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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode1:旅立ちの日まで
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1-5 レイ対アルス

 レイはアルスの様子に違和感を覚えていた。

 妙に剣気が漲っている。ここ最近は『前世』の経験もあり、レイが模擬戦に勝つことが多かったが、それが関係しているのだろうか。


「……何だ、やけに好戦的だな?」

「いや、なんか、すげー集中できてるんだ。今なら、お前に勝てるぜ」

「へぇ」


 レイは薄く笑った。

 流石に『前世』持ちの状態で五歳児に負けてやるわけにはいかない。

 レイはゆったりとした動作で木剣を構えた。

 我流の構え。それはアルスも同じだ。

 最初は冒険者に憧れていたレイとアルスが、がむしゃらにやっていたのだから当然だろう。

 だが、今となっては――


(……魔力が、僅かに漏れ出している)


 レイは静かに目を細め、練り上げた魔力を体中に汲み上げていく。己にも身体強化を施した。

 今まで模擬戦で魔力を扱ったことはなかったが、今のアルスは間違いなく魔力を操っている。ならば、出し惜しみする理由はない。

 

(ただの五歳児が……魔力操作に手をかける、か)


 まさに麒麟児。時代を代表する才能と対面していることに、レイは少しだけ畏怖した。

 流石にまだ魔力操作そのものは乱雑なようだ。

 体から漏れ出しているのがその証。

 つまりは無駄が多いのだが、真剣な瞳でレイの隙を窺うアルスには、魔力操作に必死になっている様子は見て取れない。

 

「……行くぜ!」

  

 呼気と共に、アルスが言葉を吐き出した。

 直後。

 アルスが跳んだ。十メートルの距離を一瞬にして詰めてくる。体をぐるりと回して剣を振り回した。

 レイは右に跳んでそれを躱す。すぐに態勢を立て直したが、アルスはまだ調整が効かないのか、そのまま地面を転がる。

 追撃をするか迷ったが、アルスは強引に立ち上がって勢いを止めた。

 そうやって、不敵に笑う。


「へへ。やっぱ凄ぇなぁ。レイは……」

(魔力による身体強化が、少し強すぎる。あの強化度合いだと、下手すると体を壊すかもしれない)


 だが、それを模擬戦の最中に伝えれば、アルスは怒るだろう。

 この間だけは、たとえ大人たちには遊びに見えようと、レイ達は常に真剣だったのだ。

 レイは滑らかに魔力を流しつつ、木剣を下段に構える。アルスが動く。

 レイの右側に回り込み、木剣を振り回した。

 大振りで隙が多い。

 レイは屈んで躱すと、その腹部に一撃を加えようと剣を振るった。が――予想外の事象が起きる。

 アルスは剣を振っている最中のレイの右手の上に手を置くと、そのまま宙に飛び上がった。


(そんなのアリか……っ!?)


 レイの剣が地面を削る。

 宙を舞うアルスは剣を大上段に振りかぶった。

 体から霧のように湧く魔力は、更に多くなっている。


(仕方ねえ――)


 レイは自らの木剣にも魔力を通した。

 木は魔力伝導率の低い物質だが、レイほど慣れていれば然程難しいことではない。当然、効率は悪いが。

  

「うらぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 アルスがおそろしい勢いで剣を振り下ろしてくる。

 普通の五歳児なら即死だ。

 だが、アルスが迷いなく剣を振るう理由は、間違いなくレイの腕を信用しているからだろう。

 ならば、その期待には応えてやるべきだ。


「ふっ……っ!!」


 刹那。

 レイが振るった斬撃は、アルスの木剣を粉砕した。

 アルスが驚きで目を瞠る。

 その隙に、首元に木剣を突きつけた。


「……参った」

 




 ♢





 アルスは不貞腐れた顔をしていた。


「なぁーレイー。何も木剣壊すことなかったじゃんか」

「わ、分かった分かった。悪かったって。俺のやつ今度一本やるから、それで許してくれ」

「おお、マジか! ラッキー!」


 アルスは笑顔で騒ぎ出す。

 現金な奴だ、とレイは思った。


(……それにしても、やっぱり武装強化までは習得していなかったか)


 模擬戦の最後、レイは木剣に魔力を通した。

 あの技術全般をまとめて武装強化と呼ぶ。

 身体強化より難易度が高く、それなりの魔力制御技術が必要になる。

 とはいえ、この年齢で身体強化が扱えるアルスはやはり化物だが。

 

(……それに、これは俺の予想だが、おそらくアルスは少し前から魔力を扱うことができた)


 それを使わなかった理由は単純。

 レイが弱いからだろう。

 アルスと違って特別な才能のないレイは、『前世』の記憶が宿るまでは無論、魔力の扱い方なんて欠片も理解してはいなかった。

 だから使わなかった。

 まだ魔力を操りきれていないアルスでは、レイを殺してしまいかねないから。

 

(その方針を変えたのは、明らかに俺が急に強くなったからだろうな……)


