第6話 ヴェルヴェラの森
太陽はゆっくり上がり始めている。
ジャックとハスラーはベルマンの街中で、薬草や食べ物を買い、準備万端な状態にした。
ベルマンの入口で、2人は、グレンとバリーの親子にい送られようとしている。
「奴らの住処は、森の近くにある山の廃炭鉱だと……」
「本当か?」
バリーは、一羽の白い鳥をハスラーに手渡す。
手渡された鳥はいきなり、一枚の紙に変化した。それを見たジャックは衝撃を受ける。
「なんだ!? それは?」
紙から色と文字が浮かび上がった。
「ゴルグを調べに行った俺の仲間がフライカードで知らせてくれた。奴らはそこにいる。このフライカードに地図がある。そこをたどってくれ」
ハスラーは紙をポケットの中に入れる。
「分かりました。任せてください」
ジャックは、グレンに言う。
「なぁ、これが終わったら、あんたのとこで飯が食いたいな」
それを言われたグレンは首を縦に振り、反応した。
「分かった。用意しておく」
ジャックは、軽く笑みでグレンに返す。
「頼んだぞ」
「行ってきます」
2人の背中を彼らは見送った。ベルマンの街の為に、2人は歩き、ヴェルヴェラの森へ再び足を踏み入れていく。
「ゴルグがいる炭鉱までは距離がありますね」
「ああ、そうだな」
歩きながらジャックは、ふと思う。これまで自分のいた世界のアイテムがあるという事について、脳裏に、自分の車がどこかにある可能性が出てきたと感じている。
もしかしたら森にあるんじゃないかと期待は以前より出始めていた。
2人は地図に沿って、歩いていき、生い茂った草の地面に足跡を残していく。木の間、間を通り、険しい場所を歩いていく。
森に入って、太陽を確認すると、太陽は街で見た時よりくだってきている。
「まだ見つからないな」
ハスラーは地図を見ながらジャックに言った。
「もう少しですね。廃炭鉱の目印は、看板らしいです」
「看板?」
「廃炭鉱の看板です。後使われなくなった線路があるはず……」
「なるほどな……」
それから10分歩いていくと、ハスラーは足を止めて、ジャックに告げる。
「ジャックさん。あれ……」
ハスラーは真上の空に指を指して、遠くを見つめる。
ジャックは、彼が指した空の方に目を向けた。と、そこには大きな鳥の様な怪物の姿が見え、翼を羽ばたきながら飛び回っている。
ジャックは当然見た事もない様な怪物に、身の毛がよだった。
「あ、あれは?」
「ラッシュっていう怪物です。視界能力が恐ろしくて、狙った獲物は殺すまで追いかけてくるって聞いてます」
「なぜ、そんな奴が!?」
「分かりません。とにかく狙われたら酷です。ここから離れましょう。ゆっくり後ろに下がって……」
ハスラーが一歩、後ろへ下がろうとした瞬間、ラッシュはこっちを向き、咆哮を上げた。
鋭いくちばし、黒い翼、ジャックは非常に大きなカラスだと感じながら、ハスラーに告げる。
「見つかった……」
「はい」
大きな翼をはためかせて、2人のいる方向に怪物は接近。ハスラーは、槍を取り出して、接近してくるラッシュに構えた。
ジャックは、ホルスターに収納していたグロッグを取り出して、怪物に向け、引き金を引いた。大きな炸裂音が森の中で響く。
放たれた弾丸はラッシュの右目に着弾。それによる悲鳴と翼が出す大きな風の勢いが弱まった。続けてハスラーは走り、墜落せんとする怪物に近づき、槍を投げる。
槍はラッシュの胸に刺さり、その痛みを感じたせいか刺さった怪物は悲鳴を上げながら墜落し、低空飛行でこちらに向かいながら近くの木々に衝突し、静止する。
さっきまでラッシュの悲鳴と接近で、騒がしかった森が一瞬で静寂になった。
ハスラーは、ガッツポーズをして喜んでいる。
「ジャックさん。やりましたね」
だが、あまり手ごたえを感じなかった事にジャックは不安に思った。
「だといいが……」
2人は、ラッシュにゆっくり近づき、目の前に立つ。奴の右目はつぶれているらしく、赤い液体が流れていた。
ハスラーは倒れているラッシュに刺さっている槍を抜こうとするが、ジャックの不安は案の定、当たってしまう。
槍を抜き取ろうとした瞬間、ラッシュは閉じていた眼を開けて、再び動き出した。
