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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode2:冒険者試験
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2-4 説明

 レイ、リリナ、ダリウス、アルス、エレンの大所帯は、ランドルフの後ろをついていく。

 現在は冒険者試験の受付を済ませて、ギルドから出たところだった。


「しかし、登録ってあんな簡単でいいんだな」


 レイが呟くと、ランドルフは肩をすくめながらも説明してくれる。


「冒険者のライセンスは魔力で認識するから偽造できないんだよ。ま、今の段階で確認する意味はあまりないわけだ」


 なるほど、とレイは首肯した。

 その隣でアルスは面倒くさそうに欠伸をしている。

 後ろではエレンが久しぶりに会ったリリナに抱きついて甘えていた。


「こ、こら! エレンちゃん、歩きにくいでしょ」

「えへへ……柔らかい」


 美女二人が絡み合う図は非常に人目を引くので止めてほしい。

 そんなことを思ってレイは嘆息しつつ、ランドルフの指差す方向に目を向けた。

 雑踏の奥に、乱雑な看板を立てかけた木造の建物がある。


「あそこに美味い食堂がある。ま、飯でも食いながら話そう」

「ランドルフさんの奢りならいいよ」


 レイが笑顔で言うと、ランドルフは苦笑する。


「何だと、遠慮のない奴だ」

「いや割と切実に金がないんだ。これまで北方の辺境にいたから、魔石を売る場所がなくて、大半は捨てざるを得なかったし。残りは旅費で消えた」

「北方で何していたんだお前は……まあ最近は小競り合いぐらいしか起こらないが、いつ魔国の侵攻があってもおかしくない。アマチュア冒険者が訪れる場所じゃないぞ」

「……まあ、いろいろあって」


 レイが言葉を濁すと、ランドルフも追求を控える。

 ランドルフ相手なら説明してもいいのだが、長くなりそうだからやめておいた。

 食堂内に入り、それぞれ適当にテーブルへ腰掛けながら、


「おっさんの奢りだから、好きなもん頼んじゃっていいぜ」


 アルスが皆に声かける。

 すると早速ランドルフにヘッドロックを決められていた。


「最初から奢るつもりだったが、お前に言われるのは意味が分からんな」

「ちょ、ま、ギブギブ! いいじゃん、夜にあれだけ遊べる金があるんだし! あと弟子だし!」

「それは言うな! あと弟子なのは関係ないぞ!」


 アルスがバタバタと騒ぎ、レイに目線で助けろと言っている。

 相変わらず話題に事欠かない男である。

 それを華麗に無視して店員を呼び、料理を頼みつつレイは言う。

 リリナとエレンがランドルフを見る視線の温度が少しだけ下がったのは内緒だ。


「そろそろ本題に入らないか。試験の概要について」

「お、おお、そうだな」


 ランドルフは微妙に冷たい視線に動揺しながらも咳払いすると、


「まず、今期の受験者がだいたい千二百人だ」

「……それは多いのか?」


 試験についてほとんど調べていないレイは首を傾げる。

 皆も似たような様子だった。


「まあ、例年通りってところだな。冒険者養成学園の卒業生が四百人。浪人生二百人ちょい。お前らみたいな腕に覚えのあるアマチュアが六百人ほど」

「で、合格者は何人ぐらいなんだ?」

「例年通りなら二百人いかないぐらいだな。ただ最近は、魔王が死んで魔物も静かになってるから、冒険者の需要が減って、合格基準が高くなった」

「つまり、減少傾向にあるわけか」

「そうだな。とはいえ受験者の質も高くなっている。学園の卒業生が合格の大半を占めることから、それを上回れる自信のある猛者しか受けてこなくなっているからな」

「おふざけ半分の人が減っているわけですねー」


 リリナがいつの間にか届いていた肉料理を上品に食べつつ、呟く。

 ランドルフもじゅうじゅうと音を鳴らす肉の串焼きにタレをかけながら、


「そういうことだな。ま、単純に魔物の脅威も減って、段々と子供の憧れの職業からは遠くなっている世知辛い事情もあるが」

「なるほど。昔は稼げる職業だったんだけど」

「ああ……って、なんでお前が昔を知ったように語るんだ」


 ランドルフは串にがぶりつきながら苦笑する。

