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転生勇者の成り上がり  作者: 雨宮和希
Episode1:旅立ちの日まで
23/121

1-22 スケルトン

 翌日。

 レイ、デリック、エレンの三人は高速で馬を走らせていた。

 ひたすら西に向かって街道を進む。

 道中、街に寄ることもなく、できるかぎり魔物を避けていく。


「……そろそろ、休憩、しないか、な……?」

「もうバテたのか。馬たちだって元気なのに」

「俺は、魔術学者で、肉体労働は得意じゃ、ないんだよ……」

  

 荒い息を吐きながら、ふらふらのデリックが告げる。

 何だかんだ言いつつ、まだ走れるだろう。


「……貧弱。悪ガキだったとは思えない」

「うるせぇ。引き篭もりを舐めるな」


 エレンはレイとアルスの訓練に付き合っていただけあって、体力の不安はなさそうだった。

 とはいえ無理をしても仕方がないので時折、休息を入れていく。

 その繰り返しを半日以上も続けると、ふとレイが呟いた。


「もう少しだな……」


 時刻は夕方。

 太陽は沈み、夜が訪れつつあった。

 それでも『魔の森』は未だ、遥か彼方に存在する。

 だが、レイが頼りにしていた人物の住処に近づいていた。


「……レイ。何があるの?」

「見ろ、あそこに一軒家があるだろう」

「……ほんとだ。ポツンとしてる。なんか、さみしい」

「つーか、人が住んでるようには見えないけど」


 疎らな森林の中を切り拓かれた街道を進むレイ達の先には、まるで人気がなく、寂れてしまった屋敷が君臨していた。


「いいんだよ。むしろ賑やかそうだったら望みが薄くなってた」


 レイはそう言って笑うと、ひらりと馬から飛び降りる。

 錆びついた門を開き、さっさと屋敷内に侵入していく。


「……なんだか、幽霊屋敷みたい」

「怖いのか?」

「……そんなこと、ない。ないから、絶対、ない」

「お、おう、そんなに怖いか。なら、兄さんとここで待っててくれ」

「……こ、怖くないけど。それで、いいよ」


 顔を青くしていたエレンは、あからさまに安堵している。

 あまり表情に変化がないくせに、感情が分かりやすい少女だった。


「……さて、ダリウスの奴はどこにいるんだ?」


 レイは屋敷の扉を蹴り開けて、内部に侵入していった。









 ♢   





  


「……やぁ」


 嗄れた声を出したのは、ゆったりとした羽衣を纏う骸骨だった。

 そう、白骨そのものである。

 陥没した瞳の奥には不思議な光が揺らいでいる。

 

「おや、ボクの姿を見て逃げ出さないとは、珍しい子だね?」

「相変わらずだな、お前。まだ幽霊屋敷を演出して人を遠ざけているのか。趣味が良いとは言えないぞ」

「……ほう。なぜボクのことを? 誰かから聞いたのかな?」

「いいか、ダリウス。よく聞け」


 レイは真剣な声音で空気に緊張を孕ませると、


「俺はレイ・グリフィス。『前世』の記憶がある転生者だ」

  

 一息に言った。

 白骨死体のダリウスは驚いたように、瞳の奥の光を揺らがせる。


「そして俺はかつて、王国の勇者アキラだった」


 しばらく沈黙があった。

 ダリウスは椅子に座り込むと、周囲の灯りをつけた。

 意外と片付いている綺麗な部屋が顕になる。  

 そしてダリウスが肉片ひとつなく、完全なる骸骨であることも明らかになっていた。


「相変わらず、ぞっとしないな」

「……なるほど。にわかには信じがたいが、確かにアナタはアキラだ」

「へぇ。なんか魔術でも使ったのか?」

「いいや。アナタはかつてボクが灯りをつけると、いつも同じ反応をしていたから、ね」

「そうだったか?」

「自覚はないだろうね。ヒッヒッヒ」


 白骨死体はくぐもったように笑う。

 いったい何処から声を出しているのか見当もつかない。

 ダリウスは肩をすくめながら、


「それで、その転生勇者がボクに何の用だ?」

「急ぎでエルフ族の里に入りたい。今の俺が正面から『魔の森』を踏破するのは厳しい。……お前の力が借りたい」

「ボクでは“迷いの結界“は突破できないぞ」

「それはこっちで何とかする。お前は結界の手前まで連れて行ってくれれば構わない」

「……なるほど、いいだろう。そういえばアナタにはまだ借りを返していなかったしな。まさか転生してくるとは思わなかったが」

  

