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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode2:冒険者試験

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2-10 第一次試験 

 重たい沈黙に支配された一室だった。

 研究用の設備が立ち並び、機械的で無機質な印象を受ける。

 とはいえ、人間の姿は多く存在していた。

 だというのに、誰一人として言葉を発することはない。

 何故か。

 答えは単純。

 この場には生きている人間が、ただ二人しか存在しないからである。


「……セーラ」


 何の感情も窺えない淡々とした男の声に、白髪の少女はびくっと怯えた。

 怖い。

 今すぐにでも、この場所から逃げ出したい。

 だけど、それでは、『みんな』を助けられないから。

 セーラは歯を食いしばって恐怖に耐えていた。


「……勝手な真似をしてくれたが、まあいい」


 無機質な男の言葉を聞き、セーラはそっと安堵の息を吐いた。

 だが、それすらも聞こえていたのか、ギロリとした視線がセーラを射抜く。

 

「ご、ごめん、なさい……」

「フン、もともとお前の不具合は承知している。今回だって、負けさえしなければ何も言わなかった」

「……」

「侯爵たちがもしその話を聞きつけたらどうするつもりだった? お前の勝手な行動で、私の計画がすべてパーになったかもしれんのだぞ」

「でも、セーラ、勝てるかどうか不安で、やっぱり……」

「誤算ではあるが、修正できないほどではない。このまま進めるぞ。分かったな?」

「……」

「返事をしろ。それとも、魔族としての力を使っても、勝てないなどとのたまうつもりか?」


 セーラは男の声が段々と苛立たしさを帯びてきたことを察し、慌てて頷いた。

 それで男は満足したのか、白衣を翻して去っていく。


 脳裏に過るのは、圧倒的な才を宿していたアルスという剣士。

 気づいたら布団に潜り込んでいた、レイという面倒見の良い少年。

 そして、彼らの仲間たちだった。

 少しだけ、申し訳ないと思う気持ちはセーラにもあった。

 けれど、仲間の命の重さとは比べものにならない程度の繋がりだった。

 

「……ごめんなさい。来年、もう一回挑んでほしい」


 小さく、呟く。

 もはやセーラが冒険者試験を単独合格することは決定事項だった。

 だから、レイたちだけではなく、三年間を共に過ごした学園の友達にも落ちてもらうことになる。

 心から申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 ――それでも、学園で築き上げてきたすべてを切り捨ててでも、護りたいものがある。

 

「待ってて、みんな。セーラが絶対、元に戻してあげるから」


 ◇


 そして冒険者試験当日がやってきていた。

 快晴の空。

 澄み渡る清涼な空気が、肺の中を巡っていく。

 レイの胸中とは裏腹に、清々しい朝だった。


「……」

「まだ気にしてるんですか?」


 口数の少ないレイに対して、リリナが呆れたように尋ねてくる。

 

「まあ、な」


 レイは歯切れ悪く頷いた。

 昨日、セーラを見失った後のことだ。

 どれだけ探し回っても、結局見つかることはなかった。

 

「……負けたことにショックを受けただけでしょう。そんなに気にしなくても大丈夫だと思いますが」

「九割がたそうなんだろうが……何となく気になってな」


 アルスに敗れた後のセーラの目は、悔しさとか、悲しさとか、怒りとか、そういったものを映していたわけでなかったように思える。

 あれは恐怖に怯え、不安に苛まれる者がする目だ。

 所詮はレイの勘に過ぎないが――気にならないはずがなかった。

 

「とりあえず、今は試験に集中しましょう。油断して落ちたら、どうしようもないですし」

「……そうだな」


 レイはゆっくりと息を吐き、意識を切り替えた。

 これまでより更に警戒心を高め、鬱蒼と茂る森を駆け抜けていく。

 ここはアストラの街から数時間ほど東に馬を走らせた先にある森林だ。

 同時に、第一次試験の舞台でもある。

 試験内容はいたって単純。第二次試験会場まで辿り着くこと、である。

 第二次試験会場はこの森を越えた先にある迷宮だ。

 つまりはこの森に棲み着いた数々の魔物を突破しなければならないので、冒険者としての基礎能力が試されている。

 

