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第8話 エドゥ鉱山内 2 

 決闘。1対1の戦い。そこにどれだけの運命が待っているのか……誰も知らない。勿論、ジャックとハスラー。勿論、決闘を申し込んだゴルグも知る事はない。

 

 眼帯をつけたボスゴルグとそのお抱えの部下が薄暗い中で2人を案内した場所は炭鉱内には見られない光景だった。ジャックには見覚えのある外観デザインの広場で、炭鉱内では似合わない。大きく大理石を使かわれ、ボスの恐ろしくセンスが出ている彫像。ジャックにとって見た事のあるローマ風のデザインが施された石壁。

 ジャックはこの炭鉱内には似つかわない闘技場に違和感を示していた。

「なんだこりゃ? イタリアのコロッセオか!?」


 ハスラーはジャックの言葉に反応する。


「なんですか? イタリアのコロッセオって」


 ジャックは軽く自分のいた世界を懐かしみながらハスラーに言った。


「今度、俺の世界に来れたら紹介してやる。多分、無理だろうけどさ」

 

 眼帯をつけたゴルグは笑いながら2人に告げる。


『私の部下に作らせた闘技場コロシアムだ。この本の絵に似せて作らせたのだ。さすがは部下の力は素晴らしい。細部にわたって作らせたのだ』


 ボスは、1冊のページ数が少ない冊子をジャックに見せつける。彼はその冊子の表紙を目にして、驚いた。


「それ、何処で拾ったんだ!?」


 彼の問いに対して眼帯のゴルグは、自慢げに答える。


『森の近くに落ちていた。中身はよく分からない文字で書かれていたが、この絵は素晴らしい。中にもこのページに写る闘技場の絵は堪らないな』


 ハスラーはジャックの態度の変化に気になり、訊いてみる。


「どうしたんです? あの本が何か?」

 

 すると彼は小さな声で返答した。


「俺の台本だよ。役者時代の……」

 

 その冊子は、次の舞台で使われるはずだった台本。裏の表紙にはしっかりと自分の筆記体のサインが記されている。


《グランドマスター ソルベ・ジュリ役 ジャック・レム》


 後ろでこそこそ話している2人の旅人にゴルグは視線を向けて訊く。

『なんか言ったか?』


「いや別に、なんでもないよ」


 ジャックとハスラーは闘技場の入口まで案内され、ボスゴルグが小さな手で闘技場の中を示した。


『さぁ、ここだ。ここで決闘を行う』


 闘技場に入ると、真ん中には円形の大きな柱が見える。闘技場は円形ドーナツ型。騎馬戦を考えられて作られているのが理解できる。

 地面は、とても走りやすい土とは言いづらく、砂煙が起きやすい。とてもさらさらしている。


『ここで行う決闘はあれだ』


 奥の別門から、騎馬の様な物が近づいてくる。ハスラーは目を丸くして、奥から近づいてくる物を見つめた。


「あれはなんです!?」


 ジャックは、自分がいた世界の物が見えた。それも自分が使っていた物とよく似ている。

 ハスラーは目を凝らして物を見つめる。


「あれは……騎馬車?」


 騎馬車というよりは車輪で動き、どう考えてもこの世界にあるものではない事をハスラーは理解していた。

 1台は改造され、後部座席に機関銃が備わった軍用ジープ。もう1台は4WDだが、屋根やボンネット、窓ガラス、ドアもなく、外見はジープと同じ施しを受け、さらに無理やり備え付けられたボウガンの発射台が備わっている。

 姿が近づくにつれ、ジャックの表情が変わっていく。


『森で拾ったものを改造した。これに乗り、騎馬戦を行う。どっちかが、倒れたもしくは騎馬車が完全に壊れたら負け』


 そんな騎馬車と呼ばれる物2台が、ジャック達の前に近づき止まる。止まった瞬間、1台の改造4WDの外見とプレートに書かれてある番号でそれが自分の愛車だと知り、ジャックは衝撃を受ける。


《467 JCR》


「俺の車が……」


 この世界では絶望視されていたジャックとその愛車による感動の再会。しかし、もう愛車の外見は、以前の世界にいた時とは全くかけ離れてしまっていた。

 ボンネットや屋根はない。車内のシートも傷んでしまい、骨組みがむき出しだった。おまけにはボウガン付きの銃器台が後部座席に備わってしまっている魔改造ぶりには笑えない。


『私の騎馬はこれだ』


 ボスは、淡々とジャックの愛車の隣にいる改造されたジープに乗り込んだ。部下のゴルグがハンドルを持ち、ボスは機関銃機台が備わっている後部座席に立つ。


『乗れ。そこから決闘は始まる』


 ジャックは拳を握り湧き出る怒りを抑えようとした。


「よくも俺の車を……」


 ハスラーはジャックの様子がおかしい事を察知し、恐る恐る声を掛ける。


「ど、どうしたんですか?」

 

 ジャックは改造された愛車に対して涙目になりながら、運転席に乗り込む。


「このお礼は必ず支払わせてやる……」

 

 ジャックの態度にハスラーは気にしながらも後部座席へ。キーを回し、エンジンを起動させてみる。傷んでしまっているのか、よい音はせず、騒音に匹敵するぐらいの音が出てしまっていた。


『私の部下が合図をする。それでスタートだ』


「覚悟しろ」


 ジャックは目に溜まっていた涙を拭いて、ハンドルを握る。愛車を改造された怒りがハンドルグリップに圧力をかけていく。

 2台はゆっくりと移動し、スタートラインのある位置へ移動。1体のゴルグが小さな黒い旗を持って立っている。

 愛車が動く事=運転はできる。この事実をジャックの心にとって多少の癒しとなった。

 お互いの騎馬車は、エンジンを唸らせスタートを待った。


「ジャックさん……」


 ハスラーは人生で初めて乗る騎馬車に不安があった。


「しっかりつかまってろよ。ハスラー」


 ジャックはそう一言、告げて、深呼吸をした。


第8話でした。 話は続きます!

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