ラッシュは立ち上がり、2人の耳が破壊されそうなくらいの威嚇の叫び声を浴びせ、自分の鋭い脚づめでハスラーを八つ裂きにしようとする。
「ハスラー! 危ない!」
「うわぁ!?」
ジャックは耳の苦痛に我慢しながら、ハスラーをダイビングで押し倒し、奴の爪から守る。爪はジャックの体をかすり、森の木を切り裂いた。
切り裂かれた木は音を立てて後ろに倒れる。
「なんて爪だ!」
ジャックは、グロッグを構え反撃をしようとするが、ラッシュは自分の羽を広げて、上下に羽ばたかせる。それによって大きな風が生じ、土や草葉っぱによる煙幕が発生し、反撃しようにもできなかった。
ハスラー強風にあおられながらも槍を抜き取ろうとして、右手で槍の持ち手に手を掛けた瞬間、ラッシュの体が宙を浮き始める。
「うおおっ、これはまずいですよ!」
「待てっ!」
ジャックはハスラーの左手につかまる。
ラッシュは勢いよく真上の空に向けて、飛び始める。
「うおおおわっ!?」
2人は、何とか物や手にしがみつきながら、ラッシュが繰り広げる高速ジェットコースターを肌で体感している。
「しっかりつかまって、出ないと振り落とされちゃいます!」
「そんなこと知ってるよ! 下を見るな!」
「はいいいいい!!」
ラッシュは2人を振り落とそうと、飛びながら体を90度、180度、360度、と回転して振り落とそうとしている。
「うわわわっ……」
刺さった槍がゆっくりと抜け始めている。
「やばい。刺さった刃が抜けてしまいます」
ジャックはもう言葉を発する事ができない状態に入った。
槍の刃がゆっくりと抜けようとしている。
もう1回転、ラッシュが体を回転させれば、抜けるだろう。必死にしがみついたが、もう満身創痍だった。
運命の時は来てしまう。ラッシュが回転をした。
それと同時に、槍の刃が刺さった胸から綺麗に外れ、ジャックとハスラーの体は落ち始めた。
「うわっ……」
5秒ほどの空中浮遊を2人は体験。そのまま地面に向けて落ち始める。
「あああああああ!!」
2人は抵抗する事もできず、両腕と両足をじたばたさせながら、転落する。ジャックは、心の中で生きるのを諦めた。
だが、救いは少なからずある。
2人の体は勢いよく森の木々の中に入り、枝と葉に当たりながら落ちていくが、葉っぱと枝が2人の体を荒々しく受け止め、簡易的なクッションになったことにより、体はなんとか保つことができた。
枝が折れ、2人は体を草で覆われた地面にたたきつけられる。石や砂だけの硬い地面でない、草や葉で覆われた地面に、2人は叩きつけられる。
「うおおっ、いってぇ~」
「だ、大丈夫ですか? ジャックさん……」
仰向けで地面に転落した事で、背中に来ている激痛を何とか和らげる様に、力を入れた。
「ああ、背中が痛いよ」
「僕もです」
どうやらハスラーも同感だったが、激痛を和らげる治癒は彼の方が早い。彼はすぐに立ち上がり、周りを見渡した。
「槍は?」
「あそこに刺さってますね」
彼の緑の指が、示す場所に槍は刺さっている。
ハスラーは転落した影響で地面に刺さった槍を引っこ抜いた。
「ラッシュは?」
ハスラーは遠くの空を見て答えた。
ジャックはゆっくり立ち上がり、彼が示している視線をたどって空を見る。
「遠くに飛んで行っているみたいです」
ジャックが奴の姿を見た時には既に、奴の姿は小さくなるぐらい離れてしまっていた。
「殺しに来なかったな」
「おそらく、自分の命を考えて逃げたのでしょう……」
「なるほどな……」
「でも、あいつに感謝すべきところもあるかもしれません」
「なんで? 死ぬかと思ったんだぞ」
「あれ見てください」
ハスラーが指を指した所に、使われていないトロッコと線路、そして老朽化して今にも倒れそうな看板が立てかけられている。
《エドゥ鉱山》
線路に沿って奥を見てみると、線路はトンネルに続いており、そのトンネルがどうやら炭鉱の入口らしい。
「廃炭鉱か。ちょうどいい……」
ジャックは起き上がり、ハスラーに言う。
「行こう。歯車を取り返しに……」
「ええ、あの街の人達が待っていますからね」
2人は廃炭鉱に向けてゆっくりと歩き始めた。
第6話です。話は続きます。