました……?」

「そういうこと」

「すみませんですの……」


 マリーは恥ずかしそうに言う。


「昔から、朝は弱くて」

「ああうん。見ればよく分かったわ」

「……わたくし、貴方に何か変なことしましたか?」

「変なこと?」

「わ、分からないならいいんですの! 忘れてください」

「にしてもお前、髪を解くと結構雰囲気変わるな」

「そ、そうですの……?」

「ああ。普段もいいけど、それも可愛いな」

「……」

「どうした真っ赤なリンゴみたいな面して。熱か?」


 はたかれた。


「急いで着替えるので、いったん部屋の外に出て行ってくださいまし!!」


 そんなわけでネグリジェ金髪ロングに背中を押され、部屋を追い出される。


「終わりましたの」


 その数分後、金髪ツインテールが部屋から出てくる。 


「おそろしく早いな」

「早着替えは得意技なんですの」


 フフン、と腕を組んで胸を張るマリー。


「貴族らしからぬ技だな……」

「あ、あの……」

「どうした、急にしおらしい態度で。俺の首でも狙ってるのか」

「ブッ飛ばしますわよ。そうではなく……一応、わたくしの髪に寝癖とかないか、見てほしいんですけれど」


 マリーは髪を手ですきながら、俯きがちに言う。


「ん……大丈夫じゃないか?」

「なら、行きましょうか」


 マリーと二人並んで屋敷を出て、フリーダたちと合流する。

 すでにすべての準備を終えているらしく、エルヴィスは馬車の御者台に乗り馬を操る態勢になり、フリーダは馬車の中に入っているようだった。

 リリナが仁王立ちしてレイを見つめている。

 心なしか、じとーっとした視線で。


「遅い」


 そう言ったのはリリナではなく、セーラだった。

 なぜだか彼女の視線もどこか生暖かい。


「どうかしたか……?」

「何でもない」

「私も、何でもないですよー」

「遅れてすみません、ですの……」


 マリーはしょんぼりしている。


「ま、そいつは依頼主のフリーダに言ってこい」


 レイが言うとマリーは頷く。

 直後に耳元に口を寄せてきた。


「……あの、朝のわたくしのことは、忘れてくださいまし」


 彼女は赤い顔でそう囁くと、小走りで馬車の方へと走っていった。


「何だか、前より仲良くなってませんか?」


 リリナが顔を背けながら言う。

 レイは苦笑した。


「気のせいだろ。それより、俺たちもさっさと行こうぜ」

「むぅ……まあ、いいですよ。とりあえずは」


 そして。


「みんな集まったようだね。それじゃあ出発と行こうか」


 フリーダ一行は、北方の『砂漠』にある地下神殿に向かい、旅立つのだった。



第二巻の発売日は10月25日となっております。

まだ先ですが、発売した際はぜひお買い求め頂ければ幸いです。

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