 ダリウスはそう言いながら立ち上がった。

 レイは外へ歩いていく彼の後ろを追いながら、


「そういうお前は、いつになったら死ぬんだ?」

「ヒッヒッ。スケルトンに自然死はありえないよ」


 そう。ダリウスはスケルトン。すなわち魔物である。


 通常の魔物には大した知能がなく、二つの本能に支えられている。

 魔族に従うこと。  

 それ以外の人間を襲うこと。


 だが、竜種や幻獣種、アンデッドなどの特殊な魔物には、人間と同じような知能を宿している場合も少なくない。

 特にアンデッド――つまりスケルトン、グール、ゾンビ、リッチ、マミー、ワイト、デュラハン、吸血鬼などの類は、魔物としての本能に惑わされず、生前と同じような理性を持っている事例が多かった。

 レイの眼前に存在するスケルトン――ダリウスも、その一例である。


「外には幼馴染と兄がいる。驚かしてやるなよ」

「それはどうかねぇ」

「やめろって。幽霊屋敷の噂が広まって討伐されても知らねぇぞ」

「ボクを討伐できる冒険者なんて中々いないよ。それこそ“炎熱剣“ランドルフでも連れてきてくれないと」

 

 ダリウスの生前は高位の魔術師だった。

 スケルトンになってからも研鑽を重ねているので、強い。

 聖剣を手に入れたアキラが、初めて苦戦した相手だ。


「危なかったな。最近まで近くの街を拠点にしていたらしいぞ」

「…………そ、そうなんだー」

「動揺しすぎだろ」


 適当に会話しながら、屋敷の扉を開く。

 門前で待機していたデリックとエレンがレイの方を振り向く。

 エレンの顔がさーっと青くなった。

 

「ひゃ……う、ウンディーネ!! なんか、あ、あれ、倒して!!」

「待て待て落ち着けエレン! こいつは味方だ!!」

「ヒーヒッヒッヒ! 良い子は家に帰らないとねぇぇぇ!?」

「テメェも事態をややこしくしてるんじゃねえ!」

 

 レイがダリウスを蹴り飛ばし、エレンを宥めること数分。

 このスケルトンがレイの知り合いであること、生前は高位の魔術師であり、現在も理性を保っているタイプの魔物であること。

 それらを説明すると、エレンは怖がりながらも受け入れてくれた。

 デリックは魔術学者の本能か、ダリウスに興味津々である。


「……レイが、ちゃんと事前に知らせないから」

  

 エレンは恥ずかしそうに睨んでくる。

 普段はクールを装っているので、慌てたことが恥ずかしいらしい。


「どうせ言ったって信じてくれないだろ」

「……レイはいじわる」

「はいはい。後、甘えるならアルスにしてくれ」


 レイが嘆息すると、エレンは頬を赤く染めて俯いた。


「時間がない、さっさと進むぞ。ダリウス、道中は頼んだ」

「オーライ、任されたよ」









 ♢







   


 その頃。

 リリナは黒い外套の男に攫われ、人気のない森で解放されていた。

 油断をしていたつもりはなかった――が、それ以上に、眼前に佇むエルフがおそろしく速かったのだ。


「見せたいものがあると言ったはずだ」

「……ごめん。私は、お父様を信じてみることにした。あなたたちに手を貸すことはできない」

「いいや」


 銀髪のエルフは優しげな語調のまま、首を振った。


「今回は、手を貸してくれと言っているわけじゃない。ただ、君に見せたいものがあるんだ。ついてきてくれないか?」

「……まぁ、それぐらいなら構わないけど」

  

 リリナはレイの警告を思い出していたが、どのみちこの黒い外套を着たエルフには敵わない。

 機嫌を損ねて殺されても困る。

 レイの見通しが甘かったのだろう。

 リリナが外に出なければ大丈夫だろうと考えていたのだが、このエルフは神憑かった手際で屋敷に侵入し、リリナを攫った。

 その技量には戦慄すら覚える。


「……あなたは、いったい何者なの?」 

  

 リリナが息を呑んで尋ねると、黒い外套を着たエルフはフードを外して長い銀髪を晒しながら、告げた。


「ジェイル・マリオット。ハイエルフ。僕はエルフ族の里に、新しい風を吹かせようとする者だよ」



  

 

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