「……っと」


 レイはふと、足を止め、鞘から剣を引き抜いた。

 目の前の深い茂みの奥から、巨躯の怪物が出現した。

 筋肉の塊、頭に一本角を生やし、手には尖った棍棒を持っている。

 オーガである。

 レイはオーガと対峙しながら、眉をひそめていた。


「冒険者になるための試験で、オーガのいる森は難しすぎやしないか」

「……逃げる能力も試されている、とかですかね?」

「それにしても、違和感があるな。そもそもこいつ、普通の魔物じゃない」


 レイが確信を持った口調で告げると、リリナは驚いたようにこちらを向いた。


「野生のオーガが突然変異した可能性も捨てきれないが……どうも人為的に改造されている気がする」


 レイは油断なく剣を構えつつ、思考をまとめていく。

 眼前に佇むオーガは、明らかに筋肉量がおかしいのだ。

 いくら魔力生命体とはいえ、肉体としてのバランスが崩壊している。

 おそらくレイが何もしなくても、そのうち勝手に死ぬだろう。


「……いろいろと、きな臭いな」


 例えばこのオーガを従属させ、改造した者がいたとして、それは何のためだ。

 何故このようなリスクの高いことをしている。

 そのうえ、せっかく改造した魔物をこうやって野生に戻していたのでは意味がないだろう。


「来ますよ」

「ああ」


 それ以上、考えている暇はなかった。

 レイに向けて、オーガが肉薄してきたからだ。

 大地を爆散させる勢いで蹴り抜き、一瞬でレイの真横に出現する。

 腕の丸太のような筋肉から、おそろしい勢いで棍棒が振るわれた。

 ゴッ!! と、屈んだレイの頭上を、暴風が吹き抜けていく。

 そこへ、オーガの後方からリリナが肉薄した。

 彼女の細腕に握られたレイピアから、三連続で突きが放たれる。

 しなやかに、剣閃が唸りを上げた。


「――レイ様」


 だが、敵のオーガも強化されているだけはあり、ギリギリで反応すると、棍棒で防御した。

 レイピアは棍棒を貫き、亀裂を入れ、そこで停止する。

 リリナに隙ができる――が、そのとき、すでにレイは剣を振るっていた。

 オーガの太い首に線が走り、静かに地面へと落ちていく。


「……ふむ」


 レイは息を吐き、意識を入れ替えつつ、オーガを見下ろした。

 改めてその死体を触り、観察すると、確かに人為的な手術の跡が残っている。

 数千数万と魔物を斬り殺してきたレイでなくては分からない程度のものだろうが。

 その証拠に、何を説明してもリリナは首を捻っている。

 このまま街に持ち帰り、領主や専門家に相談したいところだが、流石にこの巨体を運ぶのはかなりの労力がいる。

 そもそも今は第一次試験中だ。

 証拠は失われてしまうが、ここは魔石を採って死体を消滅させ、後回しにするしかないだろう。


「……試験時間はまだあるな。もう少しこの森を調べてみよう。何か分かるかもしれない」


 ◇


 アルスはエレンと共に、迷宮の入口で待機していた。

 つまり、第一次試験はとうの昔に突破したということである。

 周囲では多くの人々が雑談を交わしている。

 誰もが制服を着ているので簡単に分かるが、大半が冒険者学園の卒業生のようだった。

 あの制服はどうやら魔導服の性質を帯びているらしく、卒業しても脱ぐ者は少ないらしい。


「……レイたち、遅いな」


 アルスは首を傾げつつ、呟く。

 隣に佇むエレンも、心配そうに森の方向を見つめていた。


「試験終了まで、残り一時間だ」


 張りのある声でそう告げたのは、ユアン・ボールズ。

 第二次試験の監督にして、現役の冒険者である。

 実直そうな顔つきにがっしりとした体格。

 動きやすそうな紺の革鎧を身に纏い、背中には重そうなザックを背負っている。

 迷宮専門を名乗る高名な人物で、世情に疎いアルスですら、名前は聞いたことがあった。

 ちなみに第一次の試験官は森中を巡り、なるべく死者が出ないように努力しているらしい。

 そこで、新たに第一次試験合格者が現れたのか、皆のざわめきが広がった。


「……面倒臭い」


 そんなことを言いつつ森の奥から現れたのは、ボサボサの黒髪が特徴的な少年だった。

 眠たげに目を擦りながら、重そうに足を引きずって歩いている。

 

 彼の両隣には見目麗しい美少女が寄り添っている。

 一人はきれいな金髪をツインテールにしたつり目がちな少女。

 もう一人は、狐耳と尻尾を生やした、可愛らしい顔立ちの獣人だった。

 すでに試験をクリアした者たちの視線が集中するが、黒髪の少年は意にも介さず、地べたに座り込む。

 

「……ライドか」

「なんでもいいけど、マリー様を巻き添えに失格しなくて良かったな」

「だから誰か起こしにいけっていったんだよ。ひやひやさせんな」

「あいつが朝に起きるとか天変地異みたいなもんだぞ」


 周囲――主に冒険者学園出身の者たちから、安堵の息が零れる。

 悪口が飛び交っているが、その言葉の端々には彼への親愛の情が滲み出ていた。


「あのツインテールの子が、学園次席みたいだね」


 エレンが耳目を集めている少年たちのほうを見ながら、言う。

 何百人といる学園で、その中の二番目ともなれば、アルスと言えど油断はできないだろう。

 実際、学園首席であるセーラの実力はアルスの予測を遥かに超えていた。

 舐めていた、と言えばその通りなのだが、おそらく平均的な冒険者をゆうに上回っている。

 アルス自身もそうなのだが、例外だという自覚があったからこそ、セーラの実力に驚いたのだ。

 そういえばセーラの姿も見当たらない。

 森に棲みついている魔物は確かに妙に強い気がしていたが、セーラが苦戦するほどではないはずだ。

 現にこの場には、すでに百人以上が集まっているのだから。

 もしアルスに敗北したショックで試験を受けていなかったら、どうしようと不安になる。

 だが、どうしようもないのもまた事実なので、これから突破してくることを願うしかなかった。

 ともあれ。


「……なら、その次席を従えてるように見える、あのやる気なさそうな奴は何なんだ?」

「さあ?」


 あたふたする二人の少女の真ん中で寝息を立て始めた黒髪の少年を眺めつつ、アルスは腕を組む。

 周囲の雑談からすると、名前はライドというらしい。

 そこで。

 

「……間に合ったよな?」


 落ち着き払った口調の、男の声が響いてきた。

 遅いんだよ、とアルスは肩をすくめる。

 いろいろあってな、と言いつつ、茂みをかぎ分けてレイとリリナが現れた。

 それから少し経つと、第一次試験終了の合図が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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