 アルスはああ見えて敏い。

 悔しがっているが、初めて本気で戦うことが嬉しいのか、口元は緩んでいる。

 レイとアルスの周囲では、いつもは微笑ましそうに見ていた大人たちが少し顔色を変えていた。


(しまったな。確かに今のは子供の遊びで誤魔化せるレベルの戦いじゃない)

  

 何せ魔力を操っていたのだ。

 村人にとっては驚異的な戦闘だろう。

 別に咎められることはないだろうが、危ないからやめろ、というぐらいは普通にありえる。


「……す、すごいね! 二人とも!」


 いつの間にか傍で観戦していたエレンが、興奮したように声をかけてくる。

 エレンの目からすると、レイとアルスの模擬戦はここ数日で急成長し――特に今日は覚醒でもしたかのように見えるのだろう。

 実際にはアルスは隠していた力を見せ、レイはかつての経験が蘇っただけなのだが。


「なぁレイ。最後、オレの剣を砕いたやつ、どうやったんだ?」

「武装強化。お前は体を魔力で強化していただろ? 俺はそれを木剣にまで流しただけだ」

「魔力で、強化……? 確かに最近のお前に併せて出すパワーは引き上げたけど……」

(ま、さかこいつ…………っ! 魔力を何となくの感覚だけで操ってたのか……!?)

  

 レイは流石に冷や汗を流す。

 アルスは模擬戦で疲れたのか、荒い息を吐きながら地面に大の字で寝転がっていた。

 思えば『前世』が宿る前は、レイがこんな風になることはあっても、アルスが疲れた雰囲気を見せることはあまりなかった。


「レ、レイ様……いつの間に、そんな腕を」


 ハーフエルフのリリナが呆然としたようにレイを見ていた。朝、レイが一人で外出したので慌てて追いかけてきたのだろう。

 できるだけ早く冒険者になりたいので実力を隠すつもりはないのだが――そんな目で見られるとむず痒い。

 所詮は『前世』の記憶が少し役立っているだけなのだ。


「……あ、はは」


 こうなると、アルスの存在が役に立つ。

 生粋の天才であるアルスのおかげで、レイがここまで戦えることに微妙に違和感をなくしている。


「そうだよなー。レイの奴、なんか急に強くなったよなー」


 アルスがぼんやりと言う。

 

「なんかコツでもあんの?」

「そんなもんはねえ」


 適当に言いながら、レイは話を逸らす。


「そんなことより、遊ぼうぜ。今日は何をする?」

「そーだなー。森の方に行きたくね? ぶっちゃけゴブリンぐらいなら倒せそうな気がする」

  

 アルスが適当に言うが、その言葉は事実だ。今のアルスなら下級の魔物ぐらい普通に倒せる。

 ただ、たとえばゴブリンなら群れることが問題だ。

 戦闘経験の浅いアルスでは、魔物の対応力に負けることも普通にありえる。

 レイも最近は夜中に森で魔物を駆除しているが、囲まれると撤退するのがいつもの光景なのだ。

 窺うようにリリナの方を見ると、


「だーめーでーすー! 森には魔物がたくさんいるんです! すごい危ないんですよ!」

「えー、いいじゃんかよ。ちょっとくらい」


 アルスが不満を言う。だが、リリナはここで譲るような性格ではない。まだ無理だろう。


(そうだな……せいぜい八歳から十歳、そのあたりにならないと、リリナは認めてくれないだろう)


 この村の近くにある森の魔物は比較的弱い。

 だから『前世』持ちとはいえ五歳児のレイでも倒せるわけだが――魔物がいる時点で、危険だとみなされる。

 並の村人が数人がかりでないと、最弱の魔物と云われるゴブリンも倒せないのだ。

 警戒するのも当然だろう。


「……水よ」


 口論に興味がなかったのか、エレンが呟く。

 精霊術が顕現する。

 エレンの周囲に水が創り出され、自在に宙を舞った。

 数日前より、明らかに動きが滑らかになっている。

 水精霊に手伝ってもらっているのだろうが、レイよりも繊細な魔力制御だ。感心する。


「おお!」


 アルスが目を光らせる。

 エレンは控えめにはにかみながら、


「見てて、ね?」


 上目遣いで言った。

 エレンはだだっ広い広場に数本だけ生えている木々のうち一本に手をかざすと、


「"水刃"」


 ズバァ!! と、霞むような速度で発射された鋭い形状の水が、樹木を根本から一息に切り裂いた。

 レイは呆けたように口を開いていた。

 リリナも同じだった。

 アルスは喜び、エレンも微笑んていた。


(精霊術師、怖い……)


 レイは本気でそう思った。

 

(この二人、このまま成長すれば『前世』の俺に近いところまで行くんじゃないのか?)

 

 幼馴染二人の才能の大きさに思いを馳せる。

 だが二人に比べて、レイはせいぜい中の上ぐらいの才能しか持ち合わせていなかった。


(だから、どうした)


 それは歩みを止める理由にはならない。

 世界最強に成り上がると決めた。

 本当の英雄になって、大切な人々を守れる人間になると決めたのだ。

 才能で及ばないのなら、それ以外の要素で強さを補うだけのこと。

 レイは密かに覚悟を決めていた。

 

 



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