2-7 惨劇
レイは宿屋の食堂で頭を抱えていた。
リリナが魂の抜けたような顔をしながら、財布の残金を数えている。
「……まんぷく」
セーラは満足げにお腹をさすっている。
彼女の前には、幾重にもお皿が積まれていた。
当然、セーラが食べた量を示している。
「……金が、ない!」
何故こんなことになってしまったのか。
突然窓から入り込んできて、そのままレイの布団で眠っていた謎の全裸系白髪美少女のセーラは、部屋に侵入した理由の説明を求めても「おなかすいた」の一点張りだった。
彼女に魔族の疑いがある以上、そのまま放り出すわけにもいかない。
よってレイはセーラに、「飯を奢る代わりに事情をちゃんと話せ」という約束をした。
その結果が今の惨劇である。
数十人前をゆうに越すセーラの食べっぷりに、レイの財布が襲撃された。
ギリギリで借金をする羽目にはならなかったことだけが救いか。
「……どうか、した?」
不思議な顔をして、セーラはこてっと首を傾げる。
ちなみに今は全裸ではなく、ゆったりとした黒のワンピースを着ている。
「お金が消えて困ってるんだよ……」
レイは哀愁漂う口調で言う。
セーラはくすりと笑って白髪を揺らすと、
「貧乏?」
「お前のせいでな」
「セーラ、そんなに食べてないよ……?」
「この量でか」
レイは嘆息する。
ダリウスは呆れた様子で姿を消し、リリナは放心状態だ。
セーラへの質問はレイがやるしかない。
「で、何で俺のベッドに入り込んでいたんだ?」
「……約束は守る。だから、答える。えっと、間違えた、から」
「間違えた?」
「……あなたが、ランドルフの弟子かと思った」
「アルスのことか」
「……眠かったから分からなかったけど、よく考えると赤髪だった」
「それを知っていてよく間違えられたな逆に」
「……で、宿屋に入っていったから窓から侵入したら、人違いだった。だから、寝た」
「眠かったのは分かった。でも、何で全裸だったんだお前は?」
「……セーラ、寝るときは服を着ない主義。邪魔だから」
「身の危険とか感じないのか。俺は仮にも男だぞ」
「……こうふん、した?」
「三年経ってから出直してこい」
「へー。三年経ったら興奮するんですか。へー。そうなんだー」
「さっきまで放心してたくせに変なところだけ聞いてんじゃねえ!」
ジト目のリリナに叫び返しながら、レイは事情聴取を進めようとする。
だが、セーラは少し頬を紅くして自分の体を抱き締めると、
「……えっち」
「うるせえ」
「でも実際、三年だとまだ成熟しきってない……やっぱりロリコンなんじゃ」
「とっさに出てきた数字を検証するなよ!」
「やっぱり、私はレイ様の好みから外れてるんじゃ……レイ様!! 巨乳系お姉さんメイドは駄目なんですか!? ねえ!?」
「揺らすな揺らすな!」
「でも確かにアナタはあまり年上に興味を示さなかったね」
「急に現れたと思ったら余計な発言するんじゃねえ!」
涙目になりながらレイの首もとを掴んでがくがく揺らしていたリリナは、急に戻ってきたダリウスの発言を聞いて愕然としていた。
「やっぱり、やっぱり……私はもうレイ様から見たらおばさんなんだ! そうなんですよね!? ねえ!?」
「……おなかすいた」
「さっき満腹って言ってたじゃん! もう食うなよ! 金がねえんだからな!?」
「……そういう前フリ?」
「違うわ! 死活問題なんだよ!」
「レイ様に無視された……もうダメ私かえりゅ」
「ええい! 話が進まねえ!」
「うーん、相変わらず楽しそうだねえ」
「原因の半分ぐらいはお前だからな!? なんで高みの見物感出してんだよ!」
ともあれ。
宿屋の主人に追い出され、レイたちは宿屋の前で途方に暮れていた。
朝っぱらから騒がしい者たちには当然の末路である。
「……どうすんだよ」
「どうしました、お兄ちゃん?」
「誰がお兄ちゃんだ誰が。お前は急に変なキャラ作ってんじゃねえ」
「そんな! これでもレイ様の好みに合わせようと必死なんですよ!?」
「方向性が空回りしすぎなんだよ!」
「……そんなに、セーラのこと、好き?」
セーラはちょっと頬を染めながら俯きがちに尋ねてくる。
「お前も変な勘違いすんな! ちょっと頬染めてんじゃねえ!」
そんなことを言い返しながら、少しだけぐらついたのは内緒である。
ダリウスの『分かってますよ』的な炎の出し方がおそろしく鬱陶しい。
「どうするんだよ。宿屋を追い出されたってことは、明日からの宿をまた探さなくちゃならねえぞ」
「……どうしてこんなことになっちゃったんですかねえ?」
「主にお前のせいだけどな」
「……人生さいだいの、なぞ」
「そんなわけあるか。お前の人生浅すぎだろ」
「……そうかも」
「?」
レイはセーラの反応に首を傾げつつ、街中のほうへ歩いていく。
「とりあえずセーラの話を聞ける場所が欲しい。どこか店に入るか?」
「ふふふ……そんな金があれば嬉しいですね」
「あっ」
レイは動きを停止した。
最早こうなれば、あの手を使うしかない。
レイたち一行は雑踏を歩き、事前に聞いておいた宿屋の一室に辿り着いた。
コンコン、と扉を叩くと、内部から薄い青髪の少女がひょっこりと顔を出す。
「……あれ、どうしたの? レイ」
「養ってください」
「は!?」
「養ってください」
「……いや、うん。あの、ど、どうしたの、リリナさん、これ」
「ふふふふふ……」
「リ、リリナさん……? 怖いよ?」
「……あ。ランドルフの弟子さん、見つけた」
「ちょ、ちょっと、勝手に入らないで! ていうか誰!?」
「さあ」
「レイが連れて来たんでしょ!? てかさっきのは何だったの!?」
「安心しろ。半分は冗談だ」
「半分なの!?」
「はいはい分かった分かった。アルス養うので精一杯なんですね、はい。お疲れ」
「な、何よ……そ、そうだけど」
「うわぁ……最高にのろけがウザい」
適当に言いながら、なんだかんだでぞろぞろとエレンの部屋に入っていく。
ベッドではいまだにアルスが寝ていた。
セーラがどうにか起こそうとしているが、起きる気配は見えない。
「……むぅ。この人、これだけやって、起きないとか」
「どの口が言うんだ」
レイが呆れながら呟き、ふかふかのソファーに腰を下ろした。
テーブルを挟んで対面のソファーにはエレンが座り、リリナはレイの後ろに回った。
相変わらず妙なところでメイドっぽさを発揮する。
「で、ええと、わたし、何にも状況が分からないんだけど?」
「大丈夫だ。俺も分かってない」
大丈夫な部分が微塵もないが、エレンが淹れた熱いお茶を飲んで一息つくと、一行はどうにか落ち着きを取り戻したようだった。
「さて、セーラ、お前の目当ての人物もいることだし、事情を説明してくれ」
話が微塵も進んでない(白目