 レイはそれに適当に返しつつ、スープを啜った。

 美味い。

 ここ最近はまともな料理を食べていなかったので、骨身に染みるような思いだった。


「で、第一次試験の会場が……ここだ」


 ランドルフはくるくると巻いた地図を取り出すと、一点を指差す。

 そこはアストラの街からさらに東にある森だった。

 ドーナツ状になっていて、中央には草原が切り拓かれているようだ。


「地図を頼りに、魔物がいる森を突破して草原まで辿り着け――。ま、だいたい冒険者には必要な要素だな」

「仲間と協力してもいいのか?」

「ああ。そもそも学園の連中が合格しやすいのは、チームワークが良いからだしな」

「なるほど……ていうかそれ、もう始まってたりするのか?」

「よく気づいたな」


 ランドルフはニヤリと笑うと、告げる。


「冒険者試験開始までに、草原に辿り着くこと。それが一次試験だ」

「え、それ登録が遅い奴が不利じゃね?」


 アルスがとんでもない量の料理をバクつきながら、尋ねた。

 その横ではエレンが慌てながらアルスの分の追加注文を頼んでいる。


「冒険者には情報収集能力も必要だぞ。特に一次試験は例年変わってない。本気で合格したい奴なら、知ってて当然なわけだ。学園の連中なんて説明を受けてすらいないぞ。お前らも実力があるからって、余裕こいてると普通に落ちる」

「うえ……気をつけなきゃな」

「まあ、はやく登録した奴がそれほど有利かと言うとそうでもない。仮にはやく草原まで辿り着けたとして、試験開始まではそこで野宿しなけりゃならないわけだし」


 アルスの呻きをよそに、レイが分析しながら言うとランドルフが深く頷いた。

 我が意を得たり、とでも言いたげな表情である。

 

「ま、そのへんも考えて行動できれば冒険者として認められるわけだ。頑張れよ」


 いつの間にか食べ終わっていたランドルフが立ち上がり、会計を払おうとする。

 レイたちはまだ食事途中だが、どうにも忙しいらしい。

 その後ろ姿には、新人を手助けする熟練冒険者の風格が確かにあった。 

 それまでは。


「店主さーん、会計……え、あ、そんなに? マジで?」


 アルスが食べた量に戦慄したランドルフは、何となく格好つかないまま消えていった。

 さて、とレイは周囲の面子を見渡す。


「で、どうする。三日後の正午だったかな、試験開始は」

「地図を見るに、この森に行くまでに半日はかかるだろ。普通に明後日とかでいいんじゃねえか?」

「皆、このあたりの魔物に苦戦するような実力じゃないですしねえ」

「……まあ、そうだな。それでいいか」


 アルスとリリナの意見により、出発時刻はあっさりと決まる。

 それまでは各々自由行動ということになった。

 食堂の店主に礼を言い、ぞろぞろと人がひしめく街中へと繰り出す。


「とりあえず宿を確保するか」

「はやく確保しとかないとマズいですよね。普段より人が多いわけですし」


 リリナが心配そうに呟く。

 下手をすれば、せっかく街に来たのにまた野宿をする羽目になるからだろう。

 一応、アストラの街は試験が近づいたときだけ宿屋に変貌する店もあるらしいのだが。


「空いている宿なら見つけておいたよ」


 そこでやってきたのがダリウスだった。

 いつの間にかレイの近くに漂い、ゆらゆらと揺れている。


「お前、飯のとき途中からいないなと思ったら……」

「まあこの体じゃ食べることができないからね」

「まあ、とりあえず助かった。って、どうやって見つけたんだ?」

「ん? 極限まで縮んで潜入したに決まっているだろう」

「大丈夫かよ、それ……」


 もし見つかっていたら大騒ぎである。

 そんなことを考えつつ、レイはダリウスの言う宿屋に向けて足を進めていく。

 アルスとエレンは街に来た時点で宿を取っていたらしく、今はどこかへ行っている。


 雑踏を横切って裏通りに入り、しばらく進んでいくと宿屋を発見した。

 少しだけ小汚いが、現状では宿が取れるだけマシだろう。

 レイは安堵しつつ宿屋の入り口を開こうとする。

 その瞬間の出来事だった。


「――貴方が、アルバート伯爵の御子息?」


 敵意を持った女の声が、レイの後方から響いた。

 


 